「メールやチャットはAIに任せられても、電話だけは人が出るしかない」という声を、Salesforceを運用している企業からよく聞きます。日本語版のAgentforce Voiceが2026年8月7日に提供開始されたことで、この前提が動き始めました。
そこで本記事では、Agentforceの音声機能であるAgentforce Voiceについて、電話業務のどこまでを任せ、どこから人に代わるのかという設計の観点から解説します。
今回は、産業用ポンプの保守・修理を請け負う中堅企業のケースも交えて進めていきます。従業員340名、営業18名、カスタマーサポート6名、情報システム部3名という体制で、Sales Cloudを4年、Service Cloudを3年運用してきた企業です。この企業は説明のための架空の設定であり、実在の企業ではありません。
- Agentforce Voiceの検討が始まる3つの状況
- Agentforce Voiceが担う3つの動作
- Agentforce Voiceが対応する3つのチャネル
- Agentforce Voiceに任せない3つの場面
- Agentforce Voiceを使う前に必要な3つの前提
- Agentforce Voiceの費用を見積もる3つの確認項目
- Agentforce Voiceの導入でつまずく3つの落とし穴
- Agentforce Voiceを使い始める4ステップ
- Agentforce Voiceが向く3つの電話業務
- 音声の記録を営業活動へつなぐ3つの設計
- Agentforce Voiceの効果を測る3つの指標
- Agentforce Voiceが向いている企業の3つの特徴
- Agentforce Voiceを急がなくてよい3つのケース
- 【一問一答】Agentforce Voiceに関するよくある質問
- Agentforce Voiceは用件の切り分けまでを任せ交渉は人に残す
当社はSalesforce公式コンサルティングパートナーとして、 ソリューション営業に特化したAgentforce導入・定着支援を 行っています。
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この記事を書いた人
合同会社クロスコムの代表|専門商社にて7年間のBtoB営業を経て、マーケティング業界に参入。現在はSalesforce公式コンサルティングパートナーとして、ソリューション営業の業務プロセスに特化したAgentforce導入・定着支援と、Agentic CRM設計支援を提供している。
Agentforce Voiceの検討が始まる3つの状況
電話をAIに任せるという話は、機能への興味から始まることは多くありません。実際には、現場で起きている具体的な困りごとが検討のきっかけになります。Agentforce Voiceを検討している企業に共通しているのは、受電の中身を数えたときに、同じやり取りの繰り返しが想像以上の割合を占めていたという気づきです。取れなかった電話や、記録に残らなかった通話も、数えて初めて量が見えます。そこでここでは、Agentforce Voiceの検討が始まる典型的な3つの状況を整理します。
状況①同じ聞き取りを毎回繰り返している
1つ目は「同じ聞き取りを毎回繰り返している」です。故障や不具合の連絡を電話で受ける業務では、最初のやり取りがほぼ固定されています。
たとえば、先ほどの産業用ポンプの保守企業では、受電が月におよそ900件ありました。そのうち、型番と症状を聞き取って担当部署へ振り分けるだけで終わるものが、月におよそ500件を占めていました。カスタマーサポートは6名です。1件あたりの平均通話が7分でしたから、この聞き取りだけで月に58時間ほどが費やされており、1人あたりに直すと月に10時間近くを同じ質問の繰り返しに使っていた計算になります。
現場の担当者からは「型番を聞いて部署に回すだけの電話に、一日の半分が取られている」という声が上がっていました。判断らしい判断が入らない作業が、受電の半分以上を占めている状態だったわけです。
受電のうち、聞き取りと振り分けだけで完結する用件が半分を超えているなら、Agentforce Voiceを検討する条件は揃っています。件数の多さより、定型で終わる用件の比率のほうが判断材料になります。まずは1か月ぶんの受電を用件別に数えてみてください。
状況②つながらず折り返しになる件数が多い
2つ目は「つながらず折り返しになる件数が多い」です。受電の体制が薄い時間帯があると、電話が取れないまま残ります。
この保守企業では、つながらず折り返しになる件数が月におよそ120件ありました。とくに平日の夜間と土曜に集中しており、月曜の朝に折り返しの依頼が溜まる状態が続いていたのです。折り返した時点で相手が不在という往復も起きており、1件を完了させるのに2回以上かけ直すケースが珍しくありませんでした。
工場やプラントの設備は、稼働が止まってから連絡が入ります。相手にとっては、連絡がつかない時間があること自体が損失につながる状況でした。営業時間を延ばすには人を増やすしかありませんが、120件という件数のために夜間の当番を組むのは現実的ではありません。
時間帯によって受けられない電話が出ているなら、人を増やす前に検討できる選択肢があります。判断の材料になるのは、折り返しの件数と、それが特定の時間帯に偏っているかどうかの2点です。
状況③電話の内容がCRMに残っていない
3つ目は「電話の内容がCRMに残っていない」です。通話で得た情報は、担当者が後から入力しなければデータになりません。
具体例でいうと、この保守企業で電話の内容がCRMに記録される割合は、およそ4割にとどまっていました。急ぎの対応が続くと入力が後回しになり、そのまま忘れられてしまうためです。残った4割についても、記入の粒度は担当者ごとにばらついていました。症状を一行で書く担当者もいれば、聞き取った内容をそのまま貼り付ける担当者もいたのです。
その結果、同じ顧客から次の連絡が入っても、前回何を話したかを担当者が思い出せない場面が起きていました。「前回と同じ症状です」と言われても、前回の記録がなければ確認から始めるしかありません。相手にとっては同じ説明を繰り返すことになります。
通話の記録が残らないことは、対応品質だけでなく、あとで説明するように営業活動にも影響します。自社の電話がデータとして蓄積されているかどうかを、ケースの入力率から確認してみてください。
Agentforce Voiceが担う3つの動作
先ほど挙げた3つの状況は、いずれも音声チャネルの処理が人の手作業に依存していることから生じています。では、Agentforce Voiceは実際に何をするのでしょうか。従来の自動音声応答との違いは、応答するだけで終わるか、業務の処理まで進むかにあります。Agentforce Voiceは聞き取りを担うだけでなく、Salesforceのデータを更新し、後続の処理を起動するところまでが守備範囲です。ここでは、Agentforce Voiceが担う3つの動作を確認していきます。
動作①音声で用件を聞き取る
1つ目は「音声で用件を聞き取る」です。かかってきた電話に応答し、相手の話す内容を理解して、必要な情報を引き出します。
従来の自動音声応答は、番号を押して分岐をたどる形式でした。修理のご依頼は1番、部品のご注文は2番、といった案内を聞いてから選ぶ方式です。Agentforce Voiceでは、相手が話した内容から用件を判断します。決められた順番どおりに質問を並べる方式と違い、相手がすでに話した情報は聞き直さずに進められます。
先ほどの保守企業の場合、聞き取る項目は型番・症状・設置場所の3つでした。相手が最初に「型番○○のポンプから異音がする」と話せば、残りは設置場所だけを尋ねれば足ります。分岐をたどらせる方式では、この3項目を聞き終えるまでに1分近くかかっていました。
Agentforce Voiceは、番号選択の分岐をたどらせずに、相手が話した内容から不足している項目だけを聞き取ります。聞き取りの設計は、項目の数と、聞く順番をどこまで自由にできるかの2点で考えると整理しやすいでしょう。機能の一覧は、ほか記事「Agentforceの機能一覧」で全体像として扱っています。
動作②CRMのレコードを更新する
2つ目は「CRMのレコードを更新する」です。聞き取った内容を、その場でSalesforceのデータとして書き込みます。
報道によると、Agentforce Voiceは「CRMレコードの更新、ケース作成、ワークフローの自動実行、API連携などの業務を音声チャネル上で実行する」とされています。通話しながら記録が残るため、担当者が後から入力する工程が発生しません。入力の順番を待つ必要がないぶん、記録の内容も通話の直後の状態がそのまま残ります。
この保守企業では、聞き取った型番と症状からケースを起票し、設置場所に応じた担当部署を割り当てるところまでを任せました。人が入力していたときは記録が4割にとどまっていましたが、聞き取りと同時に書き込まれる形に変えたことで、記録の有無が担当者の余裕に左右されなくなりました。
注意したいのは、書き込める内容がSalesforce側の項目設計に依存する点です。自由記述の欄しか用意されていなければ、聞き取った内容は文章として残るだけになります。型番を製品マスタと突き合わせたいなら、その参照関係を先に作っておいてください。入力の手間が消えるという効果より、記録の抜けがなくなるという効果のほうが大きいと考えます。
動作③後続の処理を実行する
3つ目は「後続の処理を実行する」です。記録を残すだけで終わらず、次のアクションまで動かせる点が特徴です。
具体的には、担当者へのエスカレーション、注文処理、予約変更といった業務が、通話の中での実行対象とされています。フローを起動する形になるため、すでにSalesforce上で自動化している処理があれば、それを音声から呼び出せます。新しく処理を作り直す必要はありません。
たとえば、この保守企業では、緊急度の高い症状を聞き取った場合に、当番の技術者へ通知を飛ばす処理を組み込みました。夜間に受けた連絡が翌朝まで止まっていた状態から、受電の時点で担当へ届く形に変わっています。通知には、聞き取った型番と設置場所が含まれるため、技術者は折り返す前に状況を把握できました。
ただし、実行できる範囲を広げるほど、誤った実行が起きたときの影響も大きくなります。注文処理まで任せるかどうかは、次の章で扱う任せない範囲の設計と一緒に決める必要があります。どこまで実行させるかは、機能として可能かどうかより先に、取り消しがきくかどうかで判断してください。
Agentforce Voiceが対応する3つのチャネル
ここまでAgentforce Voiceの動作を見てきましたが、「音声」といっても、受け付ける経路は電話だけではありません。どの経路から受けるかによって、最初に聞き取るべき項目の数が変わります。相手がすでに自社のページやアプリを開いているなら、そこから分かる情報は聞き直す必要がないからです。自社がどの経路を持っているかは、Agentforce Voiceの設計にそのまま影響します。ここでは、Agentforce Voiceが対応する3つのチャネルを整理します。
チャネル①電話での応対
1つ目は「電話での応対」です。既存の電話番号にかかってきた通話を、Agentforce Voiceが受けます。
電話をつなぐには、通話の基盤となる仕組みが必要です。報道では、連携先としてGenesysと、コムデザインのクラウドCTIであるCT-e1/SaaSが挙げられています。すでに導入している電話基盤がこれらに該当するかどうかが、最初の確認点になります。
先ほどの保守企業は、コールセンター向けの基盤を数年前に入れ替えたばかりでした。契約が残っている状態でしたが、入れ替えの直後だったことが、かえって検討を進めやすくしています。基盤の担当ベンダーとの窓口がまだ動いており、接続の可否をすぐ確認できたためです。
接続の可否は自社の環境で変わります。電話基盤の担当者を早い段階で巻き込んでおくと、確認が滞りません。逆にいえば、この確認が終わるまでは設計に着手しても手戻りが出ます。確認する項目は、接続の可否、いまの番号をそのまま使えるか、同時に何本まで受けられるかの3つです。この3点をまとめてベンダーへ投げておくと、往復が1回で済みます。
チャネル②Webサイトからの音声
2つ目は「Webサイトからの音声」です。電話番号にかける代わりに、Webページ上から音声で問い合わせてもらいます。
この形が向くのは、相手がすでに自社サイトを見ている場面です。製品ページを開いたまま音声で質問できれば、どの製品についての問い合わせかという情報が最初から揃っています。電話では最初に聞き取る必要がある項目を、省略できるわけです。型番を口頭で伝える手間も、ページの情報で代替できます。
Webサイトからの音声では、相手が見ているページの情報を前提にできるため、聞き取る項目の数を減らせます。
保守企業のケースでは、製品ごとの取扱説明ページに導線を置く案が挙がりました。ただし、同社の顧客は工場の設備担当者で、現場から電話をかけてくる割合が高いという事情があります。まずは電話から始め、Webは次の段階に回す判断をしました。どのチャネルを先に整えるかは、相手がどこから連絡してくるかで決まります。判断の目安は、問い合わせが現場から発生しているのか、それとも事前に情報を調べている段階で発生しているのかという違いです。前者が多いなら電話から、後者が多いならWebから着手してください。
チャネル③モバイルアプリからの音声
3つ目は「モバイルアプリからの音声」です。自社が提供するアプリの中から、音声で問い合わせを受けます。
報道では、電話チャネルに加えてWebサイトやモバイルアプリをはじめとするデジタルチャネルに対応するとされています。アプリを使う相手は、ログイン済みであることがほとんどです。誰からの連絡かを聞き取らずに済むため、本人確認の工程を短くできます。
現場向けのアプリを持っている企業では、作業中の技術者が音声で照会するといった使い方も考えられます。両手がふさがっている状況で、機器の履歴を音声で確認できれば作業が止まりません。
一方で、アプリを持っていない企業にとっては当面関係のないチャネルです。新しくアプリを作ってまで音声を載せる判断は、費用の面で見合わないでしょう。自社がどのチャネルを使えるかは、既存の顧客接点から逆算して決めるほうが早く決まります。先ほどの保守企業も、現時点で自社アプリを提供していないため、このチャネルは検討の対象から外しています。
Agentforce Voiceに任せない3つの場面
対応できるチャネルが分かると、次に決めるべきは範囲です。何ができるかを広げて考えるより、任せない場面を先に決めるほうが設計は進みます。電話には、テキストのやり取りと違って訂正を送り直せないという性質があるからです。相手が受け取った内容がそのまま残るため、任せてよい用件と人が受けるべき用件の線引きを、公開前に文書として決めておく必要があります。そこでここでは、Agentforce Voiceに任せない3つの場面を整理します。
場面①条件や価格を交渉する場面
1つ目は「条件や価格を交渉する場面」です。金額や納期の条件が動く会話は、人が担当します。
なぜなら、交渉では相手の反応を見ながら提示する内容を変える必要があり、判断の根拠を後から説明できる形で残さなければならないからです。エージェントが提示した条件が社内の承認範囲を超えていた場合、その取り消しには相手との調整が発生します。電話では発言が記録に残りにくいぶん、言った言わないの確認にも手間がかかります。
先ほどの保守企業でも、修理費用の見積もりに関わる会話は最初から対象外にしました。緊急対応の割増料金について問い合わせが入った場合は、金額を答えずに担当へつなぐ設計にしています。同社では割増率が契約区分によって3種類に分かれており、区分の判断には人の確認が必要な作業でした。
金額が動く会話を任せない、という線引きが最も分かりやすい基準になります。逆にいえば、金額に触れない用件であれば、任せる候補として検討できます。
場面②想定していない例外への対応
2つ目は「想定していない例外への対応」です。事前に用意していないパターンの相談は、人が引き取ります。
エージェントが動けるのは、参照できる情報と定義された処理の範囲までです。範囲の外にある相談を受けたとき、無理に答えようとすると誤った案内が出ます。テキストのやり取りであれば後から訂正を送れますが、電話では相手が受け取った内容がそのまま残るのです。
想定外の相談にエージェントが答えようとした結果の誤案内は、電話では取り消しがきかないため、あらかじめ人へ渡す条件を決めておく必要があります。
この保守企業では、他社製の機器と組み合わせた設置についての相談が、月に数件入っていました。件数は多くありませんが、回答を誤ると現場の安全に関わります。こうした相談は、症状の聞き取りに入る前に担当へ転送する条件として登録しました。判断の基準は、社内に参照できる根拠があるかどうかの一点です。根拠が社内にない相談を1件でも任せた時点で、誤案内は起こりうると考えてください。件数の少なさは、任せてよい理由になりません。
場面③相手が強い不満を示している場面
3つ目は「相手が強い不満を示している場面」です。苦情として寄せられた連絡は、早い段階で人が対応します。
不満を示している相手にとって、機械的な応答が返ること自体が新たな不満の原因になります。用件を正確に聞き取れたとしても、対応としては適切ではありません。ここで問われているのは処理の精度ではありません。誰が受けるかという設計です。
保守企業のケースでは、過去に修理の遅れがあった顧客からの連絡について、担当者へ直接つなぐ設定を入れました。同じ顧客の対応履歴を参照して分岐させる形です。直近30日以内に同じ設備で2回以上ケースが起票されている場合も、同じ扱いにしています。
相手の状態によって受け手を変える設計は、電話ならではの配慮が要る部分だといえます。履歴から判断できる条件は、公開前に洗い出しておきましょう。
【判定表:用件タイプ別の任せ方】
| 用件のタイプ | 任せ方 | 判断の理由 |
|---|---|---|
| 型番・症状の聞き取り | 任せる | 項目が固定・誤りを後から訂正できる |
| 予約や日程の変更 | 任せる | 選択肢が有限・結果が記録に残る |
| 進捗や状況の確認 | 任せる | 参照するデータが決まっている |
| 金額・納期の条件提示 | 人に代わる | 承認範囲の判断が必要 |
| 想定外の組み合わせ相談 | 人に代わる | 参照できる根拠がない |
| 苦情・強い不満 | 人に代わる | 受け手を選ぶ必要がある |
Agentforce Voiceを使う前に必要な3つの前提
任せない場面まで決めたところで、次に確認するのは環境です。範囲の設計が正しくても、接続や参照するデータが整っていなければAgentforce Voiceは動きません。とくに電話基盤との接続は、社内だけで判断できないことが多く、確認に時間がかかります。着手してから前提が欠けていると分かると、設計にかけた時間はそのまま手戻りです。ここでは、Agentforce Voiceを使う前に必要な3つの前提を確認します。
前提①電話基盤との接続の可否
1つ目は「電話基盤との接続の可否」です。確認するのは、自社が使っている電話の仕組みが接続の対象になっているかどうかです。
先に触れたとおり、連携先としてGenesysとCT-e1/SaaSが挙げられています。自社の基盤がこれらに該当しない場合、接続の可否が検討の前提になります。番号の移行が必要かどうか、同時に何本の通話を受けられるかも、あわせて確認しておく項目です。
この保守企業では、情報システム部が3名という体制でした。電話基盤は外部のベンダーに運用を任せていたため、まずそのベンダーへ接続の可否を確認するところから始めています。回答が返るまでに2週間かかりました。社内だけで判断できない項目があると、確認だけで数週間を要することも珍しくありません。
検討のスケジュールを引くときは、この確認期間を最初に置いてください。接続できないことが後から分かると、設計にかけた時間が無駄になります。確認をどこまで自社で進められるかは、番号と回線の契約を自社が持っているかどうかで分かれます。自社で持っていれば社内で答えが出ますが、ベンダーに預けている場合は照会の往復が必要です。
前提②回答の根拠になる情報の整備
2つ目は「回答の根拠になる情報の整備」です。エージェントが参照するデータが揃っていなければ、正確な応答はできません。
型番から製品を特定するには製品マスタが要りますし、担当部署へ振り分けるには設置場所と担当の対応表が要ります。これらが担当者の記憶や個別のファイルにある状態では、エージェントは参照できません。
音声で答えられる範囲は、Salesforce上で参照できるデータの範囲を超えません。
保守企業のケースでは、製品マスタはSales Cloudに揃っていた一方、設置場所ごとの担当は表計算ファイルで管理されていました。この対応表をCRMへ移す作業が、実際には最初の山になっています。全国およそ1,200か所の設置場所と担当の紐付けを整理するのに、3週間ほどかかりました。
回答の精度が上がらない原因の多くは、参照するデータ側にあります。テキストの応対を例にした設計の考え方は、ほか記事「Agentforce Service Agentとは?チャットボットとの違いと導入設計について」で整理していますので参考にしてもらえると嬉しいです。
前提③設定と改善を担う担当者
3つ目は「設定と改善を担う担当者」です。公開したあとに調整を続ける人がいるかどうかを確認します。
音声の応対で必ず起きるのが、聞き取れなかった内容や意図がずれた回答です。それらを見て設定を直す作業が、公開後にしばらく続きます。担当者を決めずに公開すると、精度が上がらないまま利用が止まります。
情報システム部3名のうち、この保守企業では1名が週に3時間ほどを確保する形で担当を決めました。専任である必要はありませんが、誰の担当かが曖昧なままでは調整が進みません。カスタマーサポート側からも1名が参加し、聞き取りの言い回しについて現場の視点で意見を出す体制にしています。担当を決めるときの基準は、専任かどうかではありません。週に一度は必ず記録を見る時間を確保できるかどうかです。その時間が取れない体制のまま公開すると、調整は後回しになります。
運用が続く条件については、ほか記事「Agentforce定着ガイド」で失敗パターンから扱いました。設定を完了させることと、業務が変わることは別だからです。
Agentforce Voiceの費用を見積もる3つの確認項目
ここまで3つの前提を確認してきましたが、次に気になるのは費用です。Agentforce Voiceの費用は、通話量で動く部分と、固定的にかかる部分に分かれます。通話量で動く部分はクレジットの消費として計算できますが、電話基盤側の費用は契約内容によって変わります。既存のライセンスで賄える範囲もあるため、3つを分けて確認しないと総額を読み違えてしまうでしょう。ここでは、Agentforce Voiceの費用を見積もる3つの確認項目を整理します。
項目①通話の量で変わる部分
1つ目は「通話の量で変わる部分」です。エージェントが動いた回数に応じて、Flex Creditsが減っていきます。
音声で応答するVoiceアクションの消費は、1回あたり30クレジットです。Flex Creditsの購入価格は10万クレジットあたり60,000円ですから、1クレジットは0.6円、Voiceアクション1回は18円という水準になります。Salesforceの公式ページには、120フレックスクレジットに月300通話を掛けて月180ドルという試算例も掲載されています。1通話あたり120クレジットという前提です。
先ほどの保守企業で、聞き取りだけで終わる月500件を対象にした場合を考えます。公式の例と同じく1通話あたり120クレジットと見込むと、月に60,000クレジットです。金額にすると月36,000円になります。対象を夜間と土曜に絞れば、この数分の一に収まります。
Voiceアクションは1回30クレジット(18円)で、1通話あたりのアクション数を見積もれば月額の目安が立つはずです。課金の考え方は、ほか記事「Agentforce料金・ライセンス」で3つのモデルに分けて解説しています。
項目②電話基盤側にかかる費用
2つ目は「電話基盤側にかかる費用」です。Salesforce側の費用だけを見ていると、総額を読み違えます。
通話をつなぐには電話基盤が必要で、その利用料や接続の設定費用は別途必要です。ベンダーとの契約内容によっては、同時通話数の上限を増やす追加費用が必要になることもあります。夜間の受付を始めるなら、時間帯によって課金が変わる契約かどうかも確認が要ります。
この保守企業では、夜間と土曜に対象を絞ったことで、同時通話数の上限は既存の契約範囲に収まりました。全時間帯を対象にしていたら、既存の受電と重なるため、基盤側の契約変更が先に必要だったはずです。
対象を絞ることは、精度の面だけでなく費用の面でも効いてきます。基盤側の見積もりは、対象の時間帯と想定する同時通話数を決めてから依頼してください。条件を添えずに見積もりを取ると、最大構成の金額が返ってきます。保守企業では、夜間と土曜という条件を先に伝えたことで、既存契約の範囲に収まるという回答を得られました。
項目③既存の契約に含まれる範囲
3つ目は「既存の契約に含まれる範囲」です。すでに支払っているライセンスで、どこまで賄えるかを確認します。
Enterprise Edition以上を利用している場合、Salesforce Foundationsを通じてクレジットが無料で付与されます。検証段階の利用量であれば、この枠内で試せることも少なくありません。付与される量は変更されることがあるため、契約時点の条件を確認してください。
保守企業のケースでは、Service Cloudを3年運用しており、エディションの条件は満たしていました。12週間の検証は、付与された枠の範囲で進められています。追加の購入を判断したのは、対象の時間帯を広げる検討に入ってからでした。
まず既存契約で何が使えるかを確かめてから、追加の購入を判断する順番であれば無駄が出ません。逆に、最初に大きくクレジットを購入すると、使いきれないまま期限を迎えることもあります。追加購入に踏み切る目安は、検証で消費した量が月ごとに安定してきたときです。消費量が月によって数倍動いている段階では、必要な量を見積もれません。
Agentforce Voiceの導入でつまずく3つの落とし穴
ここまで費用の見積もり項目を整理してきましたが、見立てが立っても進め方を誤ると成果につながりません。Agentforce Voiceの導入で止まる企業に共通しているのは、対象を広げすぎたことと、条件を決めないまま公開したことの2点です。どちらも公開してから気づくため、修正が追いつかなくなってから停止の判断に至ります。先に知っておけば避けられる種類の失敗です。ここでは、Agentforce Voiceの導入でつまずく3つの落とし穴を整理します。
落とし穴①全件を最初から任せる
1つ目は「全件を最初から任せる」です。受電のすべてを対象にすると、調整が追いつきません。
月900件の受電をすべて対象にすると、想定していないパターンが毎日のように出ます。担当者はそのすべてを確認しなければならず、修正が終わる前に次の問題が積み上がるでしょう。結果として、精度が上がらないまま停止する判断に至ります。
先ほどの保守企業は、最初に任せる範囲を受付と一次切り分けだけに絞りました。対象の時間帯も平日夜間と土曜に限定しています。900件のうち、実際に対象となったのは月に100件ほどでした。担当者1名が週3時間で確認しきれる量です。
小さく始める(スモールスタート)進め方の利点は、修正が追いつく量に問題を抑えられる点にあります。対象を広げるのは、修正の件数が落ち着いてからで間に合います。広げる判断の目安は、週あたりの修正が数件まで減った状態が2週間続くことです。保守企業がこの水準に入ったのは、公開から6週目でした。
落とし穴②人へ代わる条件を決めていない
2つ目は「人へ代わる条件を決めていない」です。転送の条件が曖昧だと、現場の判断に委ねられます。
条件を決めずに公開すると、エージェントが答えようとして誤案内が出るか、逆に何でも転送して人の負担が変わらないかのどちらかでしょう。
人へ代わる条件を明文化していない状態で公開すると、誤案内か転送過多のどちらかが必ず起きます。
この保守企業では、公開前に転送条件を6項目にまとめました。金額に触れる相談、他社製品との組み合わせ、苦情、聞き取りが2回失敗した場合、同じ顧客から24時間以内の再連絡、緊急度の高い症状の6つです。この6項目は、次の章のチェックリストとしてそのまま使えます。条件を選ぶときの基準は、誤って答えたときに取り消せるかどうかです。取り消しがきかない領域は、件数が少なくても最初から人が受ける設計にしてください。
人が承認する場面をどう設計するかは、ほか記事「人が承認する場面の設計」で扱っていますので、あわせてご確認ください。電話は記録が残りにくいぶん、条件を文書にしておく価値が高い領域です。
落とし穴③音声の記録を使わないまま残す
3つ目は「音声の記録を使わないまま残す」です。通話の内容が蓄積されても、使わなければ価値になりません。
記録が残るようになると、これまで見えなかった情報が溜まります。ところが、その活用先を決めていないと、ケースの添付データとして眠るだけになります。入力の手間が減ったという効果だけで終わってしまうわけです。
保守企業のケースでは、記録される割合が4割から9割へ変わりました。月900件のうち、記録が残る件数は360件から810件へ増えた計算です。この450件ぶんの情報を活かすため、折り返しが必要な連絡を営業へ渡す仕組みをあとから追加しています。
記録を何に使うかは、公開前に決めておくほうが設計に無駄が出ません。使い道が決まっていれば、聞き取る項目にも過不足がなくなります。保守企業では、営業へ渡すことを前提にしたため、設備の更新時期に触れた発言を残す項目を最初から用意しました。あとから項目を足すと、それ以前の通話は対象外のまま残ります。
Agentforce Voiceを使い始める4ステップ
落とし穴を踏まえると、進め方の順番が見えてくるはずです。Agentforce Voiceは、用件を絞り、条件を決め、時間帯を限って試し、出た問題を直すという順番で進めると、修正が追いつく量に収まります。この順番を入れ替えると、条件を決める前に公開することになり、現場の判断に委ねられる部分が増えます。4つのステップは、どれも数日で終わる作業ではありません。順番に進めた場合の期間の目安も、あわせて示します。ここでは、Agentforce Voiceを使い始める4つのステップを順番に確認します。
ステップ①任せる用件を1種類選ぶ
まず決めるのは、最初に任せる用件です。複数の用件を並行して設計せず、1種類に絞ります。
選ぶ基準は、件数が多く、聞き取る項目が固定されていて、誤っても訂正がきくことの3つです。この3つが揃っている用件であれば、公開後の修正が現実的な量に収まります。1つでも欠けていると、修正の量か影響の大きさのどちらかが跳ね上がります。
先ほどの保守企業が選んだのは、型番と症状の聞き取りでした。月500件と件数が多く、項目は3つに固定され、聞き間違いがあっても担当者が後から直せます。候補には予約変更もありましたが、日程を誤って確定すると訪問の手配に影響するため、こちらは後回しです。どの基準が欠けたかで、跳ね上がる側は変わります。件数の多さか項目の固定が欠ければ修正の量が増え、訂正のきかない用件を選べば1件あたりの影響が大きくなります。
どの業務から始めるかの判断軸は、ほか記事「どの業務から始めるか」を5つの観点で整理していますのでご確認ください。
ステップ②人へ代わる条件を決める
用件が決まったら、次は人へ代わる条件を文書にします。ここを曖昧にしたまま先へ進まないことが重要です。
条件は、内容による分岐と、状態による分岐の2種類で考えると漏れが出にくくなります。内容による分岐は用件の中身から判断するもの、状態による分岐は相手や履歴から判断するものです。前者は設計しやすい一方、後者は参照するデータが揃っていないと実装できません。
転送条件は、用件の中身から判断するものと、相手の履歴から判断するものに分けて洗い出すと漏れが出にくくなります。
【チェックリスト:人へ代わる条件の確認項目】
・金額や納期の条件に触れる相談かどうか・・・触れるなら人へ代わる ・参照できる根拠が社内にあるかどうか・・・ないなら人へ代わる ・相手が不満を示していないかどうか・・・示しているなら人へ代わる ・聞き取りが連続で失敗していないかどうか・・・2回失敗したら人へ代わる ・同じ相手から短時間で再連絡が来ていないかどうか・・・来ていれば人へ代わる ・緊急度の高い症状に該当するかどうか・・・該当するなら人へ代わる
この6項目を、公開前に自社の用件に当てはめて確認してください。保守企業が使ったのも、この形の条件表でした。
ステップ③時間帯を限って試す
条件が固まったら、対象の時間帯を限定して公開します。いきなり全時間帯で動かす必要はありません。
時間帯を絞ると、対象件数が減るだけでなく、担当者が結果を確認する時間を確保できます。夜間や休日を選べば、これまで取れていなかった電話が対象になるため、既存の対応品質を下げる心配もありません。日中に公開すると、うまく動かなかったときに既存の応対と比較されます。
この保守企業は、平日夜間と土曜に絞って12週間の検証を行いました。折り返しが集中していた時間帯とちょうど重なっていたため、月120件の折り返しのうち相当数がその場で完結する形に変わっています。検証中に停止する判断が必要になっても、影響は夜間の受付だけにとどまる設計でした。
検証の期間は、対象を絞っていれば3か月程度が目安になります。短すぎると修正が落ち着く前に判断することになり、長すぎると次の用件への着手が遅れます。保守企業が12週間としたのも、修正が減る時期を見込んだうえでの設定でした。
ステップ④聞き取れなかった内容を直す
最後に、公開後の調整を続けます。ここまでの3つを終えても、精度は使いながら上げていくものです。
確認するのは、聞き取れずに終わった通話と、意図とずれた回答が出た通話の2つです。この2つを毎週見て、聞き取り項目の順番や言い回しを調整します。修正の量は最初の2週間が最も多く、そのあと落ち着いていきます。
保守企業では、担当者1名が週に3時間を使って調整を続けました。最初の2週間で20件ほどの修正が出ましたが、6週目には週に2〜3件まで減っています。多かったのは、型番の読み上げ方が顧客ごとに違うという問題でした。調整を終えてよい目安は、週あたりの修正が数件で落ち着き、同じ原因の繰り返しが出なくなったときです。件数が減っても原因が同じなら、設定より先に用件の選び方を見直してください。
効果を測る指標については、ほか記事「定着と精度を測る指標設計」で扱っています。以上が、Agentforce Voiceを使い始める4ステップでした。
Agentforce Voiceが向く3つの電話業務
ここまで4つのステップを示してきましたが、どの業務が対象になるかも具体的に見ておきましょう。向く業務に共通しているのは、聞き取る項目が決まっていること、選べる選択肢が有限であること、参照するデータがCRMにあることの3つです。この条件を満たしていれば、処理をエージェントが判断できる形に落とし込めます。自社の受電をこの観点で分類してみてください。ここでは、Agentforce Voiceが向く3つの電話業務を整理します。
業務①受付と一次切り分け
1つ目は「受付と一次切り分け」です。かかってきた電話の用件を判断し、適切な担当へ渡します。
この業務が向くのは、聞き取る項目が固定されており、判断の基準が明文化しやすいからです。振り分け先が決まっていれば、エージェントが判断できる形に落とし込めます。振り分けを誤っても、受け取った担当が回し直せば済むという点も、最初の対象として扱いやすい理由です。
受付と一次切り分けは、聞き取る項目と振り分けの基準が決まっているため、最初に任せる対象として最も設計しやすい業務です。
先ほどの保守企業が最初に選んだのも、この業務でした。月500件という件数の多さも、効果を確かめやすくしています。判断が入らない受付業務を月に数百件抱えている企業であれば、同じ入り方が使えるでしょう。一方で、振り分け先が担当者の経験で決まっている場合は、先に基準を文書にする作業が必要です。ここが決まっていない状態では、任せる以前に人によって振り分けが変わります。
業務②予約や日程の変更
2つ目は「予約や日程の変更」です。訪問日や点検日の調整を、通話の中で完結させます。
この業務の特徴は、選べる候補が有限で、結果がデータとして残ることです。相手の希望を聞き取り、空いている枠を提示して確定するという流れが、そのまま処理の順番になります。人が対応しても手順が変わらない業務は、任せやすい部類に入ります。
保守企業では、定期点検の日程変更の連絡が月に60件ほどありました。この業務は次の段階の候補として検討されています。着手を後回しにしたのは、確定した日程が技術者の稼働計画に直結するためです。誤って確定した場合の影響が、聞き取りの誤りより大きくなります。
予約の変更が電話で来る業種であれば、受付と並ぶ有力な対象になります。ただし、確定の直前に人が確認する工程を挟むかどうかは、影響の大きさで判断してください。保守企業の場合、点検の日程は技術者の移動経路にも影響します。確定の前に当日の担当が内容を確認する工程を残す方針で、検討が進んでいます。
業務③状況の確認と案内
3つ目は「状況の確認と案内」です。修理の進捗や部品の入荷予定など、記録済みの情報を伝えます。
参照するデータが決まっているため、回答の根拠がはっきりしています。相手を特定して、該当するレコードの内容を読み上げる形になるからです。人が対応する場合も、画面を見て答えているだけの業務であれば、同じことができます。
この保守企業では、修理の進捗確認の電話が月に80件ほどありました。担当者がケースを開いて状況を伝えるだけの対応です。1件あたり3分程度で終わる短い通話ですが、件数が積み上がると月に4時間ほどになります。この業務を任せる条件は、進捗がケースの項目として更新されていることです。担当者がメモ欄に書いているだけの状態では、読み上げる対象が定まりません。任せる前に確かめたいのは、その情報を人が読み上げるとき画面のどこを見ているかです。決まった項目だけを見ているなら任せられますが、複数の画面を行き来しているなら、まだ整っていません。
ほかの活用例は、ほか記事「Agentforce活用事例7選」で業務単位に整理していますので参考にしてください。
音声の記録を営業活動へつなぐ3つの設計
ここまでは受電の処理を中心に見てきましたが、通話から得られる情報は営業活動にも使えます。記録が残るようになると、これまでサポート側で完結していた情報が、営業からも参照できる資産になります。保守や修理の連絡には、設備の更新や増設の検討が混ざっていることも珍しくありません。渡す条件を決めておけば、営業が拾えていなかった相談を商談の起点にできます。ここでは、音声の記録を営業活動へつなぐ3つの設計を扱います。
設計①折り返しの対象を営業へ渡す
1つ目は「折り返しの対象を営業へ渡す」です。エージェントが受けた連絡のうち、商談につながる可能性があるものを営業へ回します。
保守や修理の連絡には、更新や増設の検討が混ざっていることがあります。従来はサポート側で完結し、営業に情報が届いていませんでした。聞き取った内容から該当するものを抽出できれば、渡す仕組みを作れます。
先ほどの保守企業では、月120件の折り返しのうち、設備の更新時期に触れた連絡を営業へ渡す条件を設定しました。「そろそろ入れ替えも考えている」といった発言が該当します。営業18名に対して、月に十数件が渡る形です。
サポートが受けた電話の中に、営業が拾えていない商談の起点が含まれています。
渡す条件は、更新・増設・入れ替えという語を含む発言に絞りました。条件を広げると営業側の確認作業が増え、渡された情報が見られないまま溜まります。条件の広さを決める目安は、営業1人が1日に確認できる件数です。渡る件数がその範囲を超えそうなら、対象になる語句をさらに絞り込んでください。
設計②通話の要点を商談の記録に残す
2つ目は「通話の要点を商談の記録に残す」です。営業が関わる顧客からの連絡内容を、商談側からも見える形にします。
営業とサポートで記録が分かれていると、営業は顧客が何を相談したかを知らないまま訪問することになるでしょう。通話の要点が商談レコードから参照できれば、訪問前に状況を把握できます。記録される割合が4割から9割へ上がったことが、ここで効いてきます。
保守企業のケースでは、既存顧客への訪問前に直近3か月の通話履歴を確認する運用を加えました。営業が「前回のご相談の件ですが」と切り出せる状態になったわけです。訪問時に前回の症状を知らずに話を始めていた頃と比べ、確認のやり取りが減りました。どこまで残すかの基準は、営業が訪問前に読む時間で決まります。要点が数行で読み終わる粒度なら目を通してもらえますが、通話の全文をそのまま置くと開かれません。
営業側でAgentforceをどう使うかは、ほか記事「営業側のAgentforce」でSDRとSales Coachを例に解説しています。
設計③会話から出た要望を次の提案に使う
3つ目は「会話から出た要望を次の提案に使う」です。通話に現れた不満や要望を、提案の材料として蓄積します。
電話に含まれるのは、アンケートでは出てこない生の言葉です。同じ症状の相談が特定の型番に集中していれば、その顧客群への提案の根拠になります。1件ずつでは見えないものが、量が溜まると傾向として見えてきます。保守企業では、記録が810件まで増えたことで、型番別の相談件数を比べられるようになりました。
こうした設計は、業務の流れを決めてから機能を当てはめる順番でなければ成立しません。どの通話を営業へ渡し、誰がどう使うかは、業務側から決めていく部分です。ツール設定ではなく業務設計から入ってほしい場合や、ソリューション営業に特化した支援がほしい場合、そして定着まで伴走してほしい場合は、Agentforce導入・定着支援にお気軽にご相談ください。1ユースケース×3ヶ月のスモールスタートから対応しています。自社で構築するので設計レビュー・アドバイザリーだけ頼みたい場合も、点検の観点だけを補う形が取れます。
Agentforce Voiceの効果を測る3つの指標
ここまで営業活動への接続を扱ってきましたが、次に決めるのは成果をどう確かめるかです。Agentforce Voiceの効果は、通話を何件減らせたかだけでは測れません。任せる範囲の設計が適切だったか、記録が定着したか、相手にとっての待ち時間が減ったかという3つの側面から見る必要があります。この3つは動く時期が違うため、いつ何を見るかも決めておきましょう。ここでは、Agentforce Voiceの効果を測る3つの指標を整理します。
指標①人へ代わらずに終わった割合
1つ目は「人へ代わらずに終わった割合」です。エージェントだけで完結した通話の比率を見ます。
この指標は、任せる範囲の設計が適切だったかを示します。割合が低ければ、対象にした用件が難しすぎるか、転送条件が広すぎるかのどちらかです。逆に高すぎる場合は、人が受けるべき通話まで抱え込んでいる可能性を疑います。
先ほどの保守企業では、12週間の検証で、対象とした通話のうちおよそ7割が人へ代わらずに終わりました。残りの3割は、条件どおりに担当へ転送された通話です。内訳を見ると、聞き取りの失敗が1割、金額に関する相談が1割、その他の条件が1割でした。
数字の高さより、転送された理由の内訳を見るほうが改善につながります。聞き取りの失敗が多いなら設計の問題ですが、条件どおりの転送が多いなら想定どおりだからです。この内訳を毎週見る必要はありません。月に一度、転送された理由別に集計すれば、設計を直すかどうかの判断には足ります。
指標②CRMに記録が残った割合
2つ目は「CRMに記録が残った割合」です。通話の内容がデータとして蓄積された比率を測ります。
人が入力していた期間との比較ができるため、変化が分かりやすい指標です。記録の有無は、後続の営業活動やサポート品質に直結します。
記録が残った割合は、担当者の入力状況に左右されなくなったかどうかを示す指標として機能します。
保守企業のケースでは、この割合が4割から9割へ変わりました。残る1割は、聞き取りが成立せず転送になった通話です。転送後は人が入力する運用のままなので、ここは従来と同じ水準にとどまっています。
件数の削減より、記録の定着のほうが早く効果として現れました。数字を経営層へ示すときも、入力率の変化は説明しやすい材料になります。あわせて確認したいのは、記録が残ることと、内容が使える粒度であることは別だという点です。項目に沿って書き込まれているかどうかも、月に一度は目を通してください。確認する対象は、無作為に選んだ数件で足ります。項目が空欄のまま形だけ埋まっている記録が続くようなら、聞き取りの順番を見直す合図です。
指標③折り返しの件数の変化
3つ目は「折り返しの件数の変化」です。つながらずに折り返しとなった通話の数を追います。
対象の時間帯を絞って始めた場合、この指標が最初に動きます。取れていなかった電話が受けられるようになるためです。相手にとっての待ち時間が減ったかどうかを、外側から見える形で示せます。
この保守企業では、月およそ120件あった折り返しが、対象時間帯の分だけ減りました。1件あたりの平均通話7分と件数を掛ければ、担当者の作業時間の変化としても示せます。折り返しには相手が不在の往復も含まれていたため、削減できた時間は通話時間の合計を上回りました。
経営層へ報告する際は、件数と時間の両方で示すと伝わりやすいでしょう。なお、この指標は対象の時間帯を広げると再び動きます。時間帯を変えた月は前月との単純な比較ができないため、条件を変えた時期を記録に残しておきましょう。折り返しがゼロにならない点も、あらかじめ共有しておくと誤解が生まれません。転送条件に当たった通話は、これまでどおり人が折り返すことになるからです。
Agentforce Voiceが向いている企業の3つの特徴
指標の置き方まで見てきましたが、そもそも自社が対象になるのかという判断も必要です。Agentforce Voiceが向いている企業には、業種や規模より先に確認できる共通点があります。用件が繰り返されていること、回答の根拠がCRMに揃っていること、電話基盤の変更を社内で判断できることの3つです。いずれも、いまの運用状況を見れば数日で確かめられる項目になります。ここでは、Agentforce Voiceが向いている企業の3つの特徴を整理します。
特徴①同じ用件の電話が繰り返し来る
1つ目は「同じ用件の電話が繰り返し来る」です。用件の種類が限られている企業ほど、設計が現実的になります。
繰り返しがあるということは、聞き取る項目と対応の手順が決まっているということです。処理を定義しやすく、公開後に出る想定外のパターンも少なくなります。逆に、用件の種類が数十に分かれている場合、どこから手をつけるかの判断だけで時間がかかるでしょう。
用件の繰り返しが多い企業ほど、設計の工数に対して効果が大きくなります。
先ほどの保守企業では、受電900件のうち500件が同じ型の聞き取りでした。この比率の高さが、検討を進める根拠になっています。用件の内訳を数えることが、判断の出発点です。数え方は、1か月ぶんのケースを用件の種類で分類するだけで足ります。上位3種類で全体の半分を超えていれば、条件を満たしていると考えてよいでしょう。逆に上位3種類でも3割に届かないなら、対象を絞り込む前に用件の整理から始めてください。分類の粒度が細かすぎることも、比率が上がらない原因になります。
特徴②回答の根拠が社内に揃っている
2つ目は「回答の根拠が社内に揃っている」です。参照するデータがCRMにある企業は、着手が早くなります。
製品情報や顧客情報がSalesforceに集まっていれば、エージェントはそれを参照できます。データが分散している場合、統合の作業が先に必要です。前提の整備にかかる時間が、そのまま着手までの時間になります。
この保守企業は、Sales Cloudを4年、Service Cloudを3年運用していました。製品マスタと顧客情報が揃っていたことで、追加した作業は担当の対応表の移行だけで済んでいます。この移行にも3週間かかりましたが、ゼロから顧客データを整えるのに比べれば短い期間でした。
運用年数が長い企業ほど、この条件を満たしやすいといえます。揃っているかどうかは、担当者が電話中に見ている画面を確認すると分かります。Salesforce以外の画面を開いて答えているなら、そのデータをエージェントは参照できません。
特徴③電話基盤の変更を判断できる
3つ目は「電話基盤の変更を判断できる」です。接続に必要な調整を、社内で決められる状態かどうかを見ます。
電話基盤は、情報システム部門と外部ベンダーの両方が関わることが多い領域です。接続の可否を確認し、必要なら設定を変更するという判断が、期間内に下せるかどうかが分かれ目になります。技術的な難易度より、決裁の経路の問題であることがほとんどです。
保守企業では、情報システム部3名のうち1名が電話基盤の窓口を兼ねていました。ベンダーとのやり取りが1本化されていたため、確認が滞りませんでした。窓口が複数に分かれていると、同じ質問が別々に投げられて回答も分かれます。
誰が判断するかを最初に決めておくと、検討が止まりにくくなります。判断できる状態かどうかを測る材料は、過去1年のあいだに基盤の設定変更を実施したことがあるかどうかです。実績があれば、決裁の経路と所要期間の見当がつきます。変更の実績がまったくない場合は、接続の可否を確認する工程だけを先に切り出し、判断できる体制を作ってから設計へ進んでください。
Agentforce Voiceを急がなくてよい3つのケース
先に挙げた向いている企業の特徴とは逆に、いま着手しなくてよい場合もあります。設計と調整にかかる時間は、対象の件数が少なくても大きくは変わりません。件数が少ない業務に同じ工数をかけても、回収までの期間が延びるだけです。削減できる時間より、準備にかける時間のほうが上回るのであれば、着手を先送りする判断のほうが合理的です。基盤の入れ替えが控えている場合も、順番を変えたほうが無駄が出ません。ここでは、Agentforce Voiceを急がなくてよい3つのケースを挙げます。
ケース①受電の件数が少ない
1つ目は「受電の件数が少ない」です。電話の量が限られていれば、設計にかける工数が見合いません。
月に数十件程度の受電であれば、担当者が対応しても大きな負担にはなりません。設計と調整にかかる時間のほうが、削減できる時間を上回ります。件数が増えてから検討しても遅くはないでしょう。
判断の目安としては、聞き取りだけで終わる用件が月に100件を下回るなら、優先度は高くありません。保守企業の500件に対して5分の1の水準です。ただし、件数が少なくても、特定の時間帯にまったく受けられない状態が続いているなら話は別です。件数の多さと、受けられない時間があることは、分けて評価してください。時間帯が理由であれば、対象を夜間や休日に絞った小さな設計から始められます。件数が理由で見送る場合と、時間帯が理由で進める場合とでは、検討する範囲が変わります。まずは受電の内訳を数え、月100件という目安と、受けられない時間帯があるかどうかの2点で確かめてみましょう。
ケース②用件が毎回異なる
2つ目は「用件が毎回異なる」です。相談内容が一件ずつ違う業務は、対象になりにくい領域です。
用件が固定されていなければ、聞き取る項目も分岐も定義できません。無理に対象にすると、転送ばかりが発生して人の負担が変わらない結果になります。
用件が毎回異なる電話は、任せる範囲を定義できないため、対象から外す判断が適切です。
たとえば、技術的な設計相談を電話で受けている場合が該当します。この保守企業でも、他社製品との組み合わせに関する相談は対象から外しました。月に数件という頻度で、内容も毎回違います。件数が少なく内容が一定しない用件は、人が受けるほうが確実です。判断に迷う場合は、直近1か月のケースから、同じ聞き取り項目で処理できるものを抜き出してみてください。抜き出せた件数が全体の2割に満たなければ、対象から外す判断で構いません。用件が定まらない業務でも、受付だけを切り出せることはあります。相談の中身は人が受けるとして、誰からの連絡かを聞き取る部分だけを任せる形です。
ケース③電話基盤の更改が近い
3つ目は「電話基盤の更改が近い」です。基盤の入れ替えが決まっているなら、その後に検討します。
接続の設定は基盤に依存するため、更改の前に組んだ設定は作り直しになります。更改の時期が1年以内に決まっているのであれば、新しい基盤を前提に設計するほうが無駄が出ません。更改の要件に音声エージェントの接続を含めておけば、選定の段階で確認できます。
先ほどの保守企業は、基盤の入れ替えを終えた直後でした。この順番だったことが、検討を進めやすくしています。逆の順番であれば、検証を終えた設定をもう一度作り直すことになっていたはずです。
更改が控えている企業は、その計画とあわせて検討時期を決めるのが現実的です。更改の時期がまだ決まっていない場合は、現行の基盤で接続できるかどうかだけ先に確認しておくと、更改の要件を決めるときの材料になります。接続できないことが分かれば、次の基盤を選ぶ条件に音声エージェントの対応を加えられます。この確認だけなら、ベンダーへの問い合わせ1回で足りるはずです。
【一問一答】Agentforce Voiceに関するよくある質問
ここまで設計の観点から整理してきましたが、実務では細かい確認事項も出てきます。日本語で使えるのか、どの電話基盤とつながるのか、費用はどう決まるのかといった点は、社内で説明するときに必ず聞かれる項目です。回答の根拠になる情報は、公式ページと報道で確認できる範囲に限られます。提供状況や価格は改定が続く領域のため、確認した時点を添えて共有すると、社内での判断がぶれません。以下の回答も2026年8月時点のものです。最後に、Agentforce Voiceについてよく寄せられる質問に答えます。
質問①Agentforce Voiceは日本語で使えるのか
使えます。日本語版は2026年8月7日に提供が始まりました。日本語以外にも英語やフランス語などが順次提供される予定で、一部の言語はベータでの対応とされています。
質問②Agentforce Voiceはどの電話基盤とつながるのか
連携先として報道で挙がっているのは、Genesysと、コムデザインのクラウドCTIであるCT-e1/SaaSです。自社の基盤が対象かどうかは環境によって変わるため、電話基盤のベンダーへ確認してください。
質問③Agentforce Voiceの費用はどう決まるのか
音声のVoiceアクション1回あたり30クレジット、金額にして18円が目安です。これに加えて電話基盤側の費用も必要です。Enterprise Edition以上であれば、Salesforce Foundationsを通じて付与されるクレジットの範囲で検証を始められます。
質問④Agentforce Voiceは電話以外でも使えるのか
使えます。電話チャネルに加えて、Webサイトやモバイルアプリをはじめとするデジタルチャネルに対応するとされています。相手がログイン済みのアプリからであれば、本人確認の工程は短く済むでしょう。
質問⑤Agentforce Voiceとボイスボットは何が違うのか
分岐をたどらせる従来のボイスボットに対して、Agentforce Voiceは相手が話した内容から用件を判断し、CRMの更新や後続の処理まで実行します。応答するだけでなく、業務の処理まで担う点が違います。
Agentforce Voiceは用件の切り分けまでを任せ交渉は人に残す
本記事では、Agentforce Voiceが担う動作と対応チャネル、任せない場面の判定、前提と費用、進め方の4ステップ、営業活動への接続、そして効果を測る指標までを解説してきました。
電話をAIに任せるかどうかは、機能の高さで決まるものではありません。用件の切り分けと記録までを任せ、交渉と例外対応を人に残すという線引きができるかどうかで決まります。この線引きが曖昧なまま公開すると、誤案内か転送過多のどちらかが起きます。
今回例に挙げた保守企業も、月900件の受電のうち、聞き取りで終わる500件だけを対象にしました。平日夜間と土曜に限って12週間試した結果、電話の内容がCRMに記録される割合は4割から9割へ変わり、月120件あった折り返しも対象時間帯の分だけ減りました。人員を増やさないまま、すでに運用してきたCRMの資産の上で、対応できる時間帯を広げられたことになります。
任せる範囲を先に決めてから機能を当てはめる順番であれば、電話業務にもAgentforceを広げられます。自社の受電の内訳を数えるところから、始めてみてはいかがでしょうか。
※Agentforce Voiceの日本語版提供と連携先に関する参考記事はこちらです(2026年8月13日掲載)。
※Flex CreditsおよびVoiceアクションの価格は、Salesforce公式のAgentforce料金ページ(2026年8月25日時点)に掲載されている「60,000円/100,000クレジットあたり」および公式の試算例にもとづいています。参考ページはこちらです。
