購買意欲の高い企業を教えてくれるはずの外部のインテントデータを契約したものの、通知された企業へ架電しても話が噛み合わず、数か月で通知を開く営業がいなくなってしまった経験はないでしょうか。行動データとは、顧客が購買に向かう過程で残す動きの記録のことです。 取る範囲は、記録できる量の多さでは決まりません。AIに何を判断させたいかで決まります。ここで扱う考え方はAgentic CRMの設計にもとづくもので、特定の製品を前提にしていません。
そこで本記事では、AIに判断させることを前提に、自社のどの行動を取るかを決める設計について解説します。外部のデータを契約しているかどうかにかかわらず使える内容ですので、自社の状況に合わせて参考にしてください。
行動データが揃っていないとAIが兆しを見落とす3つの場面
検査機器の輸入販売会社では、従業員255名のうち営業が27名、マーケティングの担当2名という体制で事業を続けてきました。この企業は説明のための架空の設定であり、実在の企業ではありません。問い合わせが届いてから動く営業が長く続いており、いざ接触した時点では他社との比較が終わっている案件が増えています。外部のインテントデータを1年契約で導入したものの、通知された企業へ架電しても話が噛み合わず、営業は通知を見なくなりました。そこでここでは、この会社を例に、行動データが揃っていないとAIが兆しを見落とす3つの場面を整理します。
見落とすのは、AIの性能が足りないからではありません。行動の記録が残っていなければ、AIは問い合わせが来た瞬間から先しか判断できません。
場面①問い合わせの前に起きていた動きが残っていない
1つ目は「問い合わせの前に起きていた動きが残っていない」場面です。フォームから連絡が入った時点が、記録上の最初の接点になっています。
記録がその時点から始まると、AIが読める材料も同じ時点から始まります。相手が何を見て、どの資料を開き、どれくらいの期間検討していたのかは、どこにも残っていません。結果として、AIが返せるのは問い合わせの内容を言い換えただけの提案に留まります。
この検査機器の輸入販売会社では、四半期に届く問い合わせが平均88件ありました。マーケティングの担当が受注した案件をさかのぼって調べたところ、問い合わせの前に自社サイトを3回以上見ていた企業が6割を超えています。その3回分は、どの記録にも残っていませんでした。
問い合わせの前に何回接触があったかを、受注した案件だけでも数えてみましょう。数えられなければ、そこが空白です。
場面②同じ企業の複数人の動きが別々に扱われる
2つ目に挙げるのは、同じ企業の複数人の動きが別々に扱われる場面です。担当者ごとに記録が分かれ、企業として見たときの動きが合算されません。
BtoBの検討では、動く人が1人とは限りません。技術の担当者が仕様を調べ、購買の担当者が価格を見て、部門長が導入事例を読むという形で、役割ごとに別の情報を取りにきます。1人ずつ見ていると、どれも「軽い関心」に見えてしまいます。
先ほどの会社では、ある製造業の顧客から3名が別々に資料を請求していました。1名ずつのスコアはいずれも低く、通知の対象になっていません。マーケティングの担当が後から気づいたときには、すでに他社への発注が決まっていました。
企業の単位で動きを合算できているかを確かめましょう。合算しなければ、3人ぶんの兆しは3つの小さな点のままです。
場面③既存顧客が離れる前の変化が数字に出ない
3つ目は「既存顧客が離れる前の変化が数字に出ない」場面です。取引が続いている顧客ほど、記録を取る対象から外れています。
新規の獲得に記録の設計が寄っていると、既存顧客の動きは受注した時点で止まります。使い方が変わった、問い合わせが減った、更新の時期に何も見ていないといった変化は、担当者の印象としてしか残りません。AIに読ませる材料が存在しないため、離れる前に気づく仕組みが作れません。
この輸入販売会社でも、年間で解約に至った保守契約が11件ありました。マーケティングの担当が振り返ると、そのうち7件は更新の3か月前から自社サイトの操作マニュアルの閲覧が止まっています。止まったことを数えていれば、拾えた変化でした。
既存顧客の側にも記録を取る対象があります。個別化の記事とあわせて、既存への打ち手も確認してください。
買えば増える?行動データで商談が増えない理由3つ
ここまで挙げた3つの場面は、いずれも行動データを増やす動機になります。ところが多くの会社が最初に選ぶのは、外部から買ってくる方法です。すでに観測されている購買意欲の指標を契約すれば、自社で記録を設計する手間を省けると考えるためです。導入してみると通知は届くのに、商談の件数は動きません。そこでここでは、買ってきた行動データで商談が増えない3つの理由を整理します。
商談が増えないのは、使い方が下手だからではありません。外部の指標は、自社で何を行動とみなすかを決めたあとでなければ、意味を読み取れません。
| 比較の観点 | 買ってきた行動データ | 自社で取る行動データ |
|---|---|---|
| 拾う対象 | 業界で話題になった語 | 自社の商材に対応する動き |
| 根拠の確認 | 提供側の指標に依存 | 記録をその場で開ける |
| 届く時期 | 検討が進んだ後 | 検討が始まった時点 |
| 営業の動き方 | 何を話すか決まらない | 見た内容から入れる |
| 積み上がるもの | 契約の期間だけ | 判断の型として残る |
理由①自社の商材に対応しない話題まで拾うから
1つ目は「自社の商材に対応しない話題まで拾うから」です。外部の指標は、業界や技術の話題を広く拾って組み立てられています。
拾う範囲が広いほど、通知の件数は増えます。ところが自社が売っているものと対応していない話題が混ざるため、営業が架電しても相手の関心と噛み合いません。件数が多いことは、精度が高いことを意味しません。
この検査機器の輸入販売会社では、月に180件の通知が届いていました。マーケティングの担当が中身を確認すると、拾われていた語の多くは検査という広い分野の話題で、自社が扱う機器の用途とは離れています。営業が架電した14件のうち、商談になったのは1件でした。
通知が何を根拠に出ているのかを、まず提供元へ確かめましょう。購買体験の側から見ると、相手が何を知りたい時期なのかも見えてきます。
理由②スコアの根拠を営業が確かめられないから
2つ目に挙げるのは、スコアの根拠を営業が確かめられないからです。通知には点数や順位が付いていても、何を見てその値になったのかが開けません。
営業が動くかどうかを決めるとき、必要なのは点数ではありません。相手が何を見ていたのかという事実です。根拠を開けない通知は、確度の高い見込み客という説明だけが付いた名前の一覧になります。
先ほどの会社では、営業部門の会議で「この通知は何を見て高いのか」という質問が繰り返し出ていました。回答できる人が社内にいないため、営業は自分の勘で対象を選ぶようになります。半年後には、通知を開く営業がほとんどいなくなりました。
営業が根拠を開けるかどうかを、導入の前に確かめましょう。開けなければ、通知は使われません。
理由③届いた時点で検討が終わっているから
3つ目は「届いた時点で検討が終わっているから」です。外部で観測できる動きは、検討がある程度進んでからしか表に出ません。
比較サイトを見る、他社の資料を請求するといった行動は、候補が絞られた後に起きます。その段階で接触しても、条件の話から始めることになり、要件を一緒に作る余地が残っていません。早い段階の動きは、多くの場合、自社のサイトの中でしか観測できません。
この輸入販売会社が商談になった1件も、内容を確かめると、すでに他社2社と比較が進んだ状態でした。価格の話から入ることになり、結果としては失注しています。マーケティングの担当は、この時点で外部の通知だけに頼る方針を見直しました。
自社のサイトで観測できる動きから設計しましょう。早い段階の兆しは、自社側にしか残りません。
AIに判断させる行動データを決める4つの基準
前章の3つの理由は、いずれも「自社で何を行動とみなすかを決めていない」という一点に行き着くのではないでしょうか。決めるには、そのデータを何に使うかから逆算します。AIに答えさせたい問いが決まっていれば、取る対象は自然に絞れるはずです。そこでここでは、AIに判断させる行動データを決める4つの基準を整理します。
範囲はデータの側からは決まりません。取る行動は、AIに答えさせたい問いから逆算して決めます。答えに使わない動きは、取らなくて構いません。
基準①購買の意思につながる動きに絞る
1つ目は「購買の意思につながる動きに絞る」という基準です。サイトの中で起きる動きには、購買の意思と結びつくものと、そうでないものがあります。
会社概要や採用のページを見た記録は、件数としては多く残ります。ところが、そこから購買の話にはつながりません。一方、価格を説明したページは、検討している人しか開きません。同じ1回の閲覧でも、意味の重さが違います。
この検査機器の輸入販売会社では、マーケティングの担当が過去1年の受注案件をさかのぼり、受注前によく見られていたページを調べました。上位に並んだのは、校正と保守の費用を説明したページと、測定の精度を比較した資料の2つです。この2つを取る対象に決めています。
受注した案件が受注の前に何を見ていたかを調べましょう。上位に並んだページが3つを超えるようなら、まだ絞りきれていない可能性があります。
基準②取り続けられる経路から取る
2つ目に挙げるのは、取り続けられる経路から取る基準です。設計した時点では取れても、運用のなかで止まる経路があります。
止まる原因は、たいてい人の手が入っている箇所です。営業が手入力する項目、外部のツールから月に一度取り込む記録、担当者が個別に集計している数字は、担当が変わった時点で止まります。止まった記録は、AIにとって「起きていない」ことと区別がつきません。
先ほどの会社では、展示会の名刺の取り込みを行動データの経路に入れる案が出ていました。ただし取り込みは営業事務が手作業で行っており、繁忙期には2か月遅れることがあります。マーケティングの担当は、この経路を最初の対象から外しました。
経路ごとに、誰の手が入るかを書き出しましょう。手が入る経路は、後から足せば足ります。
基準③どの単位で持つかを決める
3つ目は「どの単位で持つか」という基準です。人単位で持つのか、企業単位で持つのかを先に決めます。
決め方は、AIに答えさせたい問いの側から見ていきましょう。誰に連絡するかを答えさせたいなら人の単位が要り、どの企業が検討に入ったかを答えさせたいなら企業の単位で合算する必要があります。両方を答えさせたいなら、人の記録を企業へ紐づける形にします。
この輸入販売会社では、場面②で挙げた3名がばらばらに扱われた件を受けて、企業の単位で合算する形にしました。人の記録は残したまま、企業側にも合計の動きを持たせています。合算した結果、それまで通知の対象にならなかった企業が月に9社浮かび上がりました。
問いの形から単位を決め、人と企業の両方を持つ場合は、企業側の合計をいつ更新するかまで同時に決めておきましょう。
基準④取得の根拠を説明できる範囲に限る
4つ目は「取得の根拠を説明できる範囲に限る」という基準です。取れる技術があることと、取ってよいことは別の話になります。
説明できる範囲に限る理由は、後から止まるリスクを避けるためです。同意の取り方が曖昧なまま設計を進めると、指摘が入った時点で経路ごと使えなくなり、設計をやり直す負担は、最初に範囲を絞る負担よりはるかに大きくなります。
この検査機器の輸入販売会社では、自社サイトの閲覧と資料の請求、問い合わせの内容、保守契約の利用状況という4つの経路に限りました。いずれも自社が直接受け取っている記録で、取得の目的を説明できます。第三者から購入する個人単位の行動は、取る対象に入れていません。
取る対象ごとに、なぜ取るのかを1行で書いてみましょう。書けない対象は、いまは外して構いません。
行動データを取る4つの経路|自社で持てる範囲
前章の基準④で、取得の根拠を説明できる範囲に限ると挙げました。その範囲に入るのは、自社が直接受け取っている記録です。外部から買う指標と違い、いつ誰が何を見たのかを自社の画面で開けるため、営業にも根拠を示せます。経路ごとに分かることも違うので、何を拾える経路なのかを先に確かめておきたいところです。そこでここでは、自社で行動データを取る4つの経路を整理します。
経路は、多いほどよいわけではありません。取り続けられる経路から始めます。増やすのは、最初の1つが動いてからで足ります。
経路①自社サイトの閲覧の記録
1つ目は「自社サイトの閲覧の記録」です。どのページを、いつ、何回見たかが残ります。
この経路が最も早い段階の動きを拾えるのは、相手が問い合わせる前から使えるためです。資料を請求する前、名刺を交換する前の段階で、検討が始まったことが分かります。ただし誰が見たかを結びつけるには、資料の請求やメールの開封といった別の接点が要ります。
この検査機器の輸入販売会社では、基準①で選んだ2つのページの閲覧を対象にしました。既知の連絡先と結びついた閲覧に限ると、月に420件ほどの記録が残ります。マーケティングの担当は、この420件を出発点にしました。
まずサイトのどのページを対象にするかを決めましょう。全ページを対象にすると、意味の薄い記録が大半になります。
経路②送った資料への反応
2つ目に挙げるのは、送った資料への反応です。開いたかどうか、どこまで読んだかが分かります。
反応が手がかりになるのは、こちらが渡した内容に対する動きだからです。反応があった見込み客をどの順で追いかけるかは、リードのフォロー設計で扱っています。閲覧のように相手が探しに来た動きとは、意味が違います。送った資料のどの部分で止まったかが分かれば、次に何を補えばよいかも決まります。
先ほどの会社では、見積もりに添えた仕様の資料が開かれたかどうかを記録しました。開かれないまま2週間が過ぎた案件は、その後の受注率が明らかに低いという結果が出ています。マーケティングの担当は、この期間を後の指標に使いました。
送った資料が開かれたかどうかを記録し、開かれないまま2週間が過ぎた案件を営業へ知らせる対象に含めるかどうかまで、この経路を設計する時点で決めておきましょう。
経路③問い合わせの記録
3つ目は「問い合わせの記録」です。何を尋ねられたか、どの製品についてかが残ります。
この経路の価値は、相手が言葉にした関心がそのまま残る点にあります。閲覧や開封は推測を伴いますが、問い合わせの内容は本人が書いたものです。分類しておけば、次の提案で何を先に説明すべきかが決まります。
この輸入販売会社では、問い合わせを製品の区分と目的の2軸で分類しました。分類を始めて3か月で、校正の周期に関する質問が全体の3割を占めることが分かっています。営業は初回の面談でこの説明を先に置くようになりました。
問い合わせの内容は、受け取った時点で分類しておきましょう。後からまとめて分類しようとすると、書かれた文面の解釈が担当者ごとに変わってしまいます。動きが止まっている案件の見つけ方は、パイプラインの停滞の記事でも扱っています。
経路④既存顧客の利用の状況
4つ目は「既存顧客の利用の状況」です。保守や消耗品の発注、サポートへの連絡の頻度が対象になります。
既存の側を対象に入れる意味は、場面③で挙げた離れる前の変化を拾えることにあります。新規の獲得だけを見ていると、この経路は設計から抜け落ちますが、既存顧客の記録は取引が続いている限り自動的に増えていきます。
この検査機器の輸入販売会社では、保守契約の更新月から逆算して3か月間の動きを見る形にしました。操作マニュアルの閲覧、消耗品の発注、サポートへの連絡という3つの記録を組み合わせています。11件の解約のうち7件で、この期間の動きが止まっていました。
既存顧客の記録も、行動データの経路に入れましょう。新規と同じ設計で扱えます。
どこまで任せる?行動データ判断の線引き4つ
前章の4つの経路がそろうと、記録は日々増えていきます。ところが増えた記録をそのまま営業へ渡しても、読む時間がありません。ここから先は、集めた記録をどこまで機械に判断させるかという設計になります。この考え方はAgentic CRMの設計にもとづくものです。そこでここでは、行動データの判断をAIに任せる4つの線引きを整理します。
任せる範囲は精度の高さだけでは決まりません。自動で通知してよいのは、営業がその場で根拠を確かめられる範囲に限ります。
線引き①単発の動きを型にまとめる範囲
1つ目は「単発の動きを型にまとめる範囲」です。1回の閲覧や1通の開封を、意味のあるまとまりへ変換します。
まとめる必要があるのは、単発の記録は数が多く、意味が薄いためです。価格のページを1回見たという事実だけでは、判断に使えません。同じ企業から2週間のうちに価格と仕様の両方が見られたという形になって、はじめて型として扱えます。
この検査機器の輸入販売会社では、5つの型を定義しました。マーケティングの担当が過去の受注案件から取り出したもので、いずれも受注の前に高い頻度で現れています。月420件の閲覧の記録は、この5つの型に当てはめると月46件のまとまりになりました。
定義した5つの型 ①費用の確認・・・校正と保守の費用のページを2週間以内に2回以上見ています ②仕様の比較・・・測定の精度の資料と製品の一覧を同じ週に見ています ③社内の共有・・・同じ企業から2名以上が同じ資料を見ています ④更新の検討・・・保守契約の更新月の3か月前に操作マニュアルを見ています ⑤停止の兆し・・・利用の記録が前の四半期より半分以下に減っています
型は少ない数から始めましょう。受注した案件をさかのぼれば、自社の型が見つかります。
線引き②型から検討の段階を推定する範囲
2つ目に挙げるのは、型から検討の段階を推定する範囲です。どの型が出たかで、相手がどのあたりにいるのかを見当づけます。
推定を機械に任せてよいのは、根拠がその場で開ける場合に限られます。段階の名前だけを返すと、理由②で挙げた「根拠を確かめられない通知」と同じものになるため、どの型が出たから段階を上げたのかを、営業が1画面で確認できる形にする必要があります。
先ほどの会社では、推定した段階に必ず型の名前を添える形にしました。営業が通知を開くと、費用の確認が2回あった、社内で共有された、といった事実が並びます。段階の呼び名だけでなく事実が並ぶため、営業は何を話すかを決められます。
推定した結果には、必ず根拠の型を添えましょう。添えなければ、営業は動けません。
線引き③自動で営業へ通知してよい確からしさ
3つ目は「自動で営業へ通知してよい確からしさ」です。複数の型が重なった場合だけを、自動の対象にします。
判断の基準は、営業の時間をどれだけ使わせるかで決めます。通知を1件受け取るたびに営業は数分を使うため、外れが続けば見なくなります。理由②で挙げた会社の状態が、まさにそれです。最初は狭く取り、外れの割合を見てから広げる形が確実です。
この輸入販売会社では、費用の確認と仕様の比較が同じ月に出た場合、または社内の共有が出た場合を自動の条件にしました。この条件で通知したのは月46件です。運用の6か月で、営業が接触したのは72%にあたります。
自動の条件は最初は狭く取り、広げるときは条件を1つずつ外して、外した後の接触の割合を前の月と比べましょう。
線引き④記録だけ残して通知しない範囲
4つ目は「記録だけ残して通知しない範囲」です。型が1つしか出ていない場合は、通知せずに記録へ残します。
残す選択肢を用意する意味は、営業の時間を守ることにあります。通知の件数を増やすと1件あたりに使える時間が減り、どれも中途半端になってしまうでしょう。記録として残しておけば、後から型が重なった時点で通知に切り替えられます。
この検査機器の輸入販売会社では、月420件の閲覧の記録のうち、通知の対象になるのは46件です。残りは記録のみで、営業には届きません。マーケティングの担当が四半期ごとに見直したところ、記録のまま残っていた企業のうち14社が翌四半期に通知の条件を満たしました。
通知しないという選択を、最初から用意しておきましょう。全件を通知する前提だと、営業は見なくなります。
行動データを1経路から始める4つのステップ
ここまでで、取る対象と任せる範囲がそろいました。あとは着手の順番です。4つの経路を同時に立ち上げようとすると、設定も分類も並行して走り、どれも中途半端なまま数か月が過ぎてしまいます。マーケティングの担当が2名しかいない体制ならなおさらで、先に動かす1つを決めなければ、着手の時期は後ろへずれていくのではないでしょうか。そこでここでは、行動データを1経路から始める4つのステップを整理します。
着手の順番は経路の側からは決まりません。最初に決めるのは、AIに答えを出させたい問いです。経路はその後に決まります。
ステップ①答えを出したい問いを1つ決める
まず取りかかるのは、問いを1つに決める作業です。AIに何を答えさせたいのかを、1文で書きます。
問いを1つに絞るのは、問いが決まらないと必要な行動も決まらないためです。「営業を効率化したい」という形では、どの記録が要るのか誰にも言えません。「いま検討を始めた企業はどこか」という形になって、はじめて取る対象を逆算できます。
この検査機器の輸入販売会社が最初に決めた問いは、「問い合わせが来る前に接触すべき企業はどこか」でした。マーケティングの担当が1文で書き、営業部門の会議で読み上げて合意を取っています。この1文が、その後の判断の基準になりました。
答えさせたい問いを1文で書き、主語と、答えとして返してほしい形まで入っているかを確かめましょう。書けないなら、まだ着手する段階にありません。
ステップ②その問いに要る行動を洗い出す
問いが決まったら、次はその問いに答えるために要る行動を洗い出します。問いから逆算して、必要な記録を並べます。
洗い出すと、対象は思ったより少なくなります。検討を始めた企業を知りたいだけなら、必要なのは費用と仕様に関するページの閲覧と、資料の請求です。役職や部署名の記録は、この問いには使いません。関係しない記録を集めても、答えの精度は変わらないためです。
先ほどの会社では、洗い出した結果が7つの記録になりました。そのうち5つは既に取れており、2つは取れていません。マーケティングの担当は、取れている5つで先に始める判断をしています。
問いから逆算して、要る記録を、使う頻度の高い順に並べましょう。並べたものが、そのまま経路の一覧になります。
ステップ③取れていない経路を洗い出す
記録を並べ終えたら、そのうちいま取れていないものを分けます。すでに取得できている記録と、できていない記録を仕分けする作業です。
分ける理由は、取れていない記録の準備を待つと着手が遅れるからです。取れているものだけで始めれば、数週間で動き出せます。取れていない経路は、動き出した後に足しても、それまでの記録が無駄になりません。
この輸入販売会社で取れていなかったのは、展示会での接触の記録と、代理店経由の問い合わせの2つでした。どちらも人の手が入るため、基準②に照らして後回しにしています。取れていた5つで始めた結果、着手から11週間で運用に入りました。
取れていない経路は、いったん脇に置きましょう。準備が終わるのを待つより、取れている記録で先に運用へ乗せたほうが、条件の当たり外れを早く確かめられます。
ステップ④営業へ返す形を決めて運用に乗せる
最後に、営業へ返す形を決めてから運用に乗せます。通知の文面と、届く場所と、届く頻度を決めます。
返す形を決めておく必要があるのは、届き方によって使われるかどうかが変わるためです。1日分をまとめて朝に届けるのか、条件を満たした時点で届けるのかで、営業の動き方は変わります。どちらが合うかは、商談の進み方の速さで決まるでしょう。判断を機械へ移す考え方はエージェンティックAIの記事でも整理しています。
この検査機器の輸入販売会社では、条件を満たした時点で担当の営業へ届ける形にしました。文面には型の名前と、見られたページの一覧を入れています。通知から接触までの中央値は1.4日でした。
通知の文面と届く場所に加えて、誰が文面を直せるのかまで、運用の前に決めましょう。決めておけば、始めた後も営業の反応を見ながら調整できます。決めずに始めると、通知は埋もれます。
以上が、行動データを1経路から始める4つのステップでした。
行動データの設計でつまずく3つの落とし穴
前章の4つのステップは、順番どおりに進めば運用まで届きます。ところが実際には、途中で方針が変わって止まることも少なくありません。止まり方には共通した形があり、しかもその多くは着手の前の判断で決まっています。先に知っておけば、同じところで止まらずに済むのではないでしょうか。そこでここでは、行動データの設計でつまずく3つの落とし穴を整理します。
つまずくのは、技術が難しいからではありません。取れるものを全部取ってから考えると、どの記録が判断に効いたのかが分からなくなります。
落とし穴①取れるものを全部取ってから考える
1つ目は「取れるものを全部取ってから考える」ことです。まず記録を貯めて、後から使い道を決めようとします。
この順番で進むと、貯まった記録の量に対して判断に使えるものの割合が読めなくなり、記録が増えるほどAIに渡す対象を選ぶ作業も重くなります。ステップ①で問いを1つ決める意味は、この選ぶ作業を先に済ませることにあります。
先ほどの会社でも、当初は自社サイトの全ページの閲覧を記録する案がありました。月に4万件を超える記録になる見込みで、そこから何を使うかを決める作業には、担当2名では対応しきれません。マーケティングの担当は、2ページに絞る判断へ切り替えています。
貯めてから考える順番は避けましょう。問いを決めてから取る順番のほうが、着手は速くなります。
落とし穴②スコアの数字だけを営業へ渡す
2つ目に挙げるのは、スコアの数字だけを営業へ渡すことです。自社で作った指標でも、根拠を添えなければ外部のデータと同じになります。
自社で組み立てた指標は、内部の仕組みが分かっているぶん、数字だけで足りると考えがちです。ところが受け取る営業から見れば、点数の高い相手の一覧という点は変わりません。線引き②で型の名前を添える設計にしたのは、この落とし穴を避けるためです。
この検査機器の輸入販売会社では、試験の期間に点数だけを表示した時期がありました。営業からは「以前の外部の通知と何が違うのか」という質問が出ています。型の名前と見られたページを添えた後で、開く割合が大きく変わりました。
通知には必ず根拠を添えましょう。数字だけの通知は、作った側の自己満足で終わります。
落とし穴③取得の根拠を後から整理しようとする
3つ目は「取得の根拠を後から整理しようとする」ことです。まず動かして、必要になったら同意の取り方を見直す進め方になります。
後から整理する前提だと、指摘が入った時点で経路ごと止まります。止まった経路の記録は使えなくなり、その記録を前提に組んだ型も作り直しになります。基準④で範囲を絞る判断を先に置いたのは、この作り直しを避けるためです。
この輸入販売会社では、着手の前にマーケティングの担当が経路ごとの取得の目的を書き出しました。書き出す作業に要したのは2日ほどです。この2日で、第三者から購入する個人単位の行動を対象から外す判断ができました。
取得の根拠は着手の前に書き出し、法務や情報システムの担当にも読んでもらいましょう。指摘が入りそうな箇所を先に見つけられます。後回しにすると、作り直しの範囲が広がります。
効いている?行動データを測る4指標
ここまでで、設計と着手の順番、避けるべき形がそろいました。次に必要なのは、その設計が効いているかどうかを確かめる方法です。通知の件数だけを見ていると、条件を緩めて件数を増やすことが目的になり、営業が動かない通知まで数に入ってしまいます。測る対象を先に決めておけば、条件を見直すべきかどうかも判断できるでしょう。そこでここでは、行動データが効いたかを測る4つの指標を整理します。
見る対象は件数の多さでは決まりません。見るべきは通知の件数より、通知から営業が接触するまでの時間です。
指標①通知から接触までの時間
1つ目は「通知から接触までの時間」です。条件を満たしてから、営業が実際に連絡するまでの間隔を測ります。
この指標が最初に来るのは、行動データの価値が時期にあるためです。検討が始まった時点で接触できることが利点であり、通知から1週間が過ぎれば、外部のデータで届く時期と変わらなくなります。件数を増やす前に、この時間が短いかどうかを確かめます。
この検査機器の輸入販売会社では、運用の6か月で中央値が1.4日でした。当初は3日を超えていましたが、通知の届く場所を営業が毎日開く画面へ移したことで縮んでいます。移す前と後で通知の件数は変えておらず、営業が朝のうちに画面を開くようになったぶんだけ、連絡までの間隔が短くなりました。
平均を避け、中央値で見ましょう。数件の極端な遅れで、全体の姿が歪みます。
指標②通知に対して営業が動いた割合
2つ目に挙げるのは、通知に対して営業が動いた割合です。届いた通知のうち、実際に接触へつながった件数を数えます。
この割合が下がるときは、通知の条件が広すぎることを示します。線引き③で条件を狭く取る判断をしたのは、この割合を保つためです。逆に割合が高すぎる場合は、条件が狭すぎて拾えていない企業がある可能性を疑います。どちらに寄っているのかは、3か月ほど並べてみないと読み取れません。
先ほどの会社では、月46件の通知に対して営業が接触したのが72%でした。外部のデータを使っていた時期は、月180件に対して14件で8%です。件数は4分の1になりましたが、動いた件数は倍以上に増えています。
割合と件数を並べて見ましょう。件数だけでは、質の変化が見えません。
指標③動いた結果が商談になった割合
3つ目は「動いた結果が商談になった割合」です。接触した企業のうち、商談へ進んだ件数を数えます。
この指標は、型の定義が合っているかを確かめる材料になります。接触の割合が高くても商談にならないのであれば、営業は動いているのに相手の検討が始まっていないのでしょう。型の条件を見直す判断は、この数字から出てきます。パイプラインの側の見方は、KPI設計の記事をご確認ください。
この輸入販売会社では、接触した企業のうち23%が商談になりました。外部のデータを使っていた時期は14件の接触に対して1件で、7%です。マーケティングの担当は、この差を型の定義が効いた証拠として報告しています。
商談になった割合まで追いましょう。接触の件数で止めると、型の良し悪しが分かりません。
指標④見落としていた兆しの件数
4つ目は「見落としていた兆しの件数」です。受注した案件をさかのぼり、通知が出ていなかったものを数えます。
この指標を置く理由は、通知の条件が狭すぎる場合に気づくためです。指標①から③までは、出した通知の質を測っています。出さなかった通知の質は、受注の側から振り返らなければ分かりません。四半期に一度、受注した案件の記録を確認する形が現実的です。
この検査機器の輸入販売会社では、四半期ごとに受注案件を確認しています。直近の四半期で受注した28件のうち、事前に通知が出ていたのは16件でした。残る12件のうち5件は型の条件をわずかに下回っており、条件の見直しの材料になっています。
受注した側からも振り返り、条件をわずかに下回った案件が続くようなら、緩めるのは通知の条件のほうにしましょう。型の定義まで動かすと、これまでの数字と比べられなくなります。出さなかった通知にも、設計の情報が残っています。
買ってきた行動データを自社と組み合わせる3つの条件
ここまでは自社で取る行動データを扱ってきました。では外部から買うデータに意味がないかというと、そうではありません。順番の問題であり、自社側の設計ができた後なら組み合わせる価値が出てきます。自社の記録では観測できない範囲、たとえば他社の製品を検討している段階の動きは、外部の指標にしか現れないためです。ただし組み合わせられるかどうかは、いくつかの条件がそろっているかで決まるでしょう。そこでここでは、買ってきた行動データを自社と組み合わせる3つの条件を整理します。
外部のデータの価値は購入の時点では決まりません。外部のデータが効くのは、自社の判断の型ができた後です。
条件①自社の行動データで判断の型ができている
1つ目の条件は「自社の行動データで判断の型ができている」ことです。線引き①で定義した型が、運用のなかで機能している状態を指します。
型ができていると、外部の指標を評価する基準が手元にあります。届いた通知が自社の型のどれに近いのかを照らし合わせられるため、使える通知と使えない通知を選り分けられます。型がない状態では、届いた通知を疑う材料がありません。
この検査機器の輸入販売会社では、自社の設計が動き出してから8か月後に、外部のデータの契約を更新するかどうかを判断する時期が来ました。マーケティングの担当は、自社の5つの型と外部の通知を照合しています。
自社の型ができるまでは、外部のデータの判断を保留しましょう。契約の更新月が先に来るようなら、いったん最短の期間で更新しておき、型ができてから続けるかどうかを決める進め方もあります。
条件②外部の指標の作られ方を確認できる
2つ目に挙げるのは、外部の指標の作られ方を確認できることです。何を根拠に、どの範囲を観測して作られた指標なのかを、提供元に確かめます。
確かめる必要があるのは、理由②で挙げたとおり、営業が根拠を開けない通知は使われないためです。観測している媒体の範囲、更新の頻度、企業を特定する方法まで確認できれば、自社の型と並べたときの位置づけが決まります。確認できない部分があれば、その範囲は自社の型と重ねずに、参考の情報として分けて扱いましょう。
先ほどの会社では、提供元へ問い合わせて観測の範囲を確認しました。自社が扱う機器の専門媒体は観測の対象に入っておらず、拾える話題が広い分野に限られることが分かっています。そのうえでマーケティングの担当は、観測の対象へ専門媒体を追加できるかを提供元と話し合っています。
作られ方は、契約の前に、書面で答えてもらえるところまで確認しましょう。口頭の説明だけだと、担当者が変わった時点で同じ説明を受けられなくなります。
条件③組み合わせた結果を検証する期間を取れる
3つ目は「組み合わせた結果を検証する期間を取れる」ことです。組み合わせた通知が、自社だけの通知より良い結果を出すかを確かめます。
期間を取る理由は、組み合わせが常に良い結果を生むとは限らないためです。通知の件数が増えることで、指標②の動いた割合が下がる場合があります。部門をまたいで数字を突き合わせる進め方は、RevOpsの記事で詳しく解説しています。
この輸入販売会社では、四半期を検証の単位にしました。外部の通知を組み合わせた期間と、自社だけの期間を比べています。比較の結果が出るまでは、営業への通知の条件を変えていません。
検証の期間を先に決めましょう。決めずに組み合わせると、良し悪しの判断がつきません。
行動データの設計に外部支援を使う4つの判断軸
ここまで挙げてきた設計は、マーケティングの担当が2名いれば自社で進められる範囲です。とはいえ、問いの立て方や型の定義で迷う場面は出てくるでしょう。外部の支援を検討する場合、何を基準に選ぶかを整理しておくと判断が速くなります。そこでここでは、行動データの設計に外部支援を使う4つの判断軸を整理します。
選ぶ基準は実績の件数では決まりません。支援を選ぶ基準は、どこまで取るかを決めるところから一緒に考えられるかどうかです。
判断軸①どこまで取るかから決められるか
1つ目の判断軸は「どこまで取るかから決められるか」です。取る対象を決める段階から関わってもらえるかを確かめます。
この軸を最初に置くのは、記録を取る仕組みを作る作業より、何を取るかを決める作業のほうが難しいためです。ステップ①の問いを1文で書く作業を一緒にやってもらえるかどうかで、その後の設計の質が変わります。仕組みの構築から入る提案は、この段階を飛ばしています。
支援を探すときに出会う会社は、大きく3つのタイプに分かれます。
外部支援の3つのタイプ ①総合系・・・データ基盤の構築を主とし、要件が固まった後の実装を担います ②特化系・・・特定のツールの導入を主とし、選定した後の設定を速く進めます ③伴走系・・・業務の設計から入り、何を取るかを決める段階から関わります
最初の1問を一緒に書けるのは③にあたり、①と②は取る対象が決まった後のほうが力を借りやすくなります。
最初の面談で、問いの立て方の話が出るかを見ましょう。出なければ、取る対象は自社で決めることになります。
ソリューション営業に特化した支援がほしい場合は、商談で確かめたい相手の動きから取る対象を決められるかが判断材料になります。
判断軸②業務設計から入ってくれるか
2つ目に挙げるのは、業務設計から入ってくれるかという軸です。ツール設定ではなく業務設計から入ってほしい場合は、この点を最初に確かめます。
確かめる意味は、行動データの設計が業務側の定義に依存しているためです。何を購買の意思とみなすかは、自社の商材と商談の進み方から決まります。ツールの設定はその後の作業であり、順番が逆になると、設定はできたのに使われない状態になります。
先ほどの会社が最初に相談した先は、記録を取る仕組みの構築を提案してきました。何を取るかは自社で決める前提だったため、マーケティングの担当は判断を保留しています。結果として、問いの整理は自社で行いました。
業務の話から始まるかを見ましょう。設定の話から始まる相手は、決める作業を自社に残します。
判断軸③小さく始める形を示せるか
3つ目は「小さく始める形を示せるか」という軸です。小さく始めたい場合に、1つの経路から動かすスモールスタートの形を提案できるかを確かめます。
小さく始める形が示せる相手は、着手の順番を理解しています。4つの経路を同時に立ち上げる提案は、落とし穴①と同じ形になりがちです。中堅・中小企業では専任を置けないことが多く、1つの経路で成果を確かめてから広げる進め方のほうが現実的です。
この検査機器の輸入販売会社は、マーケティングの担当2名で96時間を使って自社で進めました。1つの問いから始めたため、11週間で運用に入っています。同じ範囲を最初から4経路で設計していれば、この期間には収まりませんでした。
1つ目に何をやるかを聞いてみましょう。答えが全体の設計から始まる場合、期間は延びます。
判断軸④設計の確認だけを頼めるか
4つ目は「設計の確認だけを頼めるか」という軸です。自社で構築するので設計レビュー・アドバイザリーだけ頼みたい場合に、その形で受けてもらえるかを確かめます。
この形が成立するのは、自社に設計を進められる担当がいる場合です。作った型の定義や、自動で通知する条件の置き方を第三者に見てもらうだけでも、判断の速さは変わります。構築を一式で請け負う前提の相手には、この形が難しいことがあります。
当社では、Agentic CRMの設計支援として、こうした確認だけを引き受ける形にも対応しています。定着まで伴走してほしい場合と、確認だけを頼みたい場合では、関わり方が変わるためです。どちらが合うかは、社内に設計を進められる担当がいるかどうかで決まります。
どこまでを頼むかを、相談の前に決めておきましょう。決めておけば、提案の内容を比べられます。
【一問一答】行動データに関するよくある質問
ここまで、行動データを取る範囲の決め方から、外部支援の選び方までを整理してきました。読み進めるなかで、自社の場合はどこから手を付ければよいのか、いま契約している外部のデータをどうするのかといった疑問が残っているかもしれません。実際に着手する段階になると、設計を読んだだけでは決めきれない細かい判断で迷う場面は増えていくのではないでしょうか。そこでここでは、行動データに関して寄せられることの多い質問に、順に答えていきます。
質問①行動データはどこから取り始めますか?
自社サイトの閲覧の記録から始めるのが確実です。取り続けやすく、検討の早い段階の動きを拾えるためです。この記事の例に挙げた検査機器の輸入販売会社でも、受注した案件の6割超で、問い合わせの前に自社サイトを3回以上見ていました。ただし全ページを対象にせず、費用や仕様など、検討している人しか開かないページに絞ってください。受注した案件が受注の前に見ていたページを調べると、対象が決まります。
質問②買ってきた行動データは使えますか?
自社の判断の型ができた後であれば使えます。この会社は外部のインテントデータを1年契約で導入しましたが、通知された企業へ架電しても話が噛み合わず、営業は通知を見なくなりました。型がない状態で買うと、届いた通知を評価する基準が手元にありません。先に自社の記録で型を定義し、外部の指標の作られ方を確認したうえで、検証の期間を決めて組み合わせてください。順番を逆にすると、営業が通知を見なくなります。
質問③行動データの判断はAIに任せられますか?
型にまとめる処理と、条件を満たしたときの通知までは任せられます。この会社では、ある製造業の顧客から3名が別々に資料を請求しており、1名ずつのスコアでは通知の対象になりませんでした。通知には根拠となる型の名前と、見られたページの一覧を必ず添えてください。点数だけを返す形にすると、営業が動く判断をできません。条件を満たさない記録は、通知せずに残す範囲として分けます。
質問④行動データはどのくらいで効きますか?
1つの経路から始めた場合、運用に入るまでが2〜3か月です。効果の判断には、そこからさらに四半期ほどかかります。通知から接触までの時間は早い段階で短くなりますが、商談になった割合は母数がそろうまで読めません。最初の四半期は、条件を変えずに数字を集める期間と考えてください。
質問⑤行動データを取る根拠はどう説明しますか?
経路ごとに、何のために取るのかを1行で書き出してください。この会社の場合、解約に至った保守契約11件のうち7件で、更新の3か月前から操作マニュアルの閲覧が止まっていました。自社が直接受け取っている記録であれば、目的を説明できます。書けない対象は、着手の時点で外すほうが確実です。後から整理する前提で進めると、指摘が入った時点で経路ごと止まり、その記録を前提にした型も作り直しになります。
行動データは、AIに何を判断させたいかから決まる
ここまで、行動データが揃っていないとAIが兆しを見落とす場面から、買ってきたデータで商談が増えない理由、取る対象を決める4つの基準、AIに任せる4つの線引き、効いたかを測る4つの指標までを見てきました。共通しているのは、記録できる量から範囲を決めていないという点です。
外部の指標を買うところから始めると、届いた通知を評価する基準が手元にないまま運用が始まります。営業が根拠を開けない通知は、数か月で見られなくなります。先に決めるのは、AIに答えさせたい問いです。問いが1つ決まれば、要る記録も、任せてよい範囲も、効いたかどうかの測り方も順に決まっていきます。
検査機器の輸入販売会社の例では、外部の通知が月180件届いていた状態から、自社の記録で月46件の通知を作りました。件数は4分の1ですが、営業が接触したのは72%、そのうち23%が商談になっています。問い合わせが来る前に接触できた案件は、四半期3件から19件へ増えました。外部のデータの契約は解約していません。判断する材料ができた後で、組み合わせるかどうかを決める段階に入っています。
当社では、Agentic CRMの設計支援として、取る対象を決めるところから運用に乗せるまでを扱っています。問いの立て方から一緒に整理したい場合も、自社で作った型の確認だけを頼みたい場合も対応しています。まずは、いまどの記録が取れていて、どの記録が抜けているのかを一緒に確かめるところから始めてみませんか。

