Agentforceのデータライブラリとは?入れる文書の選び方と更新の設計

読了時間 11

「社内のPDFのマニュアルや議事録を読ませたいが、どれを入れればいいのか決められない」という声を、Agentforceを動かし始めた担当者からよく聞きます。最初に手が止まるのは、設定の画面ではありません。どのファイルを回答の根拠として使わせてよいのか、その判断です。データライブラリとは、Agentforceのエージェントが回答の根拠として参照する非構造の社内文書を、検索できる形にまとめて置く場所のことです。 Agentforceの機能と提供状況は更新が続くため、本記事は2026年9月時点の情報にもとづいています。

そこで本記事では、データライブラリに入れる文書の選び方と、入れたあとの運用の設計について解説します。

なお、回答の精度が上がらない原因と改善の全体像はAgentforce RAGの記事、CRMの外にあるデータを統合する基盤はData 360の記事で扱っています。本記事はそれらと重ならないよう、入れ物の設計と運用だけに絞ります。

目次
  1. Agentforceのデータライブラリに入れる社内文書を選ぶ3つの基準
    1. 基準①回答の根拠として示せる文書
    2. 基準②更新の担当が決まっている文書
    3. 基準③閲覧の権限が同じ範囲の文書
  2. データライブラリを1つにまとめたときの3つの支障
    1. 支障①関係のない文書が根拠に混ざる
    2. 支障②古い版の文書が残ったまま検索される
    3. 支障③権限のない情報まで回答に出る
  3. データライブラリの分け方を決める4つの単位
    1. 単位①依頼を受ける業務の範囲
    2. 単位②文書が更新される頻度
    3. 単位③閲覧を許す担当者の範囲
    4. 単位④文書の作られ方の違い
  4. データライブラリへ入れる前に整える3つの作業
    1. 作業①文書の題名を検索される語に直す
    2. 作業②版の古い文書を取り除く
    3. 作業③1ファイルの中身を1つの主題に絞る
  5. データライブラリの更新を続ける4つの手順
    1. 手順①更新の担当を文書の単位で決める
    2. 手順②差し替えの期限をあらかじめ決める
    3. 手順③取り除いた文書の記録を残す
    4. 手順④回答の根拠を月次で抜き取り確認する
  6. データライブラリの権限を設計する3つの観点
    1. 観点①利用者の役職で閉じる範囲
    2. 観点②取引先ごとに閉じる範囲
    3. 観点③社外へ出せない情報の扱い
  7. データライブラリの用意でつまずく3つの落とし穴
    1. 落とし穴①社内の文書をすべて入れる
    2. 落とし穴②入れた文書の担当を決めない
    3. 落とし穴③回答がずれた原因を指示文に求める
  8. データライブラリの効果を測る3つの指標
    1. 指標①根拠として示された文書の割合
    2. 指標②担当者が原本を開き直した回数
    3. 指標③古い版が根拠に出た件数
  9. データライブラリを使い始める4つのステップ
    1. ステップ①対象の業務を1つ決める
    2. ステップ②その業務で使う文書を数える
    3. ステップ③題名を整えてから取り込む
    4. ステップ④限定した範囲で回答を確かめる
  10. データライブラリの設計に外部支援を使う4つの判断軸
    1. 判断軸①文書の棚卸しから入れるかどうか
    2. 判断軸②更新の運用まで付き合えるかどうか
    3. 判断軸③現場が使う文書を知っているかどうか
    4. 判断軸④設計の確認だけを頼めるかどうか
  11. 【一問一答】Agentforceのデータライブラリに関するよくある質問
    1. 質問①データライブラリにはどの形式のファイルを入れられますか?
    2. 質問②データライブラリはData 360がなくても使えますか?
    3. 質問③データライブラリに入れた文書はいつ反映されますか?
    4. 質問④データライブラリを分けると回答は速くなりますか?
    5. 質問⑤データライブラリの更新は誰が担当するのがよいですか?
  12. Agentforceのデータライブラリの設計は、根拠として示せる文書だけを選べるかで決まる
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目次
  1. Agentforceのデータライブラリに入れる社内文書を選ぶ3つの基準
    1. 基準①回答の根拠として示せる文書
    2. 基準②更新の担当が決まっている文書
    3. 基準③閲覧の権限が同じ範囲の文書
  2. データライブラリを1つにまとめたときの3つの支障
    1. 支障①関係のない文書が根拠に混ざる
    2. 支障②古い版の文書が残ったまま検索される
    3. 支障③権限のない情報まで回答に出る
  3. データライブラリの分け方を決める4つの単位
    1. 単位①依頼を受ける業務の範囲
    2. 単位②文書が更新される頻度
    3. 単位③閲覧を許す担当者の範囲
    4. 単位④文書の作られ方の違い
  4. データライブラリへ入れる前に整える3つの作業
    1. 作業①文書の題名を検索される語に直す
    2. 作業②版の古い文書を取り除く
    3. 作業③1ファイルの中身を1つの主題に絞る
  5. データライブラリの更新を続ける4つの手順
    1. 手順①更新の担当を文書の単位で決める
    2. 手順②差し替えの期限をあらかじめ決める
    3. 手順③取り除いた文書の記録を残す
    4. 手順④回答の根拠を月次で抜き取り確認する
  6. データライブラリの権限を設計する3つの観点
    1. 観点①利用者の役職で閉じる範囲
    2. 観点②取引先ごとに閉じる範囲
    3. 観点③社外へ出せない情報の扱い
  7. データライブラリの用意でつまずく3つの落とし穴
    1. 落とし穴①社内の文書をすべて入れる
    2. 落とし穴②入れた文書の担当を決めない
    3. 落とし穴③回答がずれた原因を指示文に求める
  8. データライブラリの効果を測る3つの指標
    1. 指標①根拠として示された文書の割合
    2. 指標②担当者が原本を開き直した回数
    3. 指標③古い版が根拠に出た件数
  9. データライブラリを使い始める4つのステップ
    1. ステップ①対象の業務を1つ決める
    2. ステップ②その業務で使う文書を数える
    3. ステップ③題名を整えてから取り込む
    4. ステップ④限定した範囲で回答を確かめる
  10. データライブラリの設計に外部支援を使う4つの判断軸
    1. 判断軸①文書の棚卸しから入れるかどうか
    2. 判断軸②更新の運用まで付き合えるかどうか
    3. 判断軸③現場が使う文書を知っているかどうか
    4. 判断軸④設計の確認だけを頼めるかどうか
  11. 【一問一答】Agentforceのデータライブラリに関するよくある質問
    1. 質問①データライブラリにはどの形式のファイルを入れられますか?
    2. 質問②データライブラリはData 360がなくても使えますか?
    3. 質問③データライブラリに入れた文書はいつ反映されますか?
    4. 質問④データライブラリを分けると回答は速くなりますか?
    5. 質問⑤データライブラリの更新は誰が担当するのがよいですか?
  12. Agentforceのデータライブラリの設計は、根拠として示せる文書だけを選べるかで決まる
本田正憲

合同会社クロスコムの代表|専門商社にて7年間のBtoB営業を経て、マーケティング業界に参入。現在はSalesforce公式コンサルティングパートナーとして、ソリューション営業の業務プロセスに特化したAgentforce導入・定着支援と、Agentic CRM設計支援を提供している。

Agentforceのデータライブラリに入れる社内文書を選ぶ3つの基準

印刷用インキを製造するメーカーでは、従業員310名のうち営業が28名、技術サービスが4名という体制で、Sales Cloudを3年運用してきました。この企業は説明のための架空の設定であり、実在の企業ではありません。この会社は半年前にカスタマーサポート向けのエージェントを動かし始めましたが、製品の安全データシートも色調整の手順書も過去の客先立会いの議事録も、部署ごとの共有フォルダとメールの添付に分かれたままです。当初の目的は「問い合わせの一次回答を担当者に代わって返すこと」でした。そこでここでは、この会社を例に、Agentforceのデータライブラリに入れる社内文書を選ぶ3つの基準を整理します。

社内にある文書をすべて入れれば答えられるようになる、という話ではありません。データライブラリに入れてよいのは、回答の根拠として担当者が顧客へ提示できる文書だけです。

比較の観点全部入れた場合基準で選んだ場合
根拠の示し方出典が特定できない文書名で提示できる
古い版の扱い新旧が同時に出る最新だけが残る
更新の担当決まっていない文書ごとに決まる
権限の設計最も広い範囲に寄る文書の単位で閉じる
整備にかかる工数初回だけ大きい毎月に分散する

基準①回答の根拠として示せる文書

1つ目は「回答の根拠として示せる文書」です。エージェントが返した内容について、担当者が顧客から根拠を聞かれる場面は必ず来ます。そのときに文書名と該当箇所を提示できるかどうかが、入れてよい文書かどうかの線になります。

判断の材料は文書の正しさだけではありません。その文書を社外の相手に見せられるかどうかが、実務では先に効いてきます。社内の検討メモや個人の下書きは、内容が正しくても提示できません。

先ほどの印刷用インキのメーカーでは、共有フォルダ4か所に約2,800のファイルがありました。技術サービスの担当者が中身を確かめたところ、顧客へ提示できる文書は安全データシートと製品の仕様書と色調整の標準手順書に限られています。残りは社内の検討メモ、営業が個人で作った提案の下書き、会議の走り書きでした。

入れる候補を並べたら、「この文書を顧客に見せられますか」と1件ずつ問いかけてみましょう。この問いで迷いが出た文書は、品質保証の担当者に確認してから可否を決める対象になります。

基準②更新の担当が決まっている文書

2つ目に挙げるのは、更新の担当が決まっている文書です。データライブラリに入れた文書は、入れた時点の内容で固定されます。元の文書が改訂されても、入れ直さなければ古い内容のまま参照され続けます。

なぜ担当の有無が基準になるかというと、担当が決まっていない文書は改訂されたことに誰も気づかないからです。エージェントは古いと分かって参照するわけではありません。入っているものを根拠にするだけです。

この会社の安全データシートは、法令の改正に合わせて品質保証の担当者が改訂しており、更新の責任者が明確でした。一方、色調整の手順書は現場の熟練者が必要に応じて書き足しており、誰が最新版を持っているかも分からない状態です。技術サービスの4名は、この手順書を入れる前に、更新の担当を1名決めるところから始めています。

入れたい文書の一覧に、更新の担当者の名前を書く欄を作ってみましょう。空欄のまま入れた文書が、あとで古い版として残ります。

基準③閲覧の権限が同じ範囲の文書

3つ目は「閲覧の権限が同じ範囲の文書」です。閲覧できる範囲が違う文書を同じ場所に入れると、範囲の広いほうに合わせることになりかねません。ただし、元の文書の閲覧権限が回答にどこまで引き継がれるかは、情報源の種類と設定によって変わります。公式ヘルプの2025年12月5日版では、社内ナレッジを情報源にする場合について、ナレッジのオブジェクトの読み取り権限と、選んだ項目の項目レベルセキュリティを有効にすることが必要だと書かれています。自社が入れる文書でどう扱われるかは、設定の画面と公式ヘルプで必ず確かめてください。

範囲を広いほうに合わせると、本来は見せたくない情報が回答に出てしまいます。逆に狭いほうへ合わせれば、多くの担当者は何も引けません。どちらの調整も、入れたあとでは手間が大きくなります。

先ほどのメーカーでは、顧客ごとの色調整の記録に取引先の配合が含まれていました。この記録を製品の仕様書と同じ場所に入れる案が出ましたが、仕様書は営業28名全員が見てよい文書で、配合の記録は技術サービス4名に限られます。技術サービスの担当者は、この2つを別のライブラリに分ける判断をしています。

入れる候補を、閲覧してよい人の顔ぶれで並べ替えてみましょう。顔ぶれが変わるところが、ライブラリを分ける線になります。

データライブラリを1つにまとめたときの3つの支障

ここまで挙げた3つの基準を踏まえると、入れる文書を選ぶ作業には手間がかかると感じられるかもしれません。実際、この印刷用インキのメーカーも、最初は共有フォルダの中身をまとめて1つのライブラリへ入れる計画を立てていました。そこでここでは、データライブラリを1つにまとめたときに実際に現れる3つの支障を整理します。

支障は回答の品質の問題として報告されますが、原因は入れ物の側にあります。同じ質問に対する答えがぶれるとき、疑うべきは指示文より先に、1つのライブラリへ入れた文書の範囲です。

支障①関係のない文書が根拠に混ざる

1つ目は「関係のない文書が根拠に混ざる」という支障です。データライブラリは、入れた文書を分割して検索できる形に整理します。検索の対象がライブラリの全体である以上、質問との関連が弱い文書も候補に上がります。

候補が増えるほど、回答に使われる文書は不安定になります。似た語が出てくるだけの別の文書が選ばれて、そこに書かれた内容で回答が組み立てられるためです。

この会社が試しに2,800のファイルをまとめて入れたとき、「この製品の希釈率を教えて」という質問に対して、3年前の客先立会いの議事録が根拠として返っています。議事録には特定の顧客向けに例外的に決めた希釈率が書かれており、標準の仕様書とは違う数値でした。カスタマーサポートの担当者がそのまま回答していれば、誤った案内になっていたところです。

入れる範囲を広げたくなったら、その文書が根拠として選ばれたときの回答を想像してみましょう。困る場面があるなら、それは入れる文書ではありません。

支障②古い版の文書が残ったまま検索される

2つ目に挙げるのは、古い版の文書が残ったまま検索される支障です。共有フォルダには、改訂のたびに別名で保存されたファイルが積み上がっています。「_最新」「_修正版」「_20250412」といった名前の違いだけで、中身は同じ文書の別の版です。

まとめて入れると、この新旧がすべて検索の対象になります。エージェントには、どちらが新しい版かを判断する材料がありません。ファイル名の日付は文字列であって、版の順序を示す情報として扱われるわけではないためです。

先ほどのメーカーが2,800のファイルを調べたところ、約380が版の重複でした。安全データシートだけで同じ製品のものが4版あり、そのうち2版は法令の改正前の内容です。技術サービスの担当者は、この重複を取り除く作業に最も時間がかかったと振り返っています。

入れる前に、同じ文書の別の版が何件あるかを数えてみましょう。数が多いほど、古い版が根拠に出る確率も上がります。

支障③権限のない情報まで回答に出る

3つ目は「権限のない情報まで回答に出る」という支障です。1つにまとめるほど、入れた文書のどれが誰に届くのかを追いにくくなります。文書ごとに閲覧の範囲を確実に分けたいのであれば、ライブラリを分ける形が最も読みやすい設計になります。

この支障が見つかりにくいのは、回答が正しく返ってしまうためです。エラーにはならず、聞いた担当者にとっては欲しい情報が返ってきただけの体験になります。問題が表に出るのは、その情報を社外へ伝えたあとです。

この会社では、営業担当者が「A社と同じ配合で見積を作りたい」と依頼したときに、B社向けの配合の記録が根拠として返っています。技術サービスの担当者が偶然その回答を確認して気づいたもので、営業側からの申告はありませんでした。範囲を分けていれば、そもそも候補に上がらない文書です。

回答が正しく返ることは、権限が正しいことを意味しません。見せてよい相手かどうかは、ライブラリの分け方で決めておく必要があります。

データライブラリの分け方を決める4つの単位

1つにまとめたときの3つの支障を整理してきましたが、分けたほうがよいことは分かっても、どの線で分けるかまでは決まりません。線を決めないまま数だけを増やすと、今度は同じ文書を複数のライブラリへ入れることになり、更新のたびに全箇所を直す作業が生まれてしまうのです。そこでここでは、データライブラリの分け方を決める4つの単位を整理します。

分ける線は文書の種類では決まりません。データライブラリを分ける単位は、依頼を受ける業務と、更新の頻度と、閲覧の範囲がそろう範囲で決めます。

単位①依頼を受ける業務の範囲

1つ目は「依頼を受ける業務の範囲」です。Salesforceの公式の学習教材には、データライブラリごとに専用のリトリーバーが作られると書かれています。リトリーバーはデータと機能をつなぐ役割を担う仕組みで、ライブラリを分けるということは、参照の経路を分けることにあたります。

※参考記事はこちら

経路が分かれていれば、業務ごとに参照させる文書を切り替えられます。問い合わせの一次対応で読むべき文書と、営業が見積を作るときに読むべき文書は、重なる部分があっても同じではありません。

この印刷用インキのメーカーは、最終的に3本のライブラリへ分けました。問い合わせの一次対応で使う製品情報、技術サービスが使う色調整の記録、営業が使う提案の実績という区分です。カスタマーサポートのエージェントが参照するのは1本目だけで、残り2本には経路がつながっていません。

分ける前に、どの業務の依頼で読むのかを文書ごとに書き出しましょう。業務が複数にまたがる文書は、主に使う側へ寄せます。どの業務から着手するかの決め方は、Agentforceのユースケースの選び方でも整理しています。

単位②文書が更新される頻度

2つ目に挙げるのは、文書が更新される頻度です。月に何度も差し替わる文書と、年に1度しか変わらない文書を同じライブラリに入れると、入れ直しの作業がライブラリ全体に及びます。

頻度でまとめておくと、確認の間隔を分けられます。毎月見るべきライブラリと、年に1度でよいライブラリを別に持つほうが、担当者の作業は軽くなります。

先ほどの会社の3本を頻度で見ると、製品情報は法令や仕様の改訂に合わせて年に数回、色調整の記録は案件が終わるたびに追加され、提案の実績は月に十数件のペースで増えていました。技術サービスの担当者は、更新の多い2本だけを毎月の確認の対象にしています。

文書の一覧に、直近1年の更新回数を書き足してみましょう。回数の差が大きい文書は、同じライブラリに入れないほうが運用は続きます。

単位③閲覧を許す担当者の範囲

3つ目は「閲覧を許す担当者の範囲」です。基準③で触れたとおり、閲覧の範囲が違う文書を同じライブラリに入れると、範囲の広いほうへ寄る可能性があります。分ける単位としても、この線は最も強く効きます。

範囲で分ける利点は、あとから利用者が増えたときに影響を読めることです。営業を10名増やす場合でも、その人たちがどのライブラリを参照するかが決まっていれば、確認すべき文書の範囲は限られます。

この会社の色調整の記録には取引先ごとの配合が含まれるため、技術サービスの4名だけが参照できるライブラリに置いています。営業28名が参照するのは製品情報と提案の実績の2本で、配合の記録には経路がありません。この分け方は、営業から要望が出たときにも変えていません。

閲覧の範囲を分けたら、その範囲を誰が決めたのかを記録に残しましょう。担当者が替わったときに、判断の理由が引き継がれます。

単位④文書の作られ方の違い

4つ目は「文書の作られ方の違い」です。定型の様式で作られる文書と、担当者が自由に書く文書では、検索に使われる形へ整理されたときの扱いが変わります。定型の文書は見出しや項目が安定しており、必要な箇所が特定されやすくなります。

自由記述の文書は、同じ内容でも書き方が担当者ごとに違います。混ぜて入れると、定型の文書から引けたはずの箇所が、自由記述の文書に埋もれる場面が出てきます。

先ほどのメーカーの3本目にあたる提案の実績は、営業が自由に書いた記録です。技術サービスの担当者は、この記録を製品情報と同じライブラリに入れる案を検討しましたが、試験的に混ぜたところ、仕様の質問に対して提案書の抜粋が返る回数が増えました。結果として、別のライブラリへ分けています。

様式が決まっているかどうかで、文書を2つの山に分けてみましょう。山をまたいで1つのライブラリにするなら、混ぜた状態で一度試す必要があります。

データライブラリへ入れる前に整える3つの作業

ここまでで分ける単位が決まっても、共有フォルダのファイルをそのまま取り込むと、支障②で挙げた古い版の問題は残ったままになります。取り込みの操作は数分で終わりますが、時間を必要とするのは、その前に元の文書を整える作業のほうです。そこでここでは、データライブラリへ入れる前に整える3つの作業を整理します。

整える対象は文書の中身ではありません。取り込む前に整えるのは、文書の題名と版と、1ファイルが扱う主題の数です。

作業①文書の題名を検索される語に直す

最初に手をつけるのは、文書の題名を実際に検索される語へ直す作業です。共有フォルダの題名は、作った人が保存しやすい形になっています。「20250412_打合せ_A社」のような題名は、担当者にとっては分かりやすくても、質問の文面とは重なりません。

題名を直す理由は、検索の対象になる情報が中身だけではないからです。題名に製品名や業務の呼び名が入っていれば、その語を含む質問との関連が強くなります。

この印刷用インキのメーカーでは、安全データシートの題名が「SDS_2024_rev3」のような形で統一されていました。技術サービスの担当者は、これを「製品名+安全データシート+改訂年月」の形へ直しています。直したあと、製品名で聞かれた質問に対して該当の文書が根拠に上がる回数が増えました。

題名を直すときは、担当者が実際に使う語を選びましょう。社内の型番だけの題名は、顧客の言い方とは結びつきません。

作業②版の古い文書を取り除く

題名が整ったら、次に版の重複を取り除きます。同じ文書の別の版が残っていると、どちらが根拠に選ばれるかは制御できません。取り込む前に1つへ絞る作業が要ります。

絞り方は、最新の1版だけを残すのが基本です。過去の版を参照する必要がある業務では、別のライブラリへ分けるか、そもそも取り込まずに元の場所へ残します。

先ほどの会社が2,800のファイルから重複を取り除いたところ、対象は約380件でした。技術サービスの2名が5週間かけて確かめ、合計62時間を使っています。最も判断に迷ったのは色調整の手順書で、現場の熟練者が書き足した3版のうち、どれが有効かを本人に確認する必要がありました。

重複を取り除く作業は、最初の1回が最も重くなります。この時点で更新の担当を決めておけば、2回目以降は差し替えるだけで済みます。

作業③1ファイルの中身を1つの主題に絞る

3つ目は「1ファイルの中身を1つの主題に絞る」作業です。取り込まれた文書は、検索できるように分割されて整理されます。1つのファイルに複数の主題が入っていると、質問と関連する箇所と関連しない箇所が同じ文書のなかに混在します。

主題を絞る利点は、根拠として示す範囲がはっきりすることです。担当者が顧客へ提示するときも、文書全体を渡さずに該当の1ファイルだけを渡せます。

この会社には、製品5種類の仕様と注意事項を1つにまとめた40ページの資料がありました。試しにそのまま取り込んだところ、ある製品について聞かれた質問に対して、別の製品の注意事項が根拠に混ざる場面が出ています。技術サービスの担当者は、この資料を製品ごとの5ファイルへ分けてから取り込み直しました。

1つのファイルを開いて、目次が2階層以上に分かれているなら分割を検討しましょう。分けた数だけ、根拠の示し方は正確になります。

データライブラリの更新を続ける4つの手順

前章で整えた文書を取り込めば、その時点では狙いどおりに回答が返ります。ところが3か月後には、元の文書が改訂されているのにライブラリの中身は入れたときのままで、その食い違いが気づかないうちに広がっていくのです。回答の精度を保つための考え方はAgentforce RAGの記事で扱っているため、ここでは誰がいつ差し替えるかという運用に絞ります。そこでここでは、データライブラリの更新を続ける4つの手順を整理します。

更新は思い出したときに行う作業にはなりません。データライブラリの更新は、文書の単位で担当を決め、差し替えの期限を先に決めておくことで続きます。

手順①更新の担当を文書の単位で決める

最初に決めるのは、文書ごとの更新の担当です。担当はライブラリの単位では決めず、文書1件ごとに割り当てます。1つのライブラリに複数の部署の文書が入っている場合、ライブラリの担当者だけでは改訂に気づけないためです。

決め方は、元の文書を作っている人をそのまま担当に置くのが自然です。新しく担当を作ると、改訂の情報が届くまでに一段階増えます。

この印刷用インキのメーカーでは、412のファイルすべてに担当者の名前を割り当てました。安全データシートは品質保証の1名、色調整の手順書は技術サービスの熟練者1名、提案の実績は営業企画の1名という配分です。整備の前は担当が決まっている文書が0本だったため、この作業自体が最も大きな変化になりました。

担当を割り当てたら、その一覧を本人が見える場所に置きましょう。名前が入っていない文書は、次の改訂で古い版になります。

手順②差し替えの期限をあらかじめ決める

担当が決まったら、次に差し替えの期限を決めます。改訂されてから何日以内にライブラリへ反映するかを、文書の種類ごとに決めておきます。

期限を決める理由は、緊急度の判断を毎回発生させないためです。法令に関わる文書と社内の手順書では、遅れたときの影響が違います。あらかじめ分けておけば、担当者は迷わず動けます。

この会社は、安全データシートを改訂から5営業日以内、色調整の手順書を10営業日以内、提案の実績を月次のまとめて反映という3段階で決めました。安全データシートを最短にした理由は、法令の改正が絡む文書で、古い内容が回答に出た場合の影響が大きいためです。

期限を決めるときは、最も短いものと最も長いものを先に決めましょう。あいだの文書は、その2つを基準に振り分けられます。

なお公式ヘルプの2025年12月5日版には、検索インデックスを手動で作り直す操作が用意されていることが示されています。差し替えたあとに反映を確かめる工程まで、期限とあわせて決めておきましょう。

※参考記事はこちら

手順③取り除いた文書の記録を残す

3つ目は「取り除いた文書の記録を残す」手順です。改訂で入れ替えた文書や、範囲の見直しで外した文書について、いつ何を外したかを残しておきます。

記録が要る理由は、あとから「以前は答えられた質問に答えられなくなった」という申告が来るためです。記録がなければ、外したことが原因なのか別の要因なのかを切り分けられません。

先ほどの会社では、整備の3か月後に営業から「昔の案件の希釈率が引けなくなった」という申告が入っています。記録を見ると、その案件の議事録は顧客へ提示できない文書として除外した1件でした。技術サービスの担当者は、この経緯を営業へ説明し、元の文書の場所を案内しています。

外した文書は消さずに、外した日と理由を1行で残しましょう。理由が残っていれば、戻すかどうかの判断も早くなります。

手順④回答の根拠を月次で抜き取り確認する

最後の手順は、回答の根拠を月次で抜き取って確認する作業です。実際に返った回答のうち何件かを選び、根拠として示された文書が最新の版かどうかを人が見ます。

全件を見る必要はありません。月に10件から20件を無作為に選べば、古い版が残っているかどうかの傾向はつかめます。

この印刷用インキのメーカーは、毎月第1営業日に前月の回答から15件を抜き取る運用にしました。整備の直後は古い版が根拠に出た件数が月17件でしたが、3か月後には0件になっています。抜き取りで見つかったのは、担当者が改訂をライブラリへ反映し忘れた1件だけでした。

稼働中のエージェントの精度と定着を継続して測る仕組みは、Agentforce Observabilityの記事で整理しています。以上が、データライブラリの更新を続ける4つの手順でした。

データライブラリの権限を設計する3つの観点

ここまで示した更新の手順を続けられるようになると、次に検討することになるのが誰に何を見せるかの範囲です。分ける単位のところで閲覧の範囲に触れましたが、実際に設定する段階では、役職と取引先と社外という3つの軸で考えることになります。そこでここでは、データライブラリの権限を設計する3つの観点を整理します。

権限は入れたあとに絞る作業にはなりません。データライブラリの権限は、文書を入れる前に、誰が読んでよいかの範囲を決めてから設計します。

なお、以下の3つの観点は回答が誰に届くかを自社で決めるための整理です。製品側でどこまで権限が効くかは版によって変わるため、設定の画面と公式ヘルプで確かめたうえで、この整理を自社の判断に使ってください。

※参考記事はこちら

観点①利用者の役職で閉じる範囲

1つ目は「利用者の役職で閉じる範囲」です。同じ部署でも、見てよい情報が役職で変わる文書があります。原価に関わる情報、他社との契約条件、人事に関わる記録が代表的なものにあたります。

役職で閉じる場合、判断の基準は「その情報を見て意思決定をする立場か」に置きます。参考として見たいという理由で範囲を広げると、閉じる意味がなくなります。

この印刷用インキのメーカーでは、提案の実績に値引きの経緯が書かれていました。営業28名のうち、値引きの決裁に関わるのは営業課長3名だけです。技術サービスの担当者は、値引きの経緯を含む記録を別のライブラリへ分け、営業課長3名に限定しています。

また、AIへ一任してよい範囲と人が承認する場面の設計は、Einstein Trust Layerの記事で詳しく整理しています。文書の範囲だけで担保しきれない業務では、そちらの仕組みとあわせて設計してください。

観点②取引先ごとに閉じる範囲

2つ目に挙げるのは、取引先ごとに閉じる範囲です。特定の顧客向けに作った文書は、その顧客を担当していない社員が読む必要はありません。配合や単価のように、他社に知られると問題になる情報が含まれる場合は、閉じる範囲をとくに狭くとる必要があります。

取引先で閉じるときに難しいのは、担当が替わる点です。異動や引き継ぎのたびに範囲を見直す作業が発生するため、見直しの手順を決めてから設定する必要があります。

先ほどの会社の色調整の記録には、取引先ごとの配合が入っています。技術サービスの4名は全件を見られますが、営業側は自分が担当する取引先の記録だけを参照する設計にしました。担当替えのときは、営業企画が月初にまとめて範囲を更新しています。

取引先で閉じる設計を採るなら、担当替えの情報がどこから来るかを先に確かめましょう。情報が来なければ、範囲は古いまま残ります。

観点③社外へ出せない情報の扱い

3つ目は「社外へ出せない情報の扱い」です。エージェントの回答が社外の相手に届く経路がある場合、入れる文書の判断はもう一段厳しくなります。担当者が読むだけの場合と、顧客が直接受け取る場合では、許容できる範囲が違います。

この観点で確認するのは、文書の中身だけではありません。回答がどの経路で誰に届くのかを、設定の段階で把握しておく必要があります。

この会社のカスタマーサポートのエージェントは、担当者が内容を確認してから顧客へ返す運用です。将来的に顧客が直接やり取りする形にする案も出ていますが、その場合は製品情報のライブラリからも社内向けの注意事項を外す必要があると、技術サービスの担当者は判断しています。

AIエージェント全体のリスクと対策の設計は、Agentforceのセキュリティで整理していますので、ぜひ参考にしてもらえると嬉しいです。

データライブラリの用意でつまずく3つの落とし穴

権限まで設計できれば、データライブラリの準備はひととおり終わります。とはいえ、ここまでの手順を順番に踏まずに進めた場合には、決まった形の失敗が起こります。実際にこの印刷用インキのメーカーも、最初の計画では2つ目の落とし穴に当たるところでした。そこでここでは、データライブラリの用意でつまずく3つの落とし穴を整理します。

失敗の多くは、整える工程を飛ばしたことから生まれます。文書を選ばずに全部入れた状態は、精度の問題として現れますが、直す場所は指示文ではありません。

落とし穴①社内の文書をすべて入れる

1つ目は「社内の文書をすべて入れる」という落とし穴です。多く入れるほど答えられる範囲が広がると考えると、共有フォルダごと取り込む判断になります。取り込みの操作は簡単で、時間もかかりません。

この判断が問題になるのは、入れた文書を減らす作業が入れる作業より重いためです。減らすには1件ずつ判断が要り、外した理由を残す作業も発生します。増やすのは一括でできても、減らすのは一括ではできません。

先ほどの会社が2,800のファイルをまとめて入れた試験では、3年前の議事録が希釈率の根拠に上がる問題が出ました。技術サービスの担当者は、この時点で全件を入れる案を取り下げています。最終的にライブラリへ入れたのは412のファイルで、当初の候補の15%ほどでした。

入れる件数を決めるときは、答えたい質問の種類から逆算しましょう。質問に対応しない文書は、候補から外して構いません。

落とし穴②入れた文書の担当を決めない

2つ目に挙げるのは、入れた文書の担当を決めない落とし穴です。取り込みが終わった時点では、回答は狙いどおりに返ります。担当を決めていないことの影響が出るのは、最初の改訂が起きたあとです。

影響が遅れて出るため、原因の特定も遅れます。「以前は正しかったのに最近ずれている」という申告は、指示文やモデルの問題として扱われがちで、文書の版を疑うところまで届きません。

この印刷用インキのメーカーでは、整備の前に一度だけ、営業が個別に集めた資料をライブラリへ入れたことがあります。半年後、法令の改正で安全データシートが改訂されましたが、その資料に含まれていた旧版はそのままでした。回答の根拠が新旧に分かれる状態が2か月続き、気づいたのは顧客からの指摘です。

取り込みの作業が終わったら、その場で担当者の名前を書きましょう。あとで決めると、決める前に改訂が来ます。

落とし穴③回答がずれた原因を指示文に求める

3つ目は「回答がずれた原因を指示文に求める」という落とし穴です。回答の内容が期待と違ったとき、最初に開きたくなるのはエージェントの指示文です。条件を1行足せば直りそうに見えます。

この対処が効かないのは、参照された文書が違っている場合です。根拠に上がった文書が古い版や別の製品のものなら、指示文をいくら直しても答えは変わりません。それでも申告が減らないため、さらに条件を足すことになります。

先ほどの会社でも、希釈率の回答がずれたとき、カスタマーサポートの担当者は「仕様書を優先して参照する」という条件を指示文へ足そうとしました。技術サービスの担当者が根拠に上がった文書を確認したところ、原因は議事録が候補に入っていたことです。指示文には手を入れず、ライブラリから議事録を外して解決しています。

回答がずれたら、指示文を開く前に根拠として示された文書を確認してください。どの層で揺れているかの切り分け方は、モデル選択と推論制御の記事でも整理しています。

データライブラリの効果を測る3つの指標

ここまで挙げた落とし穴を避けて整備を終えたあと、次に必要になるのは成果の説明です。文書を整える作業には人手と時間がかかるため、それが何に効いたのかを数字で示せなければ、次の範囲へ広げる判断につながりません。そこでここでは、データライブラリの効果を測る3つの指標を整理します。

利用回数だけを見ても、文書の整備が効いたかは分かりません。データライブラリの効果は、回答に根拠として文書が示された割合で測ります。

指標①根拠として示された文書の割合

1つ目は「根拠として示された文書の割合」です。返した回答のうち、どれだけが社内の文書を根拠にできていたかを数えます。根拠を示せていない回答は、モデルが持つ一般的な知識だけで組み立てられた可能性があります。

測り方は、一定期間の回答を抜き取り、根拠の文書が付いているかを人が確認するだけです。全件を見る必要はなく、月に十数件で傾向はつかめます。

当初の目的は「問い合わせの一次回答を担当者に代わって返すこと」でしたが、この印刷用インキのメーカーでは整備の前の割合が44%にとどまっていました。3か月後に同じやり方で数えたところ、88%まで上がっています。根拠が付かなかった残りは、製品と関係のない一般的な問い合わせでした。

まず現状の割合を出しましょう。改善したかどうかは、同じ数え方をもう一度するだけで確かめられます。

指標②担当者が原本を開き直した回数

2つ目に挙げるのは、担当者が原本を開き直した回数です。エージェントが回答を返しても、担当者が念のため元の文書を開いて確かめているなら、時間の削減にはつながっていません。

この指標が役に立つのは、申告として上がってこない不信を拾えるためです。担当者は自分で確かめれば済むと考えるので、わざわざ情報システム側へ連絡しません。

この会社では、回答を受け取った担当者が5分以内に共有フォルダの元ファイルを開いた回数を、週単位で数えていました。整備の前は週61回で、カスタマーサポートの担当者はほぼ毎回確かめていたことになります。3か月後には週12回まで減りました。

開き直した回数は、記録から機械的に数えられます。割合の指標と並べて見ると、担当者が回答を信頼できているかが分かります。

指標③古い版が根拠に出た件数

3つ目は「古い版が根拠に出た件数」です。月次の抜き取り確認で見つかった件数を、そのまま指標として使います。件数が増えているなら、更新の運用が止まっています。

この指標を続けて見る理由は、整備の直後に0件になっても、半年後に戻るためです。担当者の異動、文書の追加、部署の統合といった変化のたびに、更新の経路は途切れます。

先ほどのメーカーは、整備の前に月17件あった古い版の出現を、3か月後に0件まで減らしました。その後も毎月15件の抜き取りを続けており、1件でも出た月は更新の担当者へ確認する運用にしています。

指標を3つ並べたら、月次で同じ形に記録しましょう。数字の形が変わると、前月との比較ができなくなります。

データライブラリを使い始める4つのステップ

指標まで決まれば、あとは実際に手を動かす順番だけが残ります。ここまで示した基準・単位・整備・更新・権限を一度に進めようとすると、対象の文書が多いほど途中で止まります。実際にこの会社が5週間で整備を終えられたのは、対象を1つの業務に絞ったからです。そこでここでは、データライブラリを使い始める4つのステップを整理します。

最初に取り込む文書を選ぶ作業から始めません。データライブラリの整備は、対象の業務を1つ決めることから始めます。

ステップ①対象の業務を1つ決める

まず決めるのは、どの業務の依頼に答えさせるかです。文書から選び始めると、社内にあるすべてが候補に見えてしまい、判断の材料がありません。業務を先に決めれば、必要な文書の範囲は自然に絞られます。

決め方は、依頼の件数が多く、答えが文書に書いてある業務を選びます。担当者の経験に頼る判断が要る業務は、文書だけでは答えられません。

この印刷用インキのメーカーが最初に選んだのは、製品の仕様と安全性に関する問い合わせの一次対応です。月におよそ180件あり、答えは安全データシートと仕様書に書かれています。色調整の相談は件数が多いものの、現場の判断が要るため対象から外しました。

小さく始めたい場合は、この1業務からのスモールスタートが、整備の工数を抑えたまま効果を確かめる進め方になります。

ステップ②その業務で使う文書を数える

業務が決まったら、次はその業務で実際に使われている文書を数えます。想像で並べず、直近の問い合わせに担当者がどの文書を開いて答えたかを追います。

数えることで、想定と実態の差が見えます。使われていない文書を入れても検索の候補が増えるだけで、精度には効きません。

先ほどの会社は、直近3か月の問い合わせ540件について、担当者が開いた文書を記録から拾いました。使われていたのは製品情報のうち412ファイルで、共有フォルダの2,800に対して15%ほどです。この412が、そのまま最初のライブラリの対象になりました。

この412ファイルを拾う過程で分かったのは、同じ質問でも担当者によって開く文書が違っていた点です。経験の長い担当者は仕様書を直接開き、着任して間もない担当者は過去のメールを探していました。どちらが早く答えられたかを見れば、優先して整える文書も決まります。

数えた結果は、件数の多い順に並べましょう。上位の文書から整えれば、早い段階で効果が出ます。

ステップ③題名を整えてから取り込む

対象が決まったら、前に整理した3つの作業を実施してから取り込みます。題名を検索される語へ直し、版の重複を取り除き、複数の主題が入ったファイルを分けます。

この順番にする理由は、取り込んだあとに直すと再度の取り込みが必要になるためです。整えてから入れれば、作業は1回で済みます。

この会社の場合、412ファイルの題名を直す作業に2週間、版の重複380件を取り除く作業に3週間かかりました。技術サービスの2名で合計62時間です。取り込みの操作は、すべて整えたあとの半日で終わっています。

取り込みの前に技術サービスの2名が行ったのは、3つの作業が終わっているかどうかの照合でした。題名を直した文書に版の重複が残っていないか、分割した5ファイルに元の資料の注意事項が漏れなく入っているかを、一覧にして1件ずつ確かめています。この照合を挟んだことで、取り込みのあとに文書を差し戻す作業は発生していません。

最初のエージェントを作るところからの流れは、Agentforceの使い方で整理しています。

ステップ④限定した範囲で回答を確かめる

最後に、対象の担当者を限定した状態で回答を確かめます。全員に公開してから問題が見つかると、戻す判断が難しくなります。

確かめる材料は、ステップ②で拾った実際の問い合わせです。過去に届いた質問をそのまま投げて、返ってきた回答の根拠が想定した文書かどうかを見ます。

先ほどのメーカーは、カスタマーサポートの3名に限定して2週間動かしました。この期間に出た指摘は9件で、そのうち6件は題名の直し方で解消しています。残り3件は分割が足りないファイルが原因で、分けてから取り込み直しました。

確かめの記録を残す仕組みは、テストセンターの記事で整理しています。以上が、データライブラリを使い始める4つのステップでした。

データライブラリの設計に外部支援を使う4つの判断軸

ここまで示した4つのステップを社内だけで進められるかは、体制によって変わります。この会社は技術サービスの2名で62時間を確保できましたが、専任を置けない企業のほうが多いのではないでしょうか。では、外部の支援を検討するとき、何を見て選べばよいのでしょうか。それは、支援会社によって入る工程がまったく違うからです。そこでここでは、データライブラリの設計に外部支援を使うときの4つの判断軸を整理します。

支援会社の実績数だけでは、自社に合うかどうかは判断できません。文書の整備を任せる相手は、社内の文書を一緒に棚卸しするところから入れるかどうかで選びます。

判断軸①文書の棚卸しから入れるかどうか

1つ目は「文書の棚卸しから入れるかどうか」という判断軸です。取り込みの設定だけを請け負う支援と、入れる文書を一緒に選ぶ支援では、成果が変わります。設定の作業自体は半日で終わるためです。

見分け方は、提案の段階で工数の内訳を確認することです。設定の工数だけが書かれている見積は、整備の作業が含まれていない可能性があります。

この印刷用インキのメーカーの場合、62時間のうち取り込みの操作は半日で、残りはすべて題名の修正と版の整理でした。この比率は業種によって変わりますが、整備のほうが大きくなる点は共通しています。

ツール設定ではなく業務設計から入ってほしい場合は、文書の棚卸しが見積に含まれているかが判断材料になります。

判断軸②更新の運用まで付き合えるかどうか

2つ目に挙げるのは、更新の運用まで付き合えるかどうかです。整備は取り込んだ時点では終わりません。担当を決め、期限を決め、月次の抜き取りを回すところまでが設計にあたります。

構築までを請け負う契約と、運用の立ち上げまで含む契約では、費用の考え方も期間も違います。契約の範囲がどこで切れるのかを、着手前に確認しておく必要があります。

先ほどの会社では、更新の担当を412ファイルすべてに割り当てる作業が、整備のなかで最も社内の調整を必要としました。部署をまたぐ依頼になるため、外部だけでは決められません。この工程を誰が主導するかを決めていなければ、担当は空欄のまま残ります。

定着まで伴走してほしい場合は、月次の抜き取り確認まで契約の範囲に入っているかを確認してください。

判断軸③現場が使う文書を知っているかどうか

3つ目は「現場が使う文書を知っているかどうか」という判断軸です。どの文書を入れるかの判断には、その業界で何が根拠として通用するかの理解が要ります。

支援する側が業務を知らなければ、文書の一覧を見ても優先順位を付けられません。安全データシートと社内の検討メモの違いは、扱う商材を知らなければ判断できないためです。

この会社では、顧客へ提示できる文書かどうかの線引きに、品質保証の担当者が同席しました。技術サービスの2名だけでは、法令の観点で提示してよい文書かどうかが決まらなかったのです。同席してもらったのは、初回を含めて3回にとどまりました。線引きの基準がいったん決まったあとは、技術サービスの2名が同じ基準で判断を進めています。支援会社に求めたのも基準を作る場に加わることであって、1件ずつの判断を代行してもらうことではありません。

社内の判断を必要とする工程がどこかを、着手前に洗い出しておきましょう。外部に任せられる範囲は、そこで決まります。

ソリューション営業に特化した支援がほしい場合は、商談で実際に使われている文書を挙げてもらえるかが判断材料になります。

判断軸④設計の確認だけを頼めるかどうか

4つ目は「設計の確認だけを頼めるかどうか」という判断軸です。分け方の案を自社で作れるなら、外部に必要なのは案の確認だけという場合があります。

構築まで一括で請け負う形しか用意していない支援会社では、この頼み方ができません。工程を切り出して依頼できるかどうかは、着手前に確認しておく項目にあたります。

この印刷用インキのメーカーも、題名の修正と版の整理は技術サービスの2名で進められる見通しでした。判断に迷ったのは、3本に分ける案が妥当かどうかという1点だけです。

自社で構築するので設計レビュー・アドバイザリーだけ頼みたい場合は、工程を切り出した依頼を受けているかを確認しましょう。支援会社の選び方の全体像は、Agentforce導入支援会社の7つの見極め方として整理しています。

【一問一答】Agentforceのデータライブラリに関するよくある質問

ここまで、入れる文書の選び方から外部支援の判断軸までを整理してきました。実際に設定を進める段階では、対応する形式や前提となる機能といった細かい点で手が止まります。ここで判断を急ぎ、社内の推測で埋めてしまうと、あとから設定をやり直すことになりかねません。仕様に関わる部分は設定の画面と公式の資料で確かめたうえで、運用として自社が決めるべきことと切り分けておくほうが確実です。そこで最後に、データライブラリについてよく寄せられる質問を5つ取り上げます。

質問①データライブラリにはどの形式のファイルを入れられますか?

対応する形式は提供状況にあわせて変わるため、設定の画面で最新の一覧を確認してください。Salesforceの公式の学習教材では、非構造のデータとして動画・画像・文書・メール・センサーデータ・SNSの投稿・音声ファイルが例示されています。実務では、まず社内で最も参照される文書の形式が扱えるかを確かめるところから始めるのが確実です。公式ヘルプの2025年12月5日版では、テキストとHTMLは4MB、PDFは100MBという容量の上限が示されています。

※参考記事はこちら

※参考記事はこちら

質問②データライブラリはData 360がなくても使えますか?

Data 360を有効にしていない環境では使えません。この記事の例に挙げた印刷用インキのメーカーも、Data 360側の設定を終えてから2,800のファイルの整理に入っています。Salesforceの公式の学習教材には、データライブラリを含むAgentforceの機能はData 360なしでは動かないと書かれています。設定の過程でData 360側のデータストリームの作成やデータオブジェクトの対応づけが行われるためです。前提となる基盤の考え方は、Data 360の記事で整理しています。

※参考記事はこちら

質問③データライブラリに入れた文書はいつ反映されますか?

この記事の例に挙げた印刷用インキのメーカーが2,800のファイルをまとめて入れたときは、3年前の議事録が根拠に返る状態になりました。反映にかかる時間は環境と件数によって変わるため、実際の対象で試して測ってください。運用として決めておくべきなのは、システム側の反映時間ではありません。元の文書が改訂されてから取り込み直すまでの期限です。この期限を文書の種類ごとに決めておけば、担当者は毎回判断せずに動けます。

質問④データライブラリを分けると回答は速くなりますか?

速さより先に、正確さが変わります。分けることで検索の対象が絞られるため、質問と関連しない文書が根拠に上がる回数が減ります。この会社も、営業28名が参照する2本と、技術サービス4名だけが参照する配合の記録を分けています。速度は環境によって変わるため、分ける目的を速さに置かないほうが判断を誤りません。分けるかどうかは、依頼を受ける業務・更新の頻度・閲覧の範囲で決めます。

質問⑤データライブラリの更新は誰が担当するのがよいですか?

元の文書を作っている人がそのまま担当になる形が続きます。この会社でも、技術サービスの4名が手順書を入れる前に更新の担当を1名決めています。新しく担当を作ると、改訂の情報が本人からその担当へ伝わる一段階が増え、そこで止まるためです。情報システム側が担うのは、担当者の一覧を管理することと、月次の抜き取り確認で古い版が残っていないかを見ることになります。

Agentforceのデータライブラリの設計は、根拠として示せる文書だけを選べるかで決まる

データライブラリで最初に決めるのは、取り込みの設定ではありません。ここまで見てきたとおり、回答の根拠として担当者が顧客へ提示できる文書だけを選べるかどうかです。本記事では、入れる文書を選ぶ3つの基準から、1つにまとめたときの支障、分け方を決める4つの単位、入れる前に整える作業、更新を続ける手順、権限の3観点、つまずく落とし穴、効果を測る3つの指標、使い始める4つのステップ、外部支援の判断軸までを、一連の流れとして整理してきました。

例に挙げた印刷用インキのメーカーは、共有フォルダ4か所の約2,800ファイルから412ファイルへ絞り、回答に根拠が示された割合を44%から88%へ、古い版が根拠に出た件数を月17件から0件へ変えています。整備にかけたのは5週間と62時間で、追加のライセンス費用は発生していません。文書を整えるだけで変わる範囲が、まだ残っている企業も多いのではないでしょうか。

合同会社クロスコムでは、ソリューション営業の業務プロセスに特化したAgentforceの導入・定着支援を行っています。1ユースケース×3ヶ月のスモールスタートプランから対応しており、無料相談も受け付けていますので、Agentforce導入・定着支援までお気軽にご相談ください。本記事で紹介した内容を、ぜひ自社の文書の整備に合わせて活用し、少しでもお役に立てれば幸いです。