「AIを入れたら、オペレーターを何人減らせるのか」という問いから、コールセンター(コンタクトセンター)のAI活用の検討を始める運営責任者は少なくありません。コールセンターのAIとは、電話やチャットで届く問い合わせへの応答、通話中のオペレーターの支援、通話後の記録づくり、応対の記録の分析を、業務の層ごとにAIが受け持つ仕組みのことです。ただ、どの層を任せるかを決めないままAgentforceのような製品を選んでしまうと、入れた後に窓口の何が変わったのかを社内で説明できなくなります。
そこで本記事では、コールセンターのAIに任せる業務を4つの層に分けて整理したうえで、自動応答に任せてよい条件、効果を測る指標、オペレーターの配置の決め方までを解説します。製品を比べる前の段階で、社内の打ち合わせに持ち込める判断の材料として使ってください。なお、後半で扱うAgentforceの料金と機能は変わりうるもので、記載は2026年9月時点で確かめた内容です。
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この記事を書いた人
合同会社クロスコムの代表|専門商社にて7年間のBtoB営業を経て、マーケティング業界に参入。現在はSalesforce公式コンサルティングパートナーとして、ソリューション営業の業務プロセスに特化したAgentforce導入・定着支援と、Agentic CRM設計支援を提供している。Salesforce認定アドミニストレーター・Sales Cloudコンサルタント・Marketing Cloud Account Engagement スペシャリスト。
コールセンターのAIが担う4つの層
コールセンターのAIが入る場所は、電話に自動で答える場面だけではありません。通話の前と最中と後、さらに記録がたまった後のそれぞれに入り方があり、層によって任せ方も効果の測り方も変わります。ここからは、ある住宅設備メーカーのお客様相談窓口を例に、この層の違いを見ていきましょう。この企業は説明のための架空の設定であり、実在の企業ではありません。
このメーカーは従業員620名で、お客様相談窓口のコールセンターには42名が在籍し、そのうち4名がSVを務めていました。情報システムの担当は3名で、顧客の情報と修理の記録は、導入済みのSalesforceにまとめて残しています。
窓口への入電は月9,000件あり、通話は平均6分、通話後の後処理にも平均4分かかっていました。そのなかで修理受付の進み具合を尋ねる電話が全体の30%を占めており、オペレーターは同じ説明を朝から何度も繰り返していたのです。このメーカーが最初に掲げた目的は「修理状況の確認を機械に任せ、オペレーターの時間を故障の切り分けと苦情の対応へ回すこと」でした。そこでここでは、コールセンターのAIが担う4つの層を整理します。
| 層 | 任せる範囲 | 人が持つ判断 | 測る指標 |
|---|---|---|---|
| ①自動応答 | 答えが1つに決まる問い合わせ | 例外と感情への対応 | 人へ戻した件数の割合 |
| ②通話中の支援 | 回答の候補と手順の提示 | 候補を使うかどうか | 一次解決率 |
| ③通話後の記録 | 要約と項目の下書き | 下書きの確認と修正 | 後処理にかかる時間 |
| ④記録の分析 | 問い合わせの型への分類 | FAQと手順書の直し方 | 型ごとの件数の変化 |
層①問い合わせに自動で答える
1つ目の層は「問い合わせに自動で答える」です。電話やチャットで届いた問い合わせにオペレーターを介さずAIが答え、用件が済めばそのまま応対を終える形をとります。4つの層のうちで最も目に見えやすく、導入の効果も件数で示しやすい層です。
ただし、自動応答が受け持てるのは、答えが記録やルールから1つに決まる問い合わせに限られます。修理の日程を決め直す相談や、保証の範囲をめぐるやり取りのように、条件を聞き取りながら判断を重ねる問い合わせまで任せると、誤った案内が顧客へそのまま届いてしまうからです。
このメーカーで最初に候補になったのは、修理受付の進み具合の確認でした。受付番号か電話番号で修理の記録を探し、「部品の手配中」「訪問日の確定済み」といった状態を読み上げれば済む電話がほとんどを占めていました。オペレーターが自分で判断を加える場面は、この確認の電話にはほぼ見当たりませんでした。SVからも「この電話は、記録の画面を読み上げているだけになっている」という声が以前から上がっていたのです。
自動応答の層に何を載せるかは、件数の多さより先に、答えを記録から1つに決められるかどうかで選ぶと、残りの3つの層との分担も決めやすくなります。
層②通話中のオペレーターを支える
2つ目は「通話中のオペレーターを支える」層です。オペレーターが顧客と話している最中に、AIが会話の内容から回答の候補や該当する手順書を探し、画面に示します。オペレーターはそれを見ながら、自分の言葉で答える流れです。答えるのは人のままで、探す作業だけをAIが受け持つ点が、自動応答との違いにあたります。
この層が効くのは、自動応答には載せられない一方で、答えの材料は社内の文書にそろっている問い合わせです。故障の症状を聞き取り、利用者が自分で試せる対処を案内する電話が、その代表になります。
たとえば、このメーカーの窓口には「浴室乾燥機が途中で止まる」という電話が繰り返し入っていました。対処の手順は製品ごとの手順書に書かれていましたが、型番から該当する手順書を探し当てるまでに、どうしても時間がかかる状態でした。経験の浅いオペレーターほど、顧客を保留にしたまま手順書を探していたのです。SVは手順書の場所を尋ねられるたびに席を離れることになり、ほかのオペレーターの応対を確かめる時間を取れない日もありました。
通話中の支援は答える人を置き換えずに探す時間だけを短くする層であり、効果は、保留や折り返しにせずその場で答えられた割合を示す一次解決率で確かめます。
層③通話後の記録をまとめる
3つ目の層では、通話が終わった後の記録づくりをAIが受け持ちます。通話の内容から要約を作り、用件の種類や対応の結果といった項目の下書きまで埋めておき、オペレーターは下書きを確かめて直すだけで記録を閉じられるようにする形です。
この層が見落とされやすい理由は、通話の時間に比べて、後処理の時間が表に出にくいことにあります。オペレーターは次の電話を取るまでの間に記録を書いており、その時間は通話の件数や通話の時間の集計には現れません。
このメーカーでは、1件あたりの後処理に平均4分かかっており、入電の件数を掛けると合計で月600時間にのぼっていました。SVが後処理の長さに気づいたのも、通話の時間を集計した表と、オペレーターの勤務時間を並べてみたときでした。
記録の層を任せるときは、要約の出来だけで判断しないことが大切です。オペレーターが下書きを直す手間まで含めて、後処理の時間が実際に短くなったかどうかで評価します。
層④応対の記録を分析に回す
4つ目は「応対の記録を分析に回す」層です。通話やチャットの記録がたまってきたら、AIに問い合わせを内容ごとの型に分けさせ、どの型が増えているのか、どの型で人へ戻る応対が多いのかを読み取っていきます。
前の3つの層が1件ごとの応対を受け持つのに対して、この層が扱うのは記録の全体です。層①から層③で記録が同じ形で残るようになっていなければ、分析に回す材料がそろわないため、4つの層のなかでは最後に手を付ける層になります。
このメーカーでも、以前は通話の記録の書き方がオペレーターごとにばらばらで、「修理」「故障」「不具合」と同じ用件が別々の言葉で残っていました。SVが月末に問い合わせの傾向をまとめようとしても、記録を1件ずつ読み直すしかなく、FAQを直す作業には着手できていなかったのです。
ツール設定ではなく業務設計から入ってほしい場合は、製品のデモを見る前に、自社の問い合わせを4つの層へ振り分ける作業を一緒に進められる相談先を選ぶと、比べる製品の数も絞りやすくなるでしょう。コールセンターのAIは、自動応答・通話中の支援・通話後の記録・分析の4つの層に業務を分け、層ごとに任せる範囲と測る指標を決めてから選ぶと、入れた後に何が変わったかを説明できます。
なくなるのか?コールセンターのAIで変わる3つの仕事
4つの層に分けてみると、コールセンターのAIは、オペレーターの仕事を丸ごと置き換えるものではないことが見えてきます。とはいえ、仕事の中身まで変わらないわけではありません。「コールセンターの仕事はAIでなくなるのか」という問いに答えるには、どの仕事が機械へ移り、どの仕事が人に残るのかを分けて見る必要があります。このメーカーでも、導入を決める会議で最初に出たのは、オペレーターの1日がどう変わるのかという質問でした。そこでここでは、コールセンターのAIで変わる3つの仕事を解説します。
変化①定型の一次応答が機械へ移る
1つ目の変化は、定型の一次応答が機械へ移ることです。記録を読み上げれば答えが済む問い合わせは層①の自動応答が受け持つようになり、オペレーターが最初に取る電話の件数が減っていきます。
一次応答が移った後は、オペレーターの1日の組み立ても同じではありません。短い電話を次々に受ける時間が減るぶん、1件ごとに聞き取りが要る電話の割合が高くなるためです。
このメーカーの場合、修理状況の確認を自動応答へ移す前は、オペレーターが受ける電話の中に、すぐに終わる確認と、症状を聞き取って切り分ける相談が交互に並んでいました。移した後は、切り分けと苦情の電話が続けて入る状態になったのです。SVは「1件あたりの通話が長くなったのは、応対が悪くなったからではない」と、オペレーターへ説明する場面が増えています。
移る仕事の量を決めるのは、ほぼ自動応答に載せた型の件数です。どの型を載せるかを決めた時点で、オペレーターの1日がどれだけ変わるかも見積もれます。配置の見直しは、載せる型を決めるのと同じ打ち合わせで話し合っておくとよいでしょう。
変化②通話後の後処理が短くなる
2つ目は「通話後の後処理が短くなる」ことです。層③で要約と項目の下書きをAIが作るようになると、オペレーターは記録を一から書かずに、下書きを確かめて直す作業へ移ります。
この変化が及ぶ範囲は、自動応答と違ってすべての通話です。自動応答へ移せない難しい電話でも、通話後の記録は必ず発生するため、4つの層のうちで効果が窓口の全員に行き渡りやすいのが、この後処理の変化だといえます。
このメーカーのオペレーターからは、当初「要約を直すくらいなら自分で書いたほうが早い」という反応もありました。そこでSVは、下書きの項目のうち用件の種類と対応の結果だけを必ず確かめ、要約の言い回しは誤りがなければ直さなくてよいという決まりを作っています。直す範囲を先に決めたことで、下書きを確かめる時間が人によってばらつかなくなりました。慣れたオペレーターほど、下書きを使って記録を閉じるようになっています。
後処理の短縮を狙うなら、下書きの精度を上げる工夫と同じくらい、オペレーターがどこまで直すかの基準を決めておくことが欠かせません。
変化③オペレーターは例外と感情の対応へ寄る
3つ目の変化は、オペレーターの仕事が例外と感情の対応へ寄っていくことです。定型の一次応答が機械へ移り、後処理が短くなると、オペレーターに残るのは、記録やルールだけでは答えが決まらない問い合わせと、顧客の不満を受け止める応対になります。
これは仕事が減るというより、1件あたりの重さが増す変化にあたります。なぜなら、短い確認の電話が抜けると、判断に迷う電話や苦情の電話が間を置かずに続くようになるからです。
このメーカーでは、自動応答を始めてから、苦情の電話を経験の長いオペレーターに寄せる配置へ変えました。修理の遅れに不満を持つ顧客に対して、訪問日を早められるかどうかを技術部門と相談しながら答える応対は、機械に任せられない仕事として残っています。経験の浅いオペレーターには、切り分けの電話を通話中の支援を使いながら受けてもらい、苦情の電話は隣で聞いて学ぶ形をとりました。
コールセンターのAIでなくなるのはオペレーターの仕事ではなく、定型の一次応答と後処理の手間で、オペレーターの仕事は例外と感情の対応へ寄っていきます。
人員削減から考えると外れる3つの理由
オペレーターの仕事が例外と感情の対応へ寄るとすれば、次に気になるのは、その分だけ人を減らせるのかという点でしょう。コールセンターのAIを人員削減の手段として検討すると、導入の効果を人数で示したくなります。ところが、減らす人数から逆算して任せる範囲を決めると、入れた後に、人が受けるべき電話を受ける人が足りなくなる場合があります。このメーカーでも、経営層から最初に求められたのは「何名減らせるのか」という試算でした。これに対して情報システムの担当とSVは、試算を出す前に、人数から考えない理由を整理しています。そこでここでは、人員削減から考えると外れる3つの理由を解説します。
理由①問い合わせの総量は減らないから
最初に押さえておきたいのは、自動応答を入れても、窓口に届く問い合わせの総量は変わらないことです。減るのはオペレーターが受ける件数で、顧客が問い合わせる件数は減りません。自動応答で答えた問い合わせも、記録を残し、答えが正しかったかを確かめる対象として、窓口の業務に残り続けます。
さらに、自動応答で答えきれなかった問い合わせは、オペレーターへ戻ってくることになります。戻ってきた問い合わせは、顧客が機械とのやり取りを一度終えた後に届くため、最初から人が受けた場合より、説明に時間がかかることも少なくありません。
このメーカーのSVも、修理状況の確認を自動応答へ移す試算を作るときに、移した件数をそのまま人が受けなくなる件数として数えることはしませんでした。人へ戻る割合を見込み、戻った電話を受けるオペレーターを別に確保する前提で配置の案を組んでいます。経営層には、減らせる人数を示す代わりに、自動応答が受ける件数と、人へ戻る件数の見込みを並べた表を出しました。
人数の試算を求められたときは、自動応答が受ける件数から人へ戻る件数を差し引いた残りで考えると、配置を誤りにくくなります。
理由②難しい問い合わせほど人に残るから
次に、自動応答へ移るのは答えが決まる易しい問い合わせで、難しい問い合わせほど人に残る偏りがあります。移った件数の割合と、減らせる工数の割合は一致しません。通話の時間が短い電話から先に機械へ移るため、件数で見た減り方ほどには、オペレーターの時間は減らないのです。
たとえば、このメーカーの修理状況の確認は入電全体の30%を占めていましたが、通話の時間でみると短い部類に入っていました。一方で、故障の切り分けや苦情の電話は件数こそ少ないものの、1件ごとに聞き取りと社内への確認が要り、通話が長くなりがちです。件数でみた割合と同じだけ修理状況の確認を移しても、オペレーターが電話に使う時間が同じ割合で減るわけではありませんでした。
試算では、件数の割合から人数を割り出さず、型ごとの通話の時間まで分けて並べ、機械へ移る時間と人に残る時間を別々に見積もる必要があります。
理由③繁忙期の波は機械を入れても消えないから
最後の理由は、入電の波が機械を入れても消えないことです。住宅設備の窓口では、季節や天候によって特定の故障の電話がまとまって入る時期があります。その時期の電話ほど、自動応答では答えられない切り分けの相談が多くなるのが特徴です。
平常の月の入電をもとに人数を減らすと、波が来た時期に、切り分けの相談を受けるオペレーターが足りなくなってしまいます。自動応答は件数の多い時期にも同じように答え続けますが、人へ戻る問い合わせも、その時期に合わせて増えるためです。
このメーカーでも、冬には給湯の故障の相談がまとまって入っていました。SVは過去の記録から、その時期に増えるのが修理状況の確認より故障の切り分けのほうだと確かめました。そのうえで、繁忙期の配置は自動応答を入れた後も減らさない判断をしています。経営層には、平常の月だけで試算した場合に繁忙期のどの週で人が足りなくなるかを示し、この判断を了承してもらいました。
コールセンターのAIを人員削減から考えると外れるのは、問い合わせの総量が減らず、難しい問い合わせと繁忙期の電話ほど人に残るからで、配置は減らす人数より、人へ戻る件数から決めるほうが確実です。
何を任せる?自動応答に任せてよい3つの条件
人を減らす前提を外すと、コールセンターのAIで考えるべきことは、どの問い合わせを自動応答に任せるかという線引きに移ります。層①の自動応答は、4つの層のうちで顧客に直接答える唯一の層で、誤ったときの影響が顧客へそのまま届くのもこの層です。このメーカーでは、候補に挙がった問い合わせの型を1つずつ3つの条件に当て、すべてを満たした型だけを自動応答に載せました。そこでここでは、自動応答に任せてよい3つの条件を整理します。
条件①答えが1つに決まる
1つ目の条件は「答えが1つに決まる」ことです。問い合わせの内容と顧客の記録がそろえば、誰が答えても同じ答えになる問い合わせは、自動応答に載せても答えがぶれません。
逆に、答えが状況によって変わる問い合わせは、条件を聞き取りながら判断を重ねる必要があります。訪問日の変更は一見すると定型に見えますが、技術者の予定と部品の在庫によって、提示できる候補が毎回変わる問い合わせです。
このメーカーの修理状況の確認は、修理の記録にある状態を読み上げれば答えが決まる問い合わせでした。受付番号から記録を探し、「部品の手配中」なら入荷の予定を、「訪問日の確定済み」なら日付を伝えれば済みます。一方で、同じ修理の記録を見て「訪問を早めてほしい」と頼まれた場合は、技術部門の予定を確かめないと答えられないため、自動応答の対象から外しました。
型を1つずつ条件に当てていくこの作業は、任せる業務の選び方を窓口の問い合わせに当てはめたものです。答えが1つに決まるかどうかは、ベテランと新人のオペレーターに同じ問い合わせを渡したとき、同じ答えが返るかどうかで確かめられます。
条件②本人確認を要しない
2つ目は「本人確認を要しない」ことです。顧客の契約や個人の情報に触れる問い合わせは、相手が本人であることを確かめてからでなければ答えられません。自動応答に本人確認まで受け持たせると、確認の手順を誤ったときに、別の人へ情報を伝えてしまうおそれがあります。
本人確認が要るかどうかを決めるのは、答える内容のうち最も重い情報です。修理の進み具合を伝えるだけなら足りる確認も、住所の変更まで扱うとなれば足りなくなります。そのため、自動応答で扱う情報の範囲は先に決めておかなければなりません。
このメーカーでも、修理状況の確認のうち、受付番号と登録済みの電話番号が一致した場合だけを自動応答の対象にしました。進み具合の状態は伝えても、住所や支払いの情報には触れない設計です。登録と違う番号からの電話や、受付番号が分からないという電話は、オペレーターへつなぐ形をとっています。情報システムの担当は、自動応答が読める修理の記録の項目を、状態と入荷の予定と訪問日の3項目に限る設定も加えました。
自動応答に渡す情報の範囲を狭くしておけば、仮に本人確認を誤った場合でも、相手に伝わる内容を最小限に抑えられます。
条件③間違えても取り消せる
3つ目の条件は「間違えても取り消せる」ことです。自動応答は、どれほど条件を絞っても誤ることがあります。誤ったときに後から訂正すれば済む問い合わせかどうかで、任せてよいかを判断することになります。
進み具合の案内を誤った場合は、オペレーターが折り返して正しい状態を伝えれば訂正できます。これに対して、修理の申し込みを確定させたり、有償の修理を受け付けたりする処理は、誤ると費用や訪問の手配が動いてしまい、取り消すにも顧客との調整が欠かせません。
このメーカーは、修理状況の確認という1つの型だけを6週間、自動応答で試しました。3つの条件をすべて満たしていたのはこの型だけで、有償の修理の受付は、件数が多くても対象に入れていません。小さく始めたい場合は、このメーカーのように自動応答を1ユースケースに限り、スモールスタートで条件の当て方を確かめてから、載せる型を増やしていく進め方が合うでしょう。
自動応答に任せてよいのは、答えが1つに決まり、本人確認を要さず、間違えても取り消せる問い合わせで、3つのうち1つでも欠ける型はオペレーターが受ける形に残します。
4場面|オペレーター支援が効く場面
自動応答の条件から外れた問い合わせは、オペレーターが受け続けます。とはいえ、人が受ける電話にもコールセンターのAIが入る余地はあり、それが層②と層③にあたるオペレーター支援です。自動応答が人の代わりに答えるのに対し、オペレーター支援は人が答える前後の作業を受け持ちます。そのため、顧客に誤った答えが直接届くおそれが小さくなります。このメーカーでも、自動応答を1つの型に絞った一方で、オペレーター支援は窓口の全員を対象に検討しました。そこでここでは、オペレーター支援が効く4つの場面を解説していきます。
場面①通話中に回答の候補を出す
1つ目の場面は「通話中に回答の候補を出す」ことです。顧客が話した症状や型番をAIが聞き取り、FAQや過去の応対記録から近い回答の候補を画面に並べます。オペレーターは候補を読み、合っていれば自分の言葉で伝える流れです。
候補が効くのは、経験の浅いオペレーターが、答えを知っている先輩と同じ速さで答えたい場面にあたります。答えを探す時間には、オペレーターの経験の差がそのまま表れるからです。
このメーカーの窓口では、配属されて間もないオペレーターが、浴室乾燥機の電源が入らないという電話を受けたことがありました。画面に出た候補の中にブレーカーの確認を先に案内する回答があり、オペレーターはそれを読み上げる形で案内して、保留にせずに応対を終えています。以前であれば、SVに確認してから折り返していた内容でした。
候補を出す場面では、候補を使うかどうかを決めるのはオペレーターだという線を崩さないことが、誤った案内を防ぐ条件になります。候補をそのまま読み上げる運用にしてしまうと、層①の自動応答と同じ誤りが人の口から出ることになるからです。
場面②保留中に手順を探す
2つ目は「保留中に手順を探す」場面です。顧客を保留にして手順書を探す時間は、顧客にとっては待たされる時間でもあります。AIに手順書の検索を任せると、オペレーターは型番や症状を入力するだけで、該当する手順書の該当箇所まで絞り込めるようになります。
この場面で問われるのは、検索の速さより、探す先の手順書が最新になっているかどうかです。古い手順書が検索で先に出てくれば、オペレーターは誤った手順を速く案内してしまいます。
このメーカーでも、手順書の検索を試した最初の週に、改訂前の手順書が候補の上位に出る問題が起きました。旧型の製品と新型の製品とでリセットの操作が変わっていたにもかかわらず、検索は両方を同じ製品として扱っていたのです。SVは改訂前の版を検索の対象から外し、手順書ごとに対象の型番を書き込む作業を、試験の期間中に済ませています。
手順を探す場面にAIを入れる前に、検索の対象にする手順書の版を一度そろえておけば、試した後の手戻りを減らせます。
場面③通話後に要約を作る
3つ目の場面は「通話後に要約を作る」ことです。通話が終わると、AIが会話の内容から要約を作り、用件の種類・対応の結果・次の対応といった項目の下書きを埋めます。
要約が役に立つのは、後処理の時間が短くなることに加えて、記録の書き方がそろうためです。オペレーターごとに違う言葉で書かれていた用件が、同じ項目に同じ言葉で残るようになれば、層④の分析にそのまま回せる記録がたまっていきます。
このメーカーでは、要約の下書きに用件の種類を選ぶ項目を設け、「修理状況の確認」「故障の切り分け」「苦情」などの決まった言葉から選ぶ形にしました。以前は「修理」「故障」「不具合」と書き手ごとに分かれていた記録が、試した翌月からは同じ言葉で残るようになっています。SVが月末に傾向をまとめる作業も、記録を読み直す作業から、項目ごとに件数を数える作業へ変わりました。
ただし、選ばせる言葉を増やしすぎると選ぶだけで時間がかかり、後処理を短くする狙いと両立しなくなる点には注意が要ります。
場面④応対の品質を振り返る
4つ目は「応対の品質を振り返る」場面です。SVが応対の品質を確かめるには、これまで録音を聞き直すしかなく、1人のSVが聞ける通話の数には限りがありました。AIが通話を文字にして、案内の抜けや説明の順番を示すようになると、SVは気になる通話から先に確かめられます。
この場面で注意したいのは、振り返りの結果をオペレーターの評価に直結させないことです。AIが示した抜けをそのまま減点として扱うと、オペレーターは顧客の用件より、記録に残る言い回しばかりを気にするようになってしまいます。
このメーカーのSVは、振り返りの対象を苦情に発展した通話に絞り、どの説明の時点で顧客の不満が強くなったかを読み取る使い方をしました。読み取った内容はオペレーター全員が参加する毎月の打ち合わせで共有し、手順書の言い回しを直す材料にしています。
オペレーター支援は、人が答える前後の探す・書く・振り返る作業をAIが受け持つ層で、答えを決めるのは人のまま残るため、自動応答より先に窓口の全員へ広げやすい形です。
どう測る?コールセンターのAIを測る3つの指標
自動応答とオペレーター支援の使いどころが決まると、次は入れた後に何を見れば効果を判断できるかを決めておく必要があります。コールセンターのAIの効果は、応答した件数や自動化した割合で語られることが多いものです。しかし、それだけでは顧客の用件が済んだのか、オペレーターの時間が変わったのかが分かりません。このメーカーでは、試す前の月に3つの指標の値を記録しておき、試した後と比べる形をとりました。そこでここでは、コールセンターのAIを測る3つの指標を解説します。
指標①一次解決率
当初の目的は「修理状況の確認を機械に任せ、オペレーターの時間を故障の切り分けと苦情の対応へ回すこと」でした。この目的に対してまず確かめたのが、1つ目の指標である一次解決率です。一次解決率とは、最初の応対で顧客の用件が済み、折り返しや再度の問い合わせが要らなかった割合を指します。
この指標を置いたきっかけは、導入を決めた会議で経営層から「自動応答で答えた件数は分かったが、顧客の用件は済んでいるのか?」と問われたことでした。このメーカーの一次解決率は、導入前の71%から、全窓口へ広げた後には78%まで上がっています。上がった理由としては、修理状況の確認が自動応答で済むようになったことがまず挙げられます。それに加えて、オペレーターが故障の切り分けに時間を使えるようになり、折り返しになっていた相談がその場で済むようになりました。
一次解決率は、自動応答だけでなく、人が受けた電話の結果も含めた窓口全体で測ります。
指標②後処理にかかる時間
2つ目の指標は、通話後の後処理にかかる時間です。層③の要約と下書きが効いているかどうかは、この時間で確かめます。
後処理の時間を見る単位は、1件あたりの平均と、窓口全体の月の合計の2つです。平均だけを見ていると、一部のオペレーターが下書きを確かめずに記録を閉じている場合でも短く見えてしまいます。そのため、記録の項目がきちんと埋まっているかをSVがあわせて確かめなければ、短くなった数字をそのまま信用できません。
このメーカーでは、1件あたりの後処理が平均4分から1.5分まで短くなり、窓口全体では月375時間の短縮になりました。SVはこの時間を、故障の切り分けで聞き取りに時間をかける電話と、苦情の電話を受ける経験の長いオペレーターの配置に充てています。
短くなった時間を窓口のどの仕事へ回すかは、次に見る人へ戻した件数の割合とあわせて決めます。
指標③人へ戻した件数の割合
3つ目は、自動応答から人へ戻した件数の割合です。人へ戻した割合が下がっても、それだけでは改善とは言えず、戻すべき問い合わせまで自動応答が抱え込んだ結果として下がっている場合もあります。
戻した割合は、戻した理由ごとに分けて数えると、はじめて使える指標になります。受付番号が分からない、訪問を早めてほしい、案内に納得しないといった理由のうち、どれが多いかによって、直す先が自動応答の条件なのか、FAQや手順書なのかが変わるためです。
このメーカーの修理状況の確認では、自動応答から人へ戻した割合が12%で、月にすると324件でした。SVは戻った問い合わせを理由ごとに分け、最も多かったのが「訪問を早めてほしい」という依頼だと確かめました。そこで、自動応答の案内の最後に、オペレーターへつなぐ選択肢を加えています。
3つの指標を毎月そろえて出すには、エージェントの動きを測る指標を先に決めておくと手間が省けるでしょう。コールセンターのAIの効果は、自動化した件数では測れず、一次解決率・後処理にかかる時間・人へ戻した件数の割合の3つを導入前と比べて、はじめて判断できます。
通話の記録を分析に回す3つの手順
3つの指標で効果を確かめられるようになると、窓口には応対の記録が以前より整った形でたまり始めます。この記録を読み返さないまま残しておけば、層③で後処理を短くした効果だけで終わるでしょう。同じ問い合わせが繰り返し届く原因までは、記録を読まなければ分かりません。コールセンターのAIの層④は、記録を分析に回し、FAQや手順書を直すところまで進めて初めて窓口の応対に効いてきます。このメーカーでも、全窓口へ広げた後に、SVと情報システムの担当が一緒に記録の分析に取りかかりました。そこでここでは、通話の記録を分析に回す3つの手順を解説していきます。
手順①文字にする範囲を決める
最初に決めるのは、通話のうちどこまでを文字にして分析の対象にするかです。すべての通話を文字にして残すこともできますが、範囲を決めずに残すと分析に使わない記録ばかりが増え、個人の情報を含む記録の管理にも手間がかかります。
範囲は、分析で答えたい問いから逆算して決めるものです。どの問い合わせが増えているかを知りたいなら、用件の種類と要約があれば足ります。案内のどこで顧客が迷ったかまで知りたいなら、会話の全文が要るという具合です。
このメーカーは、すべての通話で要約と用件の種類を残し、会話の全文は、苦情に発展した通話と自動応答から人へ戻った通話に限って残すと決めました。全文を残す範囲を絞ったことで、情報システムの担当が管理する記録の量を抑えながら、SVが知りたかった「どこで不満が強くなったか」を読み取れる形にしています。
文字にする範囲は、分析の問いが変われば見直すものです。最初から広く残すより、問いを1つ決めて必要な範囲だけ残すほうが、記録の管理も担当者が見通せる量に収まります。
手順②問い合わせを型に分ける
範囲が決まったら、残した記録を問い合わせの型に分けていきます。AIに型を分けさせるときも、どんな型に分けるかの一覧は、窓口の業務を知る人が先に作っておかなければなりません。一覧が無いままAIに分けさせると、似た内容が別々の型になったり、件数の少ない型が大量にできたりして、どこを直せばよいかが読み取れなくなります。
このメーカーでは、SVが過去の記録を読み、「修理状況の確認」「故障の切り分け」「訪問日の変更」「苦情」など、対応の手順が変わる単位で型の一覧を作りました。そのうえで、AIが分けた結果をSVが毎月見直し、どの型にも入らない記録が目立つ月には、一覧に型を足しています。
型の一覧は、答え方が変わる単位で切ると、分けた結果をそのままFAQや手順書の直す先に対応づけられます。製品や部品の単位で切れば件数は数えやすくなるものの、どの答え方を直せばよいかは見えにくいままです。
手順③FAQと手順書へ戻す
最後の手順では、型ごとに分けた記録から、FAQや手順書のどこを直すかを決めて戻していきます。分析を報告書にまとめて終えてしまうと、窓口の応対は何も変わりません。
戻す先を決める手がかりになるのは、型ごとの件数の変化と、人へ戻った理由の偏りです。件数が増えている型は、製品や案内の側に原因があるかもしれません。一方で、人へ戻った理由が偏っている型は、自動応答が参照しているFAQの書き方に原因がある場合があります。
このメーカーでは、「浴室乾燥機が止まる」という故障の切り分けの件数が増えている月がありました。その月の記録を読むと、フィルターの掃除を案内すれば済む電話が多くを占めていたのです。SVはFAQの該当箇所に掃除の手順を足し、手順書の最初に掃除の確認を置く形へ直しています。自動応答やオペレーター支援が参照するFAQと手順書は、AIにとっての回答の根拠となる文書にあたります。ここを直した分だけ、次の月の自動応答の答えも、オペレーターに示す候補も変わるのです。
以上が、通話の記録を分析に回す3つの手順でした。通話の記録は、文字にする範囲を決め、答え方が変わる単位で型に分け、FAQと手順書へ戻すところまで進めて初めて、次の月の応対を変える材料になります。
コールセンターへのAI導入でつまずく3つの失敗
記録を分析に回すところまで進められた窓口では、コールセンターのAIが業務の一部になっています。ただ、そこへ至るまでの途中でつまずく窓口もあり、つまずき方には共通点があります。多くは任せる範囲を条件より広げたか、オペレーターの作業をかえって増やしたかのどちらかにあたり、どちらも入れた直後には気づきにくいものです。このメーカーも、試した6週間の間と、全窓口へ広げる途中で、いくつかの失敗を経験しました。そこでここでは、コールセンターへのAI導入でつまずく3つの失敗を整理します。
失敗①全件を自動応答にして苦情が増える
1つ目の失敗は「全件を自動応答にして苦情が増える」ことです。入電のすべてをまず自動応答が受け、答えられない問い合わせだけを人へ回す形は、効率がよく見えます。しかし、自動応答の条件を満たさない問い合わせまで機械が受け始めると、顧客は用件を言い直す手間を強いられることになります。人につながった時点で、顧客はすでに不満を抱えているのです。
このメーカーでも、試験を始めた最初の週に、修理状況の確認に限らず、すべての入電をまず自動応答で受ける設定で動かしたことがありました。SVが録音を確かめると、故障の相談をしたい顧客が、修理状況の確認の案内を最後まで聞かされた後にオペレーターへつながっていました。「最初から人に代わってほしかった」と話す通話が、その週のうちに続けて見つかったのです。
この設定は翌週には改め、自動応答が受けるのは、用件を最初に聞いて修理状況の確認だと分かった電話だけに戻しました。全件を自動応答で受ける形は、条件を満たす型が入電の大半を占める窓口でなければ、苦情を増やす結果になりやすいと考えます。
失敗②オペレーターの見る画面を増やす
2つ目は「オペレーターの見る画面を増やす」失敗です。オペレーター支援を入れると、回答の候補、手順書の検索、要約の下書きと、見る場所が増えていきます。これらが別々の画面に出る形では、オペレーターは通話しながら画面を切り替えることになり、支援のための画面がかえって応対を遅らせる原因になります。
このメーカーでは、手順書の検索を試した段階で、検索の画面が顧客の記録とは別の画面に開く形になっていました。通話中に顧客の記録と検索の2つの画面を行き来する必要があったため、慣れたオペレーターほど検索を使わず、自分の記憶で答える応対に戻っていったのです。SVが試験の途中で使われ方を確かめるまで、情報システムの担当はこの状態に気づいていませんでした。
情報システムの担当は、検索の結果を顧客の記録の画面の横に出す形へ組み直しました。オペレーターが支援を使い続けるかを左右するのは、支援の中身の出来より、今の画面の流れを崩さないことです。
失敗③クレームの一次対応まで機械に回す
3つ目は、クレームの一次対応まで機械に回してしまう失敗です。チャットや問い合わせフォームで届く用件をどこまで任せ、どこで人へ渡すかは、カスタマーサポートのAIエージェントの記事で扱っています。苦情の電話は件数が読めず、受けるオペレーターの負担も大きいため、まず機械で受けて内容を聞き取らせたいと考える運営側の事情は分かります。しかし、不満を伝えたい顧客にとっては、機械が応対すること自体が不満を強める理由になります。
このメーカーでも、全窓口へ広げる検討の中で、苦情の電話を自動応答で受けて用件を記録し、後から折り返す案が出ました。SVは過去の苦情の記録を読み返し、最初に人が受けて謝罪と状況の確認を済ませた応対ほど、その後のやり取りが短く終わっていたことを確かめています。そのうえで、苦情の一次対応は機械に回さず、自動応答の途中で顧客が不満を示した場合も、すぐにオペレーターへつなぐ形を残しました。
いずれの失敗も、オペレーターが使わなくなったり苦情が増えたりしてから表に出ます。表に出てから画面を直す担当が決まっているかどうかで、オペレーターに使われ続ける状態を保てるかが分かれるのです。定着まで伴走してほしい場合は、導入後にオペレーターの使い方を見ながら直していく期間まで、支援の範囲に含めて相談するとよいでしょう。コールセンターへのAI導入の失敗は、任せる範囲を条件より広げたときと、オペレーターの画面の流れを崩したときに起き、苦情と例外の電話を最初から人が受ける形に残せば避けられます。
Agentforceで電話とチャットを受ける3つの形
3つの失敗は、どれも製品を選ぶ前の設計で避けられるものでした。設計が固まると、次はどの製品で組むかを決める段階に入ります。このメーカーの場合、顧客と修理の記録がすでにSalesforceにあったため、同じ記録を読めるAgentforceが製品の候補に挙がりました。検討の場で情報システムの担当が整理したのは、チャットの一次対応、電話の用件の切り分け、人への引き継ぎという3つの受け方でした。どれを受け持たせるかによって、使う仕組みも設計で決める点も同じではありません。そこでここでは、Agentforceで電話とチャットを受ける3つの形を解説します。
形①チャットの一次対応をエージェントが受ける
1つ目の形は、Webサイトなどのチャットで届く問い合わせの一次対応を、Agentforceのエージェントが受ける形です。カスタマーサポート向けのService Agentは、あらかじめ決めたシナリオの分岐をたどるチャットボットとは仕組みが異なります。問い合わせの内容を読んだうえで、ナレッジやCRMの記録を参照しながら答えを組み立てる点が特徴です。
この形が合うのは、自動応答の3つの条件を満たす型が、チャットでも多く届いている窓口でしょう。チャットと電話で受け持ちを分けるときの、分け方と数の決め方は、複数のAIエージェントの設計で整理しています。修理状況の確認であれば、顧客の情報と修理の記録がSalesforceにあるため、エージェントは受付番号から記録を探して状態を答えられます。
このメーカーでは、電話の自動応答より先に、Webサイトのチャットで修理状況の確認を受ける形を検討しました。チャットなら型番や受付番号が文字で届いて聞き違いが起きず、条件②の本人確認も、ログインした顧客に限れば済むためです。電話と同じ型をチャットで先に試せば、自動応答の条件の当て方を、聞き違いの影響を除いた状態で確かめられます。
形②電話の用件を音声で切り分ける
2つ目は、電話で届いた用件を音声で聞き取り、切り分ける形になります。Agentforce Voiceは、番号を押して分岐をたどらせる従来の自動音声の案内とは異なる仕組みです。相手が話した内容から用件を判断し、足りない項目だけを聞き取ります。聞き取った内容をCRMの記録に書き込み、その後の処理まで進められる点も、案内するだけの仕組みとの違いです。
※参考記事はこちら
電話で受ける場合は、チャットより条件が厳しくなります。音声は聞き違いが起きるうえに、誤った案内を顧客が聞いた後で訂正を送り直せません。そのため、条件③の取り消せるかどうかを、チャットより慎重に当てる必要があります。電話を受けるには既存の電話基盤との接続も前提になり、接続できるかどうかを最初に確かめなければ、設計には進めません。
このメーカーは、電話で受ける範囲を、用件を聞き取って修理状況の確認かどうかを切り分けるところまでに絞りました。修理状況の確認だと分かれば記録から状態を答え、それ以外の用件なら、聞き取った内容を記録に書き込んでオペレーターへつなぐ形です。
電話の自動応答は、答える範囲を広げるより、切り分けまでを確実に受け持たせるほうが、失敗①のような苦情を生みにくくなります。
形③人へ渡すときに経緯を引き継ぐ
3つ目は、エージェントから人へ渡すときに、それまでの経緯を引き継ぐ形です。チャットでも電話でも、エージェントが答えられない問い合わせや、顧客が人との会話を望んだ問い合わせは、オペレーターへ渡すことになります。このとき、エージェントが聞き取った内容が渡らなければ、顧客は同じ説明を最初から繰り返すことになり、失敗①と同じ不満を生みかねません。
Service Agentでは、顧客が担当者を希望した場合に人へ転送する流れを、あらかじめ設計しておけます。どの流れを通る場合でも、オペレーターが受けた時点で何を見られるかを決めるのは、エージェントが渡す前に記録へ書き込む項目です。
このメーカーでは、人へ渡す前に、エージェントが聞き取った用件の種類と受付番号、顧客が不満を示したかどうかを修理の記録に書き込む形を設計しました。オペレーターは電話を取った時点でそれらを画面で確かめ、顧客に用件を聞き直さずに話し始められるようにしています。
自社で構築するので設計レビュー・アドバイザリーだけ頼みたい場合は、組む作業は社内で進め、人へ渡す条件と書き込む項目の設計だけを外部に確かめてもらう進め方でも足りるでしょう。Agentforceで電話とチャットを受けるときは、チャットで条件の当て方を確かめ、電話は用件の切り分けまでに絞り、人へ渡すときに聞き取った内容を記録に書き込む形にすると、顧客に同じ説明を繰り返させずに済みます。
コールセンターのAIを急がなくてよい3つの状況
製品で組む形が見えてくると、すぐにでも試したくなるものです。しかし、4つの層のどれを試すにしても、AIが答える材料になる手順書と、効果を確かめる材料になる応対の記録が要ります。このメーカーは、修理の記録がSalesforceに残り、製品ごとの手順書も整っていたことから、6週間の試験にすぐ入れました。記録と手順書のどちらかが欠けた窓口では、試した結果を比べる基準がないまま、AIの答えだけが先に出てしまいかねません。そこでここでは、コールセンターのAIを急がなくてよい3つの状況を、入れる前に確かめる順に整理します。
状況①応対の記録が残っていない
1つ目は、応対の記録が残っていない状況です。通話の内容がオペレーターの記憶やメモにしか残っていない窓口では、どの問い合わせがどれだけ届いているかが分かりません。自動応答にどの型を載せるかも、効果が出たかどうかも、記録なしには決められないのです。
記録が残っていない窓口では、AIを入れる前に、用件の種類と対応の結果だけでも記録に残す運用を先に始めるほうが確実です。この運用は、それ自体が層④の分析の準備にもなります。
このメーカーでは、修理の受付から完了までがSalesforceの修理の記録に残っていました。修理状況の確認が入電の30%を占めることも、その記録を数えて分かったものです。記録がなければ、自動応答へ最初に載せる型は担当者の印象で選ぶしかなかったでしょう。
直近の入電を用件の種類ごとに数えられない窓口は、この状況に当てはまります。
状況②FAQと手順書が古いままになっている
2つ目は、FAQと手順書が古いままになっている状況です。自動応答もオペレーター支援も、FAQと手順書を答えの根拠にします。根拠が古ければ、AIは古い答えを速く返すことになり、人が答えていたときより誤った案内が広がりやすくなります。
とくに製品の型が多い窓口では、新しい型の手順書が追加されないまま、旧型の手順書が使われ続けていることがあります。オペレーターは経験で差分を補って答えていても、AIは書かれた手順しか参照できません。
このメーカーでも、場面②で見たように、改訂前の手順書が検索で先に出る問題が試験の期間中に起きました。手順書の版をそろえる作業は、SVが製品ごとに対象の型番を確かめながら進め、自動応答やオペレーター支援を全窓口へ広げる前に済ませています。
FAQと手順書を直す担当と頻度が決まっていない窓口では、AIを入れる前に、その担当を決めるところから始めてください。
状況③窓口が1つで入電が少ない
3つ目は、窓口が1つで入電が少ない状況です。入電が少なければ、同じ型の問い合わせが繰り返し届く量も限られ、自動応答に載せてもオペレーターの時間が変わるほどの件数になりません。後処理の短縮も、窓口全体で合計したときの時間は小さくなります。窓口が1つで担当が少人数の場合は、SVがAIの設定を見直す時間も取りにくくなるでしょう。
入電が少ない窓口でも、通話後の要約のように、1件ごとに効く層から試す余地はあります。ただし、効果を指標で比べるには一定の件数が要るため、試した結果の判断は、記録がたまるまで待たなければなりません。
このメーカーのように入電が月9,000件あり、同じ型が30%を占める窓口であれば、1つの型を自動応答に載せただけで、効果を指標で確かめられました。逆にいえば、入電の総数が少なくても、1つの型に問い合わせが偏っている窓口なら、その型だけを自動応答に載せて試し始める判断は成り立ちます。
【一問一答】コールセンターのAIに関するよくある質問
ここまでの内容を社内で共有すると、オペレーターの配置や費用、クレームへの使い方について、同じ質問が繰り返し出てくるはずです。このメーカーでも、経営層・SV・情報システムの担当がそれぞれの立場から別の疑問を持ち寄っており、なかでもオペレーターの要否と費用は、打ち合わせのたびに確かめ直された論点でした。そこでここでは、コールセンターのAIに関するよくある5つの質問を、このメーカーの判断とあわせて取り上げます。
不要にはなりません。自動応答へ移るのは答えが1つに決まる定型の問い合わせで、例外と感情の対応は人に残るからです。このメーカーでも、コールセンターの42名の体制は変えず、後処理が短くなった分の時間を、故障の切り分けと苦情の対応へ回しました。
費用は、AIが処理を実行する回数で大きく変わります。Agentforceの場合、標準的なアクションは1回あたり20クレジット、金額にして0.10ドルを消費し、Flex Creditsは10万クレジットあたり500ドルです(2026年9月時点)。このメーカーは、月2,700件ある修理状況の確認で処理が何回走るかを数えました。音声で受ける分は消費が多い点も含めて、料金の考え方に当てはめています。
※参考記事はこちら
クレームの一次対応を機械に任せるのは避けたほうが安全です。不満を伝えたい顧客にとっては、機械が応対すること自体が不満を強める理由になるからです。このメーカーでは、苦情の電話は最初から人が受け、AIは通話後の要約と、苦情に発展した通話の振り返りに使う形にしました。
自動応答の効果は同じ型の問い合わせが繰り返し届く量で決まるため、入電が少ない窓口では小さくなります。一方で、通話後の要約は1件ごとに効くため、小規模な窓口でも試す余地があります。この記事の例では、月9,000件の入電のうち30%が同じ型だったことが、自動応答から始められた条件でした。
任せる範囲を条件で絞れば、品質はむしろ上がる場合があります。このメーカーでは、自動応答を修理状況の確認に限り、オペレーターが切り分けに時間を使えるようにした結果、一次解決率が71%から78%へ上がりました。品質の確認には、自動応答の件数ではなく、一次解決率と人へ戻した理由をあわせて使います。
コールセンターのAIは、人を減らす道具より、人が例外に集中するための仕組みとして設計する
コールセンターのAIは、オペレーターを減らすための道具として入れると、問い合わせの総量も難しい電話も残ったまま、人が足りない窓口を生みかねません。自動応答・通話中の支援・通話後の記録・分析の4つの層に業務を分け、人が例外と感情の対応に時間を使える形を作るための仕組みとして設計したときに、窓口の応対は変わります。このメーカーの当初の目的は「修理状況の確認を機械に任せ、オペレーターの時間を故障の切り分けと苦情の対応へ回すこと」でした。修理状況の確認だけで6週間試し、3か月かけて全窓口へ広げた結果、後処理は月375時間短くなり、一次解決率は78%まで上がっています。
本記事で整理した4つの層、自動応答の条件、オペレーター支援の場面、測る指標、記録の分析、つまずく失敗、Agentforceで組む形は、窓口の記録と手順書が手元にあれば、製品を決める前に社内で詰められる内容です。自社の入電を用件の種類ごとに数え、答えが1つに決まる型が入電のどれくらいを占めるかを確かめれば社内で進める範囲と外部に頼む範囲の切り分けは、AIエージェント導入支援の記事で整理しています。、どの層から始めるかの見当もつくでしょう。
問い合わせを4つの層に分ける整理から、自動応答に載せる型の選定、オペレーターへ渡す条件の設計までは、窓口の担当者だけで進めなくてもかまいません。合同会社クロスコムは、この一連の作業をAgentforce導入・定着支援として一緒に進めています。窓口へのAIの入れ方を決めかねている段階でも、無料相談からお気軽にお問い合わせください。本記事の整理が、自社の窓口でAIに何を任せるかを話し合う場面で、少しでもお役に立てれば幸いです。

