営業の属人化を解消しようとして、手順書の整備と入力項目の追加に取り組んだ経験のある方は多いのではないでしょうか。ところが半年後、受注率の開きはほとんど変わっていません。営業の属人化とは、成果を出すための判断がベテランの頭のなかにだけあり、ほかの担当者が同じ場面で同じ判断を再現できない状態のことです。 なお、解決の手段として本記事で扱うAgentforceの機能と提供状況は更新が続くため、記述は2026年9月時点の情報にもとづいています。
そこで本記事では、営業の属人化が解消しない理由から、失われている情報の中身、AIエージェントへ判断の手順を引き継ぐ設計、1業務から始める進め方までを解説します。
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この記事を書いた人
合同会社クロスコムの代表|専門商社にて7年間のBtoB営業を経て、マーケティング業界に参入。現在はSalesforce公式コンサルティングパートナーとして、ソリューション営業の業務プロセスに特化したAgentforce導入・定着支援と、Agentic CRM設計支援を提供している。
営業の属人化が解消しない3つの理由
産業用ガスケットを製造するメーカーでは、従業員270名のうち営業が24名という体制で、Sales Cloudを4年運用してきました。この企業は説明のための架空の設定であり、実在の企業ではありません。営業24名の内訳は勤続10年以上が5名、入社3年以内が9名で、受注率は前者が平均38%、後者が平均14%という開きがあります。当初の目的は「入社3年以内の9名が、ベテランと同じ準備をできるようにすること」でした。そこでここでは、この会社を例に、営業の属人化が解消しない3つの理由を整理します。
手順書と入力の徹底を続けても、この開きは縮みません。営業の属人化が解消しないのは、手順書に書けるのが「何をしたか」までで、どの条件でそれを選んだかが残らないためです。
| 比較の観点 | 手順書で残した場合 | 実行できる形で残した場合 |
|---|---|---|
| 残る内容 | 作業の順番 | 確認する材料と分岐 |
| 使われ方 | 読むかどうかは本人次第 | 依頼すれば実行される |
| 更新の起点 | 気づいた人が直す | ずれた回答から直す |
| 若手の再現 | 経験に左右される | 同じ材料から始まる |
| 例外への対応 | 記載がなければ止まる | 禁止の条件で線が引ける |
理由①手順を書き出しても判断の中身が残らないから
1つ目は「手順を書き出しても判断の中身が残らないから」です。営業の手順書には、訪問前に何を確認するか、提案の場で何を伝えるかが順番に書かれています。ところが読んだ側が再現できないのは、その順番の背後にある選択の理由が書かれていないためです。
ベテランは、同じ手順のなかで場面に応じて中身を変えています。前回の面談で相手が何を懸念していたか、決裁の時期が近いか、競合が入っているか。この条件によって、確認する項目も伝える順番も変わります。手順書には「事前に情報を整理する」としか書けません。
先ほどの産業用ガスケットのメーカーでは、営業企画が3年前に12ページの営業手順書を作っていました。入社3年以内の9名に読み方の研修まで行っていますが、受注率は14%のまま動いていません。手順書を読み返した若手に理由を聞くと、「書いてあるとおりにはやっているつもりだが、何を見て判断すればよいかが分からない」という答えが返っています。
手順書を配って変わらないなら、書けていないものがあります。書けていないのは作業の順番ではありません。手順書の改訂を重ねる前に、若手が商談の前に何を見ればよいかを答えられるかどうかを確かめてください。
理由②入力の項目が結果しか記録しないから
2つ目に挙げるのは、入力の項目が結果しか記録しないからです。商談の記録に残るのは、起きたことだけです。
商談レコードに残っている4つの記録 ①日付・・・いつ訪問したかを残します ②相手・・・誰と話したかを残します ③次回の予定・・・次に何をするかを残します ④フェーズ・・・商談がどこまで進んだかを残します
いずれも起きたことの記録で、そこに至る判断は含まれません。
項目を増やしても、この性質は変わりません。「提案の方向性」という自由記述の欄を足しても、書かれるのは決めた内容であって、決めるときに何を見たかではないためです。むしろ項目が増えるほど入力の負担が上がり、記録の質は下がります。
この会社も、2年前に商談レコードへ5つの項目を追加していました。「顧客の課題」「提案の要点」「懸念事項」「決裁者」「次回の狙い」という構成です。追加から半年後の入力率を営業企画が数えたところ、5項目すべてが埋まっている商談は全体の21%でした。埋まっている商談を読んでも、なぜその提案にしたのかは分かりません。
入力の項目を増やす前に、その項目が判断を記録できるかを確かめましょう。結果しか入らない項目は、増やしても属人化には効きません。
理由③引き継ぎが人の記憶に頼っているから
3つ目は「引き継ぎが人の記憶に頼っているから」です。担当替えのとき、前任者は覚えている範囲で経緯を伝えます。伝える内容は、そのとき思い出せたものに限られます。
この方法が続かないのは、前任者が引き継ぎのために記憶を整理していないためです。日々の商談で無意識に行っている確認ほど、伝えるべき情報として意識に上がりません。結果として、後任は記録だけを頼りに再構成することになります。
この産業用ガスケットのメーカーでは、四半期におよそ7件の案件が引き継ぎの直後に止まっていました。営業企画が7件を追ったところ、いずれも後任が顧客との過去のやり取りを把握しきれず、次の一手を決められないまま時間が経っています。前任者に確認すれば分かる内容でしたが、後任からは聞きにくいという事情もありました。
引き継ぎの質を人の記憶に頼っている限り、担当が替わるたびに同じことが起こります。記憶に残す方法は採らず、実行できる形で残す必要があります。
営業の属人化で失われている3つの情報
ここまで挙げた3つの理由に共通しているのは、残す対象を間違えているという構造です。では、実際には何が残っていないのでしょうか。それは、ベテランが判断のために使っていた情報が、記録にも手順書にも入っていないからです。そこでここでは、営業の属人化で失われている3つの情報を整理します。
失われているのは営業のノウハウという曖昧なものにはなりません。残っていないのは、ベテランが確認していた材料と、その材料から何を選んだかという2つの情報です。
情報①ベテランが商談前に確認していた材料
1つ目は「ベテランが商談前に確認していた材料」です。訪問の前にどの記録を開き、どの数字を見て、何を思い出しているか。この材料の一覧が、若手には見えていません。
材料が見えないと、若手は手当たり次第に調べることになります。時間をかけても、ベテランが見ていない情報ばかりを集めている場合があります。準備にかけた時間の差が、そのまま質の差にはなりません。
先ほどのメーカーで営業企画が測ったところ、商談前の準備にかけた時間はベテランが1件あたり18分、入社3年以内の若手が52分でした。若手のほうが3倍近く時間をかけています。何を見ていたかを聞き取ると、若手は製品カタログと過去の見積を丁寧に読み込む一方、ベテランは直近3件の面談メモと未対応の依頼を先に開いていました。
準備の時間が長い若手ほど、材料が絞れていない可能性があります。かけた時間の長さより、何を開いたかを確かめてください。材料を絞る考え方は、RAGの精度を上げる設計の記事でも整理しています。
情報②提案の順番を決めた根拠
2つ目に挙げるのは、提案の順番を決めた根拠です。同じ製品を提案する場面でも、どの価値から話すかは相手によって変わります。ベテランはこの順番を毎回変えていますが、変えた理由は記録に残りません。
順番の根拠は、相手の立場と検討の段階で決まります。技術部門が窓口なら仕様の適合から入り、購買が窓口なら総コストから入る、といった判断です。この判断は経験のなかで固まっており、本人にとっては当たり前になっています。
この会社のベテラン2名に営業企画が4時間ずつ聞き取りを行ったとき、最初は「相手を見て決めている」という答えしか返りませんでした。過去の商談を1件ずつたどりながら「このときはなぜこの話から始めたのか」を聞いていくと、窓口の部門と過去の取引の有無で3つの型に分かれることが見えています。本人たちも、型として意識していませんでした。
根拠を聞き出すには、抽象的な質問では届きません。過去の商談を1件ずつ開いて確かめる時間として、ベテラン1名あたり4時間ほどを見込んでください。
情報③見送りを判断した条件
3つ目は「見送りを判断した条件」です。追わないと決めた案件の情報は、記録としてほとんど残りません。失注として処理されるか、そもそも商談として登録されない場合もあります。
見送りの判断は、属人化のなかでも影響が大きい部分にあたります。若手が追うべきでない案件に時間を使い、追うべき案件を後回しにする状態は、受注率の差として直接現れるためです。
この産業用ガスケットのメーカーでは、ベテラン5名が年間で見送っていた引き合いが、1人あたり20件前後ありました。営業企画が理由を聞くと、「仕様の適合が厳しく、無理に通しても納期で問題が出る」「決裁の時期が合わず、来期に持ち越すほうが確度が上がる」といった条件が挙がっています。若手9名にはこの条件が共有されておらず、同じ引き合いをすべて追っていました。
見送った案件の条件は、追った案件の記録と同じだけ価値があります。残す対象に入れてください。
営業の属人化を可視化だけで解けない3つの場面
前章で挙げた3つの情報を残そうとしたとき、多くの会社が最初に採る手段が可視化です。手順書にまとめ、入力項目を足し、研修で伝えるという3つの取り組みは、情報を見える状態にするところまでは進みます。この会社も3年かけて3つとも実施しており、営業企画の担当者は打つ手を打ったと考えていました。ところが入社3年以内の9名の受注率は、14%のまま動いていません。そこでここでは、営業の属人化を可視化だけで解けない3つの場面を整理します。
可視化に効果がないという話ではありません。可視化した情報は、読む手間がかかる形で置かれている限り、必要な場面では使われません。
場面①手順書を配っても読まれない
1つ目は「手順書を配っても読まれない」場面です。作った側は配布した時点で共有できたと考えますが、受け取った側にとっては読む時間を確保する作業が増えただけになります。
読まれない理由は、必要になる場面と読む場面がずれているためです。訪問の直前に12ページを開き直す担当者はいません。読むのは配られた日と、研修の日だけです。
先ほどのメーカーの12ページの手順書は、共有フォルダに置かれていました。営業企画がアクセスの記録を調べたところ、配布から1年間で開かれた回数は延べ34回で、そのうち28回は配布から2週間以内に集中しています。残る11か月で開かれたのは6回でした。
配った資料が読まれているかは、記録で確かめられます。開かれていないなら、置き場所の問題ではありません。
場面②入力項目を増やすと入力が減る
2つ目に挙げるのは、入力項目を増やすと入力が減る場面です。判断を記録させようとして自由記述の欄を足すと、書く負担が上がります。負担が上がると、埋まらない項目が増えます。
この関係は、項目の重要性とは無関係に成り立ちます。書く価値があるかどうかを判断するのは入力する担当者で、その担当者には書いた内容が自分に返ってこないためです。
この会社が追加した5項目のうち、最も埋まっていなかったのは「懸念事項」で、入力率は9%でした。営業に理由を聞くと、「書いても誰も読まない」「書く時間があれば次の訪問の準備をしたい」という答えが返っています。項目を足した営業企画の狙いは、まさにこの懸念事項を共有することでした。
入力を増やす設計は、入力した本人に何かが返る形とあわせて考える必要があります。入力率が3割を下回る項目は、書き方を指導するより先に、書いた担当者に何が返るかを決めてください。
場面③研修で伝えても再現されない
3つ目は「研修で伝えても再現されない」場面です。ベテランが講師になり、事例を交えて説明する形は、その場では理解されます。数週間後の商談で同じ判断ができるかは別の問題です。
再現されないのは、研修が「知る」までを担っており、「その場で使う」までは担えないためです。実際の商談では相手も条件も違い、研修で聞いた事例をそのまま当てはめられません。
この産業用ガスケットのメーカーも、入社3年以内の9名へ半日の研修を2回実施しています。研修後のアンケートでは9名全員が「理解できた」と回答しました。3か月後に営業企画が同じ場面の判断を20件出して答えてもらったところ、ベテランの回答と一致したのは20件中7件です。残る13件は、担当者ごとに答えが割れていました。
理解したかどうかと、再現できるかどうかは別に測る必要があります。測らなければ、研修は実施した時点で完了に見えます。
営業の属人化をAIエージェントへ引き継ぐ4つの設計
ここまで示した3つの場面に共通しているのは、可視化した情報が「人が読む形」で置かれている点です。読む手間がかかるものは、必要な場面では開かれません。ここから先は、Agentforceのように依頼を受けて手順を実行する仕組みへ、判断の中身を移す話になります。人が読む手順書で足りる範囲と、実行できる形で残す必要がある範囲を分けるのが出発点です。そこでここでは、営業の属人化をAIエージェントへ引き継ぐ4つの設計を整理します。
引き継ぐ対象は、ベテランの人格ではありません。引き継ぐのは、確認する材料の一覧と、その材料をどう読むかという分岐の条件です。
設計①ベテランの確認手順を依頼の形に書き出す
1つ目は「ベテランの確認手順を依頼の形に書き出す」設計です。手順書のように作業を並べるのではありません。担当者が口に出す依頼として書き、その依頼を受けたときに何を返すかを決めます。
依頼の形にする理由は、若手が使う場面と同じ形にしておくためです。「初回訪問の準備をお願いします」と依頼すれば、確認すべき材料が返ってくる状態を作ります。読む判断も探す判断も、担当者側には残りません。
この産業用ガスケットのメーカーでは、ベテラン2名から聞き取った内容を「初回訪問前の情報整理」という1つの依頼にまとめました。依頼を受けたときに返すのは、直近3件の面談メモの要点、未対応の依頼の一覧、同じ業界での過去の受注条件の3点です。営業企画が書き出したこの内容は、手順書の12ページのうち2ページ分に相当していました。
書き出す単位は、担当者が口に出せる依頼にしましょう。作業の単位で分けると、使う場面と合いません。営業向けの機能の詳細は、Agentforce for Salesの記事で扱っています。
設計②判断に使った材料を参照先として指定する
2つ目に挙げるのは、判断に使った材料を参照先として指定する設計です。前章で挙げた「ベテランが商談前に確認していた材料」を、そのまま参照の対象として登録します。
指定が要るのは、材料を絞らなければ回答が安定しないためです。すべての記録を候補にすると、質問と関連の弱い情報まで根拠に上がります。ベテランが見ていなかった資料を含めると、若手の準備が長くなった状態を再現することになります。
先ほどのメーカーが指定したのは、商談の面談メモ、活動履歴、過去3年の受注条件の3種類です。営業企画が最初に用意した案には製品カタログと技術資料も入っていましたが、ベテラン2名に確認したところ初回訪問の準備では開いていないという回答だったため、この2種類は参照先から外しています。
参照先を決めるときは、ベテランが直近1か月で実際に開いた記録だけを候補にしましょう。念のために足した資料が、精度を下げます。照会の場面での任せ方は、Agentforce Coworkerの記事で整理しています。
設計③例外の条件を禁止の形で書く
3つ目は「例外の条件を禁止の形で書く」設計です。前章の「見送りを判断した条件」がここに入ります。やってよいことを列挙するより、やってはいけない条件を書くほうが短く保てます。
禁止の形にする利点は、条件が増えても記述が膨らまないことです。「仕様の適合が確認できない引き合いは、追う対象として提示しません」という1文で、ベテランが年間20件見送っていた判断の一部を渡せます。
この会社では、ベテラン2名の聞き取りから3つの禁止の条件を作りました。仕様の適合が未確認のもの、決裁の時期が2四半期以上先のもの、過去に納期で問題が起きた取引先で同じ条件のものです。若手9名が使い始めてから、追う対象として提示される引き合いの件数は月に4件ほど減っています。
禁止の条件を担保しきれない業務では、Einstein Trust Layerの記事で扱っている一任と承認の設計とあわせて考えてください。
設計④返した内容を担当者が直せるようにする
4つ目は「返した内容を担当者が直せるようにする」設計です。返ってきた準備の内容が実際の商談と合わなかったとき、その場で直せる形にしておきます。
直せる形にする理由は、直した内容が次の改善の材料になるためです。若手が何を足し、何を削ったかを見れば、渡した手順のどこが足りないかが分かります。直せなければ、合わなかったという事実だけが残ります。
この産業用ガスケットのメーカーでは、返ってきた準備の内容を営業が編集し、編集した箇所を営業企画が週次で確認する運用にしました。運用の最初の2週間で、若手3名が最も多く足したのは「相手の決裁の流れ」に関する情報です。ベテランは把握していましたが、聞き取りでは言語化されていませんでした。営業企画はこの項目を参照先へ追加しています。
直された箇所は、聞き取りで漏れた項目の一覧になります。定期的に見る対象に入れてください。
営業の属人化の解消を1業務から始める5つのステップ
前章で示した4つの設計を、営業の全業務に対して一度に行うことはできません。ベテランへの聞き取りだけでも、業務ごとに数時間ずつかかります。この会社が3か月で結果を出せたのも、対象を1業務に絞ったからです。そこでここでは、営業の属人化の解消を1業務から始める5つのステップを整理します。
対象を選ぶところから作業が始まります。最初に選ぶのは、ベテランと若手で最も差が出ている業務です。差が小さい業務から始めても、効果が測れません。
ステップ①最も差が出ている業務を1つ選ぶ
最初に決めるのは、どの業務を対象にするかです。営業の業務は商談準備からフォローまで広がっていますが、属人化の度合いは業務ごとに違います。
選び方は、ベテランと若手で結果や所要時間の差が最も大きい業務を採ります。差が大きいほど、引き継いだときの変化も測りやすくなります。
先ほどのメーカーでは、営業企画が5つの業務について所要時間を比べました。商談前の準備が18分と52分で最も差が大きく、次が提案書の作成で40分と65分です。議事録と見積の作成には大きな差がありませんでした。この会社は商談前の準備を対象に選んでいます。
小さく始めたい場合は、この1業務からのスモールスタートが、聞き取りの工数を抑えたまま効果を確かめる進め方になります。業務の選び方は、Agentforceのユースケースの選び方でも整理しています。
ステップ②ベテランの手順を口頭で聞き取る
対象が決まったら、次はベテランへの聞き取りです。書いてもらう形は採らず、聞き取ります。書いてもらうと手順書と同じものが出てくるためです。
聞き取りのやり方は、実際の商談を1件ずつたどる形が有効です。「この商談ではまず何を開きましたか」「なぜその順番でしたか」と、記録を見ながら具体的に聞いていきます。抽象的な質問では「相手を見て決めている」という答えで止まります。
この会社では、営業企画の1名がベテラン2名に対して各4時間の聞き取りを行いました。1回2時間を2回に分け、直近の商談6件を材料にしています。この過程で、窓口の部門と過去の取引の有無で提案の順番が3つの型に分かれることが見えました。ベテラン本人も、型として意識していなかった内容です。
聞き取りは、1回2時間までに区切って設定しましょう。長時間まとめて行うと、後半は具体を思い出せないまま話が進みます。記憶だけに頼ると、手順書と同じ抽象度に戻ります。
ステップ③聞き取った手順を依頼へ置き換える
聞き取りが終わったら、内容を依頼の形へ置き換えます。前章の設計①から④を、この段階で実装します。
置き換えの作業で決めるのは、次の4つです。
依頼の形へ置き換えるときに決める4項目 ①受け口・・・担当者がどう依頼するかを決めます ②参照先・・・どの記録を読ませるかを決めます ③禁止の条件・・・何を提示しないかを決めます ④返す内容・・・何をどの順で返すかを決めます
聞き取ったすべてを入れようとすると、範囲が広がって精度が下がります。最初は1つの依頼に絞ります。
この産業用ガスケットのメーカーでは、営業企画の1名が18時間かけて置き換えを行いました。聞き取った内容のうち、初回訪問の準備に関わる部分だけを使い、提案の順番の3つの型は次の対象として保留しています。設定の作業自体は、この18時間のうち4時間ほどでした。
最初のエージェントを作るところからの流れは、Agentforceの使い方で整理しています。
ステップ④若手3名で2週間試す
置き換えが終わったら、対象を絞って試します。営業24名へ一斉に開くと、合わない箇所が出たときに戻す判断が難しくなります。
試す対象は、最も差が出ていた層から選びます。入社3年以内の担当者に使ってもらえば、効果があるかどうかが早く分かります。ベテランに試してもらっても、もともとできている業務のため変化が見えません。
この会社は、入社2年目の3名に限定して2週間動かしました。この期間に出た指摘は14件で、うち9件は返す内容の過不足に関するものです。営業企画は9件のうち5件を参照先の追加で解消し、4件は禁止の条件の書き換えで対応しています。
確かめた記録を残す仕組みは、テストセンターの記事で整理しています。なお、総務省の令和7年版情報通信白書では、生成AIの利用にあたっての課題として「適切な利用方法が分からない」が最も多く挙がっており、渡して終わりにするとこの課題がそのまま残ります。
※参考記事はこちら
ステップ⑤差が縮んだかを数えてから広げる
最後に、対象を広げる前に差が縮んだかを数えます。試した3名と、使っていない若手6名で同じ場面の判断を比べます。
数える理由は、広げる判断の材料にするためです。差が縮んでいなければ、渡した手順に足りない部分があります。広げても同じ結果になります。
先ほどのメーカーでは、2週間の試行のあとに20件の場面で判断を比べました。使った3名はベテランの回答と17件が一致し、使っていない6名は7件でした。一致しなかった3件はいずれも決裁の時期に関する判断で、禁止の条件へ追記しています。この差を確認してから、営業企画は入社3年以内の9名全員へ広げました。
以上が、営業の属人化の解消を1業務から始める5つのステップでした。
営業の属人化の解消でつまずく3つの落とし穴
ここまで示した5つのステップを順に進めれば、1業務の引き継ぎは3か月ほどで形になります。ところが実際には、途中で手順を入れ替えたことによる失敗が繰り返し起きます。この会社も、最初の計画では1つ目の落とし穴に当たるところでした。そこでここでは、営業の属人化の解消でつまずく3つの落とし穴を整理します。
失敗の多くは、聞き取りの工程を省いたことから生まれます。ベテランに手順書を書かせた時点で、引き出したかった判断の中身は失われます。
落とし穴①ベテランに手順書を書かせる
1つ目は「ベテランに手順書を書かせる」という落とし穴です。本人が最も詳しいのだから本人に書いてもらう、という判断は自然に見えます。
この方法が効かないのは、書く作業が抽象化を伴うためです。人は文章にするときに例外を省き、一般的な表現へまとめます。結果として出てくるのは、既存の手順書と同じ抽象度の文書です。分岐の条件は書かれません。
この産業用ガスケットのメーカーも、当初はベテラン2名に手順の作成を依頼する案でした。3年前の12ページの手順書も、同じ方法で作られています。営業企画が過去の経緯を確認して聞き取りに切り替えたのは、同じ結果になると判断したためです。
書いてもらう形は採らず、記録を開きながら聞き取りましょう。時間はかかりますが、出てくる内容が違います。
落とし穴②全業務を同時に対象にする
2つ目に挙げるのは、全業務を同時に対象にする落とし穴です。効果を早く出そうとして、商談準備も提案も見積も一度に扱う計画を立てます。
同時に進められないのは、聞き取りの工数が業務の数だけかかるためです。1業務あたりベテラン2名で8時間、置き換えに18時間かかるとすれば、5業務では130時間になります。営業企画の担当者がほかの業務と並行して進められる量ではありません。
先ほどの会社では、営業企画が最初に5業務を対象とする計画を出しました。所要を試算した時点で半年以上かかることが分かり、差が最も大きい1業務へ絞っています。結果として、3か月で効果を数字で示せました。
対象を1つに絞ると、進みが遅く見えます。5業務ぶんの所要時間を試算して並べれば、絞る判断にも社内の納得を得られます。
落とし穴③成果の数字だけで効果を測る
3つ目は「成果の数字だけで効果を測る」という落とし穴です。受注率や売上の変化だけを見ると、引き継ぎの効果は判別できません。
判別できない理由は、成果に影響する要因がほかにも多いためです。市況、競合の動き、担当した案件の質。3か月で受注率が動かなかったとしても、準備の質が変わっていない証拠にはなりません。
この会社が2週間の試行で見たのは、受注率ではありません。判断の一致率のほうです。20件の場面のうち17件がベテランと一致したという数字は、成果が出る前の段階で効果を示せます。受注率が14%から25%へ動いたのは、広げてから3か月後のことです。
導入後に使われなくなる状態からの立て直しは、Agentforceの定着で整理していますので、ぜひ参考にしてもらえると嬉しいです。
営業の属人化が縮まったかを測る4つの指標
前章の落とし穴③で触れたとおり、成果の数字だけでは引き継ぎの効果を判別できません。では何を見ればよいのでしょうか。それは、判断の再現と、判断にかかる手間の両方が変わったかを見る必要があるからです。この2つは受注率より先に動くため、対象を広げるかどうかの判断を早く下せます。この会社も、受注率が動く前の段階で対象を9名へ広げると決めました。そこでここでは、営業の属人化が縮まったかを測る4つの指標を整理します。
測る対象は成果の手前にあります。属人化が縮まったかは、同じ場面での回答が担当者間でどれだけそろったかで測ります。
指標①同じ場面での回答のばらつき
1つ目は「同じ場面での回答のばらつき」です。実際にあった商談の場面をいくつか用意し、担当者ごとに「次に何をするか」を答えてもらいます。答えがどれだけ一致するかを数えます。
測り方は、20件ほどの場面を用意し、ベテランの回答を基準にして一致した件数を数えるだけです。四半期に1度行えば、推移が見えます。
当初の目的は「入社3年以内の9名が、ベテランと同じ準備をできるようにすること」でしたが、この産業用ガスケットのメーカーでは開始前に20件中7件しか一致していませんでした。3か月後に同じ20件で測ったところ、17件まで上がっています。
まず現在の一致件数を出しましょう。この数字は、引き継ぎを始める前でなければ取れません。
指標②若手が先輩に確認した回数
2つ目に挙げるのは、若手が先輩に確認した回数です。判断に迷って人に聞く回数は、手元で判断できる範囲の広さを表します。
この指標が役に立つのは、聞かれる側の負担も同時に測れるためです。属人化はベテランの時間を消費する構造でもあり、聞かれる回数が減れば、ベテランは自分の商談に時間を使えます。
この会社では、営業企画が週次で確認の回数を集計していました。開始前は週31回で、ベテラン5名が1人あたり週6回ほど質問を受けています。3か月後には週11回まで減り、減った20回のうち14回は商談前の準備に関する質問でした。
回数は、聞いた側と聞かれた側の両方から数えると精度が上がります。片方だけでは記録が漏れます。
指標③商談前の準備にかけた時間の差
3つ目は「商談前の準備にかけた時間の差」です。ベテランと若手の所要時間の開きを見ます。差が縮んでいれば、材料が絞れるようになっています。
差を見る理由は、若手の時間だけを見ても改善かどうかが分からないためです。案件の難易度が変われば所要も変わります。同じ期間のベテランの時間と比べれば、条件の違いを差し引けます。
先ほどのメーカーの開始前は、ベテランが1件18分、若手が52分で34分の差がありました。3か月後はベテラン15分、若手24分で、差は9分に縮んでいます。若手の時間が半分以下になった一方、ベテランの時間も3分短くなりました。
時間は、記録を取り始めた時点から比べられます。まず1週間分だけ測ってください。
指標④引き継ぎ後に止まった案件の件数
4つ目は「引き継ぎ後に止まった案件の件数」です。担当替えのあとに動かなくなった案件を四半期ごとに数えます。件数が減っていれば、記憶に頼らない引き継ぎができています。
この指標を続けて見る理由は、担当替えが常に起きるためです。営業24名の体制では、異動と退職をあわせて四半期に2件から3件の担当替えが発生していました。引き継ぎの質は、そのたびに試されます。
この産業用ガスケットのメーカーでは、開始前の四半期に7件が止まっていました。3か月後の四半期は2件です。残る2件は、前任者しか知らない取引先固有の事情が絡む案件でした。
稼働後の精度と定着を継続して測る仕組みは、Agentforce Observabilityの記事で整理しています。ここで挙げた4つの指標とあわせて設計してください。
営業の属人化を残したままでよい3つの領域
ここまで挙げた4つの指標で効果が確かめられると、次はどこまで広げるかという判断になります。ただし、営業のすべてを引き継げるわけではありません。引き継ごうとして失敗する領域を先に決めておけば、聞き取りにかける時間を、成果につながる業務へ寄せられます。この会社も、営業24名が担う業務のうち3つの領域は対象から外したままにしました。そこでここでは、営業の属人化を残したままでよい3つの領域を整理します。
すべてを標準化する必要はありません。相手との関係や場の流れで決まる判断は、引き継ぐ対象から外して構いません。
領域①関係性で決まる価格の交渉
1つ目は「関係性で決まる価格の交渉」です。値引きの幅をどこまで踏み込むか、いつ提示するかという判断は、相手との取引の履歴と担当者どうしの関係で変わります。
この領域を引き継げないのは、判断の材料が記録に残らない部分に多くあるためです。前回の交渉での相手の反応、担当者が置かれている社内の立場、口約束の有無。これらを条件として書き出すことはできません。
先ほどの産業用ガスケットのメーカーでも、ベテランへの聞き取りで価格の交渉について尋ねたところ、「相手の課長が何を気にしているかによる」という答えが繰り返し返りました。営業企画は、この領域を対象から外しています。無理に条件化すると、実態と合わない基準が独り歩きするためです。
外す判断は、聞き取りの場で同じ答えが3回続いたときに下しましょう。外すこと自体が設計です。
領域②初対面の場での話題の選び方
2つ目に挙げるのは、初対面の場での話題の選び方です。名刺交換のあとの数分で何を話すか、どこから本題へ入るかという判断は、その場の空気で決まります。
この領域が引き継ぎに向かないのは、判断が数秒単位で行われるためです。依頼して回答を待つ形では、そもそも間に合いません。準備の段階で候補を用意することはできても、選ぶのは人になります。
この会社のベテラン2名も、初回訪問の準備までは手順として語れましたが、訪問の場での進め方は「相手が話し始めた内容に合わせる」という答えでした。営業企画は、準備までを対象とし、場での判断は引き継ぎの範囲に入れていません。
判断の速さが求められる場面は、人が担う範囲として残します。準備の質を上げることで、その場の判断も安定します。
領域③想定外の要望に対する即応
3つ目は「想定外の要望に対する即応」です。過去に例のない仕様の相談、急な納期の変更、他社との条件比較を突然求められる場面が該当します。
引き継げないのは、条件が定義されていない状況だからです。禁止の条件を書けるのは、起こりうる状況が想定できる範囲に限られ、想定の外にある要望は書きようがありません。
この産業用ガスケットのメーカーでは、若手が想定外の要望を受けたときにベテランへ確認する運用を残しました。週11回まで減った確認の回数のうち、半分ほどがこの領域です。営業企画は、この回数を無理に減らす目標を置いていません。
引き継げない領域があること自体は、設計の失敗にはなりません。Agentforceでどこまで扱えるかの全体像は、Agentforceの活用事例の記事でも整理しています。
営業の属人化の解消にかかる3つの費用
前章で挙げた3つの領域を対象から外し、引き継ぐ範囲が決まれば、次に必要になるのは費用の見通しです。社内の工数と仕組みの利用料の両方がかかるため、どちらか一方だけで見積もると実態と合いません。とくに社内の工数は、稟議の資料から抜け落ちやすい費用にあたります。この会社が最初に出した見積にも、ベテラン2名の時間は入っていませんでした。そこでここでは、営業の属人化の解消にかかる3つの費用を整理します。
最も大きいのは仕組みの費用ではありません。営業の属人化の解消でかかる費用の大半は、ベテランへの聞き取りと置き換えにあてる社内の工数です。
費用①手順を聞き取る社内の工数
1つ目は「手順を聞き取る社内の工数」です。ベテランの時間と、聞き取る側の時間の両方がかかります。ベテランは日々の商談を持っているため、この時間の確保が最も難しくなります。
工数の見込み方は、1業務あたりベテラン1名につき4時間、聞き取る側が同じ時間に加えて整理の時間を持つ形になります。業務が増えれば、この時間が業務の数だけ積み上がります。
この会社が1業務にかけたのは、ベテラン2名で各4時間の計8時間と、営業企画1名の18時間でした。営業企画の18時間には、次の作業が含まれています。
営業企画の18時間の内訳 ①同席・・・聞き取りに立ち会う時間です ②整理・・・聞き取った内容をまとめる時間です ③置き換え・・・依頼の形へ書き直す時間です ④設定・・・実際に作る4時間ほどの作業です
合計26時間です。
見積もるときは、ベテランの時間を先に押さえましょう。ここが確保できなければ、ほかがそろっても進みません。
費用②仕組みを動かす利用料
2つ目に挙げるのは、仕組みを動かす利用料です。AIエージェントを動かす費用は、利用の回数や処理の量に応じて変わる型と、利用者の数で決まる型があります。
型によって、対象を広げたときの増え方が変わります。回数で決まる型なら使うほど増え、利用者の数で決まる型なら人数で決まるため、どちらに近いかで広げ方の計画も変わってきます。
先ほどのメーカーは、対象を入社3年以内の9名に絞った段階で費用を試算しました。9名が1日に平均3回使う想定で、3か月間の見込みを出しています。営業24名全員へ広げる判断は、この試算と効果の数字を並べてから行いました。
課金の型と金額は、Agentforceの料金の記事で整理しています。試算は、対象を絞った状態の実績から出すほうが精度が上がります。
費用③運用を続ける担当者の時間
3つ目は「運用を続ける担当者の時間」です。返した内容が実態と合わなくなれば、公開したあとも直す作業が発生し続けます。
この時間を見込まずに始めると、公開の直後に負担が集中します。若手が直した箇所を確認し、参照先を足し、禁止の条件を書き換える作業が、週次で発生するためです。
この産業用ガスケットのメーカーでは、営業企画の1名が週に2時間ほどをこの作業にあてていました。3か月で26時間ほどになり、初期の置き換えにかけた18時間を上回っています。作業の中心は、若手が編集した箇所の確認でした。
投資対効果をどう示すかは、Agentforce ROIの記事で整理しています。運用の時間まで含めて計算しなければ、総額は実態より小さく出ます。
営業の属人化の解消に外部支援を使う4つの判断軸
ここまで示した費用のうち、社内の工数を確保できるかどうかで進め方は変わります。営業企画に専任を置ける会社ばかりではありません。では、外部の支援を検討するとき、何を見て選べばよいのでしょうか。それは、支援会社によって入る工程がまったく違うからです。そこでここでは、営業の属人化の解消に外部支援を使うときの4つの判断軸を整理します。
支援会社の実績数だけでは、自社に合うかどうかは判断できません。引き継ぎを任せる相手は、ベテランへの聞き取りから入れるかどうかで選びます。
判断軸①ベテランの手順を聞き取れるか
1つ目は「ベテランの手順を聞き取れるか」という判断軸です。設定の作業だけを請け負う支援と、聞き取りから入る支援では、出来上がるものが変わります。
見分け方は、提案の工数の内訳を確認することです。設定の工数だけが書かれている見積は、聞き取りが含まれていない可能性があります。内訳に聞き取りの行があっても、割り当てが2時間ほどしかなければ、実際には要件の確認で終わってしまいます。
この会社の26時間のうち、設定の作業は4時間ほどでした。残りはすべて聞き取りと整理です。この比率は業種によって変わりますが、聞き取りのほうが大きくなる点は共通しています。
ツール設定ではなく業務設計から入ってほしい場合は、聞き取りの工数が見積に含まれているかが判断材料になります。
判断軸②動かしたあとの直しに付き合えるか
2つ目に挙げるのは、動かしたあとの直しに付き合えるかどうかです。引き継ぎは公開した時点では終わりません。若手が使い始めてから2週間ほどで、合わない箇所が必ず出てきます。
構築までを請け負う契約と、公開後の調整まで含む契約では、費用の考え方も期間も違います。契約の範囲がどこで切れるのかを、着手前に確認しておく必要があります。
先ほどのメーカーが3名で試した2週間に出た指摘は14件でした。このうち9件は返す内容の過不足で、公開前には見つけられない類のものです。この調整を誰が担うのかを決めていなければ、営業企画の1名へ戻ります。
定着まで伴走してほしい場合は、公開後の調整が契約の範囲に入っているかを確認してください。
判断軸③営業の進め方を理解しているか
3つ目は「営業の進め方を理解しているか」という判断軸です。ベテランから手順を聞き出すには、営業の業務を知っている必要があります。
知らなければ、返ってきた答えが具体なのか抽象なのかを判別できません。「相手を見て決めている」という答えで止まってしまい、その先を掘れないためです。
この会社の聞き取りでも、営業企画の担当者が過去に営業を経験していたことが効いていました。この担当者は営業部から異動して2年目にあたり、営業24名それぞれの商談の進め方を把握していたのです。商談の記録を開きながら「このときは決裁の時期が近かったからですか」と踏み込めたのは、業務を知っていたからです。
ソリューション営業に特化した支援がほしい場合は、聞き取りを担う人が営業の経験を持っているかを確認してください。
判断軸④設計の確認だけを頼めるか
4つ目は「設計の確認だけを頼めるか」という判断軸です。聞き取りと置き換えを自社で進められるなら、外部に必要なのは案の確認だけという場合があります。
構築まで一括で請け負う形しか用意していない支援会社では、この頼み方ができません。工程を切り出して依頼できるかどうかは、着手前に確認しておく項目にあたります。
この産業用ガスケットのメーカーも、聞き取りと置き換えは営業企画の1名で進められる見通しでした。判断に迷ったのは、対象を1業務に絞る案が妥当かという1点だけです。
自社で構築するので設計レビュー・アドバイザリーだけ頼みたい場合は、工程を切り出した依頼を受けているかを確認しましょう。支援会社の選び方の全体像は、Agentforce導入支援会社で7つの見極め方として整理しています。
【一問一答】営業の属人化に関するよくある質問
ここまで、解消しない理由から外部支援の判断軸までを整理してきました。実際に着手する段階では、どこから手をつけるかやベテランの協力をどう得るかで手が止まります。とくに、忙しいベテランから時間を出してもらう交渉と、経営層へ示す期間の見込みは、社内で最初に問われる部分です。この会社の営業企画も、着手の前に営業部長へ同じ2点を説明しています。そこで最後に、営業の属人化についてよく寄せられる質問を5つ取り上げます。
質問①営業の属人化はどこから手をつけますか?
ベテランと若手で最も差が出ている業務を1つ選ぶところから始めます。この記事の例に挙げた産業用ガスケットのメーカーでは、商談前の準備がベテラン1件18分、入社3年以内の若手52分で、34分の差がありました。所要時間や結果を業務ごとに比べれば、差は数字で見えます。差が小さい業務から始めると、引き継いだあとに効果を測れません。全業務を同時に対象にすると、聞き取りの工数だけで半年以上かかります。
質問②営業の属人化の解消にベテランの協力は要りますか?
ベテラン1名あたり4時間ほどの協力が要ります。判断の中身はベテランの頭のなかにしかないためです。ただし、手順書を書いてもらう形では出てきません。実際の商談の記録を開きながら、1件ずつ聞き取る形が必要です。4時間は2回に分けて確保すると、後半まで具体的な答えが続きます。
質問③営業の属人化はAIで完全になくせますか?
引き継げるのは、確認する材料と分岐の条件を言語化できる範囲までです。この会社も、営業24名が担う業務のうち3つの領域は対象から外したままにしています。関係性で決まる価格の交渉、初対面の場での話題の選び方、想定外の要望への即応は、条件として書き出せないためです。この3つを対象から外しても、商談前の準備は引き継げます。残す領域を先に決めるほうが、投資の判断は早くなります。
質問④営業の属人化の解消にどのくらい期間がかかりますか?
1業務であれば、聞き取りから効果の測定まで3か月ほどが目安になります。聞き取りに8時間、置き換えに18時間、試行に2週間、その後の測定に2か月という配分です。期間の大半は、使ってもらって差が縮んだかを確かめる時間になります。
質問⑤営業の属人化が元に戻ってしまうのはなぜですか?
返した内容が実態と合わなくなったまま放置されるためです。商品が変わり、顧客の状況が変われば、渡した手順も合わなくなります。この会社では、追加した5項目のうち「懸念事項」の入力率が9%にとどまり、埋まらない項目が残っていました。若手が編集した箇所を週次で確認し、参照先や禁止の条件を書き換える担当を決めていなければ、数か月で使われなくなります。
営業の属人化は、ベテランの判断の手順を依頼の形に書き出すと縮まる
営業の属人化を解消するために最初に取り組むのは、手順書の整備や入力項目の追加ではありません。ここまで見てきたとおり、ベテランが何を確認し、どの条件でそれを選んだかを、依頼の形で書き出す作業です。本記事では、解消しない3つの理由から、失われている情報の中身、可視化だけで解けない場面、AIエージェントへ引き継ぐ4つの設計、1業務から始める5つのステップ、つまずく落とし穴、縮まったかを測る4つの指標、残したままでよい領域、かかる費用、外部支援の判断軸までを、一連の流れとして整理してきました。
例に挙げた産業用ガスケットのメーカーは、初回訪問前の情報整理という1業務に絞って引き継ぎを行い、入社3年以内の9名の受注率を14%から25%へ、同じ場面での判断の一致を20件中7件から17件へ変えています。かけたのはベテラン2名の8時間と営業企画1名の18時間で、対象を広げてはいません。1業務の引き継ぎだけで動く範囲が、まだ残っている企業も多いのではないでしょうか。
合同会社クロスコムでは、ソリューション営業の業務プロセスに特化したAgentforceの導入・定着支援を行っています。1ユースケース×3ヶ月のスモールスタートプランから対応しており、無料相談も受け付けていますので、Agentforce導入・定着支援までお気軽にご相談ください。本記事で紹介した内容を、ぜひ自社の営業の進め方に合わせて活用し、少しでもお役に立てれば幸いです。
