「あの案件、前回どういう経緯で決まったんでしたっけ」という確認が、いまも口頭で回っている営業組織は少なくないのではないでしょうか。2026年8月に日本で使えるようになったAgentforce Coworkerは、この確認を営業が自分で済ませられるようにします。
そこで本記事では、Agentforceの新しいエージェントであるAgentforce Coworkerについて、営業が実際に引ける照会場面と、どこまでを任せてよいのかという設計の観点から解説します。
今回は、産業機械を製造する中堅メーカーの例も交えて進めていきます。従業員420名、営業30名でSales Cloudを3年運用しており、日々のやり取りは自由記述のメモとして蓄積されている企業です。この企業は説明のための架空の設定であり、実在の企業ではありません。
- Agentforce Coworkerの照会場面3選
- Coworkerが必要になる営業現場の3つの原因
- Coworkerと従業員エージェントの3つの違い
- Coworkerが横断する接続ソース3分類
- Coworkerを呼び出せる3つのチャネル
- Coworkerが回答の先で実行する3つの動作
- Coworkerに承認を挟む3つの判断軸
- 新任営業の立ち上げにCoworkerを使う3つの方法
- Coworker導入でつまずく3つの落とし穴
- Coworkerの定着を測る3つの指標
- Coworkerの利用にかかる費用の2つの型
- Coworkerを使い始める4ステップ
- Coworkerが向いている営業組織の3つの条件
- Coworkerを急がなくてよい3つのケース
- 【一問一答】Agentforce Coworkerに関するよくある質問
- Agentforce Coworkerは営業が過去の経緯を自分で引ける状態をつくる
当社はSalesforce公式コンサルティングパートナーとして、 ソリューション営業に特化したAgentforce導入・定着支援を 行っています。
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というお悩みがあればお気軽にご相談ください。 1ユースケース×3ヶ月のスモールスタートプランから対応しています。
この記事を書いた人
合同会社クロスコムの代表|専門商社にて7年間のBtoB営業を経て、マーケティング業界に参入。現在はSalesforce公式コンサルティングパートナーとして、ソリューション営業の業務プロセスに特化したAgentforce導入・定着支援と、Agentic CRM設計支援を提供している。
Agentforce Coworkerの照会場面3選
Agentforce Coworkerが最初に効くのは、営業が誰かに聞かないと分からない情報を抱えている場面です。この産業機械メーカーでは、四半期ごとに新任営業が2〜3名配属され、そのたびにベテランへの口頭確認が増えていました。営業30名で数えたところ、1人あたり週に4件、組織全体では月におよそ480件の確認が発生しており、1件あたり平均8分として月64時間が確認のやり取りに使われていた計算になります。
そこでここでは、Agentforce Coworkerが営業の照会に使われる3つの場面を整理します。
| 照会場面 | 営業が投げる問い | 主な参照先 |
|---|---|---|
| ①取引先の経緯 | 前回までの経緯は | 取引先・商談・メモ |
| ②類似案件 | 似た案件はあるか | 商談・Slackの会話 |
| ③先回りの通知 | 次に何をすべきか | 進行中の商談 |
場面①この取引先の経緯をたどる照会
1つ目は「この取引先の経緯をたどる照会」です。担当を引き継いだ直後や、久しぶりに動き出した案件で、これまで何が話されてきたのかを確認する場面にあたります。
営業がこの確認を自分で完結できない理由は、経緯が1か所に揃っていないところにあります。取引先レコードには基本情報が並び、商談レコードには金額と時期が入り、実際のやり取りは商談メモの自由記述に散っています。1件ずつ開いて読む作業を、訪問前の30分でこなすのは現実的ではありません。
この産業機械メーカーでは、担当変更が起きた案件で、営業が前任者に確認を入れるまでに平均で2営業日かかっていました。前任者が外出していれば、その分だけ確認は先送りになります。Agentforce Coworkerに「A社の直近1年の商談の経緯を教えて」と聞けば、取引先・商談・ケースを横断した回答が、根拠になったレコードのリンクとあわせて返ってきます。
Agentforce Coworkerが最初に効くのは、営業が誰かに聞かないと分からない情報を、自分で引ける状態に変えるところです。
引き継ぎのたびに前任者を探していた時間が減るかどうかが、この場面を任せる価値を測る基準になります。
場面②類似案件の進め方をたどる照会
2つ目は「類似案件の進め方をたどる照会」です。目の前の商談と条件が近い過去案件を探し、そのときの提案内容や落としどころを確認する場面を指します。
「似た案件、過去になかったっけ」という問いは、検索窓では解けません。CRMの標準検索は、レコードの項目値に一致する語を探す仕組みだからです。「同じ業種で、同じくらいの規模で、値引きの交渉があった案件」という条件は、項目のどこにも入っていません。
具体例でいうと、このメーカーの営業が食品工場向けの搬送設備を提案する際、過去に同じ業種へ納入した3件の経緯を知りたい場面がありました。従来はベテラン営業に聞くしかなく、聞ける相手が外出していれば提案の準備が止まっていたのです。Agentforce Coworkerであれば、業種と設備の種類を指定した問い方で、該当する商談と当時のメモを引き出せます。
過去案件の検索に1商談あたり25分をかけていた作業が短くなるなら、この場面から始める価値があります。
場面③次にやることを先回りで受け取る通知
3つ目は「次にやることを先回りで受け取る通知」です。営業が自分から聞かなくても、進行中の案件についてCoworker側から情報が届く使い方にあたります。
Agentforce Coworkerは、質問に答えるだけでなく、担当している案件の状況にあわせた提案を返せるとされています。停滞している商談や、期日が近い対応を拾って知らせる形です。営業が思い出したときにだけ確認する状態から、必要なタイミングで手元に届く状態へ変わります。
このメーカーの営業部長は、月次の会議で「止まっている案件の共有が遅い」と繰り返し指摘していました。担当者が気づいていない停滞を、会議まで誰も把握できていなかったからです。案件の状況を先回りで受け取れれば、会議を待たずに手を打てるようになります。
ただし通知は、増やすほど見られなくなります。最初は停滞の判定条件を1つに絞り、届く件数を営業が毎日確認できる範囲に収めておきましょう。
Coworkerが必要になる営業現場の3つの原因
照会の場面を3つ見てきましたが、そもそもなぜ営業は自分で情報を引けない状態に置かれているのでしょうか。それは、情報が「探せない形」で蓄積されているからです。入力が足りないわけでも、ツールが不足しているわけでもありません。この産業機械メーカーも、営業30名が3年分の商談メモを蓄積してきた一方で、その内容を条件で絞り込む手段は用意されていませんでした。原因を先に把握しておくと、Agentforce Coworkerに何を接続すべきかの判断が早くなります。
そこでここでは、Agentforce Coworkerが必要になる営業現場の3つの原因を整理していきます。
原因①商談の経緯が自由記述のメモに埋もれているから
1つ目の原因は、商談の経緯が自由記述のメモに埋もれているからです。営業が書いた内容は残っているものの、あとから条件で絞り込める形にはなっていません。
自由記述は、書く側にとっては速い方法です。訪問直後の10分で、その日のやり取りをそのまま残せます。一方で、読む側から見ると、どのメモに何が書かれているかは開くまで分かりません。1件の商談に5件のメモが紐づいていれば、5件とも読むことになります。
このメーカーでは、1商談あたりのメモが平均で7件ありました。担当変更のたびに、後任の営業がその7件を読み込むところから始めていたわけです。項目に落とし込む運用へ切り替える案も出ましたが、入力の手間が増えて記録の量が減る懸念があり、見送られていました。
自由記述をやめるより、書かれたまま引ける手段を用意するほうが、記録の量を保ったまま解決できます。
原因②必要な情報がCRMとSlackに分かれているから
2つ目の原因は、必要な情報がCRMとSlackに分かれているからです。決まったことはCRMに転記される一方で、決まるまでの議論はSlackに残ります。
案件の相談は、その場で答えが要るためチャットで行われます。「この条件で通せるか」「前回はいくらで出したか」といったやり取りは、社内チャンネルで完結してしまうのです。転記されるのは結論だけなので、なぜその結論になったかはSlack側にしか残りません。
このメーカーの案件相談チャンネルには、月におよそ900件の投稿がありました。過去のやり取りを探そうとしても、Slackの検索では発言者と単語しか手がかりがなく、案件名で追えないという問題があったのです。CRMとSlackのどちらか一方だけを見ても、経緯の全体は再構成できませんでした。
2つの場所に分かれた情報を横断して読める仕組みがあるかどうかが、この原因を解消できるかの分かれ目になります。
原因③検索しても関連レコードまでたどれないから
3つ目の原因は、検索しても関連レコードまでたどれないからです。1件のレコードには行き着けても、そこから先へ展開する作業は人が担っています。
CRMの検索は、指定した語を含むレコードを返します。取引先を1件見つけたあと、その取引先に紐づく商談を開き、さらに商談に紐づくケースを開くという移動は、営業が画面を切り替えながら進める作業です。3階層をたどる間に、最初に知りたかった問いを見失うこともあります。
実際に、このメーカーの新任営業は、担当する取引先の過去のトラブル対応を調べるのに40分かかっていました。取引先から商談、商談からケース、ケースから対応履歴と順にたどっていたためです。ベテランであれば「あの件はサポート側で持っている」と当たりをつけられますが、新任にはその見当がつきません。
関連するレコードをまたいで回答を組み立てられるかどうかが、検索と照会の違いになります。
Coworkerと従業員エージェントの3つの違い
ここまで3つの原因を整理してきましたが、社内の情報を引くという点では、従業員向けのエージェントと似ているのではないかという疑問が出てきます。実際、Agentforce Coworkerと従業員エージェントは、どちらも社内の利用者を相手にする点で共通しています。ただし想定している利用者も、参照するデータの範囲も違うため、同じ設計で進めると任せる範囲を決めきれません。両者の位置づけを先に分けておくと、どちらをどの部門へ広げるかの判断がしやすくなります。
そこでここでは、Agentforce Coworkerと従業員エージェントの3つの違いを比較していきます。
違い①想定している利用者の違い
1つ目は「想定している利用者の違い」です。従業員エージェントは全社員を、Agentforce Coworkerは業務システムを日常的に使う担当者を想定しています。
従業員エージェントが受けるのは、経費精算の締め日や就業規則の確認といった、部門を問わず発生する問い合わせです。質問する側は人事や総務の担当者ではありません。答えを知りたいだけの社員にあたります。一方でAgentforce Coworkerが受けるのは、案件の経緯や過去の取引条件など、CRMを開いて仕事をしている担当者の問いです。
このメーカーでも、総務部門は勤怠と経費の問い合わせ対応に月20時間ほどを使っており、そちらは別のエージェントで扱う想定でした。営業30名が抱えていた案件の照会とは、質問の性質も参照先も違っていたためです。
社内問い合わせの任せ方については、ほか記事「Agentforce Employee Agentとは?社内問い合わせを任せる範囲の決め方」で解説していますので、あわせて参考にしてもらえると嬉しいです。
違い②参照するデータ範囲の違い
2つ目は「参照するデータ範囲の違い」です。従業員エージェントが社内規程やナレッジ記事を中心に参照するのに対し、Agentforce Coworkerはレコードと会話を横断します。
参照先が規程やナレッジであれば、答えは1つの文書の中にあります。「締め日は毎月20日です」という回答は、該当ページを見つけた時点で完成するからです。案件の経緯を答える場合は、複数のレコードから断片を集めて組み立てる必要があります。
Agentforce Coworkerと従業員エージェントの違いは、1つの文書から答えを探すのか、複数のレコードから答えを組み立てるのかという点にあります。
Salesforceは、Agentforce Coworkerが270以上のエンタープライズソースに接続できるとしています。参照先が広いぶん、どこまでを見せるかを決める作業が導入時に発生します。
違い③任せる範囲の決め方の違い
3つ目は「任せる範囲の決め方の違い」です。従業員エージェントが質問の種類で範囲を決めるのに対し、Agentforce Coworkerは見せてよいデータの範囲で決めます。
質問の種類で決める場合、任せるかどうかは問いの内容だけで判定できます。勤怠は任せる、労務相談は人が受ける、という切り分けができるからです。データの範囲で決める場合は、同じ「商談の経緯を教えて」という問いでも、聞いた人が誰かによって返してよい内容が変わります。
このメーカーでは、営業が自分の担当外の取引先の値引き履歴まで見られてしまう可能性が、検討の初期に論点になりました。質問を制限する方法は採らず、ユーザーごとの参照権限で制御するという結論に至っています。
任せる範囲を質問で切るか権限で切るかは、導入前に決めておくべき設計事項です。
Coworkerが横断する接続ソース3分類
違い③で任せる範囲を権限で決めると整理してきましたが、次に確認したいのは、そもそもAgentforce Coworkerがどこを見に行くのかという点です。接続できる先を把握していなければ、権限の設計も始められません。Salesforceは270以上のエンタープライズソースに接続できるとしていますが、すべてをつなぐ必要はありません。自社の営業がどこを見て仕事をしているかで、最初に接続する範囲は決まります。
そこでここでは、Agentforce Coworkerが横断する接続ソースを3つに分類して解説します。
分類①取引先・商談・ケースのCRMレコード
1つ目は「取引先・商談・ケースのCRMレコード」です。Salesforce内にあるレコードが、Agentforce Coworkerの基本的な参照先になります。
CRMレコードを参照先の中心に置く利点は、権限の仕組みがすでに動いているところにあります。誰がどのレコードを見られるかは、共有設定とロール階層で決まっています。Agentforce Coworkerもその設定に従うため、参照範囲を一から設計し直す必要はありません。
このメーカーが最初に接続したのは、取引先・商談・ケースの3つのオブジェクトだけでした。営業が知りたい経緯の大半がこの3つに入っており、まず範囲を狭くして回答の精度を確かめる進め方を選んだためです。商品マスタや請求データは、2か月目以降の検討事項として残しています。
導入の1か月目は、営業が最も開いているオブジェクトから接続していくのが現実的な順番です。
分類②Slackに残る案件相談の会話
2つ目は「Slackに残る案件相談の会話」です。CRMに転記されない議論が、Agentforce Coworkerの参照先に加わります。
Slackを参照先に加えると、結論に至るまでの条件を回答へ含められるようになります。「この条件で通した」という決定だけでなく、「なぜその条件になったか」がチャンネルに残っているからです。ただし、参加していないチャンネルの内容が見えてしまわないよう、範囲の指定は慎重に行う必要があります。
このメーカーでは、案件相談チャンネルと製品問い合わせチャンネルの2つに限定して接続しました。雑談を含むチャンネルまで対象にすると、回答に関係のない発言が混ざる懸念があったためです。
Slack側の導入手順は、ほか記事「Agentforce in Slackとは?できることや導入手順、Box for Agentforceの関係」で扱っていますので、SlackでAgentforceを使う手順はそちらをご確認ください。
分類③Data 360経由で接続する外部ストレージ
3つ目は「Data 360経由で接続する外部ストレージ」です。Salesforceの外にあるファイルやデータベースを参照させる場合の経路にあたります。
外部のストレージにある提案書や仕様書を参照させたい場合、データ基盤を経由する構成になります。Salesforceの外にある情報を、統一した形で読み取れる状態にする必要があるからです。この構成を取るかどうかは、参照させたい情報が社外の保管先にどれだけあるかで決まります。
このメーカーの提案書は共有フォルダに保管されていましたが、初期の接続対象からは外しました。CRMとSlackだけで営業の照会に答えられるかを先に確かめる判断です。
Data 360が必要になる条件については、ほか記事「Data 360(旧Data Cloud)とは?Agentforceに必要な理由と導入の判断」で詳しく解説しています。
Coworkerを呼び出せる3つのチャネル
接続ソースを3つに整理してきましたが、営業がAgentforce Coworkerを実際に使うのは、どの画面からになるのでしょうか。呼び出す場所が業務の動線から外れていると、接続を整えても使われないまま終わります。この産業機械メーカーでも、営業30名が1日のうちCRMを開いている時間と、Slackを開いている時間はほぼ同じでした。どちらから呼び出せるかを確認しておくと、公開後に使われる量が変わります。
そこでここでは、Agentforce Coworkerを呼び出せる3つのチャネルを解説していきます。
チャネル①Salesforceの画面から呼び出す
1つ目は「Salesforceの画面から呼び出す」です。パソコンのLightningでも、移動中のモバイルでも、Salesforce本体の画面上部にある検索窓がそのままAgentforce Coworkerの呼び出し口を兼ねます。
検索窓を使う利点は、営業が新しい操作を覚えなくてよいところにあります。これまでレコードを探すために使っていた場所へ、質問文をそのまま入力する形になるからです。「A社」と入れていた場所に「A社の直近の商談で値引きの話は出たか」と入れられるようになります。
モバイルからの照会が効くのは、訪問前の15分に情報を取りに行きたい場面です。パソコンを開けない状況では、これまで前任者へ電話をかけるか、確認を諦めるかのどちらかでした。手元の端末から過去の経緯を引ければ、移動時間が準備時間に変わります。
このメーカーでは、営業30名のうち8名で先行して使い始めました。使い方の説明に時間をかけず、検索窓に質問文を入れてみるよう伝えるだけで、初週から照会が発生しています。営業は1日に平均2件の訪問があり、合計90分ほどの移動時間に直前の経緯を確認できるようになったことで、前任者へ電話をかける回数も減りました。
どちらの端末から使うかを決める必要はありません。同じ検索窓から入るため、業務の場所に合わせて使い分ければ足ります。
チャネル②Slackの会話の中から呼び出す
2つ目は「Slackの会話の中から呼び出す」です。案件の相談をしているチャンネルで、そのままAgentforce Coworkerへ問いかけられます。
Slackから呼び出せると、確認のやり取りが発生する場所と、答えが返る場所が同じになります。営業が「前回いくらで出しましたっけ」と書き込む相手が、ベテラン営業からAgentforce Coworkerへ移るだけです。回答はチャンネルに残るため、同じ質問を別の人が繰り返す必要もなくなります。
先ほどのメーカーでも、案件相談チャンネルでの質問がそのまま照会に置き換わっていきました。ベテラン営業に宛てたメンションが減り、代わりにCoworkerへの問いかけが増えるという変化です。
チャネル③順次拡大が予定される外部チャットから呼び出す
3つ目は「順次拡大が予定される外部チャットから呼び出す」です。Salesforceの開発者向けドキュメントでは、Microsoft TeamsやChatGPT、Claude、デスクトップアプリへの対応が順次予定されているとされています。
外部のチャットに広がると、Salesforceを開かない職種からも照会できるようになります。ただし、対応時期が明示されているわけではないため、現時点の導入計画は、すでに使える2つのチャネルで組み立てておくのが安全です。予定されている対応を前提に設計すると、開始の時期が遅れます。
なお同じドキュメントでは、Government Cloud Plusが対象外であることも明記されています。以上が、Agentforce Coworkerを呼び出せる3つのチャネルでした。
Coworkerが回答の先で実行する3つの動作
ここまで3つのチャネルを確認してきましたが、Agentforce Coworkerは質問に答えて終わりではありません。回答した先で、いくつかの動作を続けて行えます。照会だけを任せるのか、その先の処理まで任せるのかで、必要になる設計の量は変わってくるでしょう。とくにデータを書き換える処理を含める場合は、実行前に人が確認する工程を用意しておく必要があります。
そこでここでは、Agentforce Coworkerが回答の先で実行する3つの動作を整理します。
動作①専門のAIエージェントを呼び出す
1つ目は「専門のAIエージェントを呼び出す」です。照会の内容に応じて、その領域を担当するエージェントへ処理を渡せます。
Agentforce Coworkerが受けた問いのうち、営業活動の実行にあたるものは、営業向けのエージェントが担当します。窓口を1つにしたまま、実際の処理は担当するエージェントへ振り分ける構成です。利用者から見れば、どのエージェントが動いたかを意識せずに済みます。
このメーカーでは、商談の経緯を照会したあと、そのまま次回のフォローメールの下書きを作らせる流れが生まれました。照会と実行が別の画面に分かれていた頃と比べ、営業が画面を移動する回数が減っています。
自律的に実行する側の役割分担は、ほか記事「Agentforce for Salesとは?SDR・Sales Coachの使い方と営業活用事例」をご確認ください。
動作②承認を挟んでフローを起動する
2つ目は「承認を挟んでフローを起動する」です。データを更新する処理は、実行前に人の確認を挟む形で組み立てます。
参照だけの照会と違い、レコードを書き換える処理は取り消しに手間がかかります。誤った内容で商談の金額を更新すれば、後続の集計や承認にも影響が及ぶためです。実行の直前に内容を提示し、担当者が確認してから進める構成にしておけば、誤りが確定する前に止められます。
なお、フロッグウェルが2026年6月1日に公開した検証記事では、2026年6月時点の検証においてレコードの作成・更新・削除は実行できなかったと報告されています。一般提供の開始後に実行範囲が変わっている可能性があるため、自社の環境で何が動くかは実際に確認してください。
データを書き換える処理をAgentforce Coworkerに任せる場合は、実行の直前に人が確認する構成を先に決めておく必要があります。
動作③回答に根拠となるソースを添える
3つ目は「回答に根拠となるソースを添える」です。返ってきた内容が、どのレコードや会話に基づくのかを示せます。
根拠が示されると、営業は回答をそのまま信じるかどうかを自分で判断できます。生成された文章だけを見せられた場合、確からしさを測る手段が利用者側にありません。参照元のリンクが添えられていれば、重要な数字だけ元のレコードで確かめるという使い方ができます。
このメーカーの営業も、金額に関わる回答については元の商談レコードを開いて確認する運用にしていました。確認する対象を金額と納期に絞り、それ以外は回答をそのまま使うという判断です。
回答の根拠を示せるかどうかは、Agentforce Coworkerが業務で使われ続けるための条件になります。Agentforceの機能の全体像は、ほか記事「Agentforceの機能一覧」で整理しています。
Coworkerに承認を挟む3つの判断軸
回答の先で実行される動作を3つ見てきましたが、どこまでを自動で進めさせ、どこから人が確認するのかという線引きは、導入する企業ごとに決めることになります。この線引きが曖昧なまま公開すると、判断は現場の担当者に委ねられてしまうでしょう。担当者ごとに扱いが変われば、同じ操作でも承認を通る場合と通らない場合が出てきます。公開前に基準を文書へ落としておくと、運用の途中で判断がぶれません。ツール設定ではなく業務設計から入ってほしい場合は、この線引きを自社の決裁経路に合わせて描けるかどうかが出発点になります。
そこでここでは、Agentforce Coworkerに承認を挟む3つの判断軸を整理していきます。
判断軸①データを書き換える操作かどうか
1つ目は「データを書き換える操作かどうか」です。参照して答えるだけの処理と、レコードの内容を変える処理を分けて扱います。
参照だけであれば、結果が誤っていても影響は回答を見た担当者にとどまります。書き換えが伴う場合は、集計や承認の経路を通じて他の担当者にも影響が及びます。同じ「更新しておいて」という依頼でも、実行後に取り消せるかどうかで扱いを変える必要があるわけです。
この産業機械メーカーでは、商談フェーズの更新と活動履歴の登録を、承認を挟む対象に指定しました。参照系の照会は営業30名全員に開放し、更新系は営業部長を含む4名の承認を通す構成です。運用を始めて2か月のあいだに承認へ回った件数は12件で、確認の負担が業務を止めるほどにはなりませんでした。
承認を挟むかどうかは、処理の重要度で決めるより、実行後に取り消せるかどうかで線を引くほうが判断がぶれません。
判断軸②社外に出る内容かどうか
2つ目は「社外に出る内容かどうか」です。生成された文章が顧客の目に触れるなら、送信の前に担当者が読む工程を残します。
社内で完結する回答であれば、多少の誤りは読んだ担当者が気づいて補正できます。顧客へ送るメールや提案書の文面は、届いた時点で相手が受け取った内容として残ります。訂正の連絡を入れる手間を考えると、送信前の確認を省く利点は小さいといえるでしょう。
このメーカーでも、フォローメールの下書きまでをAgentforce Coworkerに任せ、送信の操作は営業が行う運用にしています。下書きの精度が上がっても、送信の権限は移さないという方針です。
人が承認する場面の設計は、ほか記事「Einstein Trust Layerとは?AIに一任する範囲と人が承認する場面の設計」で詳しく扱っています。
判断軸③金額や契約条件が動くかどうか
3つ目は「金額や契約条件が動くかどうか」です。値引きや納期など、社内の承認経路が定められている項目は、Agentforce Coworkerの実行対象から外します。
金額と契約条件には、稟議や決裁の経路が業務として設計されています。エージェントが先に値を入れてしまうと、決裁のどの段階で確定したのかが追えなくなります。既存の承認経路を通らない更新が生まれる状態は、監査の観点でも避けたいところです。
先ほどのメーカーでは、見積金額に関わる項目をすべて対象外に指定しました。営業からは「見積の下書きまで作ってほしい」という要望も出ましたが、金額欄への書き込みと下書きの作成を別の操作として整理し、書き込みは行わない設計にしています。
金額が動く操作を含めるかどうかは、社内の決裁経路を確認してから決めましょう。
新任営業の立ち上げにCoworkerを使う3つの方法
判断軸①から③で承認の線引きを整理してきましたので、次は誰に使ってもらうかという話になります。Agentforce Coworkerの効果が最も分かりやすく出るのは、社内の経緯を知らない新任営業です。この産業機械メーカーでも、四半期ごとに配属される2〜3名の立ち上がりに3か月かかっていました。年間で10名が配属される規模になると、ベテラン営業の説明にかかる時間も無視できません。ソリューション営業に特化した支援がほしい場合は、この立ち上げの設計まで一緒に見てもらえるかどうかが、支援会社を選ぶ判断材料になります。
そこでここでは、新任営業の立ち上げにAgentforce Coworkerを使う3つの方法を解説します。
方法①過去商談の経緯を本人に追わせる
まず取り組みたいのは、担当する取引先の過去の経緯を、新任営業自身に調べさせることです。先輩に聞く前に、自分で引いてから確認する順番へ変えます。
自分で調べてから聞く形にすると、質問の中身が変わります。「この会社どういう経緯でしたっけ」という白紙からの確認が、「前回の値引きの経緯は分かったので、いまの相場感だけ教えてください」という具体的な問いに変わるからです。答える側の負担も、その分だけ軽くなります。
このメーカーでは、配属初週の課題として、担当する取引先10社分の経緯をAgentforce Coworkerで調べてまとめる作業を組み込みました。従来はベテラン営業が1社ずつ口頭で説明しており、その時間が1名あたり合計で6時間ほどかかっていたのです。調べる作業を本人へ移したことで、ベテラン側の説明は確認と補足だけになりました。
新任が最初の1週間で何件の取引先を自分で調べられたかが、この方法の効果を測る目安になります。
方法②社内用語と略語をその場で引かせる
次に効くのが、社内でしか通じない用語や略語を、その場で調べられるようにすることです。会議中に出た言葉を、後から聞き直さずに済みます。
社内用語は、辞書にも公式ドキュメントにも載っていません。過去の商談メモやSlackの会話に、使われた文脈ごと残っているだけです。この文脈を横断して読める状態であれば、「先方のPM案件って何ですか」という問いにも、実際の使用例をもとにした回答を返せます。
具体例でいうと、このメーカーには「特寸対応」という社内用語がありました。標準仕様から外れた寸法での製作を指す言葉ですが、新任営業には通じません。従来は聞くまで分からなかったものが、過去の商談メモから引けるようになっています。
用語を引ける状態は、新任が会議で発言できるようになるまでの期間を縮めます。
方法③類似案件から勝ちパターンを読ませる
最後に、受注できた案件と失注した案件を並べて読ませます。自社がどういう条件で勝ってきたかを、本人に見つけてもらう使い方です。
過去案件の一覧を渡すだけでは、新任営業は何を見ればよいか分かりません。「同じ業種で受注できた案件と、失注した案件の違い」という切り口で引かせると、比較の視点が定まります。教える側が持っている暗黙の判断基準を、データから再現させる進め方です。
この産業機械メーカーの新任営業は、食品業界向けの案件20件を受注と失注に分けて読み、納期の提示時期が結果に効いていることを自分で見つけました。ベテランが経験として持っていた判断基準を、配属2か月目の営業が言語化できたわけです。
以上が、新任営業の立ち上げにAgentforce Coworkerを使う3つの方法でした。
Coworker導入でつまずく3つの落とし穴
新任の立ち上げまで見てきましたが、Agentforce Coworkerの導入がうまく進まない企業には、共通した進め方の問題があります。機能の理解より、公開前の設計で決まる部分です。いずれも公開したあとに気づくと、設定の変更だけでは戻せません。先に3つを把握しておけば、公開の直前に慌てて範囲を絞り込む事態は避けられます。
そこでここでは、Agentforce Coworkerの導入でつまずく3つの落とし穴を整理していきます。
落とし穴①権限設計を後回しにして情報が広がる
1つ目は「権限設計を後回しにして情報が広がる」です。まず動かしてみようと公開した結果、見えてはいけない情報が回答に含まれてしまう問題を指します。
Agentforce Coworkerは、ユーザーごとの参照権限に従って回答します。共有設定が広く取られていれば、その範囲がそのまま回答の範囲になるということです。CRMの画面では階層をたどらないと見つからない情報も、照会であれば一度の質問で返ってきます。
このメーカーでは、公開の2週間前に共有設定を点検し、営業が担当外の取引先の値引き履歴を参照できる状態になっていることが分かりました。画面上では探しにくかったため、これまで問題として表面化していなかったのです。公開前に商談の共有設定を見直し、値引きに関わる項目を担当者と上長に限定してから開始しています。自社で構築するので設計レビュー・アドバイザリーだけ頼みたい場合も、この共有設定の点検だけは第三者の目を入れておくと安全です。
Agentforce Coworkerを公開する前に共有設定を点検しておかないと、これまで探しにくかった情報が一度の質問で返るようになります。
落とし穴②接続ソースを増やしすぎて回答がぶれる
2つ目は「接続ソースを増やしすぎて回答がぶれる」です。参照先を広げるほど回答がよくなると考えて、最初から多くのソースをつないでしまう進め方にあたります。
参照先が増えると、同じ問いに対して複数の情報源が候補に上がります。内容が食い違っていれば、どちらを採用したかで回答が変わります。古い仕様書と新しい仕様書の両方がつながっていれば、質問のたびに違う数字が返ることもあるわけです。
先ほどのメーカーが接続を3オブジェクトとSlackの2チャンネルに絞ったのは、この問題を避けるためでした。回答の精度を確かめてから範囲を広げる順番にしています。
参照先を増やしたときの回答の精度については、ほか記事「Agentforce RAGの仕組みは?精度が上がらない5つの原因と改善Tipsも」をご参照ください。
落とし穴③実行できる範囲を過大に見積もる
3つ目は「実行できる範囲を過大に見積もる」です。照会に加えて更新まで任せられる前提で計画を立て、想定した業務が動かないまま止まる状態を指します。
実行できる範囲は、提供の段階によって変わります。フロッグウェルが2026年6月1日に公開した検証記事では、2026年6月時点でレコードの作成・更新・削除が実行できなかったと報告されていました。一般提供の開始後にどこまで動くかは、公式のドキュメントと自社の環境の両方で確かめる必要があります。
このメーカーも、計画の初期には活動履歴の自動登録まで想定していました。検証で動作を確認したうえで、初期の対象を照会に絞り、更新系は2か月目以降の判断としています。
導入計画は、いま確実に動く範囲で立てておくほうが、公開の時期を守れます。
Coworkerの定着を測る3つの指標
ここまで3つの落とし穴を見てきましたが、それらを避けて公開できたとしても、営業が使い続けるかどうかは別の問題です。使われているかを数字で確認できなければ、改善の判断もできません。しかも見るべき数字は、導入からの経過期間によって変わります。最初から業務の変化を測ろうとしても、母数が揃わないうちは判断できないからです。
そこでここでは、Agentforce Coworkerの定着を測る3つの指標を、期間ごとに整理します。
指標①導入1ヶ月目は照会の実行回数で測る
1つ目は「導入1ヶ月目は照会の実行回数で測る」です。まず、営業が実際に質問しているかどうかを回数で確認します。
最初の1か月に見るべきなのは、回答の質より使われた回数です。質問が発生していなければ、精度を議論する材料がありません。回数が伸びない場合、原因は精度より、呼び出す場所が業務の動線から外れていることにあります。
この産業機械メーカーでは、先行して権限を割り当てた営業8名で、1か月目に月520回の照会が発生しました。1人あたり1営業日に3回の計算です。この時点で回数が出ていたため、2か月目に対象を営業30名へ広げる判断ができています。
1か月目の回数が想定を下回ったときは、精度の改善より先に呼び出す場所を見直しましょう。
指標②3ヶ月目は口頭確認の減少で測る
2つ目は「3ヶ月目は口頭確認の減少で測る」です。ベテラン営業への確認が実際に減ったかどうかを見ます。
照会の回数が増えても、口頭の確認が同じだけ残っていれば、業務は変わっていません。Agentforce Coworkerで調べたうえで、念のため人にも聞くという二重の確認が起きている状態です。導入の目的は営業が過去の経緯を自分で引ける状態をつくることなので、確認の総量が減っているかを確かめます。
このメーカーでは、導入前に月480件あった口頭確認が、3か月目には月180件まで減りました。残った180件の内訳を見ると、価格の判断と、社外に出す文面の相談が中心でした。人が答えるべき内容が残り、調べれば分かる確認が減ったという結果です。
照会の回数が増えても口頭確認が減っていなければ、営業は二重に確認しているだけで、業務は変わっていません。
指標③6ヶ月目は新任の立ち上がり日数で測る
3つ目は「6ヶ月目は新任の立ち上がり日数で測る」です。配属から独力で商談を進められるまでの日数を、導入前と比べます。
立ち上がり日数は、ほかの2つの指標より結果が出るまでに時間がかかります。四半期ごとの配属であれば、比較できる母数が揃うまで半年ほど必要になるからです。そのぶん、経営層に対して業務が変わったことを示す材料としては強く働きます。
このメーカーの当初の目的は「営業が過去の経緯を自分で引ける状態をつくる」ことでしたが、6か月目に配属された新任2名の立ち上がりは、従来の3か月から2か月へ短縮されました。年間で10名が配属される規模では、1名あたり1か月分の稼働が前倒しになった計算です。
指標設計の詳細は、ほか記事「定着と精度を測る指標の設計」で解説しています。
Coworkerの利用にかかる費用の2つの型
定着を測る3つの指標を見てきましたが、社内で稟議を通すには費用の見通しも必要になります。Agentforce Coworkerの費用は、契約しているエディションによって扱いが変わる点に注意してください。すでに対象のエディションを契約していれば追加の支払いは発生しない一方で、使用量に応じて消費される部分は残ります。この2つを分けて把握しておかないと、稟議の場で総額を説明できません。
そこでここでは、Agentforce Coworkerの利用にかかる費用を2つの型に分けて解説します。
型①ライセンスに含まれ追加費用が出ない型
1つ目は「ライセンスに含まれ追加費用が出ない型」です。すでに対象のエディションを契約していれば、Agentforce Coworkerの利用に追加の支払いは発生しません。
Salesforceが2026年8月5日に公開した日本市場向けの発表では、Agentforce for Sales、Agentforce for Service、Agentforce 1 Editionsの利用者が追加費用なしでAgentforce Coworkerを使えるとされています。新しい製品を購入する形とは違い、契約中のエディションの機能として提供される形です。
この産業機械メーカーは、Sales CloudのEnterprise EditionにAgentforce for Salesを追加した構成でした。そのため、Agentforce Coworkerの利用に追加の予算は計上していません。稟議で説明したのは、初期の設定にかかる工数と、Data 360を後から接続する場合の費用でした。
Agentforce for Sales・for Service・Agentforce 1 Editionsを契約していれば、Agentforce Coworkerの利用に追加費用は発生しません。
型②Flex Creditsで使用量に応じて課金される型
2つ目は「Flex Creditsで使用量に応じて課金される型」です。Agentforce CoworkerとData 360のクエリの使用量に応じて、クレジットが消費されます。
Flex Creditsの購入価格は、日本では10万クレジットあたり60,000円です(米国では同数量が500ドル)。1つの標準的なアクションを実行すると20クレジット、金額にして12円が消費される計算になります。あわせて、Enterprise Edition以上を利用している場合は、Salesforce Foundationsを通じてクレジットが無料で付与されます。付与される量は契約条件によって異なるため、自社の契約内容で確認してください。
先ほどのメーカーでは、営業8名で月520回の照会が発生した1か月目の消費量を確認したうえで、30名へ広げた場合の見込みを試算しました。検証の段階では無料枠の範囲に収まっており、追加の購入判断は対象を広げてからの検討事項としています。
Flex Creditsの単価体系は、ほか記事「Agentforce料金・ライセンス」で詳しく整理していますので、そちらもご確認ください。
Coworkerを使い始める4ステップ
型①と型②で費用の考え方を整理してきましたので、ここからは実際に使い始めるまでの手順を確認します。Agentforce Coworkerの設定は、エージェントを一から設計する場合と比べて短い工程で済むはずです。ただし工程が短いぶん、どの順番で進めるかが結果を左右します。とくに権限の割り当てと参照範囲の指定は、公開のあとから狭めるのが難しい部分です。
そこでここでは、Agentforce Coworkerを使い始める4ステップを解説していきます。
ステップ①対象エディションと提供状況を確認する
まず確認するのは、自社の契約が対象に含まれているかどうかです。あわせて、提供の状況がどう案内されているかも押さえておきます。
Agentforce Coworkerは、日本市場では2026年8月5日に一般提供が始まったと発表されています。一方で、Salesforceの開発者向けドキュメントでは、参照した2026年8月24日時点でベータサービスとして案内されており、ベータサービス規約が適用されるとの記載でした。どちらか一方だけを見て判断すると、社内での説明が食い違うことになります。
このメーカーでは、稟議の資料に発表内容とドキュメントの記載を両方載せました。情報システム部から提供状況を問われた際に、確認済みであることを示せる形にしておくためです。
自社の契約と提供状況を確認するところから始めれば、後戻りの少ない進め方になります。
ステップ②Setupでトグルを有効にする
次に、Salesforceの設定画面でAgentforce Coworkerの機能を有効にします。ここは設定を切り替えるだけの工程です。
有効化の操作に時間はかかりません。ただし、有効にした時点で誰が使えるようになるのかは、次のステップの権限割り当てで決まります。有効化と利用開始を同じタイミングにしない設計にしておけば、準備が整った利用者から順に開放できます。
この産業機械メーカーでは、有効化と同じ日に営業へ案内する予定でしたが、共有設定の点検が終わっていなかったため、有効化だけ先に済ませています。案内を出す日を決める基準は、共有設定の点検が終わっているかどうかの一点です。点検が済んでいない段階で案内すると、営業が使い始めたあとで参照範囲を狭めることになります。
ステップ③権限セットを対象ユーザーに割り当てる
有効化が済んだら、使い始めるユーザーへ権限を割り当てます。ここで利用の範囲が決まります。
フロッグウェルの検証記事によると、権限セットライセンスとして「Ask Agentforce Setup」と「Ask Agentforce」が用意され、権限セットには「エージェンティックエンタープライズ検索ユーザー」と「エージェンティックエンタープライズ検索管理者」があるとされています。管理者側と利用者側で割り当てる内容が異なるため、対象を分けて設定します。
このメーカーは、営業30名のうち先行する8名にだけ利用者側の権限を割り当てました。2か月目に照会の回数と口頭確認の変化を確認してから、残る22名へ広げています。全員に同時に開放しなかったのは、回答の傾向を見てから接続ソースを調整するためでした。
ステップ④参照させるデータソースを絞って開始する
最後に、参照させる範囲を決めて公開します。ここを広く取りすぎると、落とし穴②で挙げた回答のぶれが起きます。
開始時点の範囲は、営業が最も開いているオブジェクトから選びます。取引先・商談・ケースの3つで営業の照会の大半に答えられるなら、その3つで始めれば十分です。参照先を追加する判断は、回答の精度を確認してからでも遅くありません。
先ほどのメーカーも、CRMの3オブジェクトとSlackの2チャンネルで開始し、提案書の保管先は初期の対象から外しました。Agentforceの設定手順の一般的な流れは、ほか記事「最初のエージェント1体を作るまでの設定手順」で扱っています。以上が、Agentforce Coworkerを使い始める4ステップでした。
Coworkerが向いている営業組織の3つの条件
4ステップの手順を確認してきましたが、どの営業組織でも同じ効果が出るわけではありません。Agentforce Coworkerが効くかどうかは、情報がどう蓄積されているかで決まります。同じ人数の営業組織でも、記録の残り方と相談の行われ方で結果は変わってくるでしょう。自社が条件を満たしているかを先に確かめておくと、導入の順番を判断しやすくなります。
そこでここでは、Agentforce Coworkerが向いている営業組織の3つの条件を整理していきます。
条件①商談の経緯が文章でCRMに残っていること
1つ目は「商談の経緯が文章でCRMに残っていること」です。参照できる材料が蓄積されていなければ、照会に答えるための情報が残っていません。
Agentforce Coworkerが返す回答は、社内に残っている記録から組み立てられます。記録が金額と日付だけであれば、返せるのも金額と日付だけです。経緯を答えられるかどうかは、経緯が文章として書かれているかにかかっています。
この産業機械メーカーの商談メモは、1商談あたり平均7件ありました。自由記述で読みにくい状態だったからこそ、横断して引ける手段が効いたわけです。入力の量が少ない組織では、まず記録を残す運用のほうが先になります。
Agentforce Coworkerが向くかどうかは、機能の理解より、社内に経緯が文章として残っているかどうかで決まります。
条件②案件の相談がSlackで行われていること
2つ目は「案件の相談がSlackで行われていること」です。CRMに転記されない議論が、参照できる場所に残っているかを確認します。
案件の相談がメールや口頭で行われている組織では、決まるまでの経緯がどこにも蓄積されません。チャットで行われていれば、発言がそのまま記録として残ります。転記の運用を新しく作らなくても、参照先として使える状態にあるわけです。
このメーカーの案件相談チャンネルには月におよそ900件の投稿があり、Agentforce Coworkerの回答に厚みを持たせる材料になりました。同じ規模でも、相談が会議室で完結している組織では、この効果は出ません。判断の目安は、案件に関する相談のうち文字で残っている割合です。半分以上がチャットに残っているなら、接続する価値があると考えてよいでしょう。
条件③新任の立ち上がりに時間がかかっていること
3つ目は「新任の立ち上がりに時間がかかっていること」です。社内の経緯を知らない人が定期的に入ってくる組織ほど、照会の需要が大きくなります。
配属が数年に一度であれば、立ち上げの負担は年間を通して分散します。四半期ごとに新任が入る組織では、ベテランへの説明が年に4回発生し続けます。この繰り返しが、Agentforce Coworkerで置き換えられる部分です。
先ほどのメーカーでは年間10名が配属され、1名あたり6時間の説明が発生していました。合計で年60時間がベテラン営業の説明に使われていた計算になります。
どの業務から始めるかを迷う場合は、ほか記事「Agentforceのユースケースの選び方は?どの業務から始めるかを決める5つの判断軸」をご確認ください。
Coworkerを急がなくてよい3つのケース
向いている条件を3つ挙げましたが、逆に、いま着手しなくてよい組織もあります。条件が揃っていない状態で始めても、回答の材料が足りず、営業が使わないまま終わることになります。着手を見送る判断は、Agentforce Coworkerが不要という意味ではありません。先に整えるべき工程があり、その順番を守るほうが結果的に早いという判断です。
そこでここでは、Agentforce Coworkerを急がなくてよい3つのケースを整理します。
ケース①CRMの入力が定型項目だけで終わっている
1つ目は「CRMの入力が定型項目だけで終わっている」です。選択リストと数値だけが埋まっている状態では、照会で引き出せる内容が限られます。
定型項目だけの記録でも、集計や進捗の管理には十分に機能します。ただし「なぜその金額になったのか」という問いには答えられません。項目の値をなぞるだけの回答であれば、レポートを見るほうが早いということになります。
この場合は、商談メモを書く運用を先に整えるほうが順番として合っています。記録が増えてから接続しても遅くはありません。整い始めたかどうかは、1商談あたりのメモの件数で測れます。件数が増え、訪問のたびに内容が残るようになった時点が、接続を検討する段階です。
CRMの入力が定型項目だけで終わっている段階では、照会の仕組みより、経緯を記録する運用を先に整えるほうが効果が出ます。
ケース②参照させたい情報が1つのシステムに収まっている
2つ目は「参照させたい情報が1つのシステムに収まっている」です。横断する必要がなければ、既存の検索で足りることもあります。
Agentforce Coworkerの利点は、複数の場所に分かれた情報をまたいで回答を組み立てるところにあります。参照先が1つであれば、その利点は小さくなります。CRMの標準検索やレポートで目的の情報にたどり着けているなら、急いで接続する理由は見つかりません。
検討を始める目安は、参照したい情報が2つ目のシステムに置かれ始めた時点です。たとえば案件の相談がチャットへ移り、決まった内容だけがCRMに転記される状態になっていれば、横断して読む必要が生まれています。逆に、いまも1つの画面で完結しているなら、接続を急ぐ理由は見つかりません。
ケース③権限設計の社内合意がまだ取れていない
3つ目は「権限設計の社内合意がまだ取れていない」です。誰が何を参照してよいかが決まっていない状態では、公開の判断ができません。
落とし穴①で挙げたとおり、Agentforce Coworkerは共有設定の範囲で回答します。合意が取れていないまま公開すると、あとから範囲を狭める作業が発生します。一度見えた情報を見えない状態に戻すのは、設定の変更だけでは済みません。
先ほどのメーカーが公開の2週間前に共有設定を点検したのは、この手戻りを避けるためでした。合意が取れているかを測る基準は、値引きや原価のように部門をまたいで扱いが分かれる項目について、誰まで見せるかが決まっているかどうかです。この判断が残っている段階なら、その工程を先に終わらせてから着手しましょう。
【一問一答】Agentforce Coworkerに関するよくある質問
ここまで、照会の場面から向き不向きまでを設計の観点で整理してきましたが、検討の初期には提供状況や費用に関する確認も出てきます。とくに一般提供とベータ表記が併存している点は、社内で説明する際につまずきやすい部分です。あわせて、実行できる範囲がどこまでかという質問も、情報システム部から出てくることが多いのではないでしょうか。
そこでここでは、Agentforce Coworkerに関するよくある質問を5つ取り上げます。
質問①Agentforce Coworkerは追加費用なしで使えるのか
Agentforce for Sales、Agentforce for Service、Agentforce 1 Editionsの利用者は、追加費用なしで使えるとされています。ただし、Agentforce CoworkerとData 360のクエリの使用量に応じてFlex Creditsが消費されるため、利用量が増えれば費用は発生します。
質問②Agentforce Coworkerはベータなのか一般提供なのか
日本市場では2026年8月5日に一般提供が始まったと発表されています。一方で、Salesforceの開発者向けドキュメントではベータサービスとして案内され、ベータサービス規約が適用されるとされています。導入を社内で説明する際は、両方の記載を確認したうえで判断してください。
質問③Agentforce CoworkerはSlack以外からも使えるのか
Lightningのグローバル検索とモバイルからも呼び出せます。開発者向けドキュメントでは、Microsoft TeamsやChatGPT、Claude、デスクトップアプリへの対応が順次予定されているとされていますが、時期は明示されていません。
質問④Agentforce Coworkerはレコードを更新できるのか
実行できる範囲は環境と提供の段階によって変わります。フロッグウェルの2026年6月1日の検証記事では、2026年6月時点でレコードの作成・更新・削除は実行できなかったと報告されていました。自社の環境で何が動くかは、実際に確認してください。
質問⑤Agentforce CoworkerにData 360は必須なのか
CRMのレコードとSlackの会話を参照するだけであれば必須ではありません。Salesforceの外にあるファイルやデータベースを参照させたい場合に、Data 360を経由する構成を検討することになります。
Agentforce Coworkerは営業が過去の経緯を自分で引ける状態をつくる
本記事では、営業が引ける照会の場面から、任せる範囲の決め方、承認を挟む判断軸、定着を測る指標、費用の考え方、そして着手すべきかどうかの判断までを解説してきました。
営業がAIを使うかどうかは、機能の多さで決まるものではありません。誰かに聞かないと分からない情報がどれだけ残っているかで決まります。聞かないと分からない状態が続く限り、確認のやり取りは減らないからです。
今回例に挙げた産業機械メーカーも、当初の目的は「営業が過去の経緯を自分で引ける状態をつくる」ことでした。取引先・商談・ケースの3オブジェクトとSlackの2チャンネルに絞って開始した結果、導入前に月480件あった口頭確認は3か月目に月180件まで減り、新任営業の立ち上がりは3か月から2か月へ短縮されています。参照先を広げる前に、営業が最も開いている場所から接続したことが効きました。
まずは自社の営業が、月に何件の口頭確認をしているかを数えるところから始めてみてはいかがでしょうか。定着まで伴走してほしい場合や、どの業務から接続し、どこまでを任せるかの整理を一緒に進めたい場合は、Agentforce導入・定着支援では無料相談も受付けています。1ユースケース×3ヶ月のスモールスタートから対応しています。
※Agentforce Coworkerの日本市場での一般提供と課金条件に関する参考記事はこちらです(2026年8月5日発表)。
※権限セットライセンスと2026年6月時点の実行範囲に関する参考記事はこちらです(2026年6月1日掲載)。
※Flex Creditsの購入価格は、Salesforce公式のAgentforce料金ページ(2026年8月25日時点)に掲載されている「60,000円/100,000クレジットあたり」にもとづいています。参考ページはこちらです。
