書いた商談メモを、あとから開いたことはありますか。商談メモの設計とは、書き方の様式を整えることではありません。その記録を誰がどの場面で読むかを先に決め、そこから残す項目を絞る業務の設計です。 Agentforceは機能の追加が続いている製品のため、本記事の記述は2026年9月時点で確認できる範囲に限っています。
そこで本記事では、商談メモが使われない状態から、テンプレートで解けない理由、読む3つの場面、残す4つの項目までを解説します。
当社はSalesforce公式コンサルティングパートナーとして、 ソリューション営業に特化したAgentforce導入・定着支援を 行っています。
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この記事を書いた人
合同会社クロスコムの代表|専門商社にて7年間のBtoB営業を経て、マーケティング業界に参入。現在はSalesforce公式コンサルティングパートナーとして、ソリューション営業の業務プロセスに特化したAgentforce導入・定着支援と、Agentic CRM設計支援を提供している。
商談メモが書かれても使われない3つの状態
工業用ゴム部品のメーカーでは、従業員154名のうち営業が12名、営業企画1名という体制で事業を続けてきました。この企業は説明のための架空の設定であり、実在の企業ではありません。商談メモは月に310件書かれていますが、書いた本人以外が開いたのは月24件だけです。記録する項目は12あり、1件の記入に9分かかっています。営業からは「書いても誰も読まない」という声が出ていました。そこでここでは、この会社を例に、商談メモが使われない3つの状態を整理します。
使われない原因は書き方の粗さによるものにはなりません。使われないのは書き方の問題ではありません。読む場面が決まっていない状態です。
状態①書いた本人しか開かない
1つ目は「書いた本人しか開かない」状態です。記録は残っているのに、他の人が読む機会がありません。
開かれないのは、読む必要が生まれる場面が定まっていないためです。上長が全件を見るわけではありませんし、他の営業が他人の案件を読む理由もありません。書き手は「いつか誰かが読む」と思って書きますが、その「いつか」が来る条件が決まっていない状態です。
この工業用ゴム部品のメーカーでは、月310件のうち、本人以外が開いたのは24件でした。営業企画の担当が3か月分の閲覧の記録を数えたもので、割合にすると8%です。9割以上は、書いた本人しか見ていませんでした。
最初に確かめるのは、閲覧の記録が取得できる仕組みかどうかです。取得できない場合は、上長と他部署の担当に「先月このメモを開いたか」を尋ねる方法でも水準は把握できます。
状態②必要な情報がどこにあるか分からない
2つ目に挙げるのは、必要な情報がどこにあるか分からない状態です。読もうとしても、目当ての内容にたどり着けません。
たどり着けないのは、項目が多く、書かれる場所が一定しないためです。12ある項目のどこに「相手が決められない理由」が書かれているかは書き手によって変わるため、読む側は全文を読むことになり、本人に聞いたほうが早いという判断になります。記録を探せる形にする考え方はナレッジ設計の記事でも扱っています。
先ほどの会社では、営業に「他人のメモを読まない理由」を尋ねたところ、12名中8名が「どこに何が書いてあるか分からないから」と答えました。
聞き取りでは、書式への不満と中身の位置への不満を分けて記録します。前者だけが挙がるなら様式の調整で足りますが、後者が半数を超えるようなら、項目の並びから見直す番になります。
状態③埋めることが目的になっている
3つ目は「埋めることが目的になっている」状態です。項目を埋めた時点で、記録の仕事が終わります。
目的がずれるのは、評価されるのが記入率だからです。上長が入力率を見ていれば、営業は空欄をなくすことに意識を向けます。この状態では、記入の時間だけが積み上がり、読める記録は増えません。
この会社では、1件の記入に平均9分かかっていました。営業12名で月310件を書くと、合計は月46時間ほどになります。営業企画の担当は、この時間の大半が読まれない記録に使われていると見ていました。
評価の対象を入力率から動かさない限り、この時間は減りません。記入率の代わりに、記入へ使った時間の合計と読まれた件数を並べ、毎月の会議で確認する形へ切り替えます。
商談メモをテンプレートで解けない3つの理由
ここまでの3つの状態は、いずれも「書き方を整えよう」という結論につながります。実際、多くの解説がテンプレートや5W1Hを解として示しています。この工業用ゴム部品のメーカーでも、最初に出た案は「記入例つきの手引きを作り直す」というものでした。ところが様式を整えても、読まれる件数は変わりません。そこでここでは、商談メモをテンプレートで解けない3つの理由を整理します。
解けないのは様式の完成度によるものにはなりません。テンプレートでは解けません。書き手の側の道具だからです。
| 比較の観点 | テンプレートで決める場合 | 読む場面から決める場合 |
|---|---|---|
| 決める順番 | 書く項目を先に決める | 読む場面を先に決める |
| 項目の数 | 網羅するほど増える | 場面に要るものだけに絞れる |
| 記入の負担 | 項目に比例して重くなる | 項目を絞ったぶん軽くなる |
| 評価する対象 | 埋まっているか | 読まれたか |
| AIへの渡し方 | 全項目を埋めさせる | 絞った項目の下書きを作らせる |
理由①書き手の側の道具だから
1つ目は「書き手の側の道具だから」です。テンプレートは、書くときに迷わないための枠です。
読まれる側の問題を解けないのは、読み手が何を必要とするかを含んでいないためです。5W1Hで整った記録は、書き手にとっては書きやすくなります。ところが読む側が知りたいのは「なぜこの案件は決まらないのか」であって、いつ誰がどこでという事実の並びではありません。
この工業用ゴム部品のメーカーでも、2年前に商談メモの様式を作り直していました。項目を8から12へ増やし、記入の手引きも配っています。それでも本人以外の閲覧は増えませんでした。
判定は、様式を変えた前後で閲覧の件数を比べれば足ります。件数が横ばいなら原因は書式の外にあり、次に確かめるのは記入にかかる時間と当日に書かれた割合の2つです。
理由②項目が増えるほど記入が重くなるから
2つ目に挙げるのは、項目が増えるほど記入が重くなるからです。網羅しようとすると、書く時間が伸びます。
重くなると困るのは、記入が後回しになるためです。商談の直後は記憶が鮮明ですが、9分かかる作業を毎回その場で終える営業は多くありません。翌日や週末にまとめて書けば、内容は薄くなります。項目を増やすほど、記録の質は下がっていきます。
先ほどの会社では、商談の当日に記入されていたのは全体の4割でした。残りは翌日以降にまとめて書かれています。営業企画の担当は、記入の重さがこの遅れを生んでいると判断しました。
商談の当日に記入された割合を測りましょう。5割を下回るようなら、記入が重すぎる合図です。項目を増やす前に、1件の記入にかけてよい時間の上限を決めておきます。
理由③読む人が何を要るかを含んでいないから
3つ目は「読む人が何を要るかを含んでいないから」です。誰がどの場面で読むかを、様式は決めません。
決められないのは、読む場面が業務の側にあるためです。次の訪問の前に経緯を確かめる人と、担当を引き継ぐ人では必要な情報が違うため、この違いを様式に織り込むには、まず場面を洗い出す作業が要ります。場面を決めずに項目を並べれば、どの場面にも中途半端な記録ができあがります。
この会社では、営業企画の担当が読む場面を洗い出しました。出てきたのは3つで、それぞれに必要な項目は4つ以内に収まっています。12項目のうち8つは、どの場面でも使われていませんでした。
読む場面を先に洗い出しましょう。場面が決まると項目は減り、外す項目の説明も、どの場面でも使われていないという事実だけで足ります。
商談メモを読む3つの場面
前章の3つの理由は、いずれも「読む場面が決まっていない」という一点に行き着きます。決めるときの材料は、社内にすでにあります。実際に他人のメモを開いた記録を1か月分たどれば、開かれた状況はいくつかの型に分かれ、この工業用ゴム部品のメーカーでは3つに収まりました。営業12名への聞き取りでも、これ以外の読み方は出ていません。そこでここでは、商談メモを読む3つの場面を整理します。
場面の数は業務の複雑さでは決まりません。読む場面は3つです。次の訪問の前、引き継ぎ、似た案件を探すときです。
場面①次の訪問の前に経緯を確かめるとき
1つ目は「次の訪問の前に経緯を確かめるとき」です。前回までに何が決まり、何が保留かを確認します。
この場面が最も多いのは、商談が複数回にわたるためです。検討に数か月かかる商材では、前回から3週間空くこともあります。訪問の直前に必要なのは、前回の結論と、相手が引っかかっている点です。全文を読み返す時間はありません。
この工業用ゴム部品のメーカーでは、他人のメモを開いた24件のうち、11件がこの場面でした。営業企画の担当が閲覧の記録と商談の予定を突き合わせたもので、訪問の前日から当日に集中しています。
いつ開かれたかを商談の予定と突き合わせ、前日から当日に集中していれば、この場面が中心だと判定できます。開かれた時刻が予定と関係なく散らばっているなら、別の読み方が主になっています。
場面②担当が代わって引き継ぐとき
2つ目に挙げるのは、担当が代わって引き継ぐときです。異動や退職で、案件を別の営業が受け取ります。
この場面で記録が効くのは、前任者に聞けないためです。引き継ぎの資料には事実が並びますが、「なぜこの条件で止まっているか」までは書かれません。この理由が記録に残っていれば、後任は最初の訪問から話を進められます。残っていなければ、関係づくりからやり直しになります。
先ほどの会社では、2年間で営業が3名入れ替わっていました。引き継いだ案件のうち、後任が3か月以内に商談を再開できたのは4割ほどです。理由の記録がある案件では、この割合が高くなっていました。
引き継いだ案件の再開までの日数を測りましょう。記録の有無で差が出ます。
場面③似た案件の進め方を探すとき
3つ目は「似た案件の進め方を探すとき」です。初めての業種や仕様で、過去の進め方を参考にします。
この場面が要るのは、経験の差を埋めるためです。新任の営業が同じ業種の案件を担当したとき、過去にどう進めたかが読めれば、遠回りを避けられます。ただし探せる形になっていなければ、この場面は成立しません。似た案件をたどる使い方は活用事例の記事でも扱っています。
この会社では、この場面での閲覧が月に5件ほどでした。件数は少ないものの、新任の営業が使う場面として営業企画の担当は重視しています。読める形にすれば増える余地があると見ていました。
過去の案件を探した回数を数えましょう。少ないなら、探せていない可能性があります。
商談メモに残す4つの項目
前章の3つの場面を並べると、どの場面でも参照されている情報が見えてきます。網羅を目指さず、場面から逆算すれば、残す項目は4つに収まりました。Agentforceでできることの範囲を押さえたうえで、書く対象を絞ります。この4つはいずれも商談が終わった直後にしか書けない内容で、後から思い出して補えません。そこでここでは、商談メモに残す4つの項目を整理します。
項目の数は記録の丁寧さでは決まりません。残す項目は4つで足ります。項目を増やすほど、埋めることが目的になります。
項目①相手が決められない理由
1つ目は「相手が決められない理由」です。話が前へ進まない原因を、相手の言葉で残します。
この項目が最も読まれるのは、次の打ち手が直接ここから決まるためです。予算の都合なのか、社内の合意が取れないのか、仕様に不安があるのかで、次に用意するものが変わります。3つの場面すべてで参照される、唯一の項目でもあります。
この工業用ゴム部品のメーカーでは、この項目を必須にしました。書けない場合は「聞けていない」と記録します。運用の3か月で、空欄のまま残ったのは全体の6%でした。
空欄が2割を超えるようなら、原因は記録の書き方になく、商談の進め方の側にあると判断できます。目安として、決裁の流れを聞けていない案件が続く月は、質問の順番を先に見直す番になります。
項目②次の動きを担う人の期限
2つ目に挙げるのは、次の動きを担う人の期限です。誰がいつまでに何をするかを、1行で書きます。
この項目が要るのは、放置を防ぐためです。こちらの宿題なのか相手の検討待ちなのかが分かれば次に動く日が決まり、期限が入っていない案件はそのまま止まります。書く内容は短く、1行で足ります。
先ほどの会社では、この項目に日付を必ず入れる形にしました。日付のない記録は保存できない設定にしています。運用の後、次の予定が入っていない案件は月14件から3件へ変わりました。
日付の入力を必須にすると、記入の手間はほとんど変わらないまま、放置された案件だけを一覧で抽出できるようになります。月14件から3件への変化は、入力の欄を1つ必須にしただけで生まれたもので、教育や指導は挟んでいません。
項目③こちらが約束した条件
3つ目は「こちらが約束した条件」です。価格、納期、仕様について、その場で伝えた内容を残します。
この項目が要るのは、後から食い違いが起きるためです。口頭で伝えた条件が記録に残っていなければ、担当が代わったときに前提が消え、引き継いだ後任が違う条件を提示すれば、相手の信頼を損ねます。金額の話が出た商談ほど、その場で残す優先度は高くなります。
この会社では、条件を伝えた商談の記録に、伝えた内容と伝えた相手を残す形にしました。3か月で、条件の食い違いによる差し戻しは発生していません。
伝えた条件は、その日のうちに記録へ入れる運用にします。判定は、伝えた相手の氏名まで書かれているかどうかで行い、社名だけの記録は、後から確認の連絡先をたどれないため差し戻します。
項目④判断が変わったきっかけ
4つ目は「判断が変わったきっかけ」です。相手の姿勢が動いた出来事を残します。
この項目が効くのは、似た案件を探すときの手がかりになるためです。どの資料を見せたときに反応が変わったか、誰が同席した回で話が進んだか。この記録があれば、別の案件でも同じ手を試せます。毎回書く必要はなく、変化があった商談だけで足ります。
先ほどの会社では、この項目を任意にしました。書かれるのは月に30件ほどですが、似た案件を探す場面ではこの記録が最も読まれています。
変化があった商談だけ残すと決めておき、判定は次の商談の進め方を変えたかどうかで行います。迷ったときは、書かない側へ寄せて構いません。月30件という水準は全体の1割ほどにあたり、任意の項目としては十分に書かれている部類です。
商談メモの下書きをAIに任せる3つの線引き
前章で残す項目が決まりました。次に決めるのは、その項目をどこまで機械に書かせるかです。この工業用ゴム部品のメーカーでも、最初は4項目すべてを機械に書かせる案が出ていました。会話の記録があれば、事実の部分は自動でまとめられますが、判断の解釈まで任せると、書き手の見立てが失われます。そこでここでは、商談メモの下書きをAIに任せる3つの線引きを整理します。
任せる範囲は文章の精度だけでは決まりません。任せてよいのは下書きまでです。判断の解釈は人が足します。
線引き①会話の記録から下書きまでを任せる
1つ目は「会話の記録から下書きまでを任せる」ことです。話した内容を4項目へ振り分けるところまでを、機械が行います。
ここを任せるのは、最も時間のかかる作業だからです。9分の記入時間のうち、大半は話の内容を思い出して項目へ書き分ける作業に使われますが、会話の記録があれば、この振り分けは自動で終わり、担当者は出てきた下書きを読んで直すところから始められます。
この工業用ゴム部品のメーカーでは、月310件のうち242件で下書きが作られました。会話の記録が取れなかった商談を除いた件数です。1件あたりの記入時間は9分から3分へ変わりました。なお、通話からの要約の下書きは、Salesforce標準のEinstein Conversation Insights(通話の概要)でも提供されています。自社で仕組みを作る前に、標準機能で足りるかを確かめておくと二重の管理を避けられます。※参考記事はこちら
振り分けの作業は人の手から外し、思い出す時間をそのまま減らします。会話の記録が取れない商談は一定数残るため、その分は手で書く前提にしておくと、運用が途中で止まりません。
線引き②判断の解釈は人が足す
2つ目に挙げるのは、判断の解釈は人が足すことです。事実の記録に、書き手の見立てを加えます。
人が足す理由は、その場に居合わせた人しか持っていない材料があるためです。会話の記録から相手の受け止め方を推定する機能は標準でも提供されていますが、「検討します」という同じ言葉が前向きな検討なのか断りの前置きなのかは、表情や間の取り方、これまでの取引の経緯まで踏まえて決まります。その場にいた書き手が、推定に自分の見立てを重ねる形にします。返る内容が揺れる問題については、推論の揺れの記事をご確認ください。
先ほどの会社では、下書きに「所感」の1行を足す運用にしました。月242件の下書きのうち、人が手を入れたのは68件で、残りは事実の記録としてそのまま使えました。
見立ての1行を足す運用にすると、読む側は次の打ち手を決められるようになります。1行に入れる内容は、前向きか慎重かという方向と、その根拠になった相手の様子の2点に絞ると、書き手による差が出ません。
線引き③外へ出す内容は人が確かめる
3つ目は「外へ出す内容は人が確かめる」ことです。相手へ送る文面に使う場合は、必ず読んでから出します。
確かめる理由は、記録には社内向けの表現が混ざるためです。「この担当者は決裁権がない」といった記述は、社内では有用でも外へ出せません。下書きをそのまま礼状や議事録の共有に流用すると、こうした表現が漏れます。社内データの扱いについては社内データの扱いの記事で扱っています。
この会社では、商談メモを外部への共有に使う運用を設けていません。相手へ送る議事録は、担当者が別に書く形を続けています。
外へ出す文面は、記録とは別に書き起こす形にします。流用を許す場合は、送信の前に確認する担当を1人決め、社内向けの表現が残っていないかを見る手順を挟みます。
商談メモの項目を絞って始める4つのステップ
ここまでで、読む場面、残す項目、任せる範囲がそろいました。あとは着手の順番です。項目を一度に作り直すと、現場の反発を招いて元へ戻ります。この工業用ゴム部品のメーカーでも、様式の議論から入った2年前は、項目が8から12へ増える結果に終わっていました。読まれた件数を数えるところから始めれば、根拠を持って絞れます。そこでここでは、商談メモの項目を絞って始める4つのステップを整理します。
着手の順番は現場の要望では決まりません。最初に数えるのは書いた件数ではありません。読まれた件数です。
ステップ①読まれたメモを1か月分数える
1つ目のステップは「読まれたメモを1か月分数える」ことです。本人以外が開いた記録を抽出します。
数えることから始めるのは、絞る根拠を作るためです。項目を減らす提案は、根拠がなければ「手を抜く話」と受け取られますが、実際に読まれているのが1割に満たないという数字があれば、議論の前提が変わります。閲覧の記録は、多くの仕組みで取得できます。
この工業用ゴム部品のメーカーでは、営業企画の担当が3か月分の閲覧を数えました。月310件のうち、本人以外が開いたのは24件で、この8%という数字が項目を絞る提案の根拠になりました。
読まれた件数を先に数えましょう。数える単位を担当者別にせず案件別にすると、閲覧が偏っている担当者を名指ししないまま議論を進められます。
ステップ②読む場面ごとに要る項目を書き出す
2つ目のステップは、読む場面ごとに要る項目を書き出すことです。開かれた記録を見ながら、何を探していたかを整理します。
場面から書き出すのは、使われている項目だけを残すためです。24件の閲覧を場面別に分けると、次の訪問の前、引き継ぎ、似た案件を探すときの3つに収まります。それぞれで参照された項目を並べれば、重複を除いて4つ以内になり、どこにも出てこない項目はこの時点で候補から外れます。
先ほどの会社では、3つの場面それぞれで要る項目を書き出しました。12項目のうち、どの場面でも使われていないものが8つあります。所要は半日ほどでした。
場面別に要る項目を並べたとき、判断に迷うのは複数の場面で名前だけが違う項目が出てきた場合で、読む側の呼び方に寄せて1つにまとめます。会議を分けずに一度で決め切るのが確実です。
ステップ③項目を4つに絞って様式を作り直す
3つ目のステップは「項目を4つに絞って様式を作り直す」ことです。残す項目だけの様式へ入れ替えます。
一度に絞る理由は、段階的に減らすと元へ戻るためです。「念のため残す」を認めると、項目は減りません。外す8項目について、なぜ使われていないかを説明したうえで、まとめて外します。過去の記録は残したまま、これから書く様式だけを変えます。
この会社では、様式の入れ替えに1週間かけました。営業12名への説明に、営業企画の担当が3回の打ち合わせを充てています。反対は出ませんでした。
一度に絞るのが前提で、判断が割れたときは外す側へ倒します。過去の記録は残るため、後から必要と分かれば戻せますが、戻した例は3か月の運用で1件も出ていません。
ステップ④下書きを直す手順を決める
4つ目のステップは、下書きを直す手順を決めることです。機械が作った文面に、人が何を足すかを定めます。
手順を決めるのは、直し方が人によって違うと記録が揃わないためです。所感を1行足す、事実の誤りだけ直す、といった作法を短く決めておきます。長い手引きは読まれないため3行程度で足り、実際に運用しながら必要なら書き足します。
この工業用ゴム部品のメーカーでは、着手から6週間で運用に入りました。営業企画1名で、要した工数は計30時間です。3か月後には、本人以外が開いた件数が月24件から月196件へ変わりました。
直し方を3行で決めましょう。3行に収まらないなら、項目の定義があいまいなまま残っているので、ステップ②へ戻る合図です。以上が、商談メモの項目を絞って始める4つのステップでした。
商談メモの設計でつまずく3つの落とし穴
前章の4つのステップは、順番どおりに進めば6週間ほどで運用に入ります。ところが途中で元へ戻る会社もあり、戻り方には型があります。いずれも良かれと思って選んだ手が原因です。この工業用ゴム部品のメーカーでも、運用に入った後で「項目をもう1つ足したい」という要望が出ていました。そこでここでは、商談メモの設計でつまずく3つの落とし穴を整理します。
つまずく原因は現場の協力度では決まりません。項目を足すと、記入は重くなり、読まれる件数は増えません。
落とし穴①項目を足して情報量を増やそうとする
1つ目は「項目を足して情報量を増やそうとする」ことです。読まれないのは情報が足りないからだと考えます。
うまくいかないのは、読まれない理由が情報の量ではないためです。12項目あっても読まれなかった記録に、13番目を足しても変わりません。むしろ記入が重くなって当日に書かれる割合が下がり、書かれる内容が薄くなれば、読む価値はさらに下がります。
この工業用ゴム部品のメーカーでも、2年前に項目を8から12へ増やしていました。閲覧の件数は変わらず、記入時間だけが6分から9分へ伸びています。今回は逆に、4項目まで絞りました。
項目を増やす前に、閲覧の件数を確かめましょう。要望が出たときは、どの場面で足りなかったのかを聞き返し、既存の4項目で書けない中身かどうかを先に判定します。
落とし穴②下書きをそのまま保存させる
2つ目に挙げるのは、下書きをそのまま保存させることです。機械が作った文面を、確認なしで記録にします。
そのまま保存すると困るのは、見立てが抜けるためです。事実だけが並んだ記録は、読んでも次の打ち手が決まりません。「検討します」と言われた事実は残っても、それが前向きなのか断りなのかが分からなければ、読む価値は下がります。
先ほどの会社では、下書きに1行足すまで保存できない形にしました。手間としては20秒ほどです。この1行があることで、引き継ぎの場面で読まれる記録になっています。
制限をかけるかどうかは、保存後に見立てが足されているかを一度数えてから決めます。ただし空欄を埋めるためだけの1行が並び始めたら、制限を外して書き方の説明からやり直します。
落とし穴③読まれた回数を測らない
3つ目は「読まれた回数を測らない」ことです。書いた件数や入力率だけを見続けます。
測らないと困るのは、設計が効いているかを判定できないためです。記入時間が短くなっても、読まれていなければ目的は果たせていません。閲覧の記録は多くの仕組みで取得でき、月次で集計するだけで足ります。測らないまま運用を続けると、いつの間にか項目が増えて元へ戻ります。
定着まで伴走してほしい場合は、この指標の置き方を支援先と最初に合わせてください。入力率を目標に置く提案が出てきたら、いったん止めて考える場面です。
読まれた回数を月ごとに測りましょう。集計は短時間で終わり、報告の場を新しく作る必要はありません。既存の月次会議の資料に1行加えるところから始めます。
商談メモが使われているかを測る4つの指標
前章の落とし穴を避けたうえで、次に要るのは変化を確かめる手段です。書いた件数は変わらないため、件数を追っても変化が見えません。この工業用ゴム部品のメーカーでも、月310件という数字は設計の前後で動いていません。動いたのは、その310件が誰に読まれたかのほうでした。指標は運用の中で自然に取れるものに絞ると続きます。そこでここでは、商談メモが使われているかを測る4つの指標を整理します。
見るべき数字は記入の件数では決まりません。見るべきは書いた件数より、本人以外が開いた件数です。
指標①本人以外が開いた件数
1つ目は「本人以外が開いた件数」です。書き手ではない人が記録を開いた回数を数えます。
この指標を最初に置くのは、設計の目的をそのまま表すためです。読まれる記録を作ることが目的なら、読まれたかどうかを直接見ます。月ごとの件数で追い、書いた件数との比で見ると、月による商談数の増減にも影響されません。指標の定義の置き方は効果測定の記事で扱っています。
この工業用ゴム部品のメーカーでは、月24件から月196件へ変わりました。書いた件数は月310件のままで、割合にすると8%から63%です。
書いた件数との比で見ておけば、商談が多い月に開かれた回数だけが増えても、設計が効いたと読み違えずに済みます。数字が動かない月が続いたら、閲覧の記録の取り方から確かめ直します。
指標②1件あたりの記入時間
2つ目に挙げるのは、1件あたりの記入時間です。商談の後に記録へ使った時間を測ります。
時間を見るのは、続くかどうかを左右するためです。読まれる記録になっても、記入が重ければ現場は書かなくなります。項目を絞り、下書きを機械に作らせれば時間は大きく縮み、縮んだぶんは次の商談の準備へ回せます。
先ほどの会社では、9分から3分へ変わりました。営業12名で月310件を書く合計は、月46時間から月15時間ほどです。営業からは、当日中に書けるようになったという反応が出ています。
記入時間の測り方は、商談の終了から保存までの間隔を記録に残す方法が確実で、申告に頼ると実態より短く出ます。3分を上回る月が続くようなら、項目か下書きのどちらかに手を入れる番です。
指標③下書きを人が直した割合
3つ目は「下書きを人が直した割合」です。機械が作った文面に手を入れた件数の割合を見ます。
割合を見るのは、任せる範囲が適切かを判定するためです。ほとんど直されていなければ、下書きの精度は足りています。逆に大半が直されていれば、渡している会話の記録か、項目の定義に問題があります。ゼロを目指す数字ではありません。傾向を読むための数字です。
この会社では、月242件の下書きのうち68件が直されました。割合にすると3割弱です。直された箇所の大半は所感の追記で、事実の誤りによる修正はほとんどありませんでした。
直された箇所の中身も見ましょう。所感の追記なら、想定どおりです。事実の誤りが半数を超えるようなら、渡している会話の記録の精度を先に確かめます。
指標④引き継ぎにかかった日数
4つ目は「引き継ぎにかかった日数」です。担当が代わってから、後任が商談を再開するまでの日数を測ります。
日数を見るのは、記録の価値が最も表れる場面だからです。理由や約束が残っていれば、後任は初回の訪問で本題に入れます。空欄のまま引き継がれた案件では、相手との関係を作り直すところからやり直しになります。件数は多くありませんが、効果が最も大きく出る指標です。
先ほどの会社では、引き継いだ案件が3か月で7件ありました。後任が30日以内に商談を再開できたのは6件です。以前は、同じ条件で4割ほどでした。
引き継ぎの再開日数を測りましょう。件数は少なくても、差が大きく出ます。30日という区切りは、この会社が初回の訪問を入れるまでの期間から決めたもので、商材によって変わります。
商談メモを人が書くべき3つの条件
前章の指標は、任せた範囲が機能しているかを示します。この工業用ゴム部品のメーカーでも、相手の言葉と価格に関わる記録は、担当者が必ず読み直してから保存する運用にしていました。ただし数字が良くても、人が書くべき記録は残ります。判断は記録の難しさでは決まりません。後から意味が問われるかで決まります。そこでここでは、商談メモを人が書くべき3つの条件を整理します。
任せない範囲は文章の長さでは決まりません。価格の条件に触れた記録は、人が書きます。
条件①相手の言葉をそのまま残すとき
1つ目は「相手の言葉をそのまま残すとき」です。相手が発した表現に意味がある場合が該当します。
人が書くのは、要約すると意味が変わるためです。「上に上げてみます」と「上が渋っています」では、次の打ち手がまったく違います。機械の要約はどちらも「社内で検討中」にまとめがちです。相手の言葉に含みがあると感じた場面は、書き手がそのまま残します。
この工業用ゴム部品のメーカーでは、相手の発言を引用で残す欄を項目①の中に設けました。使われるのは月に20件ほどですが、引き継ぎの場面で最も読まれています。
含みのある言葉をそのまま残すかどうかは、その一言を消したときに次の打ち手が変わるかで判定します。変わるなら引用で残し、変わらないなら短い要約に置き換えて構いません。
条件②社内で意見が割れているとき
2つ目に挙げるのは、社内で意見が割れているときです。この案件を追うかどうかで判断が分かれている場合が該当します。
人が書く理由は、判断の経緯が記録の価値になるためです。なぜ追うと決めたのか、誰が反対したのかは、後から見直すときの材料になります。機械が作る下書きは商談の会話が対象で社内の議論は含まれないため、書き手が別に足す必要があります。
自社で構築するので設計レビュー・アドバイザリーだけ頼みたい場合も、この足す範囲の決め方には外部の目を入れる価値があるでしょう。社内の議論をどこまで記録に残すかは、組織によって判断が変わるためです。
書き手が別に足す目安は、その案件を追うかどうかで意見が割れた回だけで、日常の相談まで残す必要はありません。
条件③価格の条件に触れたとき
3つ目は「価格の条件に触れたとき」です。値引きや支払いの条件を口にした場面が該当します。
人が書くのは、後から食い違いが起きたときの根拠になるためです。伝えた条件、伝えた相手、伝えた日付の3つが揃っていなければ、社内でも相手先でも確認が取れません。機械の下書きは会話から拾えますが、正確さが要る内容は書き手が確かめてから残します。
この会社では、価格に触れた商談の記録を、担当者が必ず読み直す運用にしました。月に18件ほどで、確認にかかるのは1件1分ほどです。
価格に触れた記録は、読み直してから保存しましょう。1分で足ります。読み直すのは書いた本人でよく、上長の承認を挟むと、待ち時間のあいだに記録が古くなります。
商談メモの設計に外部支援を使う4つの判断軸
ここまでの内容は、営業企画の担当1名でも進められる範囲です。ただし読む場面の洗い出しや項目の絞り方で迷う場面はあり、外部の支援を検討する会社もあります。支援先を選ぶときは、実績の数より判断の作法を見るのが確実です。そこでここでは、商談メモの設計に外部支援を使う4つの判断軸を整理します。
選ぶ基準は実績の件数では決まりません。支援を選ぶ基準は実績の数ではありません。読む場面から項目を決められるかです。
判断軸①読む場面から項目を決められるか
1つ目は「読む場面から項目を決められるか」という軸です。項目の決め方を、読み手の側から説明できるかを見ます。
この軸を最初に置くのは、決め方が成果を左右するためです。汎用のテンプレートを当てる提案は、書きやすさには効いても読まれる件数を変えません。ツール設定ではなく業務設計から入ってほしい場合は、最初の打ち合わせで閲覧の記録を見せてほしいと言われるかどうかで判断できます。支援先の選び方の全体像は導入支援会社の選び方の記事で扱っています。
閲覧の記録を見たいと言うかを確かめましょう。様式の話から入る相手は、この軸を満たしません。初回の打ち合わせで、読む人と読む場面を先に聞いてくるかどうかが、いちばん分かりやすい目安になります。
判断軸②小さく始める形を示せるか
2つ目に挙げるのは、小さく始める形を示せるかという軸です。最初の3か月で何をどこまでやるかを、具体的に示せるかを見ます。
この軸が要るのは、範囲を絞る提案ができる会社が限られるためです。記録の仕組み全体を入れ替える提案のほうが、支援としては大きくなります。1つの商材からのスモールスタートで小さく始めたい場合は、契約の前に次の3つを数字で示してもらいましょう。
契約の前に確かめる数字 ①残す項目・・・いくつまで絞るか ②対象の商談・・・どの商材の商談から始めるか ③下書きの対象・・・月に何件で下書きを作る想定か
示せない提案は、範囲が定まっていません。3つとも数字で返ってくるなら、社内で稟議にかけるときの資料にそのまま使えます。
判断軸③自社で構築する前提に対応できるか
3つ目は「自社で構築する前提に対応できるか」という軸です。作るのは自社で、設計だけを見てもらう形に応じられるかを見ます。
この軸を置くのは、体制によって必要な支援が違うためです。社内に情報システムの担当がいる会社では、読む場面の洗い出しと項目の設計だけを見てもらう契約が成立します。支援の形が固定されている相手では、この頼み方ができません。
確かめ方は、見積の内訳を設計と構築に分けて出してもらえるかどうかです。1本の金額にまとまっていると、設計だけを切り出す交渉が後から難しくなります。
設計だけを見てもらう形に応じるかを確かめ、断られた場合でも、設計の考え方を1回の打ち合わせで聞くだけなら受けてもらえることがあります。そこで判断の作法を見ておけます。
判断軸④営業の商談を理解しているか
4つ目は「営業の商談を理解しているか」という軸です。扱っている商材と商談の進み方を、支援先が把握しているかを見ます。
この軸が効くのは、読む場面が商材によって変わるためです。検討に数か月かかる商材では次の訪問の前に読む場面が多く、短い商材では引き継ぎのほうが重くなります。ソリューション営業に特化した支援がほしい場合は、商談の回数を聞かれるかどうかを目安にしてください。当社のAgentforce導入・定着支援では無料相談も受け付けています。詳しくはAgentforce導入・定着支援をご覧ください。
商談の回数と、失注の理由をどう残しているかを尋ねてくる相手なら、読む場面を切り分けられます。逆に、導入事例の件数から話し始める相手では、この軸は確かめられません。
【一問一答】商談メモの設計に関するよくある質問
ここまで、商談メモが使われない状態から、読む場面と残す項目、下書きの線引き、着手の手順と指標、支援先の選び方までを整理してきました。最後に、実際の検討でよく出る質問をまとめます。任せられる範囲から効果が表れるまでの期間まで5つを取り上げ、いずれもこの記事で挙げた工業用ゴム部品のメーカーの数字に沿って答えています。営業が10名前後で、商談メモを月に数百件書いている会社を想定した内容です。自社の状況と照らして、判断に迷う場面の目安として使ってください。
質問①商談メモはどこまでAIに書かせられますか?
会話の記録から4つの項目へ振り分ける下書きまでです。判断の解釈は書き手が1行足します。この記事の例では、月310件のうち242件で下書きが作られ、人が手を入れたのは68件でした。
質問②商談メモの項目は4つで足りますか?
読む場面が3つに収まる会社であれば足ります。この記事の例でも、読む場面は次の訪問の前・引き継ぎ・似た案件を探すときの3つに収まり、記録する項目は12から4へ減りました。項目の数は読む場面の数と内容から決まるため、まず自社の閲覧の記録を1か月分数えてください。
質問③商談メモの録音は必要ですか?
必須ではありません。会話の記録があれば下書きの精度は上がりますが、要点を箇条書きで残すだけでも振り分けは成立します。この記事の例では、月310件のうち下書きが作られたのは242件で、記録が取れなかった商談は手で書く前提にしています。録音を使う場合は、相手の同意の取り方を先に決めておきます。
質問④商談メモの設計は誰が担当しますか?
営業企画や営業推進の担当が向いています。閲覧の記録を数え、読む場面を洗い出す作業に業務の知識が要るためです。この記事の例では1名が6週間・計30時間で進めました。
質問⑤商談メモが読まれるまでどのくらいかかりますか?
項目を絞れば6週間ほどで運用に入り、閲覧の件数はその後の3か月で変わります。この記事の例では、本人以外が開いた件数が月24件から月196件へ、割合にすると8%から63%へ動きました。引き継ぎの場面で効果が表れるのは担当の交代が起きたときのため、半年ほど先になることもあります。
商談メモは、読む場面から項目を決めると使われる
ここまで、商談メモが使われない状態から支援先の選び方までを整理してきました。商談メモが読まれないのは、書き方が粗いからではありません。誰がどの場面で読むかを決めないまま、網羅を目指して項目を並べているからです。テンプレートは書き手が迷わないための枠で、読み手が何を必要とするかを含んでいません。
先に決めるのは、読む場面です。次の訪問の前に経緯を確かめるとき、担当が代わって引き継ぐとき、似た案件の進め方を探すとき。この3つから逆算すると、残す項目は相手が決められない理由、次の動きを担う人の期限、こちらが約束した条件、判断が変わったきっかけの4つに収まります。事実の振り分けは機械に任せ、人は見立ての1行を足します。
この記事の例では、書いた件数を1件も減らさず、本人以外が開いた件数が月24件から月196件へ変わりました。1件あたりの記入時間は9分から3分へ、記録する項目は12から4へ。まず1か月分の閲覧を数えるところから、着手できます。
