「で、結局いくら儲かるのか」と投資判断の会議で聞かれて、資料を持ち帰ったという話を、Agentforceの導入を任された担当者からよく聞きます。ライセンスの費用は公式の価格ページで調べられますが、それ以外に何がいくらかかるのか、そして何をもって効果と呼ぶのかは、価格ページには書かれていません。
本記事では、Agentforceの総コストを費目に分解する見方と、効果を測れる形に設計する手順、そして稟議をフェーズで区切って組み立てる進め方を整理します。なお本記事は2026年8月時点の情報です。
- Agentforceの稟議が止まる3つの状況
- Agentforceの費用対効果が見えない3つの原因
- Agentforceの総コストを構成する8つの費目
- Agentforceの隠れコストになる3つの作業
- Agentforceの効果を定義する3つの観点
- Agentforceの費用対効果を試算する4ステップ
- Agentforceの効果を測れない3つの業務
- Agentforceの稟議で示す4つの論点
- Agentforceの投資を区切る3つのフェーズ
- Agentforceの効果測定を支える3つの機能
- Agentforceの利用料が読みにくい3つの理由
- Agentforceの投資対効果を損なう3つの要因
- Agentforceの稟議を外部と進める3つの場面
- 【一問一答】Agentforceの費用対効果でよくある質問
- Agentforceの稟議は総コストと測定設計をそろえて通す
当社はSalesforce公式コンサルティングパートナーとして、 ソリューション営業に特化したAgentforce導入・定着支援を 行っています。
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この記事を書いた人
合同会社クロスコムの代表|専門商社にて7年間のBtoB営業を経て、マーケティング業界に参入。現在はSalesforce公式コンサルティングパートナーとして、ソリューション営業の業務プロセスに特化したAgentforce導入・定着支援を提供している。
Agentforceの稟議が止まる3つの状況
投資判断の会議に出す資料のうち、Agentforceの稟議で最後まで埋まらないのは「総額」欄と「効果」欄の2つです。導入したい業務まで決まっていても、この2つを社内の誰も書けないまま、決裁が次回送りになります。今回は、中堅の産業用部材メーカーで営業企画を担当する課長代理が、この2つの欄を埋めるまでの経過も交えて解説していきます。そこでここでは、Agentforceの稟議が止まる3つの状況を整理します。
費用の全体像と効果の測り方は、Agentforceの導入を決めた時点では、まだ社内のどこにも用意されていません。
状況①ライセンス以外の費用を見積もれていない
1つ目は「ライセンス以外の費用を見積もれていない」という状況です。公式の価格ページを開けばライセンスの体系までは分かりますが、投資判断の会議に出す資料の「総額」欄は、その数字だけでは埋まりません。
今回の産業用部材メーカーでも、営業企画の課長代理が価格ページを読み込んで見積もりの一行目までは書けたものの、そこから先が2週間空白のままでした。その間に、経理からは「支払いの発生時期を月単位で出してほしい」、情報システム部からは「うちの工数はどこに乗るのか」という質問が別々に届いていました。この2つは、どちらもライセンスの金額を聞いていません。参照するデータを整える作業や、公開前に検証する作業が、いつ発生し、誰の負担になるのかを聞いています。
課長代理が答えられなかったのは、費用の相場を知らなかったからではありません。支払いとして社外へ出ていく費用と、社内の担当者が時間を使う工数を、同じ「総額」欄に並べて示す形を持っていなかったからです。
ライセンス以外の費用を見積もれない状況は、費目を分解して、それぞれの発生時期と負担の形を決めたときに初めて解消します。
状況②効果を数字で答えられない
費用の側だけでなく、効果の側でも稟議は止まります。「で、いくら儲かるのか」と聞かれたときに、何をもって効果と呼ぶのかが社内で決まっていないため、出す数字を選べない状況です。
この産業用部材メーカーでは、営業部門長との打ち合わせで「代理店からの在庫と納期の問い合わせに、営業担当者が1日のうちどれだけ時間を使っているか」という話までは出ていました。ところが、その時間はどのシステムにも記録として残っていませんでした。担当者ごとの記憶をもとに「午前中はほとんどこの対応で終わっている」と言うことはできても、投資判断の会議に出す資料の「効果」欄には書けなかったのです。営業部門長からは「感覚で構わないから数字を出してほしい」とも言われましたが、根拠のない数字を会議に出すと、後の実績と食い違ったときに説明できなくなります。
効果を数字で答えられない状態は、効果がないという意味ではありません。効果として数える対象と、その記録の方法を決めていないだけです。この2つを決めておけば、同じ質問を受けたときに答える数字を選べます。
状況③他社事例が自社の規模に合わない
3つ目は、他社の導入事例を集めたものの、それが自社の稟議には使えない状況です。公開されている事例は、業種も企業規模も、営業のやり方も自社とは違います。
この産業用部材メーカーの商流は、代理店経由の受注が大半を占めています。営業担当者が受ける問い合わせも、その大半は代理店の担当者からの在庫と納期の確認です。課長代理が集めた事例は、消費者向けのサービス業で問い合わせ対応を自動化したものが多く、会議で提示したところ「その会社と当社は、何が同じなのか」と質問されて説明が続かなくなりました。同じ業種の事例が見つかったとしても、営業担当者の人数や代理店との取引の量が違えば、削減できる時間の規模はそのまま当てはまりません。
さらに、公開されている事例の数字は、導入して成果が出た後のものです。承認をもらう前の段階で必要になるのは、自社の業務からこれから作る見込みの数字です。他社事例は、測り方の参考として読む材料だと考えます。
Agentforceの費用対効果が見えない3つの原因
前章では、Agentforceの稟議が止まる3つの状況を整理しました。この3つは担当者の準備不足として片づけられがちですが、原因は費用の数え方と効果の測り方の側にあります。Gartnerが2025年8月から9月にかけて最高営業責任者(CSO)227名を対象に実施し、2026年5月19日に公表した調査では、31%が「AI駆動ツールのROI(投資利益率)を示すことの難しさ」を2026年の営業目標を達成するうえでの課題に挙げており、この調査の対象はAI駆動ツール全般であって、AIエージェントやAgentforceに限定した数字ではありません。そこでここでは、Agentforceの費用対効果が見えなくなる3つの原因を確認します。
※参考記事はこちら
費用対効果が見えないのは、費用を購入額だけで数え、効果を作業時間だけで測っているからです。
原因①支払う費用を購入額だけで数えているから
最初に挙げたいのは、費用を購入額だけで数えてしまう数え方の問題です。ライセンスの契約金額と、実行量に応じて増える費用の見込みを足した数字を「総額」と呼んでしまうと、社内の担当者が使う時間がまったく計上されません。
情報システム部が「うちの工数はどこに乗るのか」と聞いたのは、この計上漏れを見抜いたからです。参照するデータの棚卸しも、権限の設定も、公開前の検証も、担当者が業務時間を使って行います。営業企画の課長代理自身が設計に使う時間も、営業担当者が試用に付き合う時間も同じです。購入額だけで数えた総額を会議に出すと、「その工数は誰の予算から出るのか」と問われた時点で、資料を作り直すことになります。
工数を金額に換算するかどうかは、社内の慣習によって変わります。ただし換算しない場合でも、どの部門が何時間分を負担するのかは総額の欄に並べておきましょう。工数を並べるのは、金額の精度を上げるためではありません。誰の時間がどれだけ使われるのかを、承認する側から見えるようにするためです。
原因②効果を作業時間の削減だけで測っているから
次に、効果の側で起きているのが、作業時間の削減だけを効果と呼んでしまう測り方です。削減した時間は説明しやすい反面、それだけを持ち出すと会議で2つの質問に答えられなくなります。
1つ目は「その空いた時間は何に使うのか」という質問です。営業部門長にとって、削減した時間が商談の件数に回るのか、提案の内容を厚くする時間に回るのかは別の話であり、どちらなのかを決めていないと効果として受け取ってもらえません。2つ目は「時間が減らないものは効果ではないのか」という質問です。代理店への返答が遅れて失注していた案件を減らすことや、ベテランの担当者しか答えられなかった仕様の質問に誰でも答えられるようにすることは、作業時間の削減としては現れません。
この産業用部材メーカーでも、当初の資料は削減時間の1項目だけでした。効果を作業時間の削減だけで測ると、資料の「効果」欄に書ける項目は1つに減り、会議で出た2つの質問はどちらも空欄のまま残ります。
原因③導入前の状態を記録していないから
3つ目の原因は、導入前の状態を記録していないことです。効果は導入の前後の差でしか示せないため、比較する相手がない状態では、どれだけ順調に動いていても効果を示せません。
ここで注意したいのが、記録は後から遡って作れない性質です。エージェントの利用状況を集計する仕組みは、有効化した後に発生したやり取りだけを対象にします。導入前に営業担当者が何件の問い合わせを受け、1件あたりどれだけの時間を使っていたのかという数字は、人の手で先に取っておくしかありません。
この産業用部材メーカーの場合、代理店からの問い合わせは電話とメールで届いており、件数はメールの受信履歴からある程度たどれるものの、電話の分は残っていませんでした。課長代理が「効果」欄を書けなかったのは、効果の見込みが立たなかったからではありません。比較の起点になる数字が、社内に存在しなかったからです。導入前の記録を残す期間は稟議の対象に含めておく必要があり、記録があるかどうかは、その業務を1本目に選べるかどうかの判断材料にもなります。
Agentforceの総コストを構成する8つの費目
費用を購入額だけで数えることが費用対効果を見えなくする、という原因までを前章で整理しました。この数え方は、何にいくらかかるのかという費目を並べ替えるだけで変わります。そこでここでは、Agentforceの総コストを構成する8つの費目を、発生する時期と負担の形にそろえて整理します。
Agentforceの総コストは、社外へ支払う費用2つと、社内または外部の担当者が時間を使う作業6つで構成されます。
| 費目 | 発生する時期 | 負担の形 | 見積もりの取り方 |
|---|---|---|---|
| ①ライセンスの契約 | 契約時から毎月 | 費用 | 公式の価格体系で確認 |
| ②実行量に応じた費用 | 公開後から毎月 | 費用 | 想定件数から逆算 |
| ③参照データの整備 | 契約前から着手 | 工数 | 対象データの棚卸し |
| ④任せる業務の設計 | 契約前から着手 | 工数 | 対象業務の数で見積もる |
| ⑤エージェントの構築 | 設計の完了後 | 工数か外注費 | 自社と外部の分担で決定 |
| ⑥公開前の検証 | 構築と並行 | 工数と実行量 | 検証の回数で見積もる |
| ⑦現場への定着支援 | 公開の前後 | 工数か外注費 | 対象部門の人数で決定 |
| ⑧公開後の改善運用 | 公開後から毎月 | 工数 | 月ごとの確認時間 |
費目①ライセンスの契約で発生する費用
1つ目は「ライセンスの契約で発生する費用」です。Agentforceは、すでに使っているSalesforceの上に載せて動く仕組みのため、契約中のエディションと、そこに追加するライセンスの2つを確認する必要があります。
今回の産業用部材メーカーは、Sales Cloudを5年運用してきました。商談のデータは蓄積されており、契約中のエディションもそのまま使える水準でした。そのため課長代理の資料では、この費目は追加分だけを書けばよく、8つの費目のなかで最も早く欄が埋まったのです。一方で、下位のエディションを使っている企業では、エディションの見直しから検討することになります。
単価と購入単位、そして月額の考え方は、ほか記事「Agentforce料金・ライセンスの詳細」で整理していますので、金額はそちらで確認してもらえると嬉しいです。この費目は、8つのなかで唯一、契約前に金額を確定できる費目だと考えておきましょう。
費目②実行量に応じて増える費用
2つ目の「実行量に応じて増える費用」は、エージェントが実際に動いた量に連動して発生します。契約時に確定できる費目①とは性質が違い、公開してから毎月変動する前提で見積もる費目です。
見積もりを難しくしているのは、1件の依頼が必ずしも1回の処理で終わらないことです。代理店から届く1件の問い合わせでも、在庫の照会と納期の算定のように、複数の処理に分かれることがあります。営業企画の課長代理が最初に作った見込みは、問い合わせの件数をそのまま実行量として置いていたため、実態より小さい数字になっていました。この費目は対象を広げるたびに増えるため、稟議では最初の月の見込みと、対象を広げた後の見込みを並べて示しておくと、会議での質問が減ります。
この費目は、想定する件数に1件あたりの処理の回数を掛けて出します。件数だけで見積もると必ず不足するため、代表的な依頼を3つほど選び、それぞれ何回の処理に分かれるかを先に確かめておきましょう。実行量が読みにくくなる構造は、この記事の後半であらためて整理します。
費目③参照データを整える作業
3つ目は、エージェントが答えるときに参照するデータを整える作業です。この費目は工数として発生し、しかも契約より前から着手できます。
この産業用部材メーカーでは、5年分の商談データが蓄積されている一方で、活動履歴の入力率には営業担当者ごとにばらつきがあり、代理店とのやり取りを都度記録している担当者と、受注が決まった段階でまとめて入力する担当者が混在していました。この状態のままエージェントに参照させると、記録の多い担当者の案件だけが根拠として使われることになります。課長代理は、対象にする品番の範囲と、在庫と納期の情報がどのシステムに入っているかの棚卸しから始めました。
参照データの整備がどの機能に効いてくるかについては、ほか記事「Agentforceの機能一覧」で全体像を確認できます。棚卸しの結果は、費目④以降の見積もりの前提にもなるため、最初に着手しておくと後の工程が軽くなります。
費目④任せる業務を設計する作業
4つ目は、どの業務のどの判断をエージェントに任せるのかを決める作業であり、業務側の合意を作る時間として発生します。
具体的には、対象の業務の範囲、例外として人が引き取る条件、そして引き取ったあとの担当を決めていきます。この産業用部材メーカーでは、在庫と納期の問い合わせのうち、標準品はエージェントが答え、特注品と数量の交渉が絡むものは営業担当者へ引き渡すという線引きを決めるのに、営業部門との打ち合わせを3回重ねました。線引きが決まらないまま構築に進むと、公開後に「この質問は答えてよかったのか」という確認が現場から続くことになります。設計の打ち合わせには、業務を持つ部門の担当者と、決裁の権限を持つ管理者の双方に入ってもらいましょう。担当者だけで決めた線引きは、公開の直前に管理者から差し戻されることがあります。
設計の工数は、対象にする業務の数にほぼ比例します。1つの業務に絞れば打ち合わせの回数は限られますが、複数の部門の業務を同時に扱うと、部門ごとに同じ議論を繰り返す時間が積み上がります。
費目⑤エージェントを構築する作業
5つ目の「エージェントを構築する作業」は、設計で決めた内容を実際の設定に落とす工程です。自社の担当者が行うか外部に委託するかで、工数と外注費のどちらに乗るかが変わります。
判断の分かれ目になるのは、社内にSalesforceの設定を担当できる人がいるかどうかと、その人が他の業務をどれだけ抱えているかです。この産業用部材メーカーの情報システム部は3名で全社のシステムを担当しており、基幹システムの更新が同じ期に重なっていました。課長代理は、初回の構築は外部に委託し、公開後の細かな調整を情報システム部が引き取るという分担で見積もりを組み直しています。構築にかかる期間は、参照するデータの整備がどこまで進んでいるかにも左右され、費目③が終わらないまま構築を始めると設定の待ち時間が発生します。外部へ委託している場合は、その待ち時間も費用に含まれます。
構築を外部に委託する場合でも、社内の工数がゼロになるわけではありません。仕様の確認や、参照するデータの提供に社内の時間は必ず使われます。逆に、構築まで社内で行う場合でも、情報システム部の作業時間を費目⑤の欄に書いておかなければ、総額は同じように小さく出てしまいます。
費目⑥公開前に検証する作業
6つ目は、公開する前にエージェントの応答を確かめる作業です。この費目は工数と実行量の両方に効いてくるため、見積もりから漏れると二重に狂います。
検証で確かめるのは、期待どおりの回答が返るかどうかだけではありません。代理店からの表現の揺れ、たとえば品番を型式で聞かれた場合や、複数の品番をまとめて聞かれた場合にどう動くかまで含めて確かめます。この産業用部材メーカーでは、営業担当者から実際に届いた問い合わせの文面を集め、それをそのまま検証の材料に使いました。実際の文面を使ったことで、想定していた質問の形と現場の書き方が違う箇所が、公開前に見つかったのです。検証に入る前には、どの応答をもって合格とするのかを決めておきましょう。合格の条件が決まっていないと、担当者ごとの判断で修正の指示が出され、回数だけが積み上がります。
検証は1回では終わらず、応答を直すたびに繰り返します。この繰り返しの回数を1回か2回で見積もると、工数も実行量も足りなくなります。検証の回数は、対象にする質問の種類の数から見積もっておきましょう。
費目⑦現場に定着させる支援
7つ目は、公開したエージェントを現場の担当者に使ってもらうための支援です。説明会の準備、手順の共有、公開直後の質問への対応が、この費目に含まれます。
ここは、見積もりの段階で最も削られやすい費目です。設定が完了すればプロジェクトとしては完了に見えるため、定着の支援は「あとは現場で慣れてもらえばよい」と扱われがちになります。では、なぜこの費目を残す必要があるのでしょうか。それは、Agentforceを導入する目的が、エージェントを動かすことではなく、代理店対応にかかっていた時間を実際に減らすことだからです。使われないまま止まったエージェントからは、費目①と②の支払いだけが続きます。
この産業用部材メーカーでは、対象の営業担当者が28名いました。定着の支援の工数は、対象部門の人数と、業務の変わり方の大きさで決まります。人数が多いほど、公開後の最初の1か月に発生する質問への対応時間を厚めに見ておくとよいでしょう。
費目⑧公開後に改善を続ける運用
最後の8つ目は、公開したあとに改善を続ける運用の工数です。毎月発生する費目であり、費目①②と同じく、稟議では継続的な負担として示す必要があります。
運用で行うのは、答えられなかった質問の確認、参照するデータの更新、そして実行量の推移の確認です。この産業用部材メーカーの場合、新しい品番が追加されるたびに参照するデータを更新しなければ、エージェントの回答は少しずつ現状と合わなくなります。課長代理は、月に一度の確認の時間を営業企画の業務として組み込み、担当者を決めたうえで資料に記載しました。確認する項目は、答えられなかった質問の件数と、参照するデータを更新した件数の2つに絞ってあります。項目を増やすと、確認する作業が続かなくなるためです。
改善の運用を費目として立てておくと、公開後に「誰の仕事なのか」という確認が発生しません。以上が、Agentforceの総コストを構成する8つの費目でした。
Agentforceの隠れコストになる3つの作業
ここまでAgentforceの総コストを8つの費目に分けて整理してきましたが、費目として立てていても見積もりの数字に乗りにくい作業があります。見積書に金額として現れないまま、社内の担当者の時間だけが消えていくため、稟議の後になって「聞いていた話と違う」という状態を生みます。そこでここでは、Agentforceの隠れコストになりやすい3つの作業を確認していきます。
隠れコストになるのは、発生するかどうかが事前に読めず、しかも発生したときに社内の担当者の時間で吸収されてしまう作業です。
作業①参照データの不備を直す手戻り
1つ目は「参照データの不備を直す手戻り」です。棚卸しの段階では整っているように見えたデータが、エージェントに参照させてみて初めて使えないと分かる、という順番で発生します。
この産業用部材メーカーでも、在庫の情報は基幹システムに、納期の目安は生産管理の表計算ファイルにあり、品番の書き方が両者で揃っていませんでした。基幹システムはハイフンを含む正式な品番で、生産管理側は現場で使う省略形で記録していたのです。検証の途中でこの不一致が見つかり、どちらの表記に寄せるかを決める打ち合わせと、過去分の表記を変換する作業が追加で発生しました。
この手戻りが表面化するのは、データを棚卸しする工程ではなく、エージェントに参照させて応答を確かめる費目⑥の工程です。棚卸しの時点では表記の違いが目に入らないため、どちらに揃えるかを決める打ち合わせも、過去分を変換する作業も費目③の見積もりには入っておらず、情報システム部と営業企画の時間で吸収されることになります。
手戻りを完全になくすことはできませんが、発生する場所はある程度決まっています。複数のシステムにまたがるデータを参照させる業務では、この手戻りを見込んだ工数を最初から確保しておきましょう。
作業②検証を繰り返すたびに増える利用量
2つ目に挙げたいのは、公開前の検証で増えていく利用量です。エージェントを設定する操作では実行量は増えませんが、応答を確かめる操作では、公開後と同じように実行量が発生します。
見落としやすいのは、この検証が1回で終わらないことです。応答の内容を直せば、直した箇所を確かめるためにもう一度動かすことになり、参照するデータを差し替えれば、以前に試した質問も含めて動かし直します。この産業用部材メーカーでは、代理店から届いた実際の文面を検証の材料にしたため、質問の種類が想定より多く、確認の回数もそのぶん増えました。この利用量は、公開した後も発生し続けます。新しい質問の型を追加するたびに、以前に確かめた質問も含めて検証をやり直すためです。
検証の実行量は、質問の種類の数と、修正の回数を掛け合わせたおおよその規模で見ておきましょう。公開前の期間に実行量がまったく発生しないという前提で予算を組むと、公開してすぐに見込みとの差が出ることになります。
作業③現場からの問い合わせに答える対応
3つ目は、公開した直後に現場の担当者から届く問い合わせへの対応です。届く内容は使い方や線引きの確認が中心になるため、費目として想定されていないことが多い作業になります。
たとえば、この産業用部材メーカーで公開した直後には「特注品の納期を聞かれたときも、いったんエージェントに投げてよいのか」「代理店の担当者が直接使うのか、営業担当者が代わりに使うのか」という質問が営業企画に集まりました。どちらも設計の段階で決めていた内容ですが、決めたことが全員に届いているとは限りません。営業担当者が28名いれば、同じ質問が別の担当者から何度も届くことになります。この対応は、エージェントを設定した担当者に集中します。設定の内容を知っている人が答えるのが早いため、営業企画の課長代理が本来の業務の合間に答え続ける状態になりやすいのです。
問い合わせが届く時期は、公開後の最初の1か月に偏ります。よく届いた質問を一問一答の形で共有するところまでを費目⑦の作業に含めておけば、営業企画の担当者が個別に答え続ける状態を避けられます。
Agentforceの効果を定義する3つの観点
前章では、見積もりに乗りにくい3つの作業を確認しました。費用の側の欄がここまでで埋まっても、資料の「効果」欄はまだ空白のままです。効果を作業時間の削減だけで測ると資料から半分が消えてしまうことは前述のとおりで、まず効果として何を数えるのかを決める必要があります。そこでここでは、Agentforceの効果を定義する3つの観点を整理します。
効果は、削減できた時間に、失っていた商談の回復と属人化していた判断の再現を加えた3つの観点で定義します。
| 観点 | 何が変わるのか | 数える対象 | 測れなくなる条件 |
|---|---|---|---|
| ①作業時間 | 1件あたりの対応時間 | 件数と1件あたりの時間 | 着手前の時間が未記録 |
| ②商談の回復 | 返答の遅れによる失注 | 遅延した件数と失注件数 | 他の施策と同時に実施 |
| ③判断の再現 | 回答できる担当者の範囲 | 転送件数と再質問の件数 | 対応した担当者が不明 |
観点①削減できる作業の時間
1つ目の観点は「削減できる作業の時間」です。3つのなかで最も説明しやすく、稟議でも中心に置かれますが、削減した時間の行き先まで決めて初めて効果として成立します。
この産業用部材メーカーでは、代理店からの在庫と納期の問い合わせが、営業担当者の1日の始まりを占めていました。課長代理は営業部門長と話し、削減できた時間を新規の代理店への訪問に充てるという方針を先に決めています。行き先を決めたことで、効果の欄には削減した時間と、その時間で増やす訪問の件数という2段の数字を書けるようになりました。
営業側でどの作業が削減の対象になるかは、ほか記事「Agentforce for Salesの活用範囲」で具体的に確認できます。削減した時間の行き先を決めていない資料は、会議で「その時間は何に使うのか」と問われた時点で止まります。
観点②取りこぼしていた商談の回復
2つ目は、返答の遅れによって失っていた商談を取り戻す観点です。作業時間としては現れないため見落とされやすいものの、営業部門長にとっては削減時間より関心の高い数字になります。
この産業用部材メーカーの営業担当者は、外出中に届いた在庫の問い合わせに、事務所へ戻ってから答えていました。急ぎの案件では、返答を待てなかった代理店が他社の製品で見積もりを進めてしまうことが年に何度か起きています。エージェントが標準品の在庫と納期をその場で返せるようになれば、この失注の一部は防げます。
対応の遅れが関わる領域の設計については、ほか記事「Agentforce Service Agentの設計」もあわせて参考にしてください。この観点で数えるのは、返答までにかかった時間と、遅れが理由で失注した件数の2つです。どちらも導入前に記録しておかなければ、後から差を示せなくなります。
観点③属人化していた判断の再現
3つ目の観点は、特定の担当者しか答えられなかった判断を、誰でも同じ内容で答えられるようにする効果です。品質の均一化と呼ばれる領域で、時間の削減とは別の基準で数えます。
この産業用部材メーカーでは、材質の互換性に関する質問に答えられる営業担当者が数名に限られていました。他の担当者に質問が届いた場合は、その数名へ転送され、回答が代理店に届くまでに1日から2日かかっていたのです。過去の回答を参照して一次回答を返せるようになれば、転送する件数が減ります。ここで注意したいのは、判断の再現が進むほど、ベテランの担当者の負担の減り方が見えにくくなることです。転送されていた質問は記録に残りますが、口頭で聞かれていた分の記録はどこにも残っていません。
この観点で数えるのは、担当者間で転送された件数と、代理店から同じ内容を再度聞かれた件数です。数える対象を決めておけば、属人化の解消という言葉を、資料に書ける形の数字に変えられます。
Agentforceの費用対効果を試算する4ステップ
効果を定義する3つの観点と、それぞれで数える対象までは決まりました。次に必要になるのは、自社のデータから実際の数字を作る作業です。他社事例の数字を借りずに済むのは、この工程を通した資料だけになります。そこでここでは、Agentforceの費用対効果を試算する4つのステップを順番に見ていきます。
試算に使う数字は、自社の対象業務の件数と所要時間から作ります。
ステップ①対象業務の発生件数を数える
最初に取りかかるのは、対象にする業務が月に何件発生しているかを数えることです。効果の3つの観点はいずれも件数を前提に置くため、ここが確定しないと後のステップがすべて概算のままになります。
数え方は、記録が残っている経路から順に押さえます。この産業用部材メーカーの場合、代理店からの問い合わせはメール、電話、そして代理店向けのポータルの3経路で届いていました。メールとポータルは履歴から件数を出せましたが、電話は記録がありません。課長代理は、営業担当者3名に2週間だけ受電の件数を数えてもらい、その割合からおおよその全体像を作りました。数える期間は、月ごとの波を含む形にしておきましょう。この産業用部材メーカーでは期末に代理店からの問い合わせが増えるため、1か月分だけを数えると、多い月の数字を1年分に当てはめることになります。
件数を数えるときは、対象の範囲を先に言葉で固定しておきましょう。在庫と納期の問い合わせに絞るのか、価格の照会まで含めるのかで数字は大きく変わり、この範囲の定義は、後のフェーズで同じ測り方を繰り返すときにも必要になります。
ステップ②1件あたりの所要時間を実測する
件数が出たら、次は1件あたりにどれだけの時間がかかっているかを実測します。ここで大事になるのは、担当者の記憶で埋めずに実測する点です。
担当者に聞くと、多くの場合は「5分くらい」と即答が返ってきます。ところが実際に測ると、在庫の画面を開き、納期の表を確認し、代理店ごとの単価の条件を思い出し、メールの文面を整えるという工程が積み重なっており、担当者の答えとは差が出ます。この産業用部材メーカーでは、営業担当者2名に2週間、問い合わせを受けてから返信するまでの時間を記録してもらいました。この記録が、後で導入後の数字と比較する起点になります。記録してもらう項目は、受けた時刻と返した時刻の2つに絞りました。項目を増やすほど記録は続かなくなり、途中で欠けた記録は比較に使えません。
実測は、対象業務の全件で行う必要はありません。数週間の期間を区切り、数名の担当者に絞って記録するだけでも、比較できる形の数字になります。実測のための期間を稟議の計画に含めておくことが、後の比較を成立させる条件です。
ステップ③エージェントに任せる範囲を決める
件数と所要時間がそろったら、そのうちどこまでをエージェントに任せるのかを決めます。全件を任せる前提で試算すると、公開後に必ず見込みを下回ります。
範囲を決める材料は、ステップ①で数えた件数の内訳です。この産業用部材メーカーでは、問い合わせのうち標準品の在庫と納期に関するものと、特注品や数量の交渉が絡むものが混在していました。標準品はエージェントが答え、特注品は営業担当者が引き取るという線引きを置いたため、試算に使う件数は全体の一部になります。効果の見込みは、この任せる範囲の件数に、1件あたりの所要時間を掛けた形で表せます。任せる範囲の割合は、感覚で置かずにステップ①の内訳から出します。標準品と特注品の件数を分けて数えていれば、その内訳の数字をそのまま試算に使えます。
あわせて、実行量の想定もこの段階で出しておきます。実行量は、任せる範囲の件数に、1件あたりの処理の回数を掛けて求めます。稟議に載せる実行量は、この最初の範囲の数字だけにとどめ、対象を広げるときにあらためて作り直します。
ステップ④外部に頼む範囲を見積もる
最後に決めるのが、8つの費目のうちどこを外部に頼むのかという分担です。ここが決まらないと、費目⑤と⑦の欄が工数と外注費のどちらにも置けないまま残ります。
判断の材料になるのは、社内の担当者が使える時間と、初めて取り組む工程がどれかという2点です。この産業用部材メーカーでは、情報システム部が基幹システムの更新と重なっていたため、初回の構築を外部に委託し、公開後の調整を社内で引き取る形にしました。効果の測り方の設計についても、初めて取り組む領域だったため、外部と一緒に組み立てる前提で見積もっています。分担を決めるときは、8つの費目それぞれを「社内」「外部」「両方」の3つに振り分けます。両方に振り分けた費目は、どちらが主担当かまで決めておかなければ、公開の直前に作業が止まります。
外部に頼む相手をどう選ぶかについては、ほか記事「導入支援会社の選び方」をご確認ください。以上が、Agentforceの費用対効果を試算する4つのステップでした。
Agentforceの効果を測れない3つの業務
前章では、自社のデータから試算を作る4つのステップを整理しました。ただし、この手順を当てはめても数字を作れない業務があります。効果が出ていたとしても、それを数字で示せない業務があるという意味です。ここを最初の対象に選ぶと、稟議は承認された後でつまずきます。そこでここでは、Agentforceの効果を測れない3つの業務を整理します。
効果が出るかどうかとは別に、その効果を数字で示せるかどうかで対象業務を先に判定しておきます。
業務①発生件数が月に数件しかない
1つ目は「発生件数が月に数件しかない」業務です。件数が少ないと、導入の前後で差が出ても、それが改善なのか、その月にたまたま簡単な案件が続いただけなのかを説明できません。
この産業用部材メーカーにも、返品と特別対応の例外処理という候補がありました。1件あたりの負担は大きく、担当者からの要望も強かったものの、発生するのは数か月に一度です。3か月の検証期間に数件しか起きなければ、比較できる形の数字は残りません。課長代理は、負担の大きさより件数の多さを優先して最初の対象を選び直し、代理店からの在庫と納期の問い合わせを1本目に据えました。
なお、企業の規模が小さく、どの業務も件数が限られるという場合の考え方は、ほか記事「中小企業でのAgentforce導入」で整理しています。件数が少ない業務は、効果を示す1本目としては後に回す、と考えておきましょう。
業務②着手前の所要時間が記録されていない
2つ目は、その業務にどれだけ時間がかかっていたのかが、着手する前に記録されていない業務です。導入後の数字だけがきれいに残り、比較する相手がない状態になります。
ここで押さえておきたいのが、エージェントの利用状況を集計する仕組みの性質です。この仕組みは、有効化した後に発生したやり取りだけを対象にするため、導入前の状態は自動では残りません。そのため、導入前の数字を人の手で記録する期間を確保しないまま公開すると、後からどれだけ集計しても前後の差は作れないのです。この条件に当てはまる業務への対処は2つあります。公開の時期を遅らせて記録の期間を先に置くか、記録が残っている別の業務を1本目に据えるかです。
この産業用部材メーカーが電話の受電件数を2週間数えたのは、この性質があるためでした。すでに公開してしまった後で効果を聞かれた場合は、比較の代わりに、同じ期間の他の指標を並べて説明することになります。1本目の候補を並べるときは、件数の多さと同じ重さで、着手前の記録が残っているかどうかを見ておきましょう。
業務③成果が他の施策から切り分けられない
3つ目は、成果が出ても、それがAgentforceによるものかを切り分けられない業務です。同じ期間に別の施策が動いている業務では、数字が動いた理由を1つに絞れません。
たとえば、この産業用部材メーカーでは、代理店向けのポータルの改修が同じ期に予定されていました。ポータルの改修でも問い合わせの件数は減るため、両方を同時に進めると、減った件数がどちらの成果なのかを説明できなくなります。営業の成約率のように、価格の改定や競合の動きに左右される指標も同じです。この産業用部材メーカーでは、ポータルの改修の予定を先に確認し、実証の期間と重ならないように開始の時期を1か月ずらしました。
切り分けられるかどうかは、対象業務を選ぶ段階で確認できます。同じ期間に動いている施策を並べ、対象の指標に影響するものがあれば、開始の時期をずらすか、影響を受けにくい指標に変えるかを先に決めておきましょう。この判断を後回しにすると、実証の期間が終わってから報告の書き方に困ることになります。
Agentforceの稟議で示す4つの論点
効果を測れない業務の条件までを整理したことで、費用の欄と効果の欄に入る材料はそろいました。ただし、材料をそのまま並べても稟議は通りません。1枚の資料で全員を納得させようとすると、それぞれの判断者にとって必要な数字が薄まってしまうためです。そこでここでは、Agentforceの稟議で示す4つの論点を整理します。
稟議を通すには、費用と効果の数字に加えて、どこまでを承認し、どうなったら止めるのかまでを同じ資料に書いておく必要があります。
論点①投資をフェーズで区切る計画
1つ目の論点は「投資をフェーズで区切る計画」です。全社に広げた状態の総額を一度に承認してもらう形にすると、金額の大きさに対して効果の確からしさが追いつかず、判断が保留されます。
この産業用部材メーカーの最初の資料は、営業部門の28名全員が使う前提で総額を出していました。会議では「その金額に見合う効果が本当に出るのか」という質問が繰り返され、答えられないまま次回に持ち越されています。課長代理は資料を作り直し、対象を代理店からの在庫と納期の問い合わせ1つに絞り、そこで承認をもらう金額と、広げるときに追加で必要になる金額を分けて記載しました。区切る単位は、期間よりも対象の業務の数で置きます。期間だけで区切ると、対象が広いまま時間が過ぎ、最初の期間が終わっても比較できる記録がそろいません。
区切って示すと、判断者が一度に負う責任の範囲が小さくなります。承認する側にとっても、次の判断の材料が明示されているほうが決裁を進めやすいと考えます。
論点②最初のフェーズで実証する効果
2つ目に示すのは、最初のフェーズで何を実証するのかという中身です。ここで置く目的は、大きな効果を出すことではありません。効果を測れる形が成立するかどうかを確かめることです。
この置き方に違和感を持たれることもありますが、理由があります。最初の期間で効果の大きさを約束すると、その数字に届かなかった時点で、測り方が正しかったかどうかにかかわらず失敗と判定されてしまうからです。この産業用部材メーカーの資料では、最初のフェーズの目的を「代理店からの問い合わせの件数と所要時間を、導入の前後で同じ方法で比較できる状態にする」と書き、達成の判定を比較の成立で置きました。実証の対象を1つに絞ると最初に承認をもらう規模も小さくなり、決裁の階層が下がって、会議に上げるまでの期間が短くなる場合もあります。
実証の対象を明示すると、報告の内容も先に決まります。何を実証するのかが書かれていない計画は、期間が終わったときに「悪くはないが、続ける根拠にはならない」という結論になりやすいのです。
論点③判断者ごとに変える説明の材料
3つ目は、判断に関わる人ごとに示す材料を変える論点です。稟議に関わる複数の関係者はDMU(意思決定グループ)と呼ばれ、それぞれ見たい数字が違います。
この産業用部材メーカーの場合、関わっていたのは次の4者でした。
・営業部門長・・・削減できる時間が、商談の件数と提案の品質のどちらに回るのか ・経理と管理部門・・・支払いが発生する時期と、月単位での金額の動き ・情報システム部・・・自部門に発生する工数と、参照データの整備の範囲 ・経営層・・・続ける条件と、続けないと判断する条件
課長代理は、共通の資料に4者分の答えをすべて書き込むのをやめ、1枚の資料に総額と効果の要点を置いたうえで、4者それぞれの質問に対する回答を別紙として用意しました。別紙を用意するといっても、資料を4種類も作り込む必要はありません。同じ記録から、それぞれが見たい数字を抜き出して並べ替えるだけです。別紙に分けるかどうかは、同じ1枚の資料に対して4者から別々の質問が届いているかどうかで判断できます。
論点④続けないと判断する撤退の条件
最後に示すのが、どうなったら続けないのかという条件です。稟議の資料に撤退の条件を書くのは不利に見えますが、実際には承認を得やすくします。
なぜ承認を得やすくなるかというと、判断する側にとって最も避けたいのが、成果が出ないまま費用だけが続く状態だからです。撤退の条件が先に書かれていれば、その状態にはならないと確認できます。この産業用部材メーカーでは、「実証の期間が終わった時点で、導入の前後を同じ方法で比較した記録がそろっていない場合は、対象を広げずにいったん止める」という条件を明記しました。この条件なら、止める判断の理由が担当者の努力の不足に向かわず、記録がそろったかどうかという事実で説明できます。効果の数値目標より先に、比較が成立したかどうかを条件に置いている点がこの書き方の要点です。
撤退の条件は、実証の期間が始まる前に決めておく必要があります。以上が、Agentforceの稟議で示す4つの論点でした。
Agentforceの投資を区切る3つのフェーズ
前章では、稟議で示す4つの論点を整理しました。このうち投資をフェーズで区切る計画については、実際に何をいくつの期間に分けるのかまで決めておかなければ資料に落とせず、その区切り方の基準になるのは、作業の進み具合ではありません。何を記録できる状態になっているかで区切ります。そこでここでは、Agentforceの投資を区切る3つのフェーズを確認します。
最初のフェーズで承認をもらうのは、エージェントの構築費用より前に、効果を測れる状態を作るための時間です。
| フェーズ | 期間の目安 | 記録するもの | 次に進む判断材料 |
|---|---|---|---|
| ①測れる状態を作る | 契約の前から着手 | 月間発生件数/1件あたりの所要時間/参照データの入力率 | 件数と時間が記録として残っているか |
| ②1つの業務で実証する | 1ユースケースで3ヶ月 | 処理した件数と人が引き取った件数/所要時間の再測定/エスカレーション率と放棄率 | 同じ測り方で前後を比較できているか |
| ③対象を広げる | 実証の完了後 | 横展開先の月間発生件数と1件あたりの所要時間/利用量の実績 | 同じ指標を同じ定義で取れるか |
フェーズ①効果を測れる状態を作る期間
最初の期間に行うのは、エージェントの構築より前に済ませる測定の準備です。対象業務の月間の発生件数、1件あたりの所要時間、そして参照データの入力率という3つを記録に残すところまでを、この期間の作業にします。
この期間は契約の前から着手できます。件数と時間の記録は業務側の作業であり、Agentforceの契約を待つ必要がないためです。この産業用部材メーカーでは、営業担当者3名に受電の件数を、2名に返信までの所要時間を記録してもらい、並行して活動履歴の入力率の偏りを確認しました。参照データの入力率をここで見ておくと、費目③の工数の見積もりも同時に精度が上がります。
この期間に先へ置いておきたいのは、記録の項目そのものよりも数え方の定義です。何をもって1件と数えるのか、どの時点を対応の開始とし、どの時点を終了とするのかが決まっていなければ、記録してもらった数字の意味が担当者ごとに変わってしまいます。課長代理は、代理店からの連絡を受けた時点を開始、回答を返した時点を終了と決め、その定義を記録用の表の先頭に書いたうえで営業担当者へ渡しました。定義を先に書き残しておけば、フェーズ②で同じ測り方をそのまま再現できます。
この期間から次へ進んでよいかは、件数と所要時間が、担当者の記憶に頼らず記録として残っているかどうかで判断します。記録がそろっていれば、構築の日程が後ろにずれても、比較の起点は動きません。
フェーズ②1つの業務で効果を実証する期間
記録が残ったら、次は1つの業務に絞って実際に動かす期間に入ります。当社が支援に入る場合も、1ユースケースを3ヶ月という単位で区切っています。
この期間に記録するのは3種類です。エージェントが処理した件数と人が引き取った件数、フェーズ①と同じ測り方で取り直した1件あたりの所要時間、そしてエスカレーション率と放棄率になります。この産業用部材メーカーでは、標準品の在庫と納期の問い合わせだけを対象にし、特注品が来た場合は営業担当者へ引き渡す設定で運用しました。所要時間の再測定は、フェーズ①で記録してもらった営業担当者2名に、同じ方法でもう一度お願いしています。この期間に対象を増やしたくなる場面は必ず来ますが、増やすのは次の期間まで待ちます。途中で対象が変わると、フェーズ①で記録した数字と比べる相手がずれてしまいます。
次のフェーズへ進む判断は、効果の大きさよりも、前後の比較が成立しているかどうかで行います。到達すべき数値をこの時点で置かないのは、測り方が確立していない段階の目標値には根拠がないからです。
フェーズ③対象を広げて投資を回収する期間
最後の期間で行うのは、実証した業務で確かめた測り方を、別の業務へ当てはめていく作業です。ここで初めて、投資を回収する規模の話になります。
広げる先を選ぶ基準は、効果が大きそうかどうかではありません。フェーズ①で使ったのと同じ指標を、同じ定義で取れるかどうかです。この産業用部材メーカーの候補でいえば、代理店からの技術的な質問への一次回答は件数も記録もそろうため広げやすく、特注品の価格交渉は所要時間の定義が案件ごとに変わるため後回しになります。この期間では、横展開先の月間発生件数と1件あたりの所要時間に加えて、実行量が想定と比べてどう動いたかも記録します。広げる順番は、記録の取りやすさで並べます。同じ指標を同じ定義で取れる業務から順に進めれば、報告の様式も実証のときのまま使えます。
対象を広げるほど、費目②の実行量と費目⑧の運用の工数は増えていきます。指標の定義が変わる業務を先に広げてしまうと、報告のたびに前提の説明からやり直すことになります。
Agentforceの効果測定を支える3つの機能
ここまで、効果として何を数え、どの期間に何を記録するのかを整理してきました。ここからは、その記録を実際にどこから取り出すのかという話になります。稟議に出す数字の出どころが機能の名前まで確定していれば、会議で「その数字はどうやって集めるのか」と聞かれても答えられます。そこでここでは、Agentforceの効果測定を支える3つの機能を、2026年8月時点の情報で整理します。
稟議で示す効果の数字は、会話の集計、処理の経路の記録、自社基準での採点という3つの機能から取り出します。
各機能がAgentforce全体のなかでどこに位置するのかは、ほか記事「機能ごとの役割」で確認できます。
機能①会話の成果を集計するAgent Analytics
1つ目は「会話の成果を集計するAgent Analytics」です。エージェントと利用者のやり取りを集計し、成果に関する指標をまとめて確認できる機能で、稟議に出す効果の数字の多くはここから取り出します。
2026年8月時点で集計できる主な指標は、次のとおりです。
・デフレクション率・・・人に引き継がず、エージェント側で完結した割合です ・エスカレーション率・・・人へ引き継いだ割合です ・放棄率・・・利用者が途中で離脱した割合です ・エンゲージメント率・・・やり取りが継続した割合です ・成功率・・・意図した結果に至った割合です ・タスク解決率・・・依頼された用件を解決できた割合です
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この産業用部材メーカーの実証では、このうちエスカレーション率と放棄率の2つを報告の対象に選びました。前者は特注品の問い合わせがどれだけ営業担当者へ渡ったかを表し、後者は代理店の担当者が回答を待たずに離脱した割合を表すためです。指標をすべて並べるより、実証の目的に対応する2つに絞ったほうが、報告を受ける側も判断しやすくなります。なお、従来のAgent Analyticsは2026年5月31日で提供が終了し、新しいデータモデルへ移行する計画が公式に案内されています。社内の資料では、移行後の画面と指標の名称に合わせて記載しておきましょう。
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機能②処理の経路を記録するSession Tracing
2つ目は、エージェントが1つの依頼をどのような経路で処理したのかを記録するSession Tracingです。集計された指標が動いた理由をたどるための機能であり、報告の場で「なぜこの数字になったのか」を説明するときに使います。
ここで稟議の設計に直結する仕様が1つあります。分析と洞察は、この記録の基盤を設定した後に発生した新しい会話についてだけ表示されると公式のヘルプに明記されており、設定より前のやり取りは対象になりません。フェーズ①で導入前の件数と所要時間を人の手で記録しておく必要があるのは、この仕様があるためです。
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この産業用部材メーカーでは、実証を始める前にこの基盤の設定を済ませ、最初の会話から記録が残る状態にしてから公開しました。設定を後回しにすると、公開直後の数週間が集計の対象から抜け落ちることになります。
機能③自社の基準で採点するCustom Scorers
3つ目は、自社で定めた基準に沿って会話を採点するCustom Scorersです。2026年8月時点ではベータでの提供とされており、利用できる条件は提供段階とあわせて公式ドキュメントで確認しておく必要があります。
標準の指標だけでは表せない基準を持ち込めるのが、この機能の役割です。この産業用部材メーカーの場合、在庫と納期の回答について「代理店へそのまま転送できる文面になっているか」という基準を社内で持っていました。標準の成功率では、意図した結果に至ったかどうかまでしか分かりません。自社の基準を採点の形にできれば、報告の内容を業務の言葉へ近づけられます。採点の基準を作るときは、業務部門の担当者に文面を確認してもらう工程を入れておきましょう。基準を情報システム部だけで決めると、標準の指標と変わらない内容になりがちです。
ベータの機能は提供の条件が変わる可能性があるため、稟議の資料では「あれば使う」という位置づけにとどめておくのが安全です。指標をどう設計し、どの画面でどう読むかという踏み込んだ運用は、実証の期間に入ってから詰めていけば間に合います。
Agentforceの利用料が読みにくい3つの理由
前章では、効果の数字を取り出す3つの機能を整理しました。効果の側の出どころが決まっても、費用の側にはまだ読みにくさが残ります。費目②の実行量に応じた費用は、契約前に金額を確定できない唯一の費目であり、稟議でも質問が集中する箇所です。そこでここでは、Agentforceの利用料が読みにくくなる3つの理由を、2026年8月時点の情報で整理します。
実行量に応じた費用が読みにくいのは、依頼の数と処理の数が一致せず、公開前の検証でも消費が発生し、環境によって消費の乗数が変わるからです。
| 場面 | 消費の発生 | 備考 |
|---|---|---|
| 構築や設定の操作 | 発生しない | 保存や公開の操作は対象外 |
| プレビュー実行 | 発生する | 公開後と同じ扱いになる |
| テスト実行 | 発生する | 実行の回数に比例する |
| テストケースの生成と評価 | 発生する | 生成と評価の双方で発生 |
| 検索インデックスの作成 | 発生する | データ処理の側で消費 |
理由①1つの依頼が複数の処理に分かれるから
まず押さえておきたいのが、利用者からの1つの依頼が、必ずしも1つの処理として数えられるわけではないことです。依頼の内容によって、エージェントが実行する処理の数は変わります。
代理店から「この品番の在庫と、最短の納期を教えてほしい」と聞かれた場合、在庫の照会と納期の算定という2つの処理に分かれます。品番が複数まとめて届けば、その数だけ処理が増えます。費目②で触れた課長代理の見込みが実態より小さくなったのも、この処理の回数を数えていなかったためでした。
Flex Creditsの単価や購入の単位は、ほか記事「Flex Creditsの単価と購入単位」で確認できます。逆に、確認する項目が1つしかない定型の依頼であれば、件数がそのまま実行量の見込みになります。
理由②構築中の検証でも消費が発生するから
次に読みにくさを生むのが、公開する前の段階でも消費が発生する点です。エージェントを設定する操作では消費されないため、公開までは費用がかからないと考えてしまいがちです。
実際に消費が発生するのは、応答を確かめる操作です。Agent Builderでのプレビュー実行、プロンプトビルダーでのプレビュー、テストセンターやテストスイートでの実行、テストケースの生成と評価がこれにあたります。さらに、プレビュー時のデータ検索や検索インデックスを作成する際のデータ処理では、Data Services Creditsの側が消費されます。この内訳は、ほか記事「構築作業やテスト実行でFlex Creditsが消費される場面」で整理しています。
検証の回数は、質問の種類が多いほど増えます。検証の期間に消費するFlex CreditsとData Services Creditsは、公開前であっても稟議の実行量の欄に含めておく必要があります。
理由③環境ごとに消費の乗数が違うから
3つ目の理由は、同じ処理を実行しても、どの環境でどの構成を使うかによって消費の乗数が変わることです。2026年8月時点では、標準アクションとカスタムアクションの乗数は、本番環境が20に対してSandbox環境は16になっています。
構成による差はさらに大きく、Salesforceが管理するLLMを使う構成では乗数が4または16となり、独自のLLMを使う構成では2まで下がります。この4と16は2つの値であり、その間の値を取るものではありません。あわせて、消費はトークン数に基づいて計算され、入力したテキストと生成された応答の双方が対象になります。乗数を抑える設計の考え方については、ほか記事「Flex Credits消費を抑える設計の考え方」をご参照ください。
乗数は改定される可能性があるため、稟議の資料には確認した時点を書き添えておきましょう。検証をSandbox環境で行うかどうかの判断が、そのまま実行量の見込みに効いてきます。
Agentforceの投資対効果を損なう3つの要因
実行量に応じた費用が読みにくくなる構造は前章で整理しましたが、この読みにくさを放置したまま進めると、投資が途中で止まることがあります。Gartnerは2025年6月に、エージェント型AIプロジェクトの40%超が2027年末までに中止されるとの予測を示しており、その理由として費用の増大、業務上の価値の不明確さ、リスク管理の不足の3点を挙げています。これはエージェント型AIプロジェクト全般に関する予測であり、特定の製品を対象にした数字でも、実績として観測された割合でもありません。そこでここでは、Agentforceの投資対効果を損なう3つの要因を、自社で起きる形に置き換えて確認します。
※参考記事はこちら
投資が途中で止まる要因は、費用の膨張、価値を示せないこと、リスク管理の遅れの3つに整理でき、いずれも稟議の設計で先に手を打てます。
要因①費用が想定を超えて膨らむこと
1つ目の要因は、費用が当初の想定を超えて増えていくことです。Agentforceの場合、この膨張が現れるのは主に費目②の実行量と、費目⑥の検証の回数の2箇所になります。
実行量が膨らむのは、1件の依頼が複数の処理に分かれることを見込んでいなかった場合と、対象を広げる速度が想定より速かった場合です。検証の回数が膨らむのは、期待する応答の条件を決めないまま検証を始め、直しては試すという往復が続いた場合になります。この産業用部材メーカーでは、検証に入る前に、確認する質問の種類を一覧にして数を固定しました。回数の上限を先に置いておけば、往復が続いたときに設計へ戻る判断ができます。あわせて、実行量の見込みには、どこまで超えたら対象の範囲を戻すのかという条件も添えておきましょう。条件を先に決めておけば、担当者の判断で範囲を調整できます。
費用の膨張は、消費量の上限を監視する設定を使って早い段階で気づけます。実行量の実績を毎月の報告に含めておけば、見込みとの差が開く前に対象の範囲を調整できるでしょう。
要因②業務上の価値を示せないこと
2つ目は、エージェントが動いているにもかかわらず、それが業務にとってどう価値があるのかを示せない状態です。技術的には成功しているのに、投資としては続ける根拠がないと判断されてしまいます。
この状態に陥るのは、効果を測れない業務を最初の対象に選んだ場合と、効果の定義を作業時間の削減だけに置いた場合です。前者は前述の3つの条件で事前に判定できます。後者は、失っていた商談の回復と、属人化していた判断の再現という2つの観点を効果の定義に加えることで避けられます。この産業用部材メーカーが報告の対象にエスカレーション率と放棄率を選んだのは、この2つが業務の言葉に翻訳しやすい指標だったからです。また、価値を示せない状態は、報告を受ける相手が変わったときにも起こり、実証の期間中に担当の役員が交代すると、当初どの効果を実証すると決めたのかが引き継がれないまま、別の指標を求められることがあります。
価値を示せるかどうかは、公開した後の工夫ではほとんど変わりません。公開してから指標を選び直すと、導入の前後を比較すること自体が成立しなくなります。
要因③リスクの管理が追いつかないこと
3つ目の要因は、利用の広がりに対してリスクの管理が追いつかないことです。稟議の段階では見えにくい要因ですが、対象を広げる局面で表面化します。
具体的には、参照するデータへのアクセス権の設計、エージェントが答えてよい範囲の線引き、そして誤った回答が代理店に届いた場合の対応の手順が該当します。この産業用部材メーカーでは、標準品の在庫と納期だけを対象にした実証の段階では問題が起きませんでした。ところが横展開の候補に代理店向けの技術的な質問が挙がった時点で、回答の内容が仕様の保証と受け取られる可能性が指摘され、公開範囲の再検討が必要になったのです。この再検討は、実証の段階で想定できていれば、横展開を判断する前に済ませられます。対象の候補を挙げた時点で、回答が社外への約束として扱われる領域かどうかを確認しておきましょう。
リスクの管理は、対象を広げるたびに見直す項目として、費目⑧の運用に組み込んでおきましょう。フェーズ③の判断材料に「同じ指標を同じ定義で取れるか」を置いているのは、測り方だけでなく、管理の条件も同じ形で確認するためです。
Agentforceの稟議を外部と進める3つの場面
前章では、投資が途中で止まる3つの要因を確認しました。ここまでの内容は、時間さえかければ社内だけでも組み立てられます。ただし、初めて取り組む工程が重なる期間は、社内の担当者が本来の業務と並行して抱えるには負担が大きくなります。そこでここでは、Agentforceの稟議を外部と一緒に進める3つの場面を整理します。
外部の力を借りる価値が最も大きいのは、構築の工程よりも、効果の測り方を決める工程です。
場面①効果の測り方を設計するとき
1つ目は、効果として何を数え、どの記録から取り出すのかを決める場面です。営業企画の担当者が1人で決めようとすると、営業部門にも経理にも説明が通る形にたどり着くまでに時間がかかります。
この場面で持ち込まれるのは、たいてい書きかけの資料です。この産業用部材メーカーの課長代理も、費用の欄が半分だけ埋まり、効果の欄が空白のままの1枚を持って相談に来る形になりました。その場で確認するのは、対象業務の件数がどの経路から取り出せるか、所要時間を誰に何週間記録してもらうか、そして実証の期間に何をもって成立と判定するかの3点です。当社では1ユースケースを3ヶ月という単位で支援に入るため、この設計はその最初の期間の作業として組み込みます。
効果の測り方の設計をどう進めるかについては、Agentforce導入定着支援のページもあわせてご覧ください。測り方が決まっていない状態で構築へ進むと、公開した後で測り直すことになります。
場面②見積もりの前提を確認するとき
2つ目は、自分たちで作った見積もりの前提が妥当かどうかを、社外の目で確かめる場面です。金額の多寡を相談するというより、8つの費目のうち抜けている費目がないかを確認する作業になります。
確認されやすいのは、工数として発生する6つの費目です。この産業用部材メーカーの資料でも、費目⑤の構築を外部に委託する前提にしたことで、仕様の確認や参照データの提供に社内の時間が使われる分が抜けていました。情報システム部が「うちの工数はどこに乗るのか」と質問していたのは、まさにこの部分です。委託する範囲を決めたときに社内へ残る作業を書き出すと、この抜けは埋まります。
見積もりの前提だけを確かめたい段階であれば、BtoBマーケティング無料相談から始めることもできます。前提の確認は、会議に資料を出す前に済ませておくほうが手戻りが少なくて済みます。
場面③実証の結果を報告にまとめるとき
3つ目は、実証の期間が終わり、その結果を次の判断につながる報告にまとめる場面です。記録は取れているのに、それを4者それぞれの関心に合わせて並べ直す作業で手が止まることがあります。
この産業用部材メーカーの実証では、処理した件数、人が引き取った件数、所要時間の再測定、エスカレーション率と放棄率という記録が残りました。ここから、営業部門長へは削減できた時間とその使い道を、経理へは実行量の実績と見込みとの差を、情報システム部へは発生した工数の内訳を、経営層へは対象を広げるかどうかの判断材料を取り出していきます。同じ記録から4種類の報告を作るという作業は、記録を取る作業とは別の手間がかかります。報告の様式は、稟議に出した資料の欄をそのまま使うのが早い方法です。総額の欄と効果の欄に実績の数字を並べて入れれば、承認したときの前提から何が変わったのかが1枚で分かります。
報告の形を先に決めておけば、実証の期間中に記録の取り方も揃えられます。報告の形を実証が終わってから決めると、記録の粒度が足りず、取り直しが必要になります。
【一問一答】Agentforceの費用対効果でよくある質問
ここまで、Agentforceの総コストの数え方から、効果の定義、フェーズの区切り方、そして外部と進める場面までを整理してきました。最後に、稟議の準備を進める過程でよく受ける質問に短く答えます。そこでここでは、Agentforceの費用対効果に関する6つの疑問を確認します。
Agentforceの費用対効果に関する疑問の多くは、金額の水準よりも、測り方と説明の順序に関するものです。
質問①Agentforceの投資対効果はどの期間で判断すべきか
1つの業務で実証する期間と、対象を広げる期間を分けて判断します。最初の期間で見るのは、導入の前後を同じ方法で比較できているかどうかです。回収の見込みを判断するのは、比較が成立してからになります。
質問②Agentforceの総コストにはライセンス以外に何が含まれるか
参照データの整備、業務の設計、構築、公開前の検証、定着の支援、公開後の改善という6つの作業が含まれます。これらは工数として発生するため、見積書の金額には現れません。ライセンスの側の内訳は、ライセンス費用の内訳で確認できます。
質問③Agentforceの稟議に他社の導入事例をそのまま使えるか
そのままの数字は使えません。業種も企業規模も業務の流れも異なるため、会議で「その会社と自社は何が同じなのか」と問われた時点で説明が続かなくなります。事例は測り方の参考として読み、数字は自社の件数と所要時間から作りましょう。
質問④Agentforceの効果測定は導入前と導入後のどちらで設計するか
導入前に設計します。エージェントの利用状況を集計する仕組みが、有効化した後に発生したやり取りだけを対象にするからです。導入前の件数と所要時間は、人の手で記録しておく必要があります。この記録の期間を、稟議の計画に含めておきましょう。
質問⑤Agentforceの隠れコストを事前に洗い出す方法はあるか
8つの費目のうち工数として発生する6つを工程の順に並べ、それぞれ「誰の時間が何時間使われるか」を書き出す方法が確実です。特に、複数のシステムにまたがる参照データの整備と、公開前の検証の回数の2箇所は見込みが小さくなりやすいため、担当部門と一緒に確かめておきましょう。
質問⑥Agentforceの費用対効果を測る指標は誰が決めるべきか
対象業務を持つ部門と、稟議を出す担当者が一緒に決めます。情報システム部だけで決めると業務の言葉から離れ、業務部門だけで決めると記録から取り出せない指標になりがちです。決めた指標は、実証の前に記録できるかどうかを必ず確認しておきましょう。
Agentforceの稟議は総コストと測定設計をそろえて通す
Agentforceの稟議は、金額を調べきることでは通りません。総コストを費目に分解し、効果として何を数えるのかを決め、その2つをフェーズで区切って示したときに通ります。本記事では、資料の欄が埋まらない状況から、費目の分解、隠れコストの見分け方、効果の定義、自社の数字の作り方、測れない業務の判定、稟議の論点、フェーズの設計、測定を支える機能、そして外部と進める場面までを一続きの流れとして整理してきました。
冒頭で挙げた産業用部材メーカーの課長代理は、2週間空白のままだった資料を作り直し、次の状態にたどり着いています。
①「総額」欄・・・8つの費目と、それぞれの発生する時期で埋まりました ②「効果」欄・・・何を数えるかという対象と、その記録の方法で埋まりました ③別紙・・・営業部門長、経理、情報システム部、経営層の4者に、別々の答えを用意できました ④計画・・・最初のフェーズで何を実証するかと、続けないと判断する条件を先に書けました
効果の測り方から一緒に組み立てたい場合は、Agentforce導入定着支援もご利用いただけます。本記事で整理した8つの費目と3つの観点を、ぜひ自社の資料に当てはめてみてください。少しでもお役に立てれば幸いです。

