Salesforce定着化は、担当者に入力させる方法をどれだけ用意できるかの問題として語られがちです。ところが、思いつく方法を出し尽くしたあとで、次に何をすればいいのかが見えなくなっている組織は少なくないのではないでしょうか。
本記事では、Salesforce定着化を入力の問題から切り離して、入力したデータを現場へ返す設計として整理していきます。Agentforceの導入・定着を支援している立場から、今の環境のまま始められる手順まで扱いますので、参考にしてもらえると嬉しいです。
- Salesforce定着化が進まない3つの理由
- Salesforceに施策を足しても定着しない3つの場面
- Salesforce定着を入力率で測らない3つの視点
- Salesforceのデータが現場へ返る3つの設計
- Salesforce定着にAIが効く3つの働き
- Salesforce定着を1場面から始める5つのステップ
- Salesforce定着化でつまずく3つの落とし穴
- 入力率に代わるSalesforce定着の4つの指標
- Salesforce定着化にかかる費用の3つの型
- Salesforce定着化に外部支援を使う4つの判断軸
- 【一問一答】Salesforce定着化に関するよくある質問
- Salesforce定着化は、入力したデータを現場へ返す設計で決まる
当社はSalesforce公式コンサルティングパートナーとして、 ソリューション営業に特化したAgentforce導入・定着支援を 行っています。
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この記事を書いた人
合同会社クロスコムの代表|専門商社にて7年間のBtoB営業を経て、マーケティング業界に参入。現在はSalesforce公式コンサルティングパートナーとして、ソリューション営業の業務プロセスに特化したAgentforce導入・定着支援と、Agentic CRM設計支援を提供している。
Salesforce定着化が進まない3つの理由
Salesforce定着化を検討する段階では、使い方の研修と入力の催促が対策の中心になります。今回は、業務用の包装資材を扱う卸売企業がSalesforce定着化に取り組んだケースを例に考えていきます。この企業は説明のための架空の設定であり、実在の企業ではありません。従業員220名、営業16名、取引先はおよそ1,400社という体制で、Salesforceを導入してから2年が経っていました。そこでここでは、Salesforce定着化が進まない理由を3つに整理していきます。
理由①入力を促す施策だけを続けているから
まず押さえておきたいのは、入力を促す施策には効果の上限があるという点です。研修で使い方を伝え、上長が催促し、評価に反映しても、入力されたデータがその後どう扱われるかが変わらなければ、担当者から見た仕事の中身は同じままになります。
Salesforce定着化でつまずいている企業の多くは、入力を集める施策だけを積み上げ、集めたデータを担当者へ返す仕組みを作っていません。
たとえば、先ほどの卸売企業では、Salesforceを導入して3か月の時点で商談の入力率が78%まで上がっていました。ところが2年後には41%まで下がっています。営業16名が入力した商談の情報は月次の会議資料に集計されるだけで、入力した本人がその情報を使う場面はありませんでした。担当者からすると、報告のためだけに入力している状態が2年続いたことになります。
このように、返す仕組みがないまま施策だけを重ねても、担当者の手元で起きていることは変わりません。次の施策を検討する前に、集めたデータを誰が使っているのかを確認しましょう。
理由②定着を入力率で測る運用が残っているから
次に見ておきたいのが、定着したかどうかを何で判断しているかです。入力率を管理指標に置いている場合、打ち手は入力を増やす方向にしか出てきません。研修を増やす、催促の頻度を上げる、入力項目を減らす、といった選択肢の中で堂々巡りになります。
では、なぜ入力率は指標として弱いのでしょうか。それは、入力率が担当者の画面を埋めたかどうかしか表さず、商談の進め方が変わったかどうかを含まないからです。
先ほどの卸売企業でも、営業会議では毎回入力率の一覧が配られていました。数字が低い担当者には上長から確認が入り、翌週だけ入力率が戻ります。そして2週間ほどで元の水準まで下がる、という往復が2年続きました。指標が入力率のままである限り、担当者にとっての目的は画面を埋めることで完結してしまいます。
指標を見直さないまま施策を足すと、同じ往復が形を変えて再開します。Salesforce定着化を検討するなら、施策の選定よりも先に、何をもって定着とするのかを決める必要があります。
理由③判断に使う前提で項目を設計していないから
3つ目の理由は、Salesforceに残すデータの決め方にあります。多くの企業では、管理側が集計したい項目を並べる形で入力項目を決めており、担当者が次の判断に使う前提では設計されていません。
たとえば、先ほどの卸売企業のSalesforceには38の入力項目がありました。そのうち商談の勝ち負けを左右するのは、競合の有無と決裁者の関与状況の2項目です。ところが38項目はいずれも月次の集計表に合わせて並んでおり、この2項目も集計に転記されるだけで、担当者が商談の前に見返す対象にはなっていませんでした。集計のために設計した項目は集計のためにしか使えず、担当者が商談の前に開く画面に表示されているかどうかで見分けられます。
この状態のまま入力を促すツールを足すと、埋まる項目は増えても、見返される項目は増えません。実際、この企業が受け取った入力支援ツールの見積りは、年間でおよそ480万円でした。項目の設計を見直さない限り、480万円をかけて空欄を埋めるだけの結果になります。
ここまでを整理すると、Salesforce定着化で先に手を入れるべきなのは、施策の選定よりも項目の設計です。項目の設計を決めないまま入力支援ツールを選ぶと、比較する軸が価格と機能数しか残りません。
Salesforceに施策を足しても定着しない3つの場面
ここまでSalesforce定着化が進まない理由を3つ見てきましたが、入力の負担を減らす取り組み自体は多くの企業がすでに実施しており、項目を減らす、モバイルから入力できるようにする、通話や会議の内容から自動で記録する、といった手段は出そろっています。それでも担当者がSalesforceを使わない場面は残ります。実際、先ほどの卸売企業も項目の削減までは実行しており、そのうえでツールの追加を検討していました。そこでここでは、Salesforceに施策を足しても定着しない場面を3つ挙げて整理していきます。
場面①理解を促しても読まれない項目は残る
1つ目は「理解を促しても読まれない項目は残る」です。研修や説明会で入力の目的を伝える取り組みは効果が見えやすいため、多くの企業が最初に着手します。ただし、理解したあとに残った項目が誰にも読まれていないなら、担当者の状況は変わりません。
先ほどの卸売企業も、ツールの検討と並行して入力項目を38から12へ減らし、あわせて全社員向けの説明会を開きました。担当者の作業時間は1商談あたり4分ほど短くなっています。それにもかかわらず、入力率は41%から45%までしか動きませんでした。4ポイントの改善で止まったのは、残した12項目もやはり月次の集計にしか使われていなかったからです。
入力項目を減らしても入力率が戻らない場合、問題は項目の数ではありません。残した項目が読まれていないことにあります。
項目数を検討の対象にするなら、あわせて「その項目を誰がいつ読むのか」を決めましょう。読む人が決まらない項目は、12個でも38個でも扱いは同じです。
場面②自動で記録しても読むのが人なら負担が移るだけ
2つ目は「自動で記録しても読むのが人なら負担が移るだけ」です。通話や会議の内容を分析して、商談の主要な項目を自動で更新する仕組みは、すでに製品として提供されています。Salesforceの会話インサイトは「CRMを手動入力なしに最新の状態に保ち」と説明されており、記録を自動化する手段は選択肢として成立します。※参考記事はこちら
ただし、記録が自動で埋まっても、その内容を読んで次の行動を決めるのが担当者のままなら、作業は入力から確認へ移っただけになります。自動で記録された内容が正しいかを1件ずつ見直す時間が発生すると、担当者の負担はむしろ増えることもあります。
先ほどの卸売企業でも、自動記録の導入を検討した段階で営業部長から「記録が増えても、結局は誰かが読んで判断するのではないか」という質問が出ました。この質問は本質を突いています。記録を増やすことと、記録を判断に変えることは別の作業だからです。
したがって、自動記録は前提として押さえたうえで、記録された内容を誰がどう使うのかまで設計しましょう。読む人と読む場面が決まっていれば、自動記録は入力の手間をそのまま削る手段になります。
場面③入力を強制しても商談の進め方は変わらない
3つ目は「入力を強制しても商談の進め方は変わらない」です。催促や評価への反映によって入力率を一時的に上げることはできます。しかし、上がった入力率が商談の成果につながるかは別の話になります。
具体例でいうと、先ほどの卸売企業では、期末の2か月間だけ入力率が72%まで上がった時期がありました。上長が週次で確認を入れた結果です。ところが、この2か月の受注率は前後の期間と比べて変化がありませんでした。商談の進め方が以前のままだったため、記録が増えても打ち手が変わらなかったのです。
入力率と成果が連動しない状態は、担当者にも伝わります。入力しても商談が楽にならないという経験が積み重なると、催促が止まった時点で入力率は元へ戻ります。
このように、入力を強制する施策は成果の改善を保証しません。Salesforce定着化を判断するときは、入力率が動いた期間に商談の進め方が変わったかどうかまで確認する必要があります。
Salesforce定着を入力率で測らない3つの視点
前章で挙げた3つの場面に共通していたのは、入力率という指標の性質でした。入力率を定着の基準に置いている限り、打ち手は入力を増やす方向にしか出てきません。催促を強めるか、項目を減らすか、自動で記録するかという選択肢の中では、担当者の仕事の中身が変わらないためです。定着の判断に使う指標を先に置き換えると、検討する打ち手も変わります。そこでここでは、Salesforce定着を入力率で測らないための視点を3つに整理していきます。
視点①入力率では業務が変わったか分からない
1つ目は「入力率では業務が変わったか分からない」です。入力率は担当者が画面を埋めた割合を表す数字であり、埋めた内容が業務に使われたかどうかは含みません。
入力率が90%の組織と45%の組織があったとして、前者のほうが商談の勝率が高いとは限りません。先ほどの卸売企業では、入力率が最も高い担当者3名と最も低い担当者3名で受注率を比べたところ、差はおよそ2ポイントにとどまりました。入力率の高さは、その担当者が几帳面かどうかを表していただけでした。
Salesforce定着化を判断する指標は、担当者が入力したかどうかでは決まりません。入力した情報が業務のどこかで使われたかどうかで選びましょう。
指標を変えると、打ち手も変わります。入力率を上げる施策は催促になりますが、使われた回数を上げる施策は返す仕組みの整備になります。
視点②定着とは入力した本人の次の行動が決まること
2つ目は「定着とは入力した本人の次の行動が決まること」です。Salesforceが定着している状態を言葉で定義しておかないと、判断のたびに基準が動きます。
ここで置きたい定義は、入力した担当者が、その入力によって次に何をするかを決められる状態です。商談の記録を残したあとに、次の連絡先・連絡の時期・準備する資料が決まるなら、その入力は担当者自身の役に立ったことになります。
先ほどの卸売企業の営業担当者に確認したところ、Salesforceへ入力したあとに次の行動が決まった経験がある人は16名中2名でした。残りの14名は、入力を終えたら自分のメモ帳へ戻っていました。Salesforceと担当者のメモ帳が二重に存在している状態は、定着していない組織でよく見られます。
このように、定着の定義を「入力したか」から「次の行動が決まったか」へ置き換えると、現状の把握が具体的になります。まずは自社の担当者に、入力後に何が決まったかを聞いてみるとよいでしょう。
視点③誰に返すかを決めると何を残すかが決まる
3つ目は「誰に返すかを決めると何を残すかが決まる」です。返す相手が決まっていない状態で入力項目を選ぶと、集計のための項目だけが残ります。
なぜなら、返す相手が決まっていないときに参照される基準は、管理側が見たい数字しかないからです。担当者に返す前提で項目を選べば、商談の前に見返したい情報が優先されます。
先ほどの卸売企業を例にとると、返す相手を「初回訪問の前日にいる担当者」に決め直しました。すると、必要な項目は取引先の直近の購買履歴・過去の見積りで折り合わなかった条件・前回の担当者が引き継いだ懸案の3つに絞られました。38項目のうち、この3つに関わるものは4項目だけでした。
返す相手と場面を先に決めると、残す項目の議論は短く終わります。項目の取捨で会議が長引いている場合は、返す相手が決まっていない可能性を疑ってみてください。
Salesforceのデータが現場へ返る3つの設計
ここまで定着の定義を入力率から置き換える視点を3つ整理してきましたが、定義を決めたあとに必要になるのが、実際にデータを返す仕組みです。ここで線を引いておきます。Salesforceの標準機能で返せるのは、条件に合うレコードを一覧やレポートとして出すところまでです。記録を読んで内容を組み立てて返すところからは、AIエージェントの領域になります。Salesforceの環境でその役割を担うのがAgentforceです。なお本記事が扱うのは、Agentforceを入れる前に決めておく設計です。入れたあとに使われなくなる状態の立て直しは、後半で紹介する別の記事の範囲になります。そこでここでは、Salesforceのデータが現場へ返る設計を3つに分けて解説します。
設計①次にとる行動が提示される
1つ目は「次にとる行動が提示される」です。担当者が商談の記録を残したあと、その記録をもとに次に何をすべきかが画面上に示される状態を指します。
この設計が効くのは、担当者が迷う場面が「次に何をするか」に集中しているからです。訪問の直後は情報が頭に入っているため判断できますが、2週間後に一覧を見返したときに、どの商談から手をつけるかで止まります。
先ほどの卸売企業では、商談の記録から次の連絡予定日と準備すべき見積り条件が提示される形に変えました。営業16名のうち、まず3名の担当者から始めています。開始前は入力から次の行動が決まるまで平均5.5日かかっていましたが、3か月後には1.5日まで短くなりました。担当者からは「一覧を眺める時間が減った」という反応が出ています。
返す設計の中心にあるのは、記録を見せることよりも、記録から導いた次の行動を提示することです。
行動の提示まで届いていない場合、担当者にとってSalesforceは記録の保管場所のままになります。返す仕組みを検討するときは、提示される内容が行動になっているかを確認しましょう。
設計②過去の経緯をその場で引ける
2つ目は「過去の経緯をその場で引ける」です。商談の前に、その取引先との過去のやり取りを担当者が短時間で確認できていれば、この設計は働いています。
取引先ごとの経緯は、Salesforceの中に断片的に残っています。ただし、商談履歴・見積り・問い合わせが別々の画面に分かれていると、担当者は複数の画面を行き来することになり、その移動にかかる時間が、経緯を確認しない理由になります。
たとえば、この卸売企業では、1件の商談の前に過去の経緯を探す時間が平均22分かかっていました。内訳は、Salesforceの商談履歴で8分、過去の見積りファイルで9分、メールの検索で5分です。取引先はおよそ1,400社あり、担当者1人あたり90社ほどを見ています。前回訪問から半年空いた取引先では、担当者が自分の記録を探すところから始まっていました。Agentforce Coworkerのように担当者の照会に答える形を入れたあとは、この時間が6分まで短くなっています。
このように、経緯を引く時間が短くなると、担当者は記録を残す意味を実感できます。自分が残した記録が半年後の自分を助けたという経験が、次の入力につながります。
設計③抜けている情報が本人に知らされる
3つ目は「抜けている情報が本人に知らされる」です。商談を進めるうえで必要な情報が記録から欠けているとき、その不足を最初に受け取るのは担当者本人です。
担当者は自分が何を書いていないかに気づきにくく、記録の抜けはたいてい本人以外が先に見つけます。上長が一覧を見て指摘する運用では、指摘が届くまでに時間がかかり、そのころには商談が進んでしまっています。
先ほどの卸売企業では、決裁者の関与状況が記録されていない商談について、担当者本人へ確認を促す形にしました。開始から3か月で、決裁者の情報が入っている商談の割合は31%から74%へ上がっています。この項目はもともと38項目のうちの1つでしたが、集計にしか使われていなかったため空欄が続いていました。
不足を伝える相手を上長から本人へ移すと、記録は管理の対象から仕事の道具へ変わります。項目を増やす前に、いま空欄になっている項目を誰に伝えているかを見直してみてください。
Salesforce定着にAIが効く3つの働き
前章で挙げた3つの設計は、いずれも記録を読んで内容を組み立てる作業をともないます。この作業を人が担うと、返す相手が増えるほど負担も大きくなり、管理者が1名で16名分の商談を確認する運用は、対象が数名のうちは成立しても全社へ広げた段階で続きません。組み立てる作業を誰が担うのかを先に決めておくことが、範囲を広げる条件になります。そこでここでは、Salesforce定着にAgentforceのようなAIエージェントが効く働きを3つに整理していきます。
働き①記録を読んで組み立てて返す
まず挙げたいのが、記録を読んで内容を組み立てるところまで任せられる点です。従来の通知機能は、条件に合致したレコードを一覧で出すところまでを担当していました。担当者はその一覧を読んで、自分で判断を組み立てる必要があります。
Agentforceの場合、商談の履歴・過去の見積り・問い合わせの記録をまたいで読み、担当者が次に確認すべき論点として提示できます。読む対象が複数の画面に分かれていても、担当者が画面を移動する必要はありません。
この卸売企業では、訪問前日に「前回の見積りで折り合わなかった条件」と「直近3か月の購買量の変化」がまとめて提示される形にしました。担当者3名で運用を始めた3か月間で、提示された情報が実際に商談で使われた回数は週3件から週47件へ増えています。
このように、組み立てまで任せられるかどうかが、通知とAgentforceの実務上の差になります。担当者が受け取ったあとに何段階の作業が残るかを数えると、この差は見積書を見る前に判断できます。
働き②聞かれた場面でだけ応答して入力側の負担を増やさない
次に、担当者が必要としたときにだけ動く点が挙げられます。返す仕組みを増やすと、通知が増えて担当者が読まなくなるという心配が出ます。この心配は、送りつける形の仕組みでは実際に起こります。
Agentforceは、担当者が質問した場面で該当する記録を探して答える形をとれます。全員へ一律に配信する必要がないため、記録を返す範囲を広げても、担当者が処理する情報量は増えません。
具体例でいうと、この卸売企業では当初、訪問前日の自動提示だけで始めました。担当者から「見積りを出す前にも過去の条件を確認したい」という要望が出たため、質問して引き出す使い方を追加しています。追加後も、担当者が受け取る通知の件数は変えていません。
返す範囲を広げても担当者の処理量が増えないのは、Agentforceが聞かれた場面でだけ応答する形をとれるからです。
送る側の都合で情報を増やすと、読まれない通知が積み上がります。返す設計では、担当者が求めた場面に届く形を優先しましょう。
働き③返した答えの元になった記録まで戻れるようにする
3つ目は、提示された内容の根拠を担当者が確認できる点です。組み立てた内容をそのまま信じる運用では、内容が誤っていたときに商談へ影響します。
提示された要点から「適切な文字起こしスニペットに直接移動し」て元の会話を確認できることは、Salesforceが公開している商談インサイトの説明にも記載があります。提示と根拠が地続きになっていれば、担当者は気になった箇所だけを自分で確かめられます。※参考記事はこちら
先ほどの卸売企業でも、運用の初月は提示された内容のうち34%が担当者によって修正されていました。担当者は提示の要点から元の商談メモまで戻り、どの記述が古いのかを1件ずつ確かめています。この確認で洗い出した記録を直したあと、3か月目の修正率は11%まで下がりました。根拠へ戻れる形にしていなければ、修正の理由を集めることもできなかったというわけです。
Einstein Trust Layerのように一任と承認の境界を決める設計があると、担当者はAgentforceの提示を検証しながら使えます。導入の初期ほど、この確認のしやすさが利用の継続を左右します。
Salesforce定着を1場面から始める5つのステップ
ここまでAgentforceが返す設計に効く働きを3つ見てきましたが、実際に着手するときに全社への展開は前提になりません。今あるSalesforceの上に返す仕組みを載せる形で、順を追って進められます。むしろ全社で始めると、移行の作業に数か月を使ったあとで、返す設計を一から検討することになります。順番を決めておけば、限られた人数と予算でも着手できます。そこでここでは、Salesforce定着を1場面から始める手順を5つのステップに分けて解説します。
ステップ①返す場面を1つだけ決める
最初に決めるのは、データを返す場面を1つに絞ることです。複数の場面を同時に扱うと、必要な項目が場面ごとに違うため、整えるべきデータが広がりすぎます。
小さく始めたい場合(スモールスタート)は、担当者が最も迷っている場面を1つ選ぶところから入りましょう。訪問の前日、見積りの提出前、失注の振り返りといった候補のなかから、担当者への聞き取りで決めるのが確実です。
先ほどの卸売企業では、営業16名への聞き取りを行い、初回訪問の前日を選びました。この場面を選んだのは、過去の経緯を探す22分がここに集中していたためです。対象は営業3名に絞り、残る13名は従来の運用を続けました。
場面を1つに決めると、次のステップで扱う項目の範囲が自動的に定まります。複数の候補で迷う場合は、時間がかかっている場面から選ぶとよいでしょう。
ステップ②その場面で必要な項目だけを残す
場面が決まったら、次はその場面で担当者が見る項目を選びます。ここで対象にするのは、Salesforceの全項目ではありません。選んだ場面で使う項目だけです。
この卸売企業の場合、返す相手を決めた段階で挙がっていた3つの情報を、そのまま項目の選定条件にしました。既存の38項目を1つずつ照らし、初回訪問の前日に開くのは4項目だけだと確認しています。残りの34項目は、この段階では触りませんでした。
項目を全体最適で見直そうとすると、部門間の調整が入って数か月かかります。選んだ場面の4項目だけなら、担当者3名と管理者1名で決められました。
必要な項目を絞ったあとで、その項目にデータが入っているかを確認します。空欄が多い項目が見つかったら、次のステップで扱うことになります。
ステップ③読める形にデータを整える
項目が決まったら、その項目のデータが読み取れる状態になっているかを確認します。自由記述欄に文章で書かれている情報は、そのままでは条件で絞り込めません。
整える手段は2つあります。
①過去の商談メモを分類する・・・自由記述に残っている内容を人が読み、該当する項目へ移します ②記録の自動更新を使う・・・通話や会議の内容から主要な項目を、会話インサイトのような仕組みで更新します
どちらを選ぶかは、過去データの量と、これから発生する記録の量で決めます。
先ほどの卸売企業では、直近1年分の商談メモから、折り合わなかった条件を抽出して項目へ移しました。対象は3名が担当する270件の商談で、社内2名と外部支援1名が入り、作業は2週間で終わっています。過去すべてを整える計画にしていたら、この段階で止まっていました。
データを整える範囲は、選んだ場面で使う分に限定しましょう。整備を全体へ広げると、返す仕組みを動かす前に時間と費用を使い切ります。
ステップ④返す仕組みを限定した範囲で動かす
データが整ったら、返す仕組みを動かします。この段階でも対象は最初に決めた場面と担当者に限定したままにします。
限定する理由は、返した内容が担当者の役に立ったかどうかを確認するためです。すぐに思いつくのは場面の選び方ですが、原因は返す内容にも担当者の運用にもあり得ます。対象が広いと、そのどれなのかを切り分けられません。
この卸売企業では、営業3名に対して訪問前日の提示を1か月続けました。1か月目に確認したのは、提示された情報が商談で実際に使われた回数です。週3件から始まり、4週目には週18件まで増えました。この時点で範囲を広げず、修正が多かった項目の整理を先に行っています。
限定した範囲で動かす期間は、1か月から2か月を目安にしましょう。この期間に集めた修正の内容が、次のステップの判断材料になります。
ステップ⑤入力の負担が減ったかを確かめてから広げる
最後に、対象を広げるかどうかを判断します。判断の材料にするのは入力率ではありません。担当者の作業時間と、提示された情報の使われ方です。
先ほどの卸売企業では、3名の経緯を探す時間が22分から6分へ短くなり、3名合計で月におよそ38時間が浮きました。提示された情報が使われた回数も週47件まで増えています。この2つを確認したうえで、残る13名への展開を決めました。結果として、対象を広げた3か月後には商談の入力率も45%から68%へ上がっています。
入力率を目標に置いていたわけではありませんが、返した情報が役に立つと分かった時点で、担当者が自発的に記録を残すようになりました。当初の目的は「初回訪問の前日に経緯を探す時間を減らすこと」でしたが、結果として入力率まで動いたことになります。
返す設計は、場面を1つに絞り、必要な項目だけを整え、限定した範囲で動かしてから広げる順番で進めます。
以上が、Salesforce定着を1場面から始める5つのステップでした。順番を入れ替えて先に範囲を広げると、確認できるはずの材料が集まらなくなります。
Salesforce定着化でつまずく3つの落とし穴
前章で整理した1場面から始める5つのステップは、この順番どおりに進めていても止まる箇所があります。止まる理由は技術的なものよりも、進め方の判断に寄っています。設定が終わらないことが原因で止まるわけではありません。社内の合意の取り方や報告の形が従来のまま残っていることが、進行を止めます。先に知っておけば避けられるものばかりです。そこでここでは、Salesforce定着化でつまずく落とし穴を3つ挙げて整理していきます。
落とし穴①入力率を目標に置いたまま進める
1つ目は「入力率を目標に置いたまま進める」です。返す設計に着手しても、社内の報告資料が入力率のままだと、途中で判断がぶれます。
具体例でいうと、先ほどの卸売企業でも、経営会議へ出す資料はしばらく入力率の推移のままでした。返す仕組みを動かして1か月目、入力率は45%から46%へしか動いていません。この数字だけを見た役員から「効果が出ていないのではないか」という指摘が入り、対象を広げる話が一度止まりました。
このとき担当者が示したのは、提示された情報が使われた回数が週3件から週18件へ増えたという数字です。指標を差し替えたことで、判断の材料が変わりました。
報告に使う指標は、着手する前に差し替えておきましょう。差し替えられたかどうかは、経営会議の資料に「返した情報が使われた回数」が載っているかで判断できます。
落とし穴②現場に説明せずに項目だけを減らす
2つ目は「現場に説明せずに項目だけを減らす」です。項目を減らす作業は管理側だけで完結できるため、担当者への説明を省略しがちになります。
説明が省かれると、担当者は入力が楽になったとは受け取らず、「また仕様が変わった」と受け取ります。これまで何度か項目の変更を経験している組織ほど、この受け取り方は強くなります。
この卸売企業では、38項目から12項目へ減らした際に、対象の営業16名へ変更点をメールで通知しただけでした。その結果、減らした項目を自分のメモ帳へ書き写す担当者が3名出ています。Salesforceに残らなくなった情報を、個人の手元で管理し直していたことになります。
項目を減らすときは、減らす理由と、残した項目が何に使われるのかをあわせて伝えましょう。伝える相手は全員でなくてよく、返す設計の対象にした担当者だけで足ります。
落とし穴③返す仕組みを作る前に全社へ広げる
3つ目は「返す仕組みを作る前に全社へ広げる」です。経営層からの期待が大きいほど、最初から全社を対象にしたくなります。
しかし、返す内容が担当者の役に立つかどうかは、動かしてみないと分かりません。全社で始めると、役に立たなかったときに修正の対象が広く、担当者からの信頼も一度で失われます。
先ほどの卸売企業を例にとると、営業3名に限定して1か月動かした段階で、提示内容の34%が修正されていました。34%を1件ずつ確認して原因まで追えたのは、対象が3名だったからです。もし16名全員で始めていたら、同じ誤りが5倍以上の商談で起きていました。
Agentforceを入れたあとに使われなくなる状態の立て直しは、Agentforceの定着を扱った記事で整理しています。範囲を限定する期間は、修正の内容が落ち着くまでと考えましょう。
入力率に代わるSalesforce定着の4つの指標
ここまでつまずきやすい3つの落とし穴を見てきましたが、いずれも入力率を判断の中心に置いていることが背景にありました。指標を差し替えないと、進め方の判断も従来のままになります。とはいえ、入力率に代わる指標をどう選べばよいかは、社内で議論しても決まりにくいものです。測れること、担当者の行動が反映されること、経営層へ説明できることの3つを満たす必要があります。そこでここでは、入力率に代わるSalesforce定着の指標を4つ挙げて解説します。
| 指標 | 何が分かるか | 測り方 |
|---|---|---|
| 入力率 | 画面を埋めた割合 | Salesforceの標準レポート |
| 返した情報が使われた回数 | 返す設計が働いたか | 週次で開封と引用を集計 |
| 経緯を探す時間 | 担当者の負担の変化 | 1週間の実測を前後で比較 |
| 次の行動が決まる日数 | 判断が早まったか | 記録日と着手日の差 |
| 返した内容の修正率 | 提示の精度と元データ | 修正件数を提示件数で割る |
指標①返した情報が実際に使われた回数
1つ目は「返した情報が実際に使われた回数」です。提示した内容を担当者が開いた、コピーした、商談メモへ引用したといった行動を数えます。
この指標を最初に置く理由は、返す設計が機能しているかを最も直接的に表すからです。返した件数を数えるだけでは、内容が担当者の役に立ったかどうかまでは分かりません。
先ほどの卸売企業では、営業3名を対象にした3か月で、使われた回数が週3件から週47件まで増えました。1週目の3件は、担当者が半信半疑で開いた回数です。4週目に18件へ増え、修正を反映した2か月目から40件台に乗っています。この推移を見て、残る13名への展開を決めました。
返す設計が機能しているかどうかは、提示した件数よりも、担当者が実際に使った件数で判断しましょう。
なお、AIエージェントの応答精度や利用状況を測る話は、Agentforce Observabilityで詳しく扱っています。使われた回数と応答精度は別の指標なので、あわせて見るとよいでしょう。
指標②担当者が過去の経緯を探す時間
2つ目は「担当者が過去の経緯を探す時間」です。1件の商談に入る前に、その取引先とのやり取りを確認するまでにかかる時間を測ります。
時間を指標にすると、削減の効果を人数と件数で掛け合わせられます。担当者の負担がどれだけ軽くなったかを、経営層へ説明する材料としても使えます。
この卸売企業では、開始前に3名へ計測を依頼し、1件あたり平均22分という数字を出しました。返す仕組みを入れたあとは同じ3名で6分まで短くなり、月におよそ38時間が浮いています。差の16分は、そのまま訪問前の準備や商談の件数に回せる時間でした。営業16名へ広げた場合の試算は月200時間ほどになります。
測る方法は、担当者に1週間だけ記録してもらう形で足ります。ただし比べる期間をそろえておかないと、繁忙期の影響で数字が動いてしまいます。
指標③入力から次の行動が決まるまでの日数
3つ目は「入力から次の行動が決まるまでの日数」です。商談の記録を残してから、次の連絡や提案の準備に着手するまでを日数で数えます。
回数や時間よりも、この日数のほうが商談の進み方に近い指標です。なぜこの日数を見るのかというと、返す設計の目的が担当者の判断を早めることにあるからです。使われた回数が増えても、判断のタイミングが変わらないなら、商談の進み方は以前のままになります。
先ほどの卸売企業では、この日数が平均5.5日でした。訪問した週の金曜にまとめて振り返る運用だったため、月曜の訪問だと4日間そのままになります。訪問の翌日に次の行動が提示される形へ変えたあとは、平均1.5日まで短くなりました。商談の平均リードタイムも、3か月で1.2か月ほど短くなっています。
日数の指標は、担当者ごとのばらつきも見られる点が利点です。特定の担当者だけ日数が長い場合、返している内容がその担当者の商談に合っていない可能性があります。
指標④返した内容を担当者が修正した割合
4つ目は「返した内容を担当者が修正した割合」です。提示された内容のうち、担当者が事実と違うとして直した件数の割合を数えます。
この指標は、返す仕組みの精度と、元データの整備状況の両方を表します。修正が多い時期は、Agentforceの設定よりも記録の内容に原因があることが少なくありません。修正の理由を短く残してもらうと、設定と記録のどちらを直すかを判断できます。
この卸売企業では、初月の修正率が34%でした。修正の内容をたどると、取引先の担当者交代が記録に反映されていない例が半数を占めています。この項目の更新手順を決めたあと、3か月目の修正率は11%まで下がりました。修正率が下がるにつれて、使われた回数も増えています。
修正率は下がり続ける必要はありません。担当者が内容を確認して直せている状態は、提示をそのまま信じている状態より健全だと考えます。
Salesforce定着化にかかる費用の3つの型
入力率に代わる4つの指標を挙げてきましたが、そもそも指標を測る前に、費用の見通しを立てておく必要があります。返す設計にかかる費用は、初期・利用料・運用工数の3つに分かれます。この3つを分けずに1つの見積りとして受け取ると、どこを削れば範囲を絞れるのかが分からなくなります。とくに運用工数は見積書に載らないことが多く、社内で見込んでおく必要があります。そこでここでは、Salesforce定着化にかかる費用を3つの型に分けて整理していきます。
型①データを整える初期の費用
1つ目は「データを整える初期の費用」です。返す場面で使う項目に、読み取れる形でデータが入っているかを確認し、足りない部分を整える作業にかかります。
この費用は、過去データをどこまで対象にするかで大きく変わります。全項目・全期間を対象にすると数か月の作業になりますが、返す場面で使う項目に限定すれば範囲は限られます。
先ほどの卸売企業が整備を2週間で終えられたのは、直近1年分・270件・4項目という3つの条件で範囲を切っていたからです。同じ作業を全社・全期間で見積もった場合、提示された期間は3か月でした。初期の費用は、この期間の差がほぼそのまま金額の差になります。
初期の費用を抑えたい場合は、見積りを依頼する前に期間と項目と対象人数を自社で決めておきましょう。この3つを決めずに依頼すると、全体整備の金額が返ってきます。
型②返す仕組みを動かす利用料
2つ目は「返す仕組みを動かす利用料」です。ここには、記録を整える機能の利用料と、Agentforceを動かす費用が含まれます。
記録の自動更新を使う場合、Salesforceの会話インサイトは1ユーザーあたり月6,000円(年間契約)です(2026年9月時点)。一部のAgentforce Salesエディションには含まれています。※参考記事はこちら
Agentforce側について、Flex Creditsの購入価格は、日本では10万クレジットあたり60,000円です(米国では同数量が500ドル)。1クレジットに換算すると0.6円になります。エージェントが1つの標準アクションを実行すると、20クレジット(12円)を消費します。※参考記事はこちら
この卸売企業では、会話インサイトを3名分で月18,000円、Agentforceは訪問前日の提示で月およそ200アクション、4,000クレジットの消費でした。円換算では2,400円相当になります。なお、Enterprise Edition以上ではクレジットが無料で付与されるため、この規模なら無料枠に収まりました。付与される量は契約条件によって異なるため、自社の契約内容で確認してください。
限定した範囲で始めるかぎり、返す仕組みの利用料は入力支援ツールの年間見積りよりもはるかに小さく収まります。
課金モデルごとのAgentforceの料金は別の記事で扱っています。試算は、対象人数と月あたりのアクション数の2つが決まれば立てられます。
型③運用を続けるために毎月かかる人の工数
3つ目は「運用を続けるために毎月かかる人の工数」です。返した内容の修正を確認し、元データの手順を直す作業が毎月発生します。
この工数を見込んでいない計画は、3か月目あたりで止まります。そもそも、なぜ毎月の工数が要るのかという話ですが、修正率が下がらないまま放置されると、担当者は提示を見なくなるからです。
この卸売企業では、社内の管理者1名が月8時間を確保しました。内訳は、修正内容の確認に3時間、元データの手順の見直しに3時間、担当者への聞き取りに2時間です。この8時間があったため、初月34%だった修正率を3か月目に11%まで下げられました。
毎月の工数は、対象人数が増えても比例しては増えません。手順を直す作業は共通のため、範囲を広げる段階でむしろ効率が上がります。
Salesforce定着化に外部支援を使う4つの判断軸
初期・利用料・運用工数の3つを挙げましたが、社内だけで進めるか外部の支援を使うかは、費用の大小だけでは決まりません。返す設計は業務の決め方に踏み込むため、支援会社に何を任せるかで進み方が変わります。設定だけを任せる契約にすると、返す場面を決める工程が社内に残り、そこで止まることもあります。提案を比べる前に、自社で決められる範囲を先に確認しておきましょう。そこでここでは、Salesforce定着化に外部支援を使う判断軸を4つ挙げて解説します。
判断軸①業務設計から入れるかどうか
1つ目は「業務設計から入れるかどうか」です。返す場面を決め、必要な項目を絞る作業は、Salesforceの設定作業よりも前の工程にあたります。
ツール設定ではなく業務設計から入ってほしい場合は、提案の内容が設定手順の説明で終わっていないかを確認してください。返す相手をどう決めるか、場面をどう絞るかまで踏み込んだ提案が出てくるかが判断材料になります。
先ほどの卸売企業では、3社から提案を受けました。2社は画面の構成と項目の設定手順が中心で、残る1社だけが営業16名への聞き取りを提案に含めていました。聞き取りの結果として初回訪問の前日という場面が決まったため、この工程を省いていたら別の場面を選んでいた可能性があります。
提案書を比べるときは、最初の1か月で何をするかを見ましょう。設定作業から始まる提案は、返す場面が決まっている企業には合いますが、これから決める企業には合いません。
判断軸②設定後も運用に付き合うかどうか
2つ目は「設定後も運用に付き合うかどうか」です。返す仕組みは動かしてからの修正で精度が決まるため、設定完了で契約が終わる形だと、修正の工程が社内に残ります。
定着まで伴走してほしい場合は、契約期間のうち設定後の割合がどれくらいかを確認しましょう。設定に2か月、その後の改善に1か月という配分では、修正率が下がりきる前に終わります。契約期間の総量よりも、その内訳を確かめるのがいいでしょう。
この卸売企業では、初月34%だった修正率が11%まで下がるのに3か月かかりました。この3か月のあいだ、修正の内容を毎週確認して元データの手順へ反映する作業が続いています。設定完了の時点で契約が終わっていたら、この工程は社内の管理者1名で抱えることになりました。
返す設計の支援を選ぶときは、設定が終わってからの期間にどれだけ人が付くかで比べましょう。
判断軸③自社の営業の進め方を理解しているかどうか
3つ目は「自社の営業の進め方を理解しているかどうか」です。返す内容は、その企業の商談の進め方に沿っていないと使われません。
ソリューション営業に特化した支援がほしい場合は、支援会社が商談のどの場面を具体的に語れるかを確認してください。初回訪問・提案・見積り・稟議のどこで担当者が止まるかは、営業のやり方によって変わります。
先ほどの卸売企業は、取引先ごとに仕様と価格を個別に詰める進め方をしていました。この場合、返すべき情報は標準品の在庫状況よりも、過去の見積りで折り合わなかった条件になります。提案の段階でこの違いに触れた支援会社は1社だけでした。
自社の商談を10分説明したあと、返すべき情報の候補が具体的に出てくるかどうかを見ましょう。業種の実績よりも、この反応のほうが判断材料として確実です。
判断軸④設計レビューだけを頼めるかどうか
4つ目は「設計レビューだけを頼めるかどうか」です。社内に設定できる人がいる企業では、実装まで任せる必要がない場合があります。
この形が合うのは、Salesforceの管理者が社内におり、返す場面と項目の決め方だけに不安がある企業です。実装を含む契約にすると、社内の管理者が手を動かす余地が減り、運用の知識が社内に残りません。
この卸売企業には管理者が1名おり、設定作業自体は社内で行えました。そのため、返す場面の決め方と項目の絞り方について月2回のレビューを受ける形をとっています。実装まで含む見積りと比べると、費用はおよそ4分の1でした。
支援会社に問い合わせる際は、レビューだけの契約形態があるかを最初に聞きましょう。用意していない会社もあるため、この確認で候補が絞られます。会社の選び方については、Agentforce導入支援会社の記事でも詳しく整理しています。
自社で構築するので設計レビュー・アドバイザリーだけ頼みたい場合は、レビューだけの契約形態を用意しているかが判断材料になります。
【一問一答】Salesforce定着化に関するよくある質問
ここまでSalesforce定着化を返す設計として整理してきましたが、実際に検討を始めると期間や進め方の細かい点で迷う場面が出てきます。とくに、どのくらいの期間がかかるのか、項目はいくつまで減らせばよいのか、ツールを足す必要があるのかという3点は、相談の場でほぼ毎回いただく質問です。判断の目安を先に持っておくと、社内での説明もしやすくなります。そこでここでは、相談を受けることの多い質問を5つ取り上げて回答していきます。
質問①Salesforce定着化にはどのくらいの期間がかかりますか?
限定した範囲で始める場合、返す仕組みを動かすまでに1か月から2か月、修正率が落ち着くまでにさらに3か月ほどが目安になります。
先ほどの卸売企業では、場面を決めてからデータを整えるまでに1か月、動かして修正が落ち着くまでに3か月かかりました。対象を全社へ広げる判断は、この4か月目に行っています。
質問②Salesforceの入力項目はいくつまで減らせばいいですか?
項目数の目標を先に決める必要はありません。返す場面を決めると、その場面で使う項目が絞られ、結果として数が決まります。
この卸売企業の場合、初回訪問の前日という場面で必要な項目は4つでした。38項目のうち残る34項目は、この段階では触っていません。数を減らす作業と、返す設計は別の工程だと考えましょう。
質問③Salesforceに現場が入力しないのは意識の問題ですか?
意識の問題として扱うと、打ち手が催促と評価への反映に限られます。入力した情報が本人に返っていない状態では、意識を高めても続きません。
実際、先ほどの卸売企業でも催促によって入力率が72%まで上がった時期がありましたが、催促が止まると元の水準へ戻りました。まずは入力後に何が決まるかを確認してみてください。
質問④Salesforceに定着化ツールを足さないと定着しませんか?
ツールの追加は前提になりません。返す仕組みは、今あるSalesforceのデータを読む形で載せられます。
この卸売企業も、年間480万円の入力支援ツールの見積りを保留したまま、既存のSalesforceの上で返す設計に着手しました。ツールを足すかどうかを判断するのは、返す仕組みを動かしても改善しない項目が特定できてからで遅くありません。
質問⑤Salesforce定着化は何を見れば達成したと分かりますか?
返した情報が使われた回数と、担当者が過去の経緯を探す時間の2つを見ると判断できます。この2つが改善していれば、入力率は後から動きます。
先ほどの卸売企業では、使われた回数が週47件、経緯を探す時間が6分になった時点で展開を決め、その3か月後に入力率が68%へ上がりました。入力率は結果として確認する数字だと考えます。
Salesforce定着化は、入力したデータを現場へ返す設計で決まる
よくある質問まで見てきたところで、本記事の結論をもう一度まとめます。Salesforce定着化は、入力を促す施策を積み上げても進みません。入力したデータが担当者本人へ返り、次の行動が決まる状態になってはじめて、記録は担当者にとって必要なものになります。本記事では、定着化が進まない理由から、返す設計の中身、1場面から始める5つのステップ、入力率に代わる4つの指標、費用の3つの型、外部支援を使う4つの判断軸までを整理してきました。
例に挙げた卸売企業では、営業3名から始めて、経緯を探す時間が22分から6分へ、返した情報が使われた回数が週3件から週47件へ、入力から次の行動が決まるまでの日数が5.5日から1.5日へ変わりました。3名で月におよそ38時間が浮き、その後に対象を広げた結果、入力率も45%から68%へ上がっています。年間480万円のツール導入を実行する前に確認できたことになります。
合同会社クロスコムでは、Salesforce公式コンサルティングパートナーとして、ソリューション営業の業務プロセスに特化したAgentforceの導入・定着支援を行っています。返す場面の決め方から一緒に設計してほしい場合は、Agentforce導入・定着支援で無料相談も受け付けていますので、お気軽にご相談ください。
本記事で紹介した知見を、ぜひ自社の状況に合わせて実践し、少しでもお役に立てれば幸いです。
